上 下
151 / 517
先輩! 私の新人フォロー編

第151話 迫るデビューと打ち合わせ伝説

しおりを挟む
 私による、釣り垢作成、嫉妬勢釣り上げ配信は大いに受けた。
 あと、物凄く物議を醸しだした。

『この捨て垢、はづきっちなのでは……!?』『まさか我々アンチに混じって行動を監視されているのでは……!?』『登録者数1000万を超える配信者のフットワークじゃないぞ……!!』

 なんかアンチ界隈に激震が走ったみたい。
 そして多分、お前らが捨て垢を作ってアンチと闘争を開始したりしてる……。

 争いは何も生まないですねー。

 そんな話を、事務所でやったのだった。
 パーテンションで区切られてるだけの社長室。
 いるのは兄と私。

「先日の釣り作戦で引っかかったのは、埼玉に住むフリーターの男だったそうだ。お前が自分の考えた未発表のネタを脳内サーチして盗作したという妄想、そしてそれが受けた嫉妬からアンチになり、そこを嫉妬勢に付け込まれたな」

「女子高生に嫉妬を……!!」

「表向きは分からんからな。女子高生という設定の成人女性や、ムキムキの巨漢かも知れん」

「あー」

 私の正体がムキムキの成人男性説とか流れてたもんね。
 どこからそんな考えが出てくるんだろう。

 とりあえず、嫉妬勢はSNSを使った勧誘方法をしていて、結構な数の人々が絡め取られているのではないかという話になった。
 嫉妬勢に落とされた人が、新しいアンチを勧誘してまた嫉妬勢に落とす……。
 ネズミ講みたいにもりもり増えていくのかも。

 ひえー。

「こわいこわい……もぐ」

「怖がりながらおもむろに買ってきたドーナツを食べるな。ここは一応社長室だぞ」

「お兄ちゃんだってポテチ食べてるじゃない」

「社長だからいいんだ」

「ずるい」

「ずるくない」

 どうでもいい話をした後、社長専用冷蔵庫からコーラをもらうことに成功した。
 私はスカッと爽やかにコーラを飲みつつ、社長室の外へ。
 まあパーテンションを一枚抜けると事務室なんだけどね。

 すると、シカコ氏とビクトリアが一緒にやって来たところだった。

「おはよー」

 受付さんが挨拶する。
 この人は朝も昼も夜も、挨拶はおはようだ。
 業界用語なんだって。

「おはようございますー」

「グッモーニンー」

 ふにゃふにゃ挨拶した二人。
 シカコ氏が私を見つけて、トテテテと駆け寄ってきた。

「はづき先輩! これこれ」

「あっ、なんですか」

「新作の惣菜パンです。私が作ったかぼちゃパン。生地にかぼちゃを練り込んで、かぼちゃの種とほくほくに蒸したかぼちゃを埋め込んであります」

「おほー」

 私はすごく笑顔になってこれを受け取った。
 大変美味しい。
 かぼちゃ尽くしだあ。あまーい。

 事務所はそこまで広くないので、マネージャーさんが入ってきたら、室内にある椅子が全部埋まる感じになった。
 そこで近づいてきたデビューイベントの打ち合わせを始める。

「舞台になるダンジョンについては、業者に調達をお願いしています。できるだけ発生したてがいいので、ギリギリまでアンテナを立ててくれていますから」

 マネさんが説明してくれる。
 事務所で一番年上の女の人だけど、物腰は柔らかいし仕事は一つ一つ丁寧だ。
 そしてやり手!

 なんか、若い子を全力で応援できるのが楽しくて仕方ないらしい。
 母が推薦してきただけある。

 私は行き当たりばったりで発生したダンジョンに突撃だけど、彼女はきちんと段取りを組めるように用意してある。

「これ、昨日作ってきた資料です。機械翻訳だけど英訳も付けてますからね」

「サンキュー」

 にくい心遣いに、ビクトリアも微笑む。
 まあ彼女日本語読めるんだけど。

 プレゼン資料は、いらすとショップさんという可愛いイラストであらゆるシチュエーションを再現するサイトのフリーイラストを、有料になるギリギリ直前の24種類使って作られていた。
 うーん、可愛い資料だ……。

 シカコ氏は歌、ビクトリアは物騒武器を次々使うパフォーマンス。
 最後は二人でダンジョンのボスか、それと目されるモンスターを倒して終わり。
 途中にゲスト出演も挟む、と。

 私はスタッフとして二人の手伝いをするけど、自分の配信枠は立てずにちょこちょこ映り込んで構わないと。

「これははづきさんの知名度を利用しています。それにちょこちょこ映り込んだ方が面白いし話題になるでしょう?」

「確かに……!」

 この人、面白いというものをよく理解してる……!
 すごい人だ。

 私とシカコ氏とビクトリアが尊敬の目になる。
 受付さんも思わず唸った。

「だ、だから私には台本が無いんですね」

「ええ。はづきさんは素のままで喋ってください。普通にマイクははづきさんの声も拾いますから。それとはづきさんは保険の意味もあって」

「あ、はい。保険?」

「そうです。想定外の状況が発生した時に、はづきさんに対処してもらいます。デウス・エクス・マキナですね」

 妙齢の女性の口からそういう文言が飛び出してくるのは面白いなあ!

 ビクトリアも目をキラキラさせてる。
 そういうの大好きだもんね!

 その後、台本の読み合わせをするというので私は事務所を追い出されてしまった。
 マネさん曰く、

「はづきさんは新鮮な反応をしてほしいので、今回はあえて読み合わせから外しますね。でも本番では何も知らないはづきさんの反応で、お二人のペースも乱れると思いますから。そこもまた面白さということで」

 で、できる……!!
 配信の面白さって、割りと昔あったっていうバラエティ番組とかいうのの面白さに近いみたい。
 リスナーから見て、予定調和にならない面白さというか。

 凄いことになってしまったぞ……。
 私は戦慄した。
 戦慄しながら、近場をぶらついて新作のスイーツを探すことにした──。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

強制的にダンジョンに閉じ込められ配信を始めた俺、吸血鬼に進化するがエロい衝動を抑えきれない

ぐうのすけ
ファンタジー
朝起きると美人予言者が俺を訪ねて来る。 「どうも、予言者です。あなたがダンジョンで配信をしないと日本人の半分近くが死にます。さあ、行きましょう」 そして俺は黒服マッチョに両脇を抱えられて黒塗りの車に乗せられ、日本に1つしかないダンジョンに移動する。 『ダンジョン配信の義務さえ果たせばハーレムをお約束します』 『ダンジョン配信の義務さえ果たせば一生お金の心配はいりません』 「いや、それより自由をください!!」 俺は進化して力を手に入れるが、その力にはトラップがあった。 「吸血鬼、だと!バンパイア=エロだと相場は決まっている!」

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

TSしちゃった!

恋愛
朝起きたら突然銀髪美少女になってしまった高校生、宇佐美一輝。 性転換に悩みながら苦しみどういう選択をしていくのか。

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

処理中です...