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最終幕:エルフェンバイン王国の冒険 2

第159話 空から降り来たる その1

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『わふん』

 ブランが空を眺めている。
 実家に帰ってきた日のこと。

「どうしたんだい、ブラン」

『たまには口を利いていいかと思ってね』

「うわ、普通に喋った」

 俺は驚いた。
 ここは俺の部屋。

 気を利かせてか、クルミも同じ部屋で寝ている。
 妹のお下がりの寝間着を着て、尻尾だけ出して、今は夢の中。

 ……待てよ。
 尻尾が出ているということは、今は下着をはいてない?
 まあいいか。

『なかなかに楽しい日々だったよ。オース、君はここで旅を終えるつもりかい?』

「どうだろう」

 ブランに問われて考える。
 まだまだ、旅はできる。
 旅を続けたい気持ちもある。

 だけど、旅をするモチベーションがあるかと言うと怪しくなってきていた。

 金がある。
 名誉も手に入れた。
 わだかまりがある相手もいなくなってしまった。

 それに、何も手に入れずに戻ってきた……というわけでもなく。
 隣でこれからの人生の相方になる人が眠ってるしなあ。
 彼女の人生という時間を考えた時、俺はまだ旅を続けていられるだろうか。

「ああ、言われてみたらそのとおりかも知れない。全部手に入れてしまった」

『それは、君と出会ったばかりの頃の僕と同じだね』

 ブランは窓の外で、俺を見つめている。

『君が僕を誘わなければ、僕はずっとあの森にいただろうね。あそこで満足していたから。だけど、君が来て、僕は足らない、ということを知った。君が連れ出してくれた世界で、知らなかったものに会えた』

「そうか……。それって、ブラン。君が俺と別れるって話でもあったりするかい?」

『そうとも言う。ただ、この仕事が終わったらね』

「仕事?」

『そう。僕らは多分、これをどうにかするために君についてきて、ここに集まったのかも知れないね』

 何を見上げていたと思ったら。
 俺は窓から身を乗り出して、ブランが見上げる先を見た。

 そこには、瞬く星空があった。
 そして一箇所だけ、異様なところがある。

 点滅する大きな星が、ある。
 見つめていると、少しずつ、少しずつ大きくなっているような。

「なんだ、あれ」

『わふん』

 おっと、もうブランのお喋りタイムは終わりのようだ。

『宇宙船にゃ? ああ、いや、ありゃあ無人船にゃな。まあだ残ってたにゃあ』

 ドレが屋根の上から、にゅっと顔を出した。

「宇宙船? ソラフネ山みたいなやつかい?」

『それの現役バージョンにゃ。何かの理由で、先に来た連中と千年以上はぐれてたにゃ』

『ははあ。魔王が世界とともに討ち滅ぼした世界の敵チュン? あれの遅参してきたやつチュン?』

『ソラフネ山が起動してたにゃ? あれで仲間の船の信号を得てこの星の場所が分かったにゃ』

「迷惑な……」

 俺は呆れてしまった。
 魔王の時代にやって来た、とんでもない代物の残りが今やってくるとは。

「あの速度だと……。到着には朝までかかりそうだね。加速したら教えてくれ。俺は夜明けまで寝る……」

『剛毅にゃ、ご主人』

『やるチュン。肝が太いチュン』

『わふわふ』

『ちゅっちゅっちゅ!』

 俺の傍らからローズが飛び出してきて、何か三匹に向かって言っている。
 それで、ワンニャンチュンの三匹は納得したようだ。

『わふ』

『そうだにゃあ。全員万全の状態で挑むかにゃあ』

『あの剣士も喜びそうチュン!』

 そうそう。
 世界の危機みたいなものかも知れないけど、戦うのは明日にしよう。




 そして目覚めた朝。
 窓の外を見ると、薄暗い。
 夜明け前かと思ったら……。

 農場の上に、巨大な金属の塊みたいなものが浮いているじゃないか。
 この大きさになるまで近づいたのか。

 朝食を終えたら、仕事だなあ。

「オース、な、何か空にいるんだが」

 朝食の席で、両親がガタガタ震えている。
 この人達はあくまで一般人なので、あれが怖いのは仕方ない。

「もうすぐ農場に降りてくるだろうね。俺が仲間達と一緒にどうにかするよ。今は朝食を楽しもう」

 久々の実家の食事だ。
 堅焼きパンと、スープ。
 そしてミルクにチーズにヨーグルト。
 乳製品三昧だ。

 農業をやっている我が家だが、同時に牧畜もやっている。
 食料だけなら、全て所有している農地で賄えるのだ。

「やっぱり実家のミルクは美味いなあ……。チーズもいい味出してる」

「兄さん、なんで落ち着いてるの……! クルミさんも!」

 妹夫婦もガタガタ震えている。
 クルミなど、全く空からやって来たものを気にすら止めず、むしゃむしゃと朝飯を食べているというのに。

「いやあ、やっぱ、リーダーについてくるといろいろな事があるな! だが、こいつを片付けたらリーダーも引退するつもりだろ? なんとなくそんなニオイがするんだよな。ま、楽しませてもらったぜ」

 アルディは実に嬉しそうだ。
 さっさと朝食を平らげて、食堂の窓から空を見上げている。

「空から来たる災厄……。わたくし達の神もまた、空にいますわね。だから、あれは言うなれば別の神が降りてきたようなものですわ。まあ、既に精霊王という神の一柱を倒していますから、これで二柱目ということになりますけど」

「落ち着いてますね……! なんでうちの本教会が、ワタシにあなた達についていけって言ったのか分かりましたね……! あなた達、騒動を引き寄せる特異点か何かですか!?」

 間違ってないなあ。
 不思議と行く先、行く先に騒動が起きる。

「センセエのうちの朝ごはん美味しいです! あ、センセエじゃなかったでした。オースさん、でした。オースさんのおうちのご飯、美味しい」

「うっ、まだなんか照れる」

 俺とクルミが慣れないやり取りをしていると、妹が痺れを切らした。

「もう、お願いーっ! あれ、何とかできるなら何とかして、兄さん! 牛も羊も怖がっちゃってるから!」

「牛が怖がってミルクがとれなくなるのはいけないな。よし!」

 俺は立ち上がる。
 隣でお皿のミルクを、ぺちゃぺちゃ飲んでいたドレも顔を上げた。

『行くにゃ?』

「ああ。だけどドレ、その前に鼻が真っ白になってる」

『夢中で飲んでたにゃ。己はこのミルクのために本気で頑張るにゃあ』

 おっと、今回はドレが本気だぞ。
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