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第二部:神都ラグナスの冒険 3

第63話 下水の動物さらい その2

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 フランチェスコ枢機卿に紹介された宿に行くと、これがとんでもない高級宿だった。
 もちろん、ブランは入れてくれない。
 ということで、宿は自前で探すことにした。

 下町の辺りで、ペット同伴OKという宿を発見。
 大部屋を取ったら、窓の外にドレがやって来ていた。

 肉球で窓を叩く。
 下町でも、この国の宿は窓ガラスが使われているのだ。

「よくここが分かったね」

 窓を開けると、ドレがひらりと部屋の中に降り立った。

『当たり前にゃん。己はご主人の精神波動を感知しているにゃん。見失うことはないにゃん』

「そうかー。ドレ、明日から仕事だぞ」

『にゃん。己も頼みたいことがあったにゃん』

「なんだい? うちは、ペットがさらわれる事件を調べようと思ってるんだけど」

『まさにそれにゃ!!』

 ドレが触手を出して、ばたばたさせた。

『ペットさらいは、下水に潜んでいるにゃ。己は独自に調査したにゃ』

「本当かい!? 凄いな! じゃあ、明日は道案内してもらわないとな」

 ドレがピタッと動きを止めた。

『己も行かなきゃダメにゃ?』

「来て欲しいなあ」

『臭いのいやにゃ』

『わふん』

 ドレの触手を、ブランが前足でぺちんとはたいた。
 仲間なんだから一緒に行動しないとね、と言っている。

『く、臭いのはいやにゃー!』

『わふーん』

 おっ、ブランがドレを逃さない体勢だ。
 彼らのことは彼らに任せ、俺たちはゆっくりするとしよう。

 ちなみに夜の間にファルクスは姿を消していた。 
 まさか、俺の戯曲をあちこちで披露してるんだろうか。
 うわあ、なんて恐ろしいことを。

 朝になってギルドに行ったら、その予感は的中していた。
 冒険者達が俺に注目しているのだ。

「な、なぜ俺を見るんだ」

「あれがオースか……。見た目地味な感じなんだけどなあ」

「英雄が必ずしも分かりやすい見た目じゃねえってことだろうな。武器も使わずに次々モンスターを倒すらしいじゃねえか」

 みんなが俺を見てヒソヒソする。
 若い冒険者達など、憧れに満ちた視線で俺を見つめてくる。
 や、やめてくれえー。

 そんな注目を浴びる中、俺たちは受付カウンターに向かって進んでいった。
 モフライダーズが行くところ、人波が割れていくのだ。

「どうです。過ごしやすくなるでしょう」

 ファルクスが自慢げに言った。
 ええい、余計なことをー。

 俺は、人から注目される事に慣れていないんだ。
 むしろ落ち着かない。

「夕べの戯曲は凄かったな」

「本当にあいつが、アドポリスで起こったっていう呪いモンスターの連続発生を食い止めたのか?」

「最近連行されてきた、邪悪な召喚士ってのがいただろ。あいつを捕まえたらしい」

「マジか!? テイマーvs召喚士の闘い、そんなもんレアもレア、激レアじゃねえか」

 やめてくれえー。

「センセエが不思議なかおをしてるです!」

「オースさん、こういうシチュエーションに弱かったんだなあ。あがり症か?」

「いやあ、これはわたくしめの計算ミスでしたな。わっはっは」

 わっはっはじゃない。
 俺達モフライダーズも注目されているということだ。
 そして、そんな俺達がどんな依頼を受けるかというと……。

「ああ、はい。昨日お話があったペットの行方不明事件ですね。現在は受け手がいなくて浮いていますからいいですよ」

 エルフのギルド受付嬢が、依頼書にポンとハンコを押した。
 受注印だ。

 俺達が、よりによってDやEランクが受ける仕事をやると聞いて、ギルドがざわめいた。

「えっ、なんで?」

「そんな簡単な依頼を……」

「待て。あの依頼、一ヶ月前からあったよな? DとかEとは言え、どのパーティも達成できてないって話じゃねえか」

「まさか、あの依頼はでかくてヤバイ仕事に関わるネタだったのか?」

「それを見越して、モフライダーズはあえて……!?」

「アドポリスの英雄は目の付け所が違うなあ……」

 や、やめるんだー。

「センセエがしにそうなかおしてるです!!」

『わふん』

 傍らにブランがやって来て、俺の体を支えた。
 おお、ありがたい……。

「でかい犬だ!! あれがテイムされたモンスターなのか!?」

「確かに見たことねえ。牛くらいあるぜ、あの犬……」

 さっさとこんなところはおさらばしよう……!!
 俺はブランに支えられたまま、ギルドを後にするのだった。

「これは、オース殿にも注目慣れしてもらわないといけませんなあ」

 ファルクスが顎を撫でている。

「注目慣れって。俺はそこまで大したやつじゃないから」

「いやいやいやいや」

 カイルが真顔で否定してくる。

「オースさんが大したこと無いなら、俺は雑魚ですよ。つーか、オースさんレベルの人間が謙遜はマジでだめっす。むしろ嫌味だって思われるっすよ」

「ええ……」

 解せぬ。
 ともかく!

 仕事は引き受けた。
 ドレからの情報もある。
 この依頼、さっさと達成してしまおう。

「つーか、やっぱこの依頼を引き受けたのって」

「センセエはモフモフ大好きですからね!」

「うん、そういうこと。モフモフテイマーである以上、こういう依頼は見逃せないでしょ。モフモフは幸福であるべき。パーティを私物化してるみたいで悪いけどさ」

「いやいや、俺は構わないっすよ。下水道に潜れるチャンスなんかめったにないっすしね。ちょっと楽しみっすわ」

「下水が関わるとなると、この依頼の難易度は跳ね上がりますな。かの場所は臭いだけでなく、そこに生息するモンスターを相手にすることにもなりますからな」

「もしかして、ファルクスは詳しい?」

「わたくしめも下水道関係の依頼は受けたことがございますので」

「よし、それじゃあ必要な道具を買いに行こうか」

 動き出したら迅速。
 我がモフライダーズのスタンスだ。

 さっさと必要な道具を揃え、下水を管理している役所に届け出をする。
 モフライダーズのバッジを見せると、担当の所員が目を輝かせた。

「昨夜の戯曲の!? 実在したんだ……。そこの真っ白くて大きい犬! 間違いない……。あなたがたが動くということは、下水道に巨悪が……!? 頑張ってください……!! 報告は上にあげておきますから!!」

 許可は降りたけれど……!
 に、逃げ場がないっ。

 ファルクスがドヤ顔をして俺を見てくる。
 ありがたいような、ありがた迷惑のような……!
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