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夏めく私の充電編

第233話 エルフさんがやってきた伝説

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 声がする方向にダッと走っていったら、オウルベアとか言うのの大きい背中が見えた。
 私は立ち止まり、ポーチから飛び道具を取り出す。

 これ!
 ソフトボール!
 人にぶつけてはいけません。
 モンスターにならぶつけていいです!

「うりゃー!」

 おおきく振りかぶって、投げるー!!

 そうしたら、ボールがギュンと唸りを上げて飛んだ。

※『始球式よりはええ!!』もんじゃ『はづきっちの投球が多くの人間に認識され、彼女の力の一つになったのだろう……!』『そんなことある?』『眼の前で起こってるやろ!』

 ボールをガツーンとぶつけられたオウルベアが、『ウグワーッ!?』と叫びながらふっ飛ばされる。
 巨体がころころと転がった。
 そして頭を振りながら起き上がる。

「やっぱり飛び道具は決め手になんないですねえ」

『ウガガガガガ……! オウルベアを統べる行動隊長、このムーンビルにこれほどのダメージを与えるとは! この世界の名のある戦士か! だが残念だったな! このムーンビルはダンジョン下においてあらゆるダメージを高速で回ふ』

「じゃ、倒しますね……」

 私、もう小走りでかなり近いところまで行ってるのだ。
 横目で見たら、なんか近くに大きな木が生えていて、それを背にした女の人がポカーンとこっちを見てる。

 私は彼女を安心させようと思って、手を振った。

「あ、危ない! そのオウルベアは急加速してくる……!!」

『このムーンビルを前によそ見とは! 死ぬがいい!!』

「あちょっ」

 横になんか生臭いのが来たので、ゴボウをそーっと差し出しておいたのだ。
 そうしたら、勝手にオウルベアがそこに突き刺さってきた。

『ウグワーッ!? こ、こ、このムーンビルの攻撃を完璧に読んだ!? ば、ばかな』

「あちょちょ!」

 ぺちぺち!

『ウグワワーッ!!』

 バシューっと粉になって消えてしまったオウルベア。
 後にはコロン、とダンジョンコアが落ちた。

 おー。
 なんか新しい種類のモンスター、コロコロとダンジョンコアを落とすじゃない。
 拾ってポーチにしまっておいた。

 戦い終えた私の背後では、なんかバララララッと連続で射撃する音がして、『ウグワーッ!?』とかモンスターの悲鳴が聞こえている。
 あれ?
 もしかしてだいきちさんが戦ってる?

 Aフォンから彼女のチャットが飛んできて、『残りはやっつけておくねー』とあった。
 うひょー、助かる。

※『だいきち、配信の裏でモンスターを掃討する伝説本当だったか……』『えっ、同接パワーないのに?』『たまにいるんだよ、同接なしで戦える人。いわゆる天才タイプみたいな?』

 ほえー、だいきちさんは凄いんだなあ。
 ただまあ、互いの同接がもりもり増えると、そういう天才タイプの人と普通人である私の差がほぼ消えて無くなるらしいんで。

※もんじゃ『天才タイプは人の域の強さを極めて行く。はづきっちみたいなのはこう、人を超えた何かになっていくような……すまんな、曖昧な表現で』

 有識者もんじゃが謝った!

「あ、あのー」

 要救助者だった人が、おずおず声を掛けてきた。

「あっあっ、どうもどうも」

 私はペコペコする。

「助けてくれてありがとう。あなたは、その、戦士なのか? 精霊使いなのか? 今も精霊たちと会話しているようだが」

「精霊……? ああ、このコメント欄のことですねー。これはですねえ、一応人間で、遠くからコメントを送ってて」

「遠くから人間が、コメ……言葉のこと? つまり、魔法を送ってあなたを強化している?」

「あっ、そんな感じですはい」

 理解が速いなー。
 顔を上げて彼女を見たら、なんか見慣れた長い耳があった。
 もみじちゃんと同じだなー。

「あの、あの、つかぬことをお聞きしますがエルフのアバターです?」

「アバター……?」

 彼女が首を傾げた。

※『はづきっち! 異世界人、異世界人!』『天然もの!!』

 ハッとする私。
 こ、この耳は本物かあー!

「本当のエルフでしたか……」

「いかにも、私はエルフ。気高き森の民。ユルドの森の弓と風の矢の使い手、カナン。オウルベアを倒した勇者よ、名を聞かせてもらえまいか」

「はっ、私はきら星はづきです」

※『普通に名乗ってるよw』『はづきっちは基本的に本来は人見知りだからな』『初対面の相手にどう話しかけていいか迷うもんねえ』いももち『新たな女がはづきちゃんの前にー!』

「えーと、じゃあカナンさん、私はあなたを救助に来たので、一緒に行きましょう。なんか迷宮省で、異世界からの難民の方を受け入れてるんです?」

 Aフォンがすぐに、その辺りの情報を表示してくれた。
 はあはあ、難民の受け入れと、職業訓練とかやってくれてるらしい。

 ダンジョンが発生してから世界的に人口減ってるもんね。
 どこも住民が欲しいのだ。

 カナンさんはちょっと首を傾げて警戒する雰囲気。
 むむむ!
 話が早すぎた?

 ここで、受付見習いさんがスーッと前に出てきた。

「わたくし、イカルガエンターテイメント見習いのこう言う者です! つまりですね、詳しく説明しますとこちらの世界も侵略してくるモンスターと戦い続けています。迷い込んできた皆さんは、私たちよりもっと侵略者の知識があるだろうということで、ご助力を願いたいんです! そのうえで、こちらで暮らす知識や仕事のやり方をお礼として教えようと言うわけですよ。安心して下さい!」

「なるほど……!!」

 エルフの人、しっかりと理解した。
 見習いさんうめー。

「分かった。我が命はあなたに助けられた。そしてあなたがたからは清らかな精霊の働きのみを感じる。あ、いや、欲の精霊がちょっとだけ……。ごほん。まあ誤差なので、あなたの言葉に従おう」

「あ、はいはい。じゃあついてきてくださいねー」

 彼女を連れて、降り立った場所までやって来ると、ちょうど辺りを包んでいたダンジョンがピチューンと音を立てて消えたところだった。
 だいきちさんがいい仕事をしてくれたらしい。
 横合いの茂みから、ガサガサ現れる。

「はづきさんお待たせー。怪我はない? 救急キット必要? あらー、そちらが」

 エルフの人を見て、だいきちさんがにっこりした。
 エルフのカナンさんがまた自己紹介している。
 だいきちさんも、配信者らしい自己紹介を返した。

 あ、そうか!
 エルフの人の長い挨拶、あれは配信者の挨拶と一緒なんだ!
 ということはつまり……!!

 カナンさんも配信者イケるのでは……!?
 私はそんなことを思いつくのだった。
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