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第四部:オケアノス海の冒険 4

第138話 いざ上陸……と思ったらクラーケン その5

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 クラーケンはマーマンの支配を逃れ、今は混乱しているようだ。
 触腕を振り回し、船に叩きつけようとする。

『船を沈められたらえらいことにゃ! 己は水に落ちたら溶けるにゃあ!』

 いつもよりも気合の入ったドレが、巨大化しながらこれを受け止める。
 クラーケンの触腕を、クァールの輝く触手が受け止める様はなかなか幻想的だ。
 サイズ差がかなりあるはずなのに、びくともしないドレ。

『己が食い止めている間に、このイカを倒すにゃー!!』

『任せるチュン! ほりゃあー!』

 フランメが巨大化して、炎を纏いながらクラーケンのえんぺら(イカの胴のひらひらしたところ)に体当たりをした。

『もがーっ!!』

 吠えるクラーケン。
 そこに、飛び込んでいったアルディの剣が閃く。
 切り飛ばされる触腕。

「行くぞ!」

「行くですよ!」

 俺とクルミの、雷晶石と炸裂弾の連続投擲。
 しかも俺の投げるものは、ローズの確立操作によってクラーケンの目玉に当たった。

『もがががーっ!?』

 クラーケン、これで完全に我に返ったらしい。
 堪らん、勝てない、とずぶずぶ水の中に沈んでいく。

「逃さねえぞ!」

 アルディが追いかけようとするが……。

「大丈夫よ。あの子、すっかり戦う気をなくしたみたい。人間は怖い怖い、二度と会わないって言ってるわ」

 マーメイドのペリルが、クラーケンの言葉を翻訳してくれた。
 便利だなあ。
 そして、クラーケンにもそれなりに高度な知性があるようだ。

「ああ、畜生、一瞬で片付いてしまった。もっと暴れたかったぜ……」

 天を仰ぐアルディ。

「これからしばらく、群島で神話返りと戦ったりするんだ。暴れる機会ならいくらでもあるさ」

「本当かリーダー!? しばらくここに残ってくれるんだな! よしよしよし! 頼むぜ神話返り。すげえモンスターを連れてきてくれよ……!」

「アルディったら、本当に戦闘狂ですわねえ。あれじゃあ辺境伯は務まりませんわね」

 そんな会話をしていると、切り離されたクラーケンの触腕をぺちぺち叩いていたクルミが、うーんと唸った。

「これはぶよぶよしてて食べられなさそうですねえ」

『こんなの食ったら腹を壊すにゃ』

『でかすぎるとたいてい不味いと聞くチュン』

 ドレとフランメも酷評している。
 というか、クラーケンを食べる気だったのか。

 こうして俺たちはあっという間にクラーケンを片付け、マーマンを縛り上げて港に戻った。
 このままマーマンを人間側に差し出すと、縛り首になるなどして終わるだろう。
 だが、それでは他のマーマン達とのわだかまりが残りかねない。

 俺は、マーマンの身柄をペリルに預けることにした。

「そうねえ。私達海の民としても、人間との取引はとても有用なのよね。水の中では絶対に手に入らない品物だって多いのだもの。贅沢を知ってしまった私達が、今更人間と離れて暮らすなんてできないわ」

 ペリルがくすくす笑う。
 人間とは全く異なる暮らしをしていた異種族まで、経済の流れに取り込んでしまう人間というのは、なかなか罪深いかもしれないな。

 犯人であるマーマンは、海の民の裁判みたいなのに掛けられることになるらしい。
 ここは、彼らの法に任せるとしよう。

 こうして、ペリルとマーマンは去って行った。

「サフィーロに来たばかりだというのに、いきなりハードだったなあ。じゃあみんな。早速だけど打ち上げと行こうか」

 俺の言葉に、アルディとクルミが快哉を上げた。

「あっ、わたくし、この土地の信仰であるエルド教にちょっと挨拶に行ってきますわ」

 アリサが小さく手を上げた。

「ラグナ教の司祭がエルド教のところに行って大丈夫なのかい? ザクサーン教とは仲はそんなに良くないんだろ?」

「むしろ、だからこそ行かなければいけないのですわ。だって、自分たちのテリトリーで異教徒が勝手に神聖魔法を使っていたら腹が立ちますでしょう? だから顔を通して、これからこちらで仕事をしますって伝えるのですわ」

「なるほど、教会も盗賊ギルドも変わらないんだなあ」

「面子を重んじるという意味では変わりませんわね。ただ、オースさん。その話はあまり表でなさらないほうが……」

「もちろん!」

 盗賊ギルドと教会を一緒にするなんて命知らずなこと、外ではとても言えたものじゃない。

「エルド教は、商売を守護するという側面もありますの。つまり、お金を積めば大概のことはなんとかなりますわ。……ということで」

「はいはい。じゃあこれ、エルド教への上納金ね」

 俺は宝石袋を一つ、アリサに手渡した。

「ありがとうございますわ! それと……要求ばかりで申し訳ないのですけれど、そのう」

 ちらちらとモフモフ軍団を見るアリサ。

「よし、じゃあドレを護衛でつけよう」

「やりましたわ!」

『な、なぜにゃー! 己はすぐに帰ってミルクが飲みたいにゃあー!』

「見た目威圧感がなくて、直接戦闘力があって、意思疎通が容易で、アリサとも馴染みがあるのは君だけじゃないか」

『うぬぬ! 己の使い勝手の良さを今とても後悔しているにゃ』

『行ってくるチュン、猫!』

『お前に指図されるいわれは無いにゃ、雀!』

 チュンチュン、フシャーッとひとしきりやり取りをして、アリサとドレは去って行った。
 すぐ戻ってくることだろう。
 それまでの間に、俺達は店を見つけてお酒や料理を注文しておかないとな。

 さてさて、群島王国料理はどんなものがあるんだろう。
 今から楽しみなのだ。
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