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秋な私の呉越同舟編

第284話 ウォンさん出前伝説

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 ウォンさんがずっと引きこもっているらしいので、これは健康に悪いと私は連れ出すことにした。

「こんにちはー」

『ああ、君かあ……』

 ホテルの扉ごしに、だらだらーっとした声が返ってきた。
 私はガチャッと扉を開ける。

 なんか電子ロックが掛かってたんだけど、私が握ったらスッと開くんだよね。

「あーナチュラルにロックをハックして入ってきたあ」

「ご飯食べに行きましょうウォンさん」

「めんどくさい……」

「ホテルのサービスばかりだと食べ飽きちゃうでしょ」

「飽きるけど外に出るほうがめんどくさい……」

「怠惰の大罪~」

 とても自分の性質に忠実な人だ。
 私は暴食とかなんとか、色々克服したからね!

「じゃあ出前取りましょ。なんかウォンさんは同類みたいな感じがしてあまり緊張しない……」

「ワタシ、アナタと同じ最上位デーモンだからね……」

「私は人間だと思うんですけどねー。あ、これ、ユーバーイーツで出前取りましょう。何が食べたいです?」

「出前……。取ってくれるのありがたい。いつも一日分の決断力を全部使ってルームサービスがやっとだから」

 思った以上に怠惰の人は生活しづらそうだぞ!
 ちなみにウォンさんが国を離れたので、中国では怠惰勢が衰退し始めていて、その代わりに新しく魔将勢がやって来たそうだ。

 魔将勢には本格的に現代兵器が通用しないので、向こうでは軍隊も銭剣とか道術で強化した木剣とか弓矢とか使い始めてるとか。
 中華ファンタジーの世界だー。

「で、何がいいです? 中華?」

「日本の中華美味しいよね。日本人ナイズされててデブのワタシが好きな味してる」

「じゃあ中華ね。チャーハンとギョーザと酢豚と」

「パイナップル入ってる?」

「パイナップル許せない派?」

「入ってたら取るの面倒だから全部食べる」

「偉いなー」

 ということで中華スープとか注文した。

 そのまま一時間くらい待つんだけど、何もしないのもあれなので配信をすることにした。

「お前ら、こんきらー。あ、ウォンさん、ちょっとだけ大罪モードしてもらっていい?」

「めんどくさいなあ……」

 渋々返信するウォンさん。

※『こんきらー』『こんきらー!』『はづきっちが男とホテルに!?』『いや、なんか隣の太っちょがどんどん変化してくんだけど!』『めっちゃ威厳がある感じのデーモンに……!!』

 いつもはスウェットを着た太っちょ男性のウォンさん、その正体は頭の両脇からねじくれた角を生やした、青白い肌の大きい人だ。
 道服みたいなのを纏っていて、周りに形代みたいなのがたくさん浮かんでいる。

「あ、こちらは今回のコラボ相手の、怠惰の大罪ベルフェゴールさんです」

「どうもどうも。昔はカンルーというHN使ってました」

 ウォンさんが挨拶をした。

※『えっっっっ!?』『なんで大罪とコラボ!?』『最近はあまり目立たなくなってるとは言え……』『ベルフェゴール日本に来てるの!?』『一体で中国全土を機能不全に陥れたマジモンの化け物だろ!?』

「えーと色々あってですね。この間説明した通り、傲慢と怠惰のお二人と、とりあえず当分は同盟結んで異世界からの攻撃に反撃しようっていうことになってですね。えっと、これは人間と協力したりするんです?」

「うーん、人間はしがらみが多いから面倒だし、ワタシは関わらないかなー。眷属に任せる……」

「だそうですー」

※『めっちゃ重要なコメントを引き出してくるじゃんw!』『あれ? 傲慢って去年、はづきっちを陥れようとしたやつじゃね?』『あいつかあ!』『大罪の疑いが濃いのにずっと議員続けられてるやつ……!』

「あの人は仕事が忙しいので帰ってますねー。ザッコでやり取りしてますけど、異世界からの移民問題で頭が痛いって言ってました。傲慢でいるためには責務を果たさねばならないとかなんとか」

※『ちゃんと仕事してた』『大罪側の事情が明かされていくの、はづきっちの配信は本当にヤバいなw』『予告無しで世界的に重要な情報をポイポイ投げてくるのやめてもろてw』

 この後、ウォンさんに一問一答みたいな感じでリスナーのみんなからの質問を答えてもらった。
 ウォンさんはとてもめんどくさそうだったんだけど……。

「暴食には出前取ってもらったりしてお世話になってるから……」

 ということで色々答えてくれたのだった。
 これでも、自分が色々采配しなければいけなかった中国よりは全然楽な状態になってるらしい。

「ワタシをとにかく持ち上げてくるでしょ。力と権威の後ろ盾が欲しいだけの連中だし、俺が私が、だから全然親切じゃないし、勝手に喧嘩するから仲裁しないといけないし……本当に面倒だった……」

 ぶつぶつ愚痴を口にするウォンさん。

「日本に来てせいせいした……。ワタシの眷属、みんな狩られちゃっていいよ。しがらみほんとうに面倒くさい」

 憑き物が落ちたような顔をしてるなあ。

※もんじゃ『つまり……傲慢と怠惰は、はづきっち同様にデーモンとしての悪しき欲求みたいなものを超克した存在だということか。それそのものは悪なのだろうが、存在そのものが世界を壊す類の悪ではないと』『わかりやすーい』

「なるほどー。そうらしいですねえ。あっ、ユーバー来ました!」

 私が立ち上がり、ホテルの扉に行くと、そこでユーバーイーツの配達員さんがギョッとしていた。

「は、はづきっち!? はづきっちがホテルで男と……男……ギャーッデーモン!!」

「配達ありがとうね謝謝」

 ウォンさんが出前の荷物を受け取った。

※『怠惰の大罪がお礼言ってる!』『なんか共存できそうな気がしてきたぞ……』『あいつ、本当に何もやりたくないだけだったんだな……』

 こうしてここから、私とウォンさんが中華料理をひたすらもりもり食べる配信になるのだった。
 ちなみにこの配信の後、迷宮省にジャンジャン抗議とか質問のメールや電話が届いたらしい。
 大変だなあ……。
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