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四大精霊王の紋章事件

第207話 四騎士の行方を追う

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「うーん……。四大精霊王の紋章に、四人の騎士……うーん」

「ジャネット様は何を唸っておられますの?」

 馬車の中、隣の席できょとんとするシャーロット。

「だってさ。確かにこれは手がかりかも知れないけれど、こんなのどこにいるって言うの? アルマース帝国は広いし、エルフェンバインに逃げたとしてもやっぱり広いでしょ」

「ああ、そういうことでしたの」

 簡単なことですわ、とシャーロットが笑う。

「シーディアスさん。アウシュニヤの財宝は、その名の通り金銀宝石の類で間違いありあませんこと?」

「ええ、間違いありません」

 まだ青い顔をしているが、シーディアスは兄を殺されたのだから当然だ。
 でも、どうやら事態解決に向けて猛烈な勢いで突き進む、シャーロットの姿を見て安心しているようだった。

「噂の推理令嬢は、どうやら本物のようです。我が兄の仇を取って下さい……!」

「ええ、もちろんですわ。そのためにはシーディアスさんがご存知な話を色々伺わないと。ああ、そうそう。金銀宝石の類であるならば、四人の騎士の足取りを追うことは難しくありませんわ。彼らは必ず、不自然な動きをしますもの。それに、訓練を受けた騎士が四人、大きな都市に向かっているとなれば目立つでしょう?」

「大きな都市? それはどうして?」

 突然出てきたワードだ。
 シャーロットはどういう意図があるんだろう。

「もちろん、金銀宝石の類はそれだけで価値があります。ですけれど、わたくしたちの社会で最も力を持つものはなんですの? それはお金ですわ。換金できなければ意味がありませんの。財宝はそれだけでは、一つ一つの単位があまりにも大きすぎますし、お店で食事をしたり、ちょっとした買い物をするときに、いちいち財宝を渡して行きます? 行きませんでしょう。だから、彼らは大都市で換金することになりますわ」

「なーるほど。必ず大きい都市に行かないといけないんだ」

「そういうことですわ。もちろん、彼らがそれを使うこと無く死蔵する可能性もありますわね。ですけれど四人。四人もいますのよ? 全員がそれだけストイックで、意志を一つにしているなんて考えられませんわね。人間ってそこまで強くはありませんもの」

 途中で立ち寄ったアルマース帝国にて、国内の役所に立ち寄ってみる。

「外国人が四人で、国内で大量の宝石を換金? あはははは、無理無理。うちは自由なように見えて、常に神の目が光っているからね。怪しい動きはできないよ」

 役所の人が笑って答えた。

「第一、国外の盗品かもしれないだろ? だから高額の換金は必ず役所に届け出ることになってる。それと、裏でそういうことをやっている連中はいるけれど、財力の桁が違うよ。表でまっとうな手段で換金したほうが絶対に割がいいし、遥かに儲かる。儲けをドブに捨てたいなら別だけどね」

 なーるほど。
 アルマース帝国では、裏社会で換金するうまみがかなり少ないわけだ。

「それに、外国人が換金するなんて目立つことしないと思うよ。だって狙われるもの」

「治安が悪いのねえ」

「お金持ちなら護衛を雇えるからね」

 私の一言を否定もせず、役所の人は肩をすくめたのだった。
 なるほど、面白いところだなあ、アルマース帝国。

 今では皇帝は象徴みたいなものになっていて、執政はお金を持った国民たちが、選挙という方式で選ぶ大臣が行っている。
 お金持ち寄りの政策が多いけれど、金を使う側である庶民が困窮したら国も困るということで、常に大量の日雇いの仕事を作るという政策が取られているらしい。

 貧乏な人は多いという話だったが、その日の糧に困ることはまずない。
 道行く人々は活気に満ちて明るい。

「庶民は手に入れたお金をその日のうちに使ってしまうからね。あるいは家族のところに入れちゃうから、お金を持ってないのさ」

 役所の人は、ちょっと自慢げに話すのだった。
 ということで、四人の騎士が立ち寄った場所の選択肢から、アルマース帝国は消えた。

 そうなれば、目指すのはエルフェンバインだけだ。

「財宝は目立ちますでしょう? 関所などで検分されたら大騒ぎになりますわ。だから、彼らは宿場町を転々としながら王都を目指すでしょうね。さらに、王都の中には入らない。周辺街で換金するつもりですわ」

 エルフェンバイン王都の外縁にできた、周辺街地区。
 ここは日々拡大を続けているし、オーシレイが招いたエルド教の人々が拠点を設けているから、経済的にも活発な場所なのだ。

 なるほど、ここならば財宝の換金も難しくない。

「でも周辺街は広くない?」

「ええ。広いですわね」

「どうするつもり?」

「それはもちろん。わたくしたちが最近仲良くしている新聞社に、協力を仰ぐのですわ。こんな面白そうなネタ、彼らが放っておくわけありませんでしょう?」

「あー、そうね、そうだね!」

 それは間違いない!
 私とシャーロットがどんどん話を進めていくのを、イーサーとシーディアスが頼もしげに見つめているのだった。

 ちなみに新聞社に話を持ちかけたら、王都の中からターナがすぐにやって来て、「今度はのけ者にされませんからねっ!!」と鼻息も荒く宣言したのだった。
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