上 下
206 / 517
フォローアップ! 私の春休み編

第206話 一周年記念もやるの!?伝説

しおりを挟む
「それで、明後日のお前の一周年記念の話だが」

「えっ!?」

 事務所で仕出しのお弁当が食べられるということで、いそいそやって来た私。
 本格的なお弁当に舌鼓を打っていたら、兄にいきなりそんなことを言われたのだった。
 口の中のものをもぐもぐして、飲み込んで、お茶をごくりとやって。

「一周年!? いつそんな話になったの?」

「聞き返すまでにきちんと食べたな。前々から連絡をしていただろう。それにツブヤキックスでもイカルガエンターテイメント公式が度々ツブヤキしてたはずだが」

「き、き、気付いてなかった」

 確かにツブヤキックスを見返すとそうなっている。
 ひええーっ。
 今ならイノッチ氏と同じ悲鳴が出てきそうだ。
 アヒェー。

「お前はずっと多忙だったものな。見落としていると思っていた。だが、開始二日前に伝えられたから間に合うぞ。なにしろ準備はすべて終わっている」

「おおー、た、助かる~」

 持つべきものはできる兄。

「簡単に流れを話すぞ。昨年に続き、今年も桜が異常に長く咲いている。うちの顧問陰陽師の話では……」

「顧問陰陽師!?」

「知らないのか? 度重なるダンジョン災害、現実のものとして蘇った魔法など、世の中がなんだかファンタジー化しているだろう。冒険配信者がバーチャライズを始めた頃に、陰陽師も正式な職業として復活したんだ」

 知らなかった!
 日常的に絶対絡まないもんね。

「Aフォンもそもそも、陰陽術と魔法と科学の融合で、それそのものが配信者の式神なんだぞ? 話は戻るが、つまりだな。顧問陰陽師の話では、龍脈の流れに変化が起こっていると。それで桜の生態も変わりつつあるのではないかと言われている。ソメイヨシノに種ができたしな」

 なるほどー。
 色々異常事態らしい。
 さらに、なんかAフォンの重要な秘密を聞いた気がしたけど、多分聞き逃したぞ。

「じゃあもしかして一周年は」

「ああ。お花見をする」

「おおーっ」

 日取りは春休み最終日前日。
 翌々日は始業式があり、そこから入学式があったりとバタバタするようになるので、いい感じの日程じゃないだろうか。

「ビクトリアの50万人記念は?」

「大々的なイベントをする必要はないだろう。新人たちのデビュー前にサッとやってしまおう。四月は忙しいからな」

 大変だあ。
 お弁当を二つ食べ終わり、私は一周年イベント最後の詰めを手伝うことにした。

 マネさんがニコニコしながら、「本当に気持ちいいくらい食べるわねえ」と言っていた。
 母の友達だから母目線だなあ。

 あっ、もしやこの仕出し弁当、みんな泊まり込みで一周年の作業をしているから用意されていたのか!
 なるほどなあ。

 ちなみにイカルガビル地下には、なんとシャワー室が設置されたらしい。
 ホカホカになった社員の人たちが次々に出てきている。

 お昼からシャワーに?

「あっ、はづきさん! お疲れ様です! いやあ、実は徹夜で作業をしてたら気絶して、目覚めたら昼だったんですよ」

 男性女性に関わらず、みんな激しい勤務形態をしている……!

 受付さんも、受付見習いの二人を指揮しながら奮戦しているようだ。
 これはしばらく、兄を狙う暇がないな……。

「はづきさん、ちょっとスタジオでバーチャライズを試してもらっていいですか。丼から振り袖に変化するプログラムを組みまして……」

「振り袖もテクスチャーを変えることで、ほら、晴れ着に……」

「は、春っぽい!!」

 ケルベロスな豚、お前ら命名ケルブロス。
 これがストンと地面に座って桜の下でお団子を三つ食べている絵柄が刺繍されている。

 凄い柄だ……。

「じゃ、じゃあ着てみますね……。バーチャライズ!」

「あっ、一階のロビーでいきなり!」

「うおおおはづきっちの生着替えだ」

「いかがわしい表現やめろ」

 なんかシャワー上がりの社員さんたちが大いに盛り上がっている。

「エネルギーをもらっちゃいましたよ。じゃあ腹ごしらえしてから営業行ってきます!」

 二人の営業さんがやる気に満ち満ちている。
 あまり無理しないでね……!!

 一周年イベント寸前ということで、あちこちに協賛の呼びかけに向かうらしい。
 イベント自体も、人がドドッと増えた先週に本格的準備が始まったみたいなものだし。

 新生イカルガのファーストイベントになるんだそうだ。
 大きな話になってきてしまったぞ……。

 晴れ着モードで難しい顔をする私だが、ちょうどそこにチョーコ氏ことぼたんちゃんが出社してきた。

「ああーっ!! は、は、はづきちゃん、あまりにも美しい……眩しい……。ああ、来てよかった!」

 なんかへなへな崩れ落ちてハラハラ涙をこぼしているんだが何事だ。
 ササッと近寄って助け起こしたら、これはこれでまたハラハラ涙をこぼすのである。
 どうせいと言うのだ。

「なんかもう……つらい期間を乗り越えたら、はづきちゃんと近くにいれるようになって、心配までしてもらえて、なんかこう、我が一生に一片の悔いなし……昇天しそう」

「まだ若いんだから達観しちゃだめでしょ」

 へなへなしているので、彼女をおんぶして二階に連れて行った。
 男性マネさんに引き渡す。
 今日も彼女は色々レッスンがあるらしい。

「うん、今日ははづきさんと接触したから、凄く顔色がいいし大丈夫でしょ」

 そうなの!?
 わけが分からぬ……。

 その後、私はスタジオでプログラマーの人たちの協力を得て、カラオケなどの練習をした。
 えっ、外で桜吹雪が舞い散る下、私がカラオケするんですか!?

「あひー、それはちょっと」

「いかん、はづきっちが丼を展開したぞ」

「もう新しいアバターを使いこなしている……」

「うおっ! バーチャライズの外装だけのはずなのに、配信者が使うと本当に実体化するんだなあ!」

「丼がカンカンいい音してますねえ!」

 丼に隠れたところで逃げ切れるはずもなく、私はカラオケ練習をすることになったのだった。
しおりを挟む
感想 189

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

おじさんが異世界転移してしまった。

月見ひろっさん
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか? モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

処理中です...