141 / 173
第四部:オケアノス海の冒険 3
第132話 アータル撃退作戦 その4
しおりを挟む
「閣下! 閣下! 船が動く!」
「水の流れが普通になってますぜ!」
戻ってくると、帆船バルゴン号が大騒ぎになっていた。
これまで、小舟を漕いでも、帆船の帆を張っても、絶対にアータル島の周囲から外には出られなかったらしい。
波の流れが邪魔をして、さらには風までも島から離れられぬように吹いていたそうだ。
「これでいつでも出向できまさあ!」
「そうか! どうやらうちのリーダーが精霊王をぶっ倒したようだし、ここでの仕事も一段落ってとこだな」
アルディが笑う。
「いやあ、本当に我ながら、よくあんなとんでもない怪物に挑んだものだと思うよ」
「センセエ、無事で良かったです!」
クルミが飛びついてきたので、キャッチする。
彼女とは頭一つぶんくらい違うので、首に抱きつかれると足がぶらーんとするな。
クルミをぶら下げたまま、状況について炎の巫女に報告だ。
エレーナは俺が抱えている火竜の卵を見て、あっと発して硬直した。
そしてすぐに、跪く。
エレーナに付き従っていた少女が、慌てて膝をつく。
他の島民達もまた、俺の前で膝をついて頭を下げた。
「お、おいおい」
慌てたのは俺だ。
一体なんだ、何が起きているんだ!?
「話を聞いた時は半信半疑だったんだけど……本当に火竜の卵なのね……。新しい火竜が生まれるのね……」
「エレーナ、火竜は君達が跪くほどのものなのか?」
「アータル様よりも上と言っていい存在だわ。恐れ多い……。あたし達の中に、火竜への畏敬が刻み込まれてるの」
ははあ、なるほど。
精霊王アータルよりも上位にある神様、という扱いらしい。
火竜とは、一体何だったんだろうな。
「それからあなたも。魔獣の主よ。精霊王アータルを鎮めた英雄よ。感謝いたします」
「感謝いたします!」
エレーナの言葉に、島民達が合わせた。
俺はすっかり戸惑ってしまった。
ついさっきまで、フレンドリーだったみんなが、俺を崇めるような姿を見せているからだ。
「アリサ、どうしたらいいのだろうか」
ここは宗教人としてこういう状況に詳しそうなアリサに聞いてみる。
「そうですわね。冷静に考えてみれば、水の精霊王に誘われてこの地に現れ、信仰の対象であった炎の精霊王の怒りを鎮め、千年の間不在だった火竜の新たな卵を手にして現れ、しかも従えるのは伝説級の魔獣ばかり、という人物は十分に信仰に値すると思いますわね。もちろん、我がラグナ新教では神は天におわす神様ただお一方のみですけれども」
「話を聞くととんでもないなあ。だが落ち着かなくて仕方ない。みんな、顔を上げてくれ。それから火竜の卵、君達に任せたいんだが」
「はい、火竜をあたし達の手で育てろと仰るんですね」
エレーナがうやうやしく、卵を受け取った。
大きさは、一抱えほどもある。
一見すると透き通った真紅の宝石のようだが、その内部からは規則的に輝きが放たれ、脈動しているように見える。
手に持った感触は、硬い岩のようで、しかし表面は滑らか。
ほんのりと温かい。
「旅には持っていけないし、そんなとんでもない火竜が孵ったら大変なことになるだろう。だから、アータルの島で育ててほしいんだけど……」
「はい、そのお役目、ありがたく頂戴します」
高く、火竜の卵が掲げられた。
暗雲はみるみる晴れていき、空の色があらわになる。
それは既にオレンジがかった夕方の空だ。
差し込む赤い日差しを受けて、火竜の卵もまた鮮やかに輝いた。
……ということで。
「いやあ、お疲れ様! おかげでアータル島は助かったよ! もちろんあたし達もね!」
さっきまでのかしこまった態度はどこに行ったのか、今は酒によって上機嫌のエレーナが、俺の背中をバンバン叩く。
「そ、そりゃあどうも! なんかさっきと態度違わない?」
「あれは儀式みたいなもんなのよ。精霊王が消えて、火竜が新たな神を受け継ぐ。その神をあたし達が育てていくっていう引き継ぎの儀式。オースはその仲介なわけね」
「はあ、そんなもんか」
「そんなもんなの。伝統なんてのは無いんだけど、千年前もこうして、精霊王の時代から人と精霊が一緒に生きる時代に変わったそうなのね。だから、アータル島には、いつか時代が変わる時が来たら、うやうやしく受け取れって言い伝えがあるの」
「アバウトな言い伝えだ……!」
それでも、態度がガラリと変わってしまうようなことがなくて良かった。
よそよそしくされるのはあまり好きではないからな。
今は、いわば俺たちの慰労会。
島にはあまり大した食べ物もお酒もない……とのことだったが、海からとれるものはたくさんある。
家畜も潰して、料理はそれなりに盛大だった。
おや、塩味だけじゃないな。
調味料がある……。
「麦を発行させて、塩漬けにしたものだよ。進めれば酒になるし、途中で止めたら調味料になるの」
ミーソというその独特な調味料の説明を受けつつ、煮た魚に掛けて食べたりする。
一仕事終えた後の酒と食事は、やっぱり最高だな。
こうしてモフライダーズの、アータル島での最後の夜は過ぎていくのだった。
「水の流れが普通になってますぜ!」
戻ってくると、帆船バルゴン号が大騒ぎになっていた。
これまで、小舟を漕いでも、帆船の帆を張っても、絶対にアータル島の周囲から外には出られなかったらしい。
波の流れが邪魔をして、さらには風までも島から離れられぬように吹いていたそうだ。
「これでいつでも出向できまさあ!」
「そうか! どうやらうちのリーダーが精霊王をぶっ倒したようだし、ここでの仕事も一段落ってとこだな」
アルディが笑う。
「いやあ、本当に我ながら、よくあんなとんでもない怪物に挑んだものだと思うよ」
「センセエ、無事で良かったです!」
クルミが飛びついてきたので、キャッチする。
彼女とは頭一つぶんくらい違うので、首に抱きつかれると足がぶらーんとするな。
クルミをぶら下げたまま、状況について炎の巫女に報告だ。
エレーナは俺が抱えている火竜の卵を見て、あっと発して硬直した。
そしてすぐに、跪く。
エレーナに付き従っていた少女が、慌てて膝をつく。
他の島民達もまた、俺の前で膝をついて頭を下げた。
「お、おいおい」
慌てたのは俺だ。
一体なんだ、何が起きているんだ!?
「話を聞いた時は半信半疑だったんだけど……本当に火竜の卵なのね……。新しい火竜が生まれるのね……」
「エレーナ、火竜は君達が跪くほどのものなのか?」
「アータル様よりも上と言っていい存在だわ。恐れ多い……。あたし達の中に、火竜への畏敬が刻み込まれてるの」
ははあ、なるほど。
精霊王アータルよりも上位にある神様、という扱いらしい。
火竜とは、一体何だったんだろうな。
「それからあなたも。魔獣の主よ。精霊王アータルを鎮めた英雄よ。感謝いたします」
「感謝いたします!」
エレーナの言葉に、島民達が合わせた。
俺はすっかり戸惑ってしまった。
ついさっきまで、フレンドリーだったみんなが、俺を崇めるような姿を見せているからだ。
「アリサ、どうしたらいいのだろうか」
ここは宗教人としてこういう状況に詳しそうなアリサに聞いてみる。
「そうですわね。冷静に考えてみれば、水の精霊王に誘われてこの地に現れ、信仰の対象であった炎の精霊王の怒りを鎮め、千年の間不在だった火竜の新たな卵を手にして現れ、しかも従えるのは伝説級の魔獣ばかり、という人物は十分に信仰に値すると思いますわね。もちろん、我がラグナ新教では神は天におわす神様ただお一方のみですけれども」
「話を聞くととんでもないなあ。だが落ち着かなくて仕方ない。みんな、顔を上げてくれ。それから火竜の卵、君達に任せたいんだが」
「はい、火竜をあたし達の手で育てろと仰るんですね」
エレーナがうやうやしく、卵を受け取った。
大きさは、一抱えほどもある。
一見すると透き通った真紅の宝石のようだが、その内部からは規則的に輝きが放たれ、脈動しているように見える。
手に持った感触は、硬い岩のようで、しかし表面は滑らか。
ほんのりと温かい。
「旅には持っていけないし、そんなとんでもない火竜が孵ったら大変なことになるだろう。だから、アータルの島で育ててほしいんだけど……」
「はい、そのお役目、ありがたく頂戴します」
高く、火竜の卵が掲げられた。
暗雲はみるみる晴れていき、空の色があらわになる。
それは既にオレンジがかった夕方の空だ。
差し込む赤い日差しを受けて、火竜の卵もまた鮮やかに輝いた。
……ということで。
「いやあ、お疲れ様! おかげでアータル島は助かったよ! もちろんあたし達もね!」
さっきまでのかしこまった態度はどこに行ったのか、今は酒によって上機嫌のエレーナが、俺の背中をバンバン叩く。
「そ、そりゃあどうも! なんかさっきと態度違わない?」
「あれは儀式みたいなもんなのよ。精霊王が消えて、火竜が新たな神を受け継ぐ。その神をあたし達が育てていくっていう引き継ぎの儀式。オースはその仲介なわけね」
「はあ、そんなもんか」
「そんなもんなの。伝統なんてのは無いんだけど、千年前もこうして、精霊王の時代から人と精霊が一緒に生きる時代に変わったそうなのね。だから、アータル島には、いつか時代が変わる時が来たら、うやうやしく受け取れって言い伝えがあるの」
「アバウトな言い伝えだ……!」
それでも、態度がガラリと変わってしまうようなことがなくて良かった。
よそよそしくされるのはあまり好きではないからな。
今は、いわば俺たちの慰労会。
島にはあまり大した食べ物もお酒もない……とのことだったが、海からとれるものはたくさんある。
家畜も潰して、料理はそれなりに盛大だった。
おや、塩味だけじゃないな。
調味料がある……。
「麦を発行させて、塩漬けにしたものだよ。進めれば酒になるし、途中で止めたら調味料になるの」
ミーソというその独特な調味料の説明を受けつつ、煮た魚に掛けて食べたりする。
一仕事終えた後の酒と食事は、やっぱり最高だな。
こうしてモフライダーズの、アータル島での最後の夜は過ぎていくのだった。
10
お気に入りに追加
3,100
あなたにおすすめの小説
神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました
向原 行人
ファンタジー
僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。
実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。
そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。
なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!
そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。
だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。
どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。
一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!
僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!
それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?
待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します
かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。
追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。
恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。
それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。
やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。
鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。
※小説家になろうにも投稿しています。
俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉
まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。
貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。
聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!
前代未聞のダンジョンメーカー
黛 ちまた
ファンタジー
七歳になったアシュリーが神から授けられたスキルは"テイマー"、"魔法"、"料理"、"ダンジョンメーカー"。
けれどどれも魔力が少ない為、イマイチ。
というか、"ダンジョンメーカー"って何ですか?え?亜空間を作り出せる能力?でも弱くて使えない?
そんなアシュリーがかろうじて使える料理で自立しようとする、のんびりお料理話です。
小説家になろうでも掲載しております。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる