上 下
42 / 173
第一部:都市国家アドポリスの冒険 7

幕間 噂と、Sランク冒険者の帰還

しおりを挟む
 アドポリスのあちこちで、噂になっている。
 大量発生した、呪いを振りまく恐ろしいモンスター達。
 そいつらを相手に、冒険者のパーティも苦戦を強いられていると。

「見たか?」

「見た」

「あの真っ白なでかい犬に車を引かせてる冒険者な」

「ああ……」

 彼らは、アドポリスに連なる町を守る兵士。
 それなりに訓練されているとは言え、強力なモンスター相手には歯が立たない。
 ゴブリンやオークまでならなんとか。

 だが、この町を、先日バジリスクが襲ったのだ。
 視線で人を石化させ、毒を撒き散らして人を殺す。
 悪意の塊のようなモンスター。

 討伐依頼が出され、それを受けてきた冒険者パーティは、その日のうちに石化した。
 後続で来たパーティは、大打撃を受けて戦えなくなった。

 町の人々は絶望に沈む。
 町を捨てて逃げるべきか。

 だが、そこへ、真っ白な大きい犬がやって来た。
 犬が引く車から、リスのようなふわふわ尻尾の少女と、美しい司祭の女性、そして見るからに腕利きっぽい槍使いの戦士が降り立った。
 最後に、中肉中背の優しげな顔立ちの男。

 また冒険者が来たのか。
 だが、彼らもまた、バジリスクには歯がたたないかも知れない。

 それでもなんとか。
 なんとか、あのモンスターを倒してくれ……!

 町の人々はそう願った。
 そして、冒険者達はバジリスクに挑む。

 到着したその日の事である。

「いやあ、まさかなあ……」

「ああ。まさかだった……。到着して30分でバジリスクを片付けて、そのまま去って行っちまった」

「しかも、あの優しそうな顔の兄ちゃんがたった一人でやっつけたよな? あれ、何をやったんだ?」

「ええとな、説明してもらったんだけど……『バジリスクの視線を誘って、そこに手鏡を置いた』んだと」

「なんだそりゃ?」

 バジリスクの視線には、強力な石化の呪いが乗っている。
 それはあまりにも強く、本体であるバジリスクすら石化させるのだ。

 故に、視線を誘導され、それを的確に反射させられたバジリスクは石化した。
 石になったところを即座に、粉々に砕かれた。

 粉になったバジリスクは回収され、一部は石化した町人や冒険者を戻すために使われ……。

 その日のうちに、バジリスクを文字通り粉砕したパーティは去っていった。

「人は見かけによらないって本当だよなあ」

「あんな優しそうな兄ちゃんなのになあ」

 兵士達がそんな話に興じていると、これを聞いていたらしい冒険者が目を丸くした。

「ご存知ないのですか!?」

「え、ご存知って」

「彼こそ、Sランクパーティ、ショーナウン・ウインドを抜けて自らのパーティを立ち上げた、真のSランク冒険者……オースなのですよ!」

「Sランク……!?」

 冒険者界隈で、Aランクと言えば超一流の冒険者を指す。
 そしてその上に存在するSランクとは、言うなれば国家への多大なる貢献を果たした名誉ある者か、あるいは国家の切り札たる最強の者を指し示す事になる。

「あの兄ちゃん、そんなにアドポリスに貢献してたのか……」

「強そうには見えなかったもんなあ」

「……ですが、オースさんは、たった一人で何度もバジリスクを倒し、それどころかソロでデュラハンすら討伐する人物ですよ。この間もパーティを引き連れて、Aランクパーティを壊滅させたデュラハンを、到着した翌日に討伐したそうです」

「翌日に……!?」

「仕事早すぎだろ……」

「ってことは、待てよ。もしかしてあの人、アドポリスの切り札みたいな冒険者なのか……!?」

「ええ……。人は見かけによらねえ……」

 まさしく、その通りである。

「だけどよ。最近のアドポリスはどうなっちまってるんだ。あんな恐ろしいモンスターがあちこちに出てきてよ」

「ああ。しかも今、アドポリスの中心だとアンデッドが出まくってるんだろ? 行方不明になった人達が、次々アンデッドになったりしてて……。外に逃げだすやつも増えてるって聞くぜ。これでモンスターがまだ野放しだったらやばかっただろ、これ……」

 兵士たちの話に、冒険者は頷いた。

「確かに……。ですけど、オースさんと仲間達……モフライダーズがモンスター討伐依頼は解決してますし。それに、彼らはどこへ向かって行ったか分かります?」

「どこって」

「ああ、確かあっちは、アドポリスの都だな!」

 兵士達の顔が明るくなる。

「あの人らが行ったんなら、なんとかしてくれるかも知れないな!」

「ええ、そうです! きっと彼らなら、このわけのわからない状態も解決してくれるに違いないです……!」

 このような光景は、どこの町でも見かけられるようになった。
 アドポリスを暗雲が覆い尽くそうとしていたのだが、それはモフライダーズによって払われていたのだ。

 そして都市国家の中心たるアドポリスにて、決戦の時が近づいている……。


 だがその前に。
 オース一行は、新たなモフモフと邂逅することになるのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します

かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。 追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。 恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。 それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。 やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。 鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。 ※小説家になろうにも投稿しています。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

前代未聞のダンジョンメーカー

黛 ちまた
ファンタジー
七歳になったアシュリーが神から授けられたスキルは"テイマー"、"魔法"、"料理"、"ダンジョンメーカー"。 けれどどれも魔力が少ない為、イマイチ。 というか、"ダンジョンメーカー"って何ですか?え?亜空間を作り出せる能力?でも弱くて使えない? そんなアシュリーがかろうじて使える料理で自立しようとする、のんびりお料理話です。 小説家になろうでも掲載しております。

処理中です...