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渡海!私のお隣奪還編

第457話 空港へ着陸……いや降下!伝説

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 今や中国の最北端になっている、福建省の泉州市上空であります。
 あー、ここから見える北部側は真っ黒に塗りつぶされたみたいになっていますねえ。
 じわじわと黒いものが迫ってくる気さえする。

※『こ……こんなになってたのか!?』『全然こっちの状況なんか伝わってこないから、知らなかった』『国土が半分ダンジョンになるってこういうことなのか』

「やばいですねー。これを早急に解放しないといけないわけです! えー、じゃあ空港に着陸すると……」

「ダンジョン化、突然加速しました! 泉州市を侵食していきます! まるでこちらに気付いたみたいに……」

 迷宮省の人も一緒に乗ってて、その人が叫んでる。
 な、なんだってー!

 米軍の人たち、「ジーザス」とか「ファッキンダンジョン!」とか言って銃の準備をしてるけど、これは銃でなんとかなる次元ではないのではないか。
 ちなみにダンジョンには戦術核が通用しなかったというのはですね、過去のダンジョンに滅ぼされた国が証明しておりまして。

「そんじゃあ降下するしかないですねえ」

「ワッツ!?」「正気かガール!?」

「慣れてますんで……」

「ジーザス!」「さすが解放の女神だぜ!」

 なんか凄く心配して来たと思ったら、猛烈に盛り上がっている!

「おおー、うちは降下初めてです……!」

「ふむ、風を纏って降りればいいだろうな。そして私達が降りる場所では、誰かが戦っているな」

『うむうむ、感心感心。絶望的な戦いだと分かっていても、国を守るために勝負を挑むのだな。我はそういうの大好きだぞ』

 バングラッド氏好きそうねー。

「じゃあ降下しますねー。パラシュート必要な人……はいないですね。じゃあゴー」

※『当たり前みたいな顔して飛び降りるー!!』『パラシュート必要なメンバーがいない!?』『イカルガおかしいよw』

「ゆーはぶこんとろーる!」『あいはぶこんとろーる!』

 私がベルっちに入れ替わる!
 で、横ではどこまで長く伸びた、半分に割ったバゲットの滑り台が出現。
 そこをもみじちゃんがスーッと滑っていく。

 バングラッド氏は翼を生やして悠然と降下し、カナンさんは風をまといながらゆっくりと降りていく。

 上からはまた米兵の人が「ジーザス!」「ファック!」とか叫んでる。
 うんうん、ここまで運んできてありがとうございます~~!

 私はちょっと実体化して、彼らに手を振ったのだった。



 ※



 絶望的な戦いだった。
 ダンジョンの侵攻は止められず、首都は陥落し、指導者たちは皆ダンジョンに飲み込まれた。
 あまりに敵の動きは速く、誰も逃げられなかった。

 全国にいた五億の人口のうち、半分は呑まれただろう。
 負けだ。
 私たちの負けだ。

 彼女は心の中から湧き上がるそんな弱さを、必死に抑えつける。

「みんな、行くぞ! これ以上、ダンジョンの侵攻を許してはいけない! 道術弾構え! 配信者、私に続け! ダンジョンを食い止める!!」

 彼女……今中国に残る配信者の中で、トップクラスの一人、メイユーはバーチャライズする。
 機械の鎧を手足に纏い、背中には鋼の翼。

 配信を始める。
 リスナーたちの声援が届く。

 満身にみなぎる力。

「おおおおおおっ!! これ以上来るな! 止まれええええええ!!」

 手足と一体化したガトリングガンから、迫りくる黒い泥のようなダンジョン目掛けて射撃する。
 配信者の攻撃であれば、ダンジョンに通用する。

 黒い泥の先端が削られ、弾け飛んだ。

「効いてるぞ!」

「俺達も行こう!!」

「うおおおおお!!」

 配信者たちも走った。
 彼らも、サイバーなバーチャライズを纏い、あるいは武侠や仙人、妖怪めいた姿に変身しつつダンジョンに立ち向かう。

 今度こそ……!
 今度こそ、この国を救うのだ……!!

 ひたすら負け続けてきた彼らはしかし矜持を失ってはいなかった。

 迫るダンジョンに攻撃を加え続ける。
 ここで、この勢いを止めねばならない。

 削られ続けたダンジョンが、僅かに後退していったように見えた。

「いけるか!?」

 誰かが呟いた。
 その瞬間だ。

 呟いた配信者が吹き飛ばされた。

 物も言わず、彼は地面を削りながらどこまでも転がっていく。

「なっ……!?」

 彼がいた場所には、長く伸びた鞭のようなものが食い込んでいた。
 ダンジョンから伸びてきた何かだ。
 そしてその先には……。

『いやはや……。我ら魔の者も舐められたものだなあ……』

 憤怒の形相の男を模した面を胸につけた、甲冑の怪物がいる。
 面の口が開き、言葉を紡ぐのだ。

『良いかな、配信者くん。この国は敗れたのだ。己の力だけでどうにかなると思い、この場の状況をどこにも伝えなかった。傲慢が、慢心が生んだ敗北だ。今更、個人の力でどうにかできるものではない。この吾輩、ジーヤ・リャン様の最側近であるフューリーが出てきた以上、ここも終わりだ。諦めよ』

「何を……!! そんなことはないっ!!」

 メイユーが射撃を放つ。
 だが、それは全て、フューリーを名乗る鎧の怪物の振り回す鞭に防がれた。

「俺達も!」

「一度に掛かるぞ!!」

『馬鹿め。吾輩が一人で来たと思ったか? 貴様ら人間は弱いからな。恐怖の力でちょいと押してやれば、みな屈服して吾輩の軍門に下る。その恐怖の一つは、数の力で押されることだ。さあ、出てこい、魔将ども!』

 フューリーの呼び声に答えて、泥の中から立ち上がる人影が幾つも。

「あ、あいつらは……!」

「確か、ダンジョンに呑まれて死んだはずの……!」

 消えていったはずの配信者たちがそこにはいた。
 彼らは皆、怒りの面を被っている。

『おおおおおお!!』『我らが魔王に勝利を!!』『侵攻せよ! 侵攻せよ!!』

「あ、あいつら、寝返ったのか!!」

「なんてことだ!」

 配信者たちの絶望の叫びが響く。
 コメント欄でも、リスナーたちが大騒ぎだ。

 メイユーは、今にも折れそうになる気持ちを必死に支えていた。

 ダメだ、諦めるわけにはいかない。
 どんな状況でも……例え絶望的な状態であっても、己から負けを認めることはできない……!

「私は戦う……! お前を倒し、この国を取り戻す……!!」

 ガトリングガンを捨て、ブレードを展開する。

『ほう、接近戦か? いいだろう。何を隠そう吾輩はな、至近距離での差し合いがなによりも得意でなあ。ははは、来い! お前はなかなか強そうだ。吾輩をせいぜい楽しませてくれ!』

 周囲では、元配信者と配信者たちの戦いが起こっている。
 状況は悪い。

 メイユーは己こそがこの状況を打開するきっかけとなるべく、飛び出した。

「あああああっ!」

『ぐははははははは! いいぞいいぞ! 怒れ怒れ!! それこそが吾輩を強く……。ん? 何か上から降ってくる……』

 そこに、ニューっと伸びてきたバゲットが到達し、フューリーを弾き飛ばした。

『ウグワーッ!?』

「あっあっ、なんか泥がいっぱい! 汚いのは良くないよねー。ということで! 本日も、かいてーん! もみじパン店始まるよー!」

 コック姿の、場違いな可愛らしい少女がバゲットを滑ってやって来たと持ったら。
 彼女の周囲の泥が一瞬で、ピカピカのタイルに入れ替わった。パン屋の床のあれだ。
 タイルが広がっていく。

 ダンジョンの泥が侵食する速度の数倍……いや、数十倍の速度で、タイルに入れ替わっていく。

『き、貴様はなんだ! 魔将ども、やれ! やってしまえ!!』

「……!? き、君は……!!」

 フューリーの号令。
 メイユーの戸惑い。

 動き出す魔将は、降り立った少女目掛けて殺到し……。

 そこにポーンと降りてきたもう一人の少女にぶつかり、まとめて全員が跳ね飛ばされた。

『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』
『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』
『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』
『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』

「あっ、ごめんね! はづきは急に止まれない!! いやあ、着地間際なら行けるだろと持ってベルっちと交代したらこうだよー。もう降下はこりごりだあー」

 きら星はづき、中国に降り立つ!
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