ゴボウでモンスターを倒したら、トップ配信者になりました。

あけちともあき

文字の大きさ
上 下
418 / 517
渦巻く策謀と、いつもの私編

第419話 魔王は動き、イノシカチョウは企画する伝説

しおりを挟む
 中国のある省にて。
 兵士たちが皆、地に伏せている。

 悠然とその場に立つのはただ一人。
 オレンジの髪をサイドテールにした少女だ。

『ははーん、魔力に乏しいこの世界の人間が? 武器に魔力宿して掛かってくるっていう? その工夫、なかなかいんじゃね? あたしは好きだよー』

 満足気に彼女は笑う。

『この世界ってさ、手を出した時には人間に全然魔力なくってさ。あー、一瞬で終わるわって虚無ったんだよね。だけどちまちま頑張ってここまで来たってことっしょ? いーじゃんいーじゃん』

 彼女の背後では、周辺一帯を包みこむ新たなダンジョンが生まれつつある。
 倒れた兵士たちの一割ほどが、そこに飲み込まれていった。

「た、助けて……!」「なんだこれは!」「こんなのはいやだあ!」

 叫び声が聞こえるが、それはすぐに人ならざるものの咆哮に変わっていく。
 兵士たちは震え上がった。

 そう。
 この場に死者はいない。
 ダンジョンを踏破した兵士たちの前に突如現れた少女は、宣戦布告をしてきたのだった。
 自らの背後に、巨大な触手の塊のようなものを呼び出した少女。

 兵士たちは攻撃を行った。
 触手の塊に、それは通用したのだが……。

 少女に触れられるところまで近づけた兵士はいない。
 そして、少女が軽く指をスナップさせた瞬間、衝撃波がまき起こり、全ての兵士をなぎ倒した。

 少女は……魔王マロングラーセは、とても優しく繊細に、誰一人として人間が死なない力加減で攻撃を放ったのだった。

『期待じゃん? これからもなんか見つけて育ってくれるかもーっていう。あ、このダンジョンはあたしからのプレゼント。まあまあ歯ごたえあるから、しばらくこれで鍛えてって。みんなが頑張ってくれるほど、あたしはたくさんたくさん楽しめるし』

 にやーっと魔王は笑った。
 その背後に、縦に七つの頭が並んだ、身長5mのローブ姿が出現する。

『マロン様! またお一人で遊びに来られて! この地が崩壊したらどうなされるおつもりですか! もったいないでしょう!』

『わーってるって。ほら見て見て。一人も死んでないし。一割だけ削り取ってこっちの眷属にしといたし。やっぱ、細く長くお付き合いっしょ。今後ともよろしく~』

 にこやかに別れの言葉を告げ、魔王マロングラーセは去った。
 その姿は映像と音声で記録されたが……。
 政府はこの情報を秘匿する事を選んだ。

 兵士によってダンジョンを踏破するという、自国の計画が頓挫したと思われる危険があったからだ。
 故に、各国の対策は大きく遅れることになる。


 ※


「というわけでですねー。うちが計画したのは、四人でできるスポーツ配信!」

 もみじちゃんがどこからか、フリップを取り出してきた。
 ペラっとめくると、そこになんか書いてある!

「じゃじゃーん! 四人で登山計画~!」

「な、なんとー!」

 私が大変びっくりしたので、もみじちゃんは満面の笑顔になった。
 満足したらしい。
 だけど本当に驚いた。

 登山だってー!?
 そう言えば、海は行ったけど山には行ってないなあ。

 今回の計画は、私とイノシカチョウの三人で、高尾山に登って配信しようというものだった。
 なるほどー、それは面白いかもしれない。

「いーんじゃない? 登山なら、極端なスポーツの得意不得意とか関係ないし。あたしも割と好きだよ登山!」

 はぎゅうちゃんも賛成っと。
 ぼたんちゃんは?

「日帰り? 日帰りだったら早朝から出ないとね。でも終日配信するのは現実的じゃないかも? あ、そうだ、私たちのチャンネルでリレーしながら配信していくのがいいわね」

 凄くやる気だ!
 では私も全力で挑まねばなりますまい。

「お弁当は任せていただきたい。Aフォンを駆使して手作りのお料理をたくさん用意します」

 私の宣言に、みんながおおーっとどよめいた。
 なんか嬉しそうにしている。

 うんうん、喜んでもらえるのは大変嬉しい。
 よーし、山程なんか作っていくぞ!
 作りすぎても私が食べるからセーフだし。

 こうして、今後の計画が決まった。

 いつ登るという話に関しては、常に混み合っている山だし、GW前にしとこうということで決定した。

 私ともみじちゃんは即座に高尾山の登山関係管理をしているところに連絡を取った。
 こういうのはスピードこそ力だからね!
 直接行くのは時間が掛かるんで、アポを取ってからネット越しの相談だよ。

 まあ、1週間後の話なんで、先方にはすっごく急だったとは思う。
 最初は渋ってたんだけど、もみじちゃんが私の名前を出した瞬間、先方の担当者さんの顔色が変わった。

 すぐに上に連絡を取って、一発OKが出たみたい。

「いやー、やっぱり先輩のネームバリューは最強だなあ」

「そお? そうなのかなあ……」

「先輩は己の影響力にあまりにも無頓着過ぎるんですよー」

 言われてしまった!
 せやろか。

 
 だけど、これで問題になるポイントはクリアしたのだ。
 後は私とイノシカチョウ、お互いのアカウントで宣伝するだけ。
 もう、めちゃくちゃ反応があった。

 普通に土曜日に配信するんで、その日に合わせて高尾山に来る人もたくさんいるみたい。

 これは凄い大混雑になるぞー。
 山が人の重みでちょっと低くなるのではないか。
 私がそんな危惧を口にしたら、イノシカチョウの三人はナイスジョーク!と爆笑したのだった。

 ちょっと本気だったんだけど!
しおりを挟む
感想 189

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます

neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。 松本は新しい世界で会社員となり働くこととなる。 ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。 PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

借金背負ったので死ぬ気でダンジョン行ったら人生変わった件 やけくそで潜った最凶の迷宮で瀕死の国民的美少女を救ってみた

羽黒 楓
ファンタジー
旧題:借金背負ったので兄妹で死のうと生還不可能の最難関ダンジョンに二人で潜ったら瀕死の人気美少女配信者を助けちゃったので連れて帰るしかない件 借金一億二千万円! もう駄目だ! 二人で心中しようと配信しながらSSS級ダンジョンに潜った俺たち兄妹。そしたらその下層階で国民的人気配信者の女の子が遭難していた! 助けてあげたらどんどんとスパチャが入ってくるじゃん! ってかもはや社会現象じゃん! 俺のスキルは【マネーインジェクション】! 預金残高を消費してパワーにし、それを自分や他人に注射してパワーアップさせる能力。ほらお前ら、この子を助けたければどんどんスパチャしまくれ! その金でパワーを女の子たちに注入注入! これだけ金あれば借金返せそう、もうこうなりゃ絶対に生還するぞ! 最難関ダンジョンだけど、絶対に生きて脱出するぞ! どんな手を使ってでも!

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

底辺動画主、配信を切り忘れてスライムを育成していたらバズった

椎名 富比路
ファンタジー
ダンジョンが世界じゅうに存在する世界。ダンジョン配信業が世間でさかんに行われている。 底辺冒険者であり配信者のツヨシは、あるとき弱っていたスライムを持ち帰る。 ワラビと名付けられたスライムは、元気に成長した。 だがツヨシは、うっかり配信を切り忘れて眠りについてしまう。 翌朝目覚めると、めっちゃバズっていた。

処理中です...