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王都の吸血鬼事件
第225話 血を吸われた赤ちゃん
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「バイセップ男爵家の話なのですわ。そこのおうちは奥様が早く亡くなられて、後妻に東方の女性を迎えられたのですけれど」
「国際的な結婚なのね。奥さん、王都に馴染むの大変だっただろうね」
「ええ。最初は言葉も文化も違って大変だったようですが、利発で努力家でしたから、奥様はどんどんとエルフェンバインのことを学んで、馴染んでいったそうですわ。そして先妻の子であるアドミナルくんとも良好な仲になって、お母様、お母様と慕われるようになっていたそうですの」
「いいことじゃない」
「外国から来てそれは凄いですね!」
「私だったら絶対むりー」
カゲリナとグチエルは何気にバイタリティ溢れてるから、いけると思うけどね。
「そんな奥方は、ある時にバイセップ男爵の子を身ごもりましたの。つつがなく時は過ぎ、元気な女の子が生まれましたわ。バイセップ男爵も奥方も大層喜んで、赤ちゃんをとても可愛がりましたの。それがついこの間までの話。ここから事件なんですのよ」
カゲリナとグチエルが、ごくりとつばを飲んだ。
ここから何が起きるのだろう……?
みたいな顔をしている。
私は先が読めた。
でも、口にしないだけの分別はあるので、のんびりお茶を飲む。
「ある時、メイドが奥方の部屋を覗いたら……。そこには、腕から血を流す赤ちゃんと、唇から血を垂らした奥方が! そう、それは赤ちゃんの血だったのですわよ!」
キャーッと震え上がるカゲリナとグチエル。
「そ、そ、それってつまり……、奥様が吸血鬼だったということ!?」
「吸血鬼マスキュラーは本当にいたんだわー!!」
また、キャーッと叫ぶ二人。
遠くでバスカーとポーキーが、不思議そうにこちらを見ている。
私は手を振ってやった。
さて、シャーロットはと言うと、お話に的確な反応をしてもらって大満足。
実に嬉しそうだ。
「メイドは正しく、お二人と同じ反応をしましたのよ。そして男爵に、奥方が吸血鬼だったことを告げましたの。男爵はその言葉を信じませんでしたけれど、しばらくは奥方に外出を禁じるよう伝えましたの」
「外で被害が出ないためですね!」
「その間に、早く吸血鬼狩りを連れてこないと!」
盛り上がるカゲリナとグチエル。
これは本当に、吸血鬼マスキュラーにハマってるなあ。
「でも、これって退治されたらまずい話でしょ? そのためにシャーロットが呼ばれて、現場を見てきたという話じゃないの?」
私の言葉に、シャーロットは微笑んだ。
「ええ、その通りですわ。今現在出揃っている情報はここまで。ですけれど、これで事件を解決できるだけの要素は十分だとわたくしは考えていますの」
「ええっ、もう十分!?」
「どうしてですか!?」
驚くカゲリナとグチエルに、シャーロットはいたずらっぽくウィンクしてみせた。
「それは、わたくしとジャネット様が事件を解決して戻ったら、教えて差し上げますわ。これは事件と言うほどだいそれた事態ではありませんのよ。ですけれど、そう……タイミングが悪かったですわね」
なるほど、タイミング。
これが平時に起こったことであれば、関係者たちはもっと冷静に解決できていたのかもしれない。
シャーロットを呼ぶことはなく、私が首を突っ込むこともなく。
だけど、今現在、普段とは違うことってなんだろう。
そう、吸血鬼マスキュラーの物語。
赤ちゃんが血を流していて、その母親が口を血に染めていた。
この事実が、吸血鬼マスキュラーブームの昨今だと、途端にセンセーショナルになる。
「それじゃあ、たっぷりとお茶もお菓子もいただきましたし。参りましょうかジャネット様?」
「ええ。その様子だと、解決は時間の問題なんでしょう?」
「もちろん。全ての事件は、解決されるために存在していますもの。この事件だってそう。解決しないと、この他愛もない出来事がそれで終わらなくなってしまいますわ。それって、不幸でしょう?」
「ええ。私たちの趣味以前に、一つの家族を守るために解決してあげないとね」
「あら」
馬車に乗り込んだあと、シャーロットが目を丸くした。
「もしかしてジャネット様も、事件がどうなっているのか、なんとなく見当がついてらっしゃいます?」
「それはもちろん。だってシャーロットが、事件に無関係な人物の話を細かくすることって無いもの。アドミナルくんが事件の鍵なんでしょう?」
「正解! やっぱりジャネット様は素敵ですわ! わたくしの意図をちゃんと汲み取って下さいますもの!」
「それはもう。あなたとの付き合いだって長いんだから」
もうそろそろ一年が過ぎたんじゃないだろうか。
第一王子コイニキールに、理不尽な婚約破棄をされたのが、今はもう遠い昔に思えてしまう。
それくらい、この一年は濃厚だった。
いつまで続く関係かは分からないけれど、これはきっと、忘れない思い出になるだろうなと……そんなことを考えたのだった。
「はい、到着ですわ。バイセップ男爵家のお屋敷、実はジャネット様のご自宅の近くでしたの。さあ参りましょう?」
「ええ。さっさと解決して、うちで待ってる二人に聞かせてあげないとね」
「国際的な結婚なのね。奥さん、王都に馴染むの大変だっただろうね」
「ええ。最初は言葉も文化も違って大変だったようですが、利発で努力家でしたから、奥様はどんどんとエルフェンバインのことを学んで、馴染んでいったそうですわ。そして先妻の子であるアドミナルくんとも良好な仲になって、お母様、お母様と慕われるようになっていたそうですの」
「いいことじゃない」
「外国から来てそれは凄いですね!」
「私だったら絶対むりー」
カゲリナとグチエルは何気にバイタリティ溢れてるから、いけると思うけどね。
「そんな奥方は、ある時にバイセップ男爵の子を身ごもりましたの。つつがなく時は過ぎ、元気な女の子が生まれましたわ。バイセップ男爵も奥方も大層喜んで、赤ちゃんをとても可愛がりましたの。それがついこの間までの話。ここから事件なんですのよ」
カゲリナとグチエルが、ごくりとつばを飲んだ。
ここから何が起きるのだろう……?
みたいな顔をしている。
私は先が読めた。
でも、口にしないだけの分別はあるので、のんびりお茶を飲む。
「ある時、メイドが奥方の部屋を覗いたら……。そこには、腕から血を流す赤ちゃんと、唇から血を垂らした奥方が! そう、それは赤ちゃんの血だったのですわよ!」
キャーッと震え上がるカゲリナとグチエル。
「そ、そ、それってつまり……、奥様が吸血鬼だったということ!?」
「吸血鬼マスキュラーは本当にいたんだわー!!」
また、キャーッと叫ぶ二人。
遠くでバスカーとポーキーが、不思議そうにこちらを見ている。
私は手を振ってやった。
さて、シャーロットはと言うと、お話に的確な反応をしてもらって大満足。
実に嬉しそうだ。
「メイドは正しく、お二人と同じ反応をしましたのよ。そして男爵に、奥方が吸血鬼だったことを告げましたの。男爵はその言葉を信じませんでしたけれど、しばらくは奥方に外出を禁じるよう伝えましたの」
「外で被害が出ないためですね!」
「その間に、早く吸血鬼狩りを連れてこないと!」
盛り上がるカゲリナとグチエル。
これは本当に、吸血鬼マスキュラーにハマってるなあ。
「でも、これって退治されたらまずい話でしょ? そのためにシャーロットが呼ばれて、現場を見てきたという話じゃないの?」
私の言葉に、シャーロットは微笑んだ。
「ええ、その通りですわ。今現在出揃っている情報はここまで。ですけれど、これで事件を解決できるだけの要素は十分だとわたくしは考えていますの」
「ええっ、もう十分!?」
「どうしてですか!?」
驚くカゲリナとグチエルに、シャーロットはいたずらっぽくウィンクしてみせた。
「それは、わたくしとジャネット様が事件を解決して戻ったら、教えて差し上げますわ。これは事件と言うほどだいそれた事態ではありませんのよ。ですけれど、そう……タイミングが悪かったですわね」
なるほど、タイミング。
これが平時に起こったことであれば、関係者たちはもっと冷静に解決できていたのかもしれない。
シャーロットを呼ぶことはなく、私が首を突っ込むこともなく。
だけど、今現在、普段とは違うことってなんだろう。
そう、吸血鬼マスキュラーの物語。
赤ちゃんが血を流していて、その母親が口を血に染めていた。
この事実が、吸血鬼マスキュラーブームの昨今だと、途端にセンセーショナルになる。
「それじゃあ、たっぷりとお茶もお菓子もいただきましたし。参りましょうかジャネット様?」
「ええ。その様子だと、解決は時間の問題なんでしょう?」
「もちろん。全ての事件は、解決されるために存在していますもの。この事件だってそう。解決しないと、この他愛もない出来事がそれで終わらなくなってしまいますわ。それって、不幸でしょう?」
「ええ。私たちの趣味以前に、一つの家族を守るために解決してあげないとね」
「あら」
馬車に乗り込んだあと、シャーロットが目を丸くした。
「もしかしてジャネット様も、事件がどうなっているのか、なんとなく見当がついてらっしゃいます?」
「それはもちろん。だってシャーロットが、事件に無関係な人物の話を細かくすることって無いもの。アドミナルくんが事件の鍵なんでしょう?」
「正解! やっぱりジャネット様は素敵ですわ! わたくしの意図をちゃんと汲み取って下さいますもの!」
「それはもう。あなたとの付き合いだって長いんだから」
もうそろそろ一年が過ぎたんじゃないだろうか。
第一王子コイニキールに、理不尽な婚約破棄をされたのが、今はもう遠い昔に思えてしまう。
それくらい、この一年は濃厚だった。
いつまで続く関係かは分からないけれど、これはきっと、忘れない思い出になるだろうなと……そんなことを考えたのだった。
「はい、到着ですわ。バイセップ男爵家のお屋敷、実はジャネット様のご自宅の近くでしたの。さあ参りましょう?」
「ええ。さっさと解決して、うちで待ってる二人に聞かせてあげないとね」
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