上 下
53 / 173
第一部:都市国家アドポリスの冒険 9

第45話 おびき出せアンデッド その5

しおりを挟む
 長丁場になるかなと思って、せっせと薪を集めたり食べられる野草やキノコを採集していたのだが、事態は思いの他早く動き出した。
 この集めまくった食べ物はどうするんだ。
 保存食にするにも日持ちしないしなあ……。

「センセエ! センセエ! アドポリスがおおさわぎになってるです!!」

「ああ、うん! 食べ物どころじゃなかったね!」

 樹上で街を見張っていたクルミに言われて、俺は気を取り直した。

 さて、時間は旅立った日の夕刻。
 日が暮れ始めた……いわゆる黄昏時。

 普段なら、明かりを取るのに使う油が勿体ないから、住民の皆さんはさっさと寝たりするものなんだが……。

「よっこらせっと……!」

 クルミの下まで登ってからアドポリスを見ると……なるほど。
 明々と光っているなあ。

 あれは街明かりじゃない。
 炎の輝きだ。

 何者かが火を付けたのかな?

「オースさん! すぐに行きましょう! 助けなきゃ!」

「ああ、分かってるよ。だが状況が分からない」

「状況なんて言ってる場合っすか!」

「言っている場合さ。あれが罠だったらどうする? 俺達が罠にはまって死んだらそこで終わりだ。状況は解決されず、黒幕の思うがままになる。焦ってしまうときほど、急がねばならないような時ほど慎重に行く。それが俺の流儀だ」

「そ、それは……」

 カイルが絶句した。
 人情の欠片もないような発言だが、分かって欲しい。
 俺達が状況を解決できてこそ、助かる人間の数は最大になる。

 ここで急ぎ駆けつけて、何人かを救ったところで相手の術中にはまり、殺されてしまったらどうなる?
 助けた人間も助からないことになるだろう。

「そんな顔をしないでくれよカイル。行かないわけじゃない。できうる限りの情報を集めながら、可能なだけ早く街へ向かう」

「そ、そりゃあそうです」

「センセエ! いくですか!」

「ああ、行くよ」

 樹から降りると、ブランと犬車を接続する。

「カイルはすぐに突入したくて堪らないようだから、ドレを連れて行ってくれ。君は先行し、できる範囲で状況を解決。ドレ、カイルをサポートしてやってくれ」

「はい!」

『めんどくさいにゃん』

「あとで好きなだけミルクを飲ませてやる」

『やるにゃん』

 現金な猫だ。

「あとはカイル、これだけは気をつけてくれ」

「うっす、なんすか!」

「死なないように。君が死ぬ気で何人か助けるよりも、生き残って助け続ける方が世の中のためになる。だから死ぬな」

「……! うっす!!」

 カイルは気合の入った返事をすると、駆け出していった。
 俺達もその後に続く。

 だが、そこへ。
 カイルの目の前を塞ぐように、大きくて長いものが出現した。

『るるるるるあああああ』

 喉を鳴らすような声が響き渡る。
 この声も聞き慣れたな。

「なっ」

「カイル、無視して走れ。頭を上げず、地面を見て走る」

「うす!!」

 カイルは疑問を挟まず、俺の言葉の通りに走る。
 目の前に現れた、その巨大なモンスター目掛けて一直線に。

 俺は、モンスターに呼びかけた。

「バジリスク! こっちだ!!」

 そのモンスター……恐らくは、召喚されたであろうバジリスクが俺を睨む。
 そこには既に、手鏡があった。

『るお……お…………』

 バジリスクの視線はすでに見切っている。
 俺の鏡は、石化の呪いを最小限の動きで正確に反射した。
 モンスターがみるみる石に変わる。

「ドレ!」

『めんどくさいにゃん』

 やる気なさそうに、だがやる時はやるクァールのドレ。
 カイルの肩上で身を起こすと、全身を震わせた。

 彼がマインドブラストと呼ぶ攻撃だ。
 その空間を揺るがす振動波が、既に石になっているバジリスクを粉々にする。

「どもっす!!」

 それだけ告げて、カイルはアドポリスへ一直線に向かっていった。

「まあ、それにしても……。バジリスク退治、今までの最短記録だったんじゃありませんか?」

 アリサが呆れたように言った。

「オースさん、普段からちょっと慎重すぎるんじゃないですか?」

「よく言われる。今は咄嗟だったから、安全マージン取るの忘れてたよ。ブラン、走って。急がないで、ゆっくり。クルミ、俺の肩に乗って、できるだけ遠くを見て」

『わふん』

「はいです!」

 砕かれたバジリスクを踏み越えて、俺達は進む。
 燃え上がるアドポリス。

 その向こうで何が起こっているのか?
 しっかり見て、考えて、対策を立てる。
 猶予はないぞ。

 俺が持つ知識と経験を総動員して、速攻で対策を立てていかないとな。

 だが、起きるであろう最悪の事態に対してだけは、きちんと対策済みなのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

前代未聞のダンジョンメーカー

黛 ちまた
ファンタジー
七歳になったアシュリーが神から授けられたスキルは"テイマー"、"魔法"、"料理"、"ダンジョンメーカー"。 けれどどれも魔力が少ない為、イマイチ。 というか、"ダンジョンメーカー"って何ですか?え?亜空間を作り出せる能力?でも弱くて使えない? そんなアシュリーがかろうじて使える料理で自立しようとする、のんびりお料理話です。 小説家になろうでも掲載しております。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

処理中です...