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第三部:セントロー王国の冒険 4

第108話 こんにちは赤ちゃん その5

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 決勝までやって来てしまった。
 とは言っても、俺とカイルを含めて参加者は20名くらいしかいなかった。
 大抵が開拓地の力自慢とかだったので、サラッとあしらえてしまう。

 準決勝で、カイルが元冒険者の男性を足払いで倒したところだった。

「くうーっ。やっぱ次元が違うぜえ……! あんた、イリアノスの方じゃトップクラスの冒険者だったろ」

「どうだろうなあ。オースさんと一緒に行動するようになってから、一度も負けてねえなあ。ま、あの人が凄いんだけどな」

 カイルが謙遜している……。
 相手をしていた冒険者は、戦士だろう。
 実力的にはBランクからAランクになるかというくらい。
 これが、全く相手にならなかった。

 カイルもSランク戦士になり始めているということだろう。
 ということはだ。

「うーむ」

 大歓声の中、カイルと向かい合う俺。

 Sランク成りかけの戦士と、Bランク寄せ集めの俺か。いや、Sランクテイマーなんだけどな。
 テイマーだぞ、テイマー。
 本来は前衛職じゃないだろ……。

「オースさん相手にどこまで通じるか分かんないっすけど……全力で行くっすよ!」

「手加減してくれていいんだけど……!」

 すぐに勝負が始まる。
 コルセスカに見立てた棒が、びゅんびゅん回る。
 ガンガン突き出されてくる。
 速い速い。

「うおー」

 俺はもう、退いたり躱したりで必死だ。
 リーチが違うのはやばいよ。
 特に、腕利きの戦士は隙がないから、リーチのある武器を手にすると恐ろしく強くなる。

 しかもこの大会はスリング禁止だからなあ。
 俺がSランク戦士であったショーナウンに勝てたのは、彼がレブナント化してたということと、なんでもありの戦いができたからだ。

 いや、ここでもやるか。
 なんでもあり。

「どうしたっすかオースさん! 防戦一方じゃ後がなくなるっすよ!」

「うん、これから攻撃に移る」

 俺はカイルの突きを躱しながら、足元の小石を跳ね上げた。
 それを手にした棒で打って、飛ばす。

「うおっ!!」

 カイルはこれを、慌てて棒を引き寄せて弾いた。
 素晴らしい速度だ。

「石を投げた!」

「汚いぞー!」

 おお、会場からブーイングが飛ぶ!
 俺は基本的にダーティーな戦い方が専門なのだ!

 それに、足元の石を蹴り上げて打ち込んでは行けないという決まりはなかったはず!

「センセエがしゅだんをえらんでないです!」

「オースさんも結構負けず嫌いですわよねえ」

『いいヒールっぷりだにゃ』

 うるさいぞ。
 俺はカイルに接近しながら、小石を幾つか蹴り上げて手の中に収める。

 カイルはすぐさま体勢を立て直している。
 一流の槍使いだからな。隙はそうそう見せてはくれないか。

「あっぶねー! だけど、それでこそオースさん……」

「次々行くぞ!」

 駆け寄りざまの、小石連続ノックだ。

「うわあっ! 容赦ねえ!」

 棒を回転させてこれを跳ね飛ばすカイル。
 わはは、もう俺は目と鼻の先だぞ。
 コルセスカの間合いとしては近すぎるだろう。

「取ったぞ!」

 俺はカイルの腕に向かって棒を突き出した。
 これを使って、彼の腕を関節技に決める予定なのだ。

 え? 本来のショートソードじゃ関節技にできない?
 これは棒だ。
 なので棒を使って関節を極めてもいいのだ。俺は勝つためならなんでもするぞ。

「汚い、さすがオースさん汚い」

 カイルが嬉しそうに言う。
 突き出した棒の前に、カイルの棒が差し出された。

「ば、ばかなー! 長い棒の先端がどうしてここに」

 俺はまるでやられ役みたいなことを言ってしまった。

「俺の体を軸にして回転させたっす! 行くっすよ!」

「ちょっと待とう。ここは仕切り直しを」

「問答無用っす!」

 カイルが俺を、棒ごと突き出した。

「ウグワー」

 突き倒される俺。
 思わず尻もちをついてしまった。

 し、しまったーっ。

「勝者、カイル!」

 わーっと盛り上がる会場。

 俺の手段を選ばない悪役ぶりがあったから、これを正々堂々打ち破ったカイルに、誰もが大盛り上がりだ。
 くっそー。

「センセエー! わざと負けてカイルをかっこよくみせたですね!」

「普通に負けたよ!」

 正直に申告しておく。

「そうなのですか」

「そうなんだ。俺はなんでもありな状況じゃないとそこまで強くないぞ……!!」

 だが、カイルがみんなにチヤホヤされている光景を見て、まあこれも悪くないかと思う。
 彼が気にしている、執政官のアスタキシア嬢が興奮して話しかけているではないか。
 貴族の令嬢だけに、正々堂々と相手を打ち倒す戦士というのに特別な思いがあるようだ。

 おお、カイルがデレデレしている。
 あいつはお嬢様っぽい女性が好みだったんだなあ。

 会場の大騒ぎに、ナオ夫人が抱っこしている赤ちゃんが、ぱちりと目を覚ました。
 ふぎゃー、と泣き始める。
 おお、元気だ。

 ナオ夫人がそそくさとおっぱいをあげ始めた。

「センセエ!」

「うわ、クルミ、なぜ目隠しを!」

「なんでじゃないですよ!」

「分かった分かった! 赤ちゃんの方は見ないから!」

 ということで、目隠しを外してもらった。
 クルミが何やら膨れている。
 ほっぺたをつまむと、口から空気がプスーッと抜けた。

「なにするですかー!」

「いやあ、つい」

『わふ』

『うむ、ご主人がいちゃいちゃしてるにゃ』

『わふわふ』

『お前よく見守るだけで我慢できたにゃ。マーナガルムは鋼のハートをしてるにゃ』

『わふーん』

 外野のモフモフが何やらうるさいな。
 ブランは俺を手のかかる子どもみたいに見ていたのか……!
 どっちがテイマーなのか分かったものじゃないな!

 俺が軽くショックを受けていると、人垣の中から恰幅のいい男が出てきた。

「やあやあ! 素晴らしい技だったな! セントロー王国では君たちと戦えるレベルの戦士はそうはおるまい!」

「おや、あなたは確か」

 彼は、俺がモフライダーズのリーダーだと知って話しかけてくる。
 隣にハーフエルフの夫人を連れているこの人物は。

「ロネス男爵でしたね」

「ああ、そうだ! どうだ、ここの次は我が領土に滞在してくれないか? 俺は諸君らを歓迎するぞ。それに、どうせオートローに行くんだろう。我が領には転移魔法の使い手がいるから、ショートカットできるぞ」

「それはありがたい!!」

 一も二もなく飛びつく俺なのだった。
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