209 / 225
四大精霊王の紋章事件
第209話 罠に掛かった騎士
しおりを挟む
記事が出た日の夜。
あちらさんは相当慌てていたらしい。
我が家に忍び込もうとしたのだ。
わふわふという鳴き声で目を覚ました私。
素早く部屋に常備されている簡易な鎧を着込むと、外に飛び出した。
「曲者!」
練習用の槍を手にして声がする方を見回すと、バスカーが何者かを取り押さえていた。
恰幅のいい中年男性である。
「ウ、ウグワー」
一見したところ、それなりに心得はありそうな体つきをしているのだけれど……。
普通の人がモンスターであるガルム相手に一対一は、まあ無理というものだ。
『わふ~』
バスカーが、見て見て、と私に振り返った。
目がキラキラしている。
「えらいバスカー!」
彼の首を抱きしめてなでなでしてあげた。
嬉しそうにペロペロ舐めてくるバスカー。
さーて。
いきなり侵入者を捕まえてしまったわけだけど。
「早速罠に掛かりましたわね」
我が家からシャーロットもやって来た。
ナイトガウン姿だ。
私も彼女も爆睡してたわけね。
「じゃあシャーロット、彼がシーディアスの兄を殺した騎士の一人ってわけ?」
「ええ、間違いありませんわ。属性は水。ネフリティス出身の方ですわよね、あなた?」
男はギョッとした。
目を見開き、口をパクパクさせる。
あー、これは図星だな。
そう言えば肌は浅黒く、日焼けしている感じがする。
うちのズドンと一緒だ。
「な、な、なんでそんな事が分かるんだ!」
バタバタ足掻きながら、男が口を開く。
「簡単ですわ。ワトサップ家に忍び込もうなんていうお馬鹿さん、騎士の位を持つものでは早々いるはずがありませんもの。ましてや、エルフェンバインの生まれなら、ワトサップ家がどれだけ恐ろしいか分かっているのが当然。イリアノスやアルマースにもそれなりに名が知れ渡っている、現代最強の武闘派貴族ですのよ?」
「だ、だが、知らないこと言うこともあるかも知れない……」
「ええ。ネフリティス王国とはそこまで密接な交流があるわけではありませんものね。最近、エルド教を通じて貿易が始まったばかり。ですから、あなたがワトサップ家をよく知らず、新聞の記事に踊らされて飛び込んできたのも仕方がないことなのですわ」
シャーロットがさらりと推理を述べたら、男は顔を赤くしたり青くしたり黒くしたりした。
カラフルだなあ。
すぐにナイツがロープを持ってやって来て、男をぐるぐる巻きに縛った。
「冬も近いですし、外に寝かせておいたら凍えて死ぬかも知れませんな。兵舎に転がしておきましょう」
「そうね」
ということで、尋問は朝。
玄関から、イーサーとシーディアスが青い顔をして覗いていたのだが、
「早く寝なさいな!」
と一喝して客間に追い返した。
翌朝。
朝食を終え、デストレードを呼び、どこで聞きつけたのかターナまでやって来て、ネフリティス出身の騎士の尋問が始まった。
バスカーがご褒美の骨付き肉をもりもり食べている横で、騎士はすぐに素性を吐いた。
「俺は悪くない! 悪いのはモーダイン将軍とジョルト騎士爵が、財宝をアウシュニヤ王国に返還すると言ったから……!」
この辺の物言いで大体わかった。
将軍と騎士爵は、発見した財宝をアウシュニヤに返そうと考えた。
だが、四人の騎士はそれに反対した。
ついに仲違いが起こり、将軍と騎士爵は命を狙われるまでになったのだ。
彼らは財宝を持ってアルマース帝国まで逃げ延びたが、そこで殺された……らしい。
だが、その時には財宝は隠されていた。
四人の騎士が財宝の在り処を探しだしたのが、私たちがシーディアスと出会った少し前。
彼らは、後からやって来るであろう私たちに見せつけるべく、あの紋章を書いた紙を残したのだった。
「なんであんな証拠になるようなものを残しましたの」
「ううっ……。財宝をついに手に入れてテンションが上がっていたんだ」
水の騎士はがっくりと項垂れた。
「まあ、気持ちは分かる」
ナイツがうんうん頷く。
それに対して、イーサーとシーディアスが吹き上がっている。
「こいつが父さんを!? 許せない!」
「父と兄が殺されたんだ! 黙ってられませんよ!」
うおーっと盛り上がる二人。
「まあ、気持ちは分かる」
ナイツがうんうんと頷く。
「だがな、ここでこいつを殺したら、あと三人が逃げちまうだろう。おい、なんでお前、一人で動いた」
「三人が何故かブルっちまったからだ。財宝に残りがあっても、ここは相手が悪いから諦めようって言いやがった……! とんだ腰抜けだぜ! ……と俺もその時は思っていました」
シュンとする水の騎士。
私は彼に語りかけた。
「ねえ。あなただけ捕まってていいの? 他の三人は逃げ延びて、財宝で一生面白おかしく暮らすかも知れないのに。あなたはこの後確実に縛り首になるけど、他の三人のための犠牲になるのは全然だいじょうぶなの? 自己犠牲精神の塊だったりする?」
「ぐや"じい"!」
「でしょ? あとの三人の居場所も教えてもらえない?」
「……流石お嬢、人間の汚い性根を利用する術を熟知しているぜ。これで幾人の蛮族が誘い出されて討滅されたことか」
「これだからジャネット様と一緒にいると退屈しないんですのよねえ」
「見なかったことにしておきますね」
「記事にしなければ……!」
こうして、ついに状況は三人の騎士の追跡に移る。
事件は最終局面なのだ。
あちらさんは相当慌てていたらしい。
我が家に忍び込もうとしたのだ。
わふわふという鳴き声で目を覚ました私。
素早く部屋に常備されている簡易な鎧を着込むと、外に飛び出した。
「曲者!」
練習用の槍を手にして声がする方を見回すと、バスカーが何者かを取り押さえていた。
恰幅のいい中年男性である。
「ウ、ウグワー」
一見したところ、それなりに心得はありそうな体つきをしているのだけれど……。
普通の人がモンスターであるガルム相手に一対一は、まあ無理というものだ。
『わふ~』
バスカーが、見て見て、と私に振り返った。
目がキラキラしている。
「えらいバスカー!」
彼の首を抱きしめてなでなでしてあげた。
嬉しそうにペロペロ舐めてくるバスカー。
さーて。
いきなり侵入者を捕まえてしまったわけだけど。
「早速罠に掛かりましたわね」
我が家からシャーロットもやって来た。
ナイトガウン姿だ。
私も彼女も爆睡してたわけね。
「じゃあシャーロット、彼がシーディアスの兄を殺した騎士の一人ってわけ?」
「ええ、間違いありませんわ。属性は水。ネフリティス出身の方ですわよね、あなた?」
男はギョッとした。
目を見開き、口をパクパクさせる。
あー、これは図星だな。
そう言えば肌は浅黒く、日焼けしている感じがする。
うちのズドンと一緒だ。
「な、な、なんでそんな事が分かるんだ!」
バタバタ足掻きながら、男が口を開く。
「簡単ですわ。ワトサップ家に忍び込もうなんていうお馬鹿さん、騎士の位を持つものでは早々いるはずがありませんもの。ましてや、エルフェンバインの生まれなら、ワトサップ家がどれだけ恐ろしいか分かっているのが当然。イリアノスやアルマースにもそれなりに名が知れ渡っている、現代最強の武闘派貴族ですのよ?」
「だ、だが、知らないこと言うこともあるかも知れない……」
「ええ。ネフリティス王国とはそこまで密接な交流があるわけではありませんものね。最近、エルド教を通じて貿易が始まったばかり。ですから、あなたがワトサップ家をよく知らず、新聞の記事に踊らされて飛び込んできたのも仕方がないことなのですわ」
シャーロットがさらりと推理を述べたら、男は顔を赤くしたり青くしたり黒くしたりした。
カラフルだなあ。
すぐにナイツがロープを持ってやって来て、男をぐるぐる巻きに縛った。
「冬も近いですし、外に寝かせておいたら凍えて死ぬかも知れませんな。兵舎に転がしておきましょう」
「そうね」
ということで、尋問は朝。
玄関から、イーサーとシーディアスが青い顔をして覗いていたのだが、
「早く寝なさいな!」
と一喝して客間に追い返した。
翌朝。
朝食を終え、デストレードを呼び、どこで聞きつけたのかターナまでやって来て、ネフリティス出身の騎士の尋問が始まった。
バスカーがご褒美の骨付き肉をもりもり食べている横で、騎士はすぐに素性を吐いた。
「俺は悪くない! 悪いのはモーダイン将軍とジョルト騎士爵が、財宝をアウシュニヤ王国に返還すると言ったから……!」
この辺の物言いで大体わかった。
将軍と騎士爵は、発見した財宝をアウシュニヤに返そうと考えた。
だが、四人の騎士はそれに反対した。
ついに仲違いが起こり、将軍と騎士爵は命を狙われるまでになったのだ。
彼らは財宝を持ってアルマース帝国まで逃げ延びたが、そこで殺された……らしい。
だが、その時には財宝は隠されていた。
四人の騎士が財宝の在り処を探しだしたのが、私たちがシーディアスと出会った少し前。
彼らは、後からやって来るであろう私たちに見せつけるべく、あの紋章を書いた紙を残したのだった。
「なんであんな証拠になるようなものを残しましたの」
「ううっ……。財宝をついに手に入れてテンションが上がっていたんだ」
水の騎士はがっくりと項垂れた。
「まあ、気持ちは分かる」
ナイツがうんうん頷く。
それに対して、イーサーとシーディアスが吹き上がっている。
「こいつが父さんを!? 許せない!」
「父と兄が殺されたんだ! 黙ってられませんよ!」
うおーっと盛り上がる二人。
「まあ、気持ちは分かる」
ナイツがうんうんと頷く。
「だがな、ここでこいつを殺したら、あと三人が逃げちまうだろう。おい、なんでお前、一人で動いた」
「三人が何故かブルっちまったからだ。財宝に残りがあっても、ここは相手が悪いから諦めようって言いやがった……! とんだ腰抜けだぜ! ……と俺もその時は思っていました」
シュンとする水の騎士。
私は彼に語りかけた。
「ねえ。あなただけ捕まってていいの? 他の三人は逃げ延びて、財宝で一生面白おかしく暮らすかも知れないのに。あなたはこの後確実に縛り首になるけど、他の三人のための犠牲になるのは全然だいじょうぶなの? 自己犠牲精神の塊だったりする?」
「ぐや"じい"!」
「でしょ? あとの三人の居場所も教えてもらえない?」
「……流石お嬢、人間の汚い性根を利用する術を熟知しているぜ。これで幾人の蛮族が誘い出されて討滅されたことか」
「これだからジャネット様と一緒にいると退屈しないんですのよねえ」
「見なかったことにしておきますね」
「記事にしなければ……!」
こうして、ついに状況は三人の騎士の追跡に移る。
事件は最終局面なのだ。
0
お気に入りに追加
441
あなたにおすすめの小説
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる
千環
恋愛
第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。
なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を庇おうとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで
みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める
婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様
私を愛してくれる人の為にももう自由になります
筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した
基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。
その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。
王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる