ゴボウでモンスターを倒したら、トップ配信者になりました。

あけちともあき

文字の大きさ
上 下
67 / 517
いそがし私の東奔西走編

第67話 フッ軽はづきっち伝説

しおりを挟む
 八月も半ばが迫る。
 今日も暑い。
 そして私は異常に忙しい。

 明日はソシャゲのモーション収録で、明後日は野中さんの声優ラジオ出演だし!

「……なので、ちょっと遠出してダンジョン行ってきます」

「暑いのにはづきちゃんは元気ねー。配信頑張って。気をつけてね」

「はーい」

 母にお弁当をもらい、出立する私なのだ。
 冷凍おかずが保冷剤になり、昼頃にはちょうどよくなる……。

 外に出るとめちゃくちゃ暑い。
 だが、今日の私には秘密兵器があるのだ。

「ひ、日傘……!!」

 外は銀色、中は黒。
 よく分からない仕掛けで暑さとかUVを防ぐ……!
 
「おほー涼しい……気がする」

 私は日差しの中、堂々たる足取りで駅に向かった。

 本日の行き先は……。
 ツブヤキックスで募集したら、東、という選択が多かった。

 よーし。
 行くか、千葉!!

 私は電車に乗った。
 すずしぃ~。

 上手いこと総武線千葉行に乗れたので、そのまま各駅停車でゴトゴトと揺られていく。
 のんびりとした進行に、ついついウトウトと眠くなっていく……。
 駅到着のアナウンスでハッと目が覚めた。

 アンケートにあった駅に降りると、すごい熱気だ!
 アツゥイ!

 私は女子トイレに駆け込み、バーチャライズした。
 ちょっとした発見なんだけど、生身よりもバーチャライズしたほうが涼しい。

 なんか現代魔法みたいなものでできている、この纏うアバターみたいなの、外の影響から身を守れるっぽい。

 涼し気な顔をして外に出たら、千葉のお前らに見つかった。

「あっ、は、はづきっち!!」

「すっげえ、本物だ!」

「こっちに来てくれたんだ!」

 こっちのお前らはなんか身ぎれいだなあ。
 普通の若い人っていう感じ。
 よーし、配信始め!

「お前ら、こんきらー! 今日の私は千葉にいますー。アンケート答えてくれてありがとう!」

 なお、駅構内での配信は迷惑になるので、私は現地お前らを引き連れてサッと外に出る。
 駅員さんにペコペコ頭を下げた。

 なんか駅員さんも私を知ってるみたいで、ちょっと口の端が緩んでる。
 有名になったなあ私……!

「はづきっち、あいつら思ったよりガタイがいいって言ってたけどちっこいじゃん」

「可愛いよな……」

「えっ可愛い!?」

 反応する私。
 コメント欄では色々言われているけれど、こんなダイレクトに褒められるのはなかなかない。
 ニヤニヤした。

※『ニヤついてて草』『現地のお前らでけえな』『今どきの若者っぽい』

 あ、そっか。
 こっちのお前らは四人いるけど、みんな180センチ近いんだ。
 だから私が小さく見える。

 なーるほど。

「あ、俺ら大学で格闘技同好会やってて! まあメインはテニサーなんですけど」「俺バスケ」「サッカー」「漫研」

 一人文系いたぞ。
 スポーツをやってた系の陽キャお前らということらしい。

「んで、俺らが紹介したいダンジョンなんすけど、ヤベーモンスターが出るっていうのでこの間も個人勢の人が苦戦してて」

「な、なるほどです」

 四人に連れられて、駐車場に停められたハイエースに乗る。

※『はづきっちがウェイな男たち四人とともにハイエースに!!』『すげえ……役満じゃん』『なんでこんな状況を発生させられるんだ……』

 何を言ってるんだお前ら……?

「俺らはづきっちに手を出したら全国のお前らに殺されますから……」「つうかデーモンゴボウで殴り倒す人には勝てないでしょ」「うん、絶対無理」

 いやいや、あれは同接のパワーがあるから非力な私でもできるだけで……。
 だけど、私は妙に大事にされながらハイエースの真ん中辺りの席に座らせてもらった。

 冷たいドリンクとか出てくる。
 ありがたい~。

「あっ、エナドリが一気に飲み干された」「腹ペコキャラじゃん」

※『解釈一致』『委員長の動画ではコラボカフェのメニュー制覇してたもんな』『若い女子高生の胃袋は宇宙だ』『いやいやいやあたしらでも無理だから!』

 リアルお前らとネットのお前らが元気に絡んでる。
 私はこれをニコニコしながら眺めた。

※『喋ってないけど何をいいたいのかすごくわかる』『はづきっちに親目線で見られている気がするぞ!』『ママってコト……!?』おこのみ『ママッ、ママーッ!!』

 おこのみぶれないなあ!
 ハイエースはしばらく走っていき、それっぽい廃屋に到着した。
 先日、独居だったお年寄りが汁になって発見されたところらしい。
 ずーっとテレビは点きっぱなしだったんだって。

 そして今も……。
 廃屋から大音量のテレビの音が流れ続けている。

 もう電気は通っていないそうなんだけど、それはつまり、廃屋がダンジョン化してしまっている事を意味している。

「じゃ、じゃあ行ってきます。お前らついてこないでねー」

「ウス! 前の奴らみたいなのはごめんなんで!」「あれ、運良く助かっただけだもんなー……」

 この間の山梨でやった配信は話題になったみたいだった。
 普通、ああやって巻き込まれた人の生還率はゼロなんだって。

 山梨のお前らは凄く運が良かったんだなあ。

 さて、私は日傘を片手にダンジョンに挑む。

※『おや? その手にしているものは……』

「日傘です! 夏の風物詩なんで、武器にも使えるかなって」

※『おや? 理論が飛躍したぞ』『夏の風物詩と武器……。どういうつながりが……』たこやき『前々からはづきっちはこういう人だからな。お前らである我々としては、姫が言ったことはどんな理不尽でもイエス、マム!と肯定してあげるのが良かろう』『イエス、はづきっち!』

 分かってもらえて嬉しい。

「こーんにーちはー」

 引き戸を開けて一歩踏み込む。
 当然のごとく鍵はかかってない。

 一般家屋だったダンジョンって、人を引きずり込むためなのか、鍵がかからなくなる。

 古い民家みたいな建物は、中に入ると一気に広くなった。
 あちこちから、テレビのバラエティ番組が大音量で流れている。

 で、聞こえる音声はどこか歪んで、不協和音になっているのだ。
 うわー、気持ち悪い!

「うるさいので、傘を差して音を防いでみようと思います」

※『日傘にそんな機能が……?』『ないない、無いでしょ』『おい、昨日失敗した個人配信者のアーカイブ見てきた。これは音を使った攻撃で……』

 私がスパッと日傘を広げたら、太陽光線を防ぐ外側の白い部分がピカッと輝いた。
 突然、音が止まる。

 あ、いや、音が日傘の表面にぶつかって、反射したんだ。
 私まで届かない。

『ウグワーッ!! わしの音がーっ!!』

 奥から声が聞こえた。
 なんだなんだ。

※『なんとなく気分で広げた日傘がクリティカルに通用しただと……!?』『いつものこといつものこと』『デーモンやモンスターの天敵、はづきっち』

「……もしかして私、褒められていない?」

 解せぬ、という思いを感じつつ、私はダンジョンの奥へ向かうのだった。
しおりを挟む
感想 189

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

リアルフェイスマスク

廣瀬純一
ファンタジー
リアルなフェイスマスクで女性に変身する男の話

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~

m-kawa
ファンタジー
第5回集英社Web小説大賞、奨励賞受賞。書籍化します。 書籍化に伴い、この作品はアルファポリスから削除予定となりますので、あしからずご承知おきください。 【第七部開始】 召喚魔法陣から逃げようとした主人公は、逃げ遅れたせいで召喚に遅刻してしまう。だが他のクラスメイトと違って任意のスキルを選べるようになっていた。しかし選んだ成長率マシマシスキルは自分の得意なものが現れないスキルだったのか、召喚先の国で無職判定をされて追い出されてしまう。 一方で微妙な職業が出てしまい、肩身の狭い思いをしていたヒロインも追い出される主人公の後を追って飛び出してしまった。 だがしかし、追い出された先は平民が住まう街などではなく、危険な魔物が住まう森の中だった! 突如始まったサバイバルに、成長率マシマシスキルは果たして役に立つのか! 魔物に襲われた主人公の運命やいかに! ※小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しています。 ※カクヨムにて先行公開中

処理中です...