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年度末私のイベントもりもり編

第397話 はづき、配信者勧誘伝説

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「それで、お名前をお伺いしても?」

「ああ。わらわはスファトリーじゃ。その配信者とやらをやってみようと思った。いや、思っておる」

「なるほどー」

 これだけ存在感がある新人さんなら将来有望かも知れない。
 私は確信した。
 ということで、先輩がコーヒーフロートを奢ってあげましょう。

 冬にあったかい店内で食べるコーヒーフロートが絶品なんだよね。

「な、なんじゃこれは……!?」

「おや、ご存知ないのですか?」

 私は目を光らせた。

「うう、その文句、どうも背筋がゾッとするのう。わらわたちにとって死亡フラグみを感じる響きじゃ」

「そうなんです? とにかくこれを飲んでですね、今後のお話を」

 今や、冒険配信者は何人いても足りない時代。
 地の大魔将が攻めてくるからね。
 覚悟が決まってない人達は、みんな辞めてしまった。

 やる気がある人がたくさん欲しい~。

 そういう話をしたら、スファトリーさんがふんふんと頷いた。

「なるほどなるほど。ゴボウアースに満ちる人間たちは、地の大魔将を恐れているのだなあ……。こっちもこの世界の人間の異常な底力を恐れているのだが」

「何か言いました?」

「いや、なんでもないぞ」

 そっかー。
 しかし、いつきてもこの店のフロートは美味しいなあ。

 私がニコニコしながらコーヒーフロートを平らげたら、スファトリーさんもちょうと飲み切るところだった。

「ふむ、不思議な味がする。栄養を摂取するだけなら不必要な味よな。だが、豊かな文明の味わいがする」

 彼女は唇についたクリームをぺろりと舐め取った。
 不思議な表現をする人だなあ。

「ゴボウアースってさっき言ってたけど、スファトリーさんは異世界から来た人?」

「な、なにっ!? なぜそれを……!!」

「ゴボウアースって言う言葉、異世界の人しか使わないんで」

「あっ、なるほど……」

 納得されたらしい。
 つまりこの人、異世界人だね。

「スファトリーさんはどうして配信者になろうとしたんです? 私はですねー、ついカッとなって」

「なるほど、そんなアバウトな理由でなる者がおるんじゃなあ……。それがあれほどの存在感を示す……。ゴボウアース、恐ろしい世界よな……。お祖父様の懸念は正しかった」

「ははあ、そのおじいさんが大事な人なんですね」

「うむ。我らが一族の要じゃ。わらわたちは一族でゴボウアースに渡ってきた。己の世界の住環境を再現しようとしたが、度々の妨害に遭い上手く行かぬ。なぜかと思っておったが、それも納得じゃなあ……。そなたのような存在がゴロゴロいるのでは」

 スファトリーさんが天を仰ぐ。
 そしてすぐに私に向き直った。

「なので、わらわはゴボウアースの配信者なるものを知りたくなった。いや、知りたいと思って配信者になるのじゃ! ……どうすればなれる?」

「そうですねえ……。Aフォンがあればやれると思うけど、これってその、正式のはあんまり数がないので」

 非公式のAフォンなら、引退したり、ダンジョンで行方不明になった配信者さんのが回収されてるから、それなりに本数はあると思う。
 アバターは自力でやれる人みたいだし、スファトリーさんは非公式Aフォンで大丈夫だろう。

「いきなりやるんじゃなくて、他の配信者さんの配信をしばらく見て研究するのがいいですよー」

「おお、なるほど! 忠告ありがたい」

 素直な人だなあ。
 一見すると、エルフでもないしドワーフでもないし、獣人っぽくもないし。
 なんかこう、ラノベとかアニメで見る魔族っぽいけど。

 人の話をきちんと聞く人に悪い人はいないのだ!
 私はその場で迷宮省に連絡して、非公式Aフォンを一つ手配した。

 私たちがコーヒーショップから出てくる頃には、迷宮省のドローンが届けにやって来ている。

「はい、これ! なんか私の頼みだから特別に一つお渡ししますだって。持つべきものは迷宮省だよねえ……」

「ふむ? よく分からぬが、そなたが尽力してくれたのだな。感謝する。どれどれ……? ほうほう、こやつはゴボウアースの技術で作られた使い魔かや。ではあまりこちらから干渉するのは良くなかろう」

 この人やっぱり、魔法についても色々知っているんだな。
 どういう配信をするんだろう。
 楽しみではある!

 とりあえず、この世界での居場所は一族のところしかないというので、私は直接スファトリーさんのおじいさんと言う人に電話をした。

「あっあっ、き、きら星はづきと申します。実はお孫さんが配信者デビューしたいそうですし、才能があるので……」

『配信者……? ふむ、あれが考えた末の決断であろう。わしはそれを支持する。ゴボウアースの者か。言葉からも強い力を感じる。そなたが助力してくれるならば心配はるまい。孫には、多くのものを見聞きし、知識を深め、一族の糧として持ち帰ってほしいと伝えてくれ』

「あっはい。どうもどうもー」

 許可をもらった。
 物わかりのいい人だなあー。

 スファトリーさんが自慢げだ。

「お祖父様はとても懐の深いお方じゃ! 一族の誇りよ!」

「おじいちゃんっ子だった! じゃあですね、なんかスファトリーさんとは運命的なものを感じるので、こっちでの居場所はウォンさん経由でホテル暮らしをですね……」

 私は、都内のホテル暮らしをしている、怠惰のウォンさんに連絡を取った。
 ウォンさんはめんどくさそうだったけど、すぐに一室をキープしてくれる。

「何から何までありがたい。そなたが偏見なくわらわを迎え入れてくれたこと、ありがたく思うぞ。必ずや、この恩に報いよう……! 我ら一族は様々な縁をつなぎ、異なる種が交わって紡がれてきた。異世界の民とこうして交流できたことはやはり縁なのであろう……」

「縁、いいですねー……。私もなんかそういうのに助けられてきた気がしますー。じゃ、じゃあザッコのアドレスを送るんで……あ、ザッコっていうのはですね」

「ふんふん」

 結局その後、都心のホテルまで彼女を送ることになり、ウォンさんに夕食をデリバリーしてもらってごちそうになってしまったのだった!
 中華でした!
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