上 下
175 / 517
新年! 私の心機一転編

第175話 久々VRはどんぶり天国伝説

しおりを挟む
「お前ら、こんきらー! 今日はですねー。久しぶりにVRしてみようと思います。残念ながら、食べ物を口に入れてくれるビクトリアはもみじちゃんとコラボしてていないんで、今日はセルフで……」

※『こんきら!』『こんきらー』『概要説明した直後からスナックを食べる音がするw』『VRの風景と現実のはづきっちの二窓配信かあ』『すげえ、どういう技術なんだw』

「なんかうちのAフォンが新しいことできるようになったんですよ。便利ー。同接数が多いと、Aフォンが進化するみたいで……。あ、ロビーに到着でーす」

 私は新しい丼のアバターを被りながら、621リビーに降り立った。
 するとそこは……。

「ななななな、なんじゃこりゃー!」

 見渡す限りの丼、丼、丼!
 マグロ丼、漬け丼、海鮮丼、牛カツ丼、カレー丼、親子丼……。
 ものっすごい数の丼が、ロビーにはひしめいていたのだ。

 私が丼になって現れたら、当然のようにその中に埋もれてしまう……。

※『そっか、はづきっちはずっとVRに潜ってなかったから知らないんだ』『丼アバターがブームなのよ』『各メーカーがこぞって丼モデルを出してる』

 どういうことなの。

※たこやき『はづきっちが流行を作り出したからね』もんじゃ『いいカモフラージュになるんじゃないか?』おこのみ『丼はこう、リビドーを感じない……』いももち『私はどんなはづきちゃんも大好き』

 いつもの人たちも新年から元気だなあ。
 たこやきはメールで年賀状も送ってきたし。
 丼と豚耳SDはづきの年賀状だった。

「そうなんですねー。じゃあ、私が離れてたしばらくの間で何があったか聞いて回りますー」

※『人見知りのはづきっちが聞き込みを!?』『大丈夫なのかw』

「自分も相手も丼だと不思議と緊張しないんですよね!」

※『確かにw』『人間に見えないもんな』『食べ物は得意だもんねw』

「あのー」

 近くにいた漬け丼に話しかけてみた。

『はいはい、なんだい』

「実は久しぶりにロビーに来たんですけど、最近変わったこととか起きてないですか」

『変わったことねえ……。あ、知ってると思うけどフリースペースが異世界と繋がっちゃってね、沢山の人がさらわれたんだ』

「知ってます知ってます」

 なんなら解決したのは私だ。

『そっかー。あれ以降、ダンジョン化は大人しくなってね。大罪勢っていうのも静かにしてたみたいなんだよね。クリスマスに嫉妬勢が大騒ぎを起こすってみんな警戒してたけど、はづきっちが大暴れしたからあちらさんもびっくりして引っ込んだんじゃないかって言われてるよ。ほんとすごいよねー』

「スゴイデスヨネー」

※『棒読みで草』『本人だって気付かれてないw』

『えっ、はづきっち本人!?』

 い、いかーん!!
 私の横にコメント欄が出現してるんだった!
 これは仕様上、配信中は消えません。

 私がきら星はづきであることが判明してしまい、周囲からわらわらと丼が集まってきた。
 あひー、ピーンチ!

 ……と思ったら、どうやら動くコメント欄もアバターとセットで売ってたらしくて、私そっくりのコメント欄付き丼がひしめき合う状態になった。
 また埋もれて分からなくなる私なのだ。

 大変活動しやすくなった。

※『ブームというのは恐ろしいな……』『とは言っても丼は全体の三割くらいだろう?』『三割が丼ならそれはもう異様な光景なのよw』

 丼がわあわあ喋り始めて、ロビーは収集がつかなくなった。
 誰がきら星はづきなのか分からなくなったのだ。
 しめしめ。

 私はこの状況を利用して、情報収集を再開した。
 ネットで噂を集めてもいいんだけど、こういうのはやっぱり足を使わなきゃね。

 夏休みにあちこち遠出してダンジョンアタックしたの、いい経験だもの。

『今年になってからはまたあちこちでダンジョンが出現し始めてるね』

「ほとぼりが冷めたからですかね」

『どうなんだろう……。デーモンが考えることは分からないなあ』

 年明けから、ダンジョン発生が再開したらしい。

『VRスペースの拡張が上手く行ってないんだよ。ベースのプログラムを走らせてからその上に構築してくんだけど、ベースが根付かない。不自然な動きで消えてしまうんだ』

「はあはあ」

 よく分からない。
 ビジュアル的には、フリースペースを拡張する感じらしい。
 プログラムは、インターネットの海に突き刺さる土台の柱。
 これが上手く完成しなくなってるらしい。

 どういうことだろう?
 そう言えば以前、フリースペースの外から視線を感じたような……。

「ちょっと栄養補給します」

※『バリボリ言ってる』『たくさんお食べ』『見えてないのに器用に食べるなあ……』『嗅覚で場所が分かるんじゃないか』『お茶もこぼさずにちゃんと飲んでるw』

 塩分と糖分が体の中を巡る~。
 ああ、食べ終わってしまった。

「元気が出てきたので、フリースペース行きましょう」

 フリースペースだと流石に丼は目立つのではと思ったけど……。
 なんとここは、ロビー以上の丼天国だった。

 見渡す限りの丼、丼、丼。

※『冬休みの終わりで学生さんが多いだろ? 子どもはみんなはづきっちのマネするから丼なんだよ』

「な、なるほどぉ~。丼がそれほどのブームになっていたとは……」

 私は丼の海をトコトコと歩き回る。

『ぐおおお、どこもかしこも丼ばかりではないか』

 困った顔をして彷徨ってる、悪魔っぽいアバターの人を見かけた。

『これではきら星はづきを見つけられない。レヴィアタン様、これは無理です、無理無理』

 なんかぶつぶつ言ってる。
 大変だなあ。

 私は他人事ながら同情しつつ、彼の横をスーッと通過したのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

新しい自分(女体化しても生きていく)

雪城朝香
ファンタジー
明日から大学生となる節目に突如女性になってしまった少年の話です♪♪ 男では絶対にありえない痛みから始まり、最後には・・・。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

TSしちゃった!

恋愛
朝起きたら突然銀髪美少女になってしまった高校生、宇佐美一輝。 性転換に悩みながら苦しみどういう選択をしていくのか。

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

処理中です...