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新学期な私の新生活?編

第96話 追え、きら星はづきの正体伝説2

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 その日は、始業式の後、普通に授業が始まった。
 隣の彼女は普通に授業を受けていた。
 おかしいところはなにもない。

 そもそも、配信者って言うのは配信に命を賭けているから授業を休みがちになるものでは?
 隣の彼女は一日も休んだことがない。

 病気になったところすら見たことがない。
 まあ、あれだけ食べているなら頑丈だろう。

 じっと見てると、フッとこちらを見た彼女と目が合った。

「!?」

「な、なんでもありません」

 私は慌てて目をそらした。
 あの眼力はヤバい。
 配信者だとしたら、幾つも修羅場をくぐってきた人の目だ。
 たぶん。

 昼食時。
 私たち猪鹿蝶トリオは集まって食事をするけれど、彼女はいつも一人だ。
 一人だというのに、堂々と教室の中心で食事をする。

 大きな弁当箱が出てきた。
 一層目は半分が茶色。
 肉類が詰まってる。

 半分は緑色と赤。
 野菜の煮物が詰まってる。
 弁当箱の上に張り付いていたのは保冷剤だろう。

 あ、手を合わせた。
 いただきますをしたのだ。

 二層目のみっちり白米が詰まった箱を並べて、猛然と食べ始める。
 あの量がどんどん彼女の口の中に消えていく。
 とても美味しそうだ。

「よく食うね……。あたしだって結構食うけど、あれはちょっと多い」

「うちは無理だなー……」

「シカコは細いからね。私もきついかも」

 あれだけのエネルギーを蓄えて、彼女は一体何に使っているのだろう?
 謎は深まるばかりだ。

 そして。
 五時間目、六時間目で確認テストが行われ、終わった生徒から先に帰れることになった。
 彼女は驚くべき速度でテストを追え、スッと立ち上がって教室を出ていく……いや、目立たないようにこっそりこっそりと教室の後ろから出ていく。

 目立つことが嫌いなのだろうか……!?
 配信者疑惑があるのに!?

 うちはイノッチが大苦戦をしたので、隣の彼女に大きく先行を許してしまった。
 だが、彼女の帰りのルートは把握してある。

「行くよ」

「ごめん、宿題でやってたはずなのに頭から飛んでた」

「へーきへーきー。チョーコがちゃんとあの子の帰宅ルート押さえてるからー」

「さっすがあたしらの頭脳担当。っていうか探偵になれんじゃね?」

「だーれがよ」

 こうして三人で、彼女の後を追いかける。
 彼女は自転車で来たり、徒歩で来たり。
 その時の気分によってやってくる手段が変わる。

 一旦駅まで来て、駅の向こう側に彼女の家があるはずだ。

 彼女はおよそ、50%の確率で寄り道をしてどこかの店で買い食いをする。
 まだ食うのか。
 食うのだ。

「お気に入りのルートなら、スリーホークバーガーショップか、カレーショップジャワティでナンをお代わりしてるはず」

「昼あれだけ食べてカレー屋でナンを二枚食べるの!?」

「おかしい、おかしいー」

 イノッチとシカコが混乱している。
 彼女の胃袋は凄いことになっているのかも知れない。
 まるで運動部男子の食事量だ。

「新しいお店を開拓してたら、そこでお手上げだね。調べようがない。だけど……」

 いた。
 カレーショップジャワティで、席に座って猛然とナンをカレーにつけて食べる彼女の姿。
 どうやらラッシーを一回お代わりしたらしい。

 今、ナン二枚目に取り掛かる。
 しかもチーズナンだ。

 お代わりであのヘビーなチーズナンを……!?

「チョーコが何か、マニアックなところで驚いているのだけはわかる」

「あの子、ヤバいよねー。大食い配信者と一緒に配信できるでしょー」

「あっ、ちょっと待って! 噂をしたら、彼女に声を掛ける人がいた。えっ!? あれはフードファイター配信者のギャル増粘!?」

 大変なことになってきた。
 彼女の正体を探るつもりが、大物配信者がクラスメイトをスカウトする場面に遭遇するなんて。
 彼女はこのまま、フードファイターになってしまうのかも知れない。

 なるほど、フードファイト配信!
 ありそうだ。

 私が頷いていたら、ギャル増粘さんと二人で食事を平らげた彼女。
 奢ってもらったらしく、ペコペコ頭を下げながら出てきた。

 二人並んで歩いている。
 いや、彼女は目立たないように気配を消している。

 確かに、気配を消されると人混みに紛れて見えなくなるな……。
 有名人オーラを出しているギャル増粘さんだけが、辺りの人に声を掛けられている。
 その途端、彼女はスッと後ろに下がって息を殺す。

 目立たないように活動することに慣れた人間の動きだ。

 配信者が目立たなくてどうするの……?
 やっぱり彼女は普通の高校生なのでは……。

「ねえチョーコ、あの子ってめっちゃ食うだけの普通の子なんじゃ……?」

「オーラないしねー」

 私はあの時、彼女から凄まじい覇気を感じた気がしたんだけど……。
 気のせいだったんだろうか。

 だとしたら、変な詮索をしてしまって、彼女には悪いことをした。

「……私たちもお茶して解散しよっか」

「いやいや、せっかく三人一緒だし」

「ちょっと遊んでこー」

「そうだね!」

 そういうことになった。
 だけど、いきなり私たちのスマホがアラームを鳴らした。

 これは学校でインストールすることを推奨されてる、ダンジョン通知アプリのダンジョンシーカー君だ。
 つまり、近くでダンジョンが発生したっていうこと。
 やっばい。

「避難しよ! なるべく建物から離れて、できれば広いところに……」

 二人にそう話しながら、私の目は彼女の姿を追っていた。
 ギャル増粘さんに頭を下げて、多分RUINEの友達登録か何かしたんだと思うけれど……。
 彼女はパタパタと走っていく。

 チラチラスマホを確認して、そしてリュックからもう一つスマホを取り出す。
 あれ、遠目だけどわかる。
 ただのスマホじゃない。

 Aフォン……!
 冒険配信者が使うやつ!
 まさか、彼女って本当に……!?

「チョーコ! 避難こっちだって! 行くよ!」

 イノッチに引っ張られ、私は我に返った。
 それどころじゃなかった!

 近くの駐車場に避難して、私はツブヤキックスを確認する。
 ここでダンジョンの話を呟いている人がいるはずだ。

 そのタイムラインに、たくさんのリツブヤキといいねを集めるツブヤキがあった。

『お前ら、こんきらー! 新しいダンジョンが出てきたみたいなので、早速行ってみます! えっと、具体的にはあと2分後に配信です』

※『フッ軽』『待ってました!』『俺その駅いるわ!』『がんばれー!』『配信キター!』おこのみ『うおっダンジョン化した!』

 駐車場に避難していた人たちが、みんな、アワチューブを見始める。
 一斉にだ。

 まさかこれって……。

「チョーコ、始まる! はづきっちの配信!」

「うんうん、あたし、この子がうちの学校から出てきてデーモン蹴散らしたでしょー。それから大ファンでー」

 私だって知ってる。
 世界の終わりかと思った、デーモンの高校襲撃。
 これを鮮やかに救ってみせた彼女は、まさにスーパーヒロインだった。

 だから、私も彼女のチャンネルに登録している。

「いけ、はづきっち!」

「ダンジョンをぶっ飛ばせ!」

「待ってた、待ってた!」

「私たちのヒロイン!」

 あちこちから、興奮を抑えきれない声が聞こえてくる。
 みんなが彼女を待っていた。

 こんな、いつダンジョンが発生して、自分が犠牲になるかも知れないヤバい世界。
 だけど、彼女はそんな世界にちょっと情けない感じで降り立って……。
 あひーと悲鳴を上げながら助けてくれる。

「頑張れ、はづきっち!! 応援してるから!」

 私の声が出た。
 画面に映った彼女は、ゴボウを片手にダンジョンへちょこまか動いて入っていく。
 振り返って、今回の配信をする彼女の口元に……。

 ちょっとカレーが付いていた気がした。

 私はそっと、それを心のなかにしまっておいた。
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