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年末私の大感謝祭編

第354話 衛星不調なかなかヤバし伝説

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 人工衛星が次々と通信を途絶し始めてるんですって。
 ということで、世界各国は大騒ぎらしい。
 まあこれがなくても、Aフォンでやり取りは全然できるんだけど。

「むしろAフォンが絶好調じゃない?」

『そうかも知れないね! 地球の裏側にいるのにリーダーの声が遅れなく聞こえるよ!』

「ほんとだー。カイワレはいつも元気だなあ」

 私が会話しているのは、アメリカにいる仲間のキャプテン・カイワレ。
 不死身の配信者として有名で、ヒョロくて緑色の全身タイツみたいな見た目なのに、打たれても打たれてもなんかヒョコッと立ち上がってまたモンスターに挑んでいく。

 この間、魔将対決10万人耐久をやったらしい。
 つまり、10万人行くまで魔将と戦い続ける耐久ね。

 通算352回ふっ飛ばされて、353回挑んでついに魔将が魔力切れ?とか言うのを起こして倒したって。
 ちなみにカイワレの登録者数は8万人になったそうなんで、魔将が10万人まで持たなかったことになる。

 相変わらず不思議な配信をしてるなあ。

『僕が購読している科学ニュースでは、宇宙の組成成分に変化が生じてるんだそうだ。衛星からその情報が送られてきて、すぐに通信が途絶したんだって』

「へえー」

『科学ニュースでは、これをエーテルと名付けたよ! 燃えてくるね!』

「えーてる???」

『そっか、リーダーはラノベには詳しいけど、こっちの方面は分からないよね! つまりね、かつてSFでは、宇宙には何かが満ちていてその中に星が浮かんでいると考えていた。その宇宙を満たすものがエーテルだね。だけど現実には宇宙は何もなかった! 真空だったんだ。だからこの考えはフィクションの中の、しかも古臭いものになったそれが……真実になろうとしてるってことさ』

「ほえー。宇宙が入れ替わっちゃう?」

『その通り! そういうことさ! 世界はまるごと、フィクションの世界に飲み込まれようとしてる! で、Aフォンの話さ』

「ほいほい。Aフォンは電波じゃなくて、魔法を使った通信だっていう話だよね」

『そういうこと。今まではAフォンの魔力を使って配信してたけど、今後は地球の周りをエーテルが取り巻くなら、このエーテルを伝って世界中とデータのやり取りができるようになるんじゃないかな。例えば、僕とリーダーが今、タイムラグゼロで会話できてるのがその証拠さ』

「なるほどー。ビクトリアがご両親と喋ってる時は、ちょっとタイムラグが出てるもんねえ。なのにカイワレとはポンポン会話できる……。なるほどなあ」

 これは大変納得できる話だった。
 ちなみにこれは、各国でも認識として共有されているようで。

 各地でエーテルを使った通信実験が始まった。
 さらに元気な国では早速エーテルを採取すべくロケットを打ち上げたりしている。

 そのうち、従来型のロケットは何の成果もなかった。
 と言うか、打ち上げられて大気圏を突破した瞬間、ぷかあっと浮かんで戻ってこなくなった。

 戻ってきたのは、おまじないみたいなのが施されたロケット。
 宗教の人たちが祈りを捧げたり、そういう文言を書き込んだりしたロケットはちゃんと戻ってきた。

 私はこれをビクトリアと一緒に動画で見て、

「これ、護符みたいなものね。プロテクトの魔法が掛かったのよ」

「あ、そっかー! 宇宙がエーテルっていうのでミチミチになって、それが魔法を通しやすいものだったら、おまじないがプロテクトの魔法になったりもしそうだもんね」

 つまり。
 宇宙は今、プロテクトが掛かっていない者が飛び出したら大変なことになる環境と化しているとも言えるのでは。

 ひえー、何が起こっているんだー。
 なお、私に協力の依頼が来たりしたけど、今は感謝祭の準備と配信で大忙しなので丁重にお断りしたよ!

 来年まで待ってね……!!

『協力っていうか、これ、私たちを宇宙に撃ち出そうとする実験じゃないかなあ』

「あひー」

 とんでもないことを依頼してきたな!
 そういうのを女子高生にお願いしてはいけません!!

 それで、年末に向かうにつれて、また新しい変化が起きた。
 衛星放送が全部できなくなったのだ。
 あとは、従来のGPSが全部機能しなくなった。

 これは世界が大混乱になった。
 ただ、ここで簡易Aフォンみたいな機能を持つプログラムが開発されていて、それが急速にあちこちで普及することになった。

 ダウンロードしてインストールすると、電波の代わりに魔力を使って通信してくれる的な……。
 ただし魔力は見てる人のを使うので、疲れちゃう。

 この魔力疲れが問題になったりしそう。

 ところ変わってイカルガ本社。
 我が家の増築が終わるまで、本社の宿泊施設で寝泊まりしてるカナンさんなんだけど。

「凄い速度でゴボウアースがファールディアの姿に近づいているな……。これは魔王の侵略に違いない」

「そ、そうだったのかー」

 私が持ってきた肉まんを二人で食べつつ、お喋りをする。
 カナンさんは、ファティマさんと二人で歌を歌うんだそうだ。
 なので、今は衣装合わせ直後のかわいい服を着ている。
 肩の出た緑色のワンピースで、スカートがフリフリになってる。

「魔力が足りないと長時間通信もできなくなるだろう? だが、魔力は伸ばせるんだ。私が昨日の配信で、魔力の伸ばし方動画を出したんだが、一晩で百万再生された」

「ほえー。みんな魔力不足で困ってるんだねえ」

「ああ。そのうち技術で解決できるとは思うけど、今すぐにとは行くまい。なので、こうして座禅をして瞑想し、丹田から脳に向かって力を循環させるイメージで魔力を増す講座を……。みんな魔力を使わずに生きてきたから、体内の魔力を効率的に発揮できないんだ。やり方を覚えるだけで通信時間は三倍に伸びる」

 なるほど、今世界が最も必要としていた配信だ!
 なお、私はなんかいつも通り無制限に配信できる。

「はづきは魔力量が笑っちゃうくらい多いから」

「そうだったのか……」

「魔力循環のやつ、あまり人が多いところでやってはいけないぞ。溢れ出た魔力で周囲の人が魔力酔いを起こす……」

「そ、それほどまで……!!」

 私が戦慄したところで。

「ママー! 練習再開だよ! 来て来て!」

「分かった! では行ってくる、はづき。早く家の改築が終わるといいな。またあの家に帰りたい」

「うんうん、私も楽しみにしてる!」

 ……さて、二人が歌って踊ってる姿を見てから帰ろう……!
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