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四大精霊王の紋章事件

第205話 アウシュニヤ会館へ

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 なんと、王都を出て別荘地帯よりも遠くに行くことになってしまった!
 シャーロットのテンションが上がったのもあるけれど、私も私でうちのメイドたちから、「お嬢様も羽を伸ばして来られたらいかがです?」なんて言われたので心おきなく外出できるのだ。

 ちなみに父は、今は王宮でなんやかんやとやっているらしい。
 たまに戻ってくるが、ほとんどイニアナガ陛下と角を突き合わせて仕事づくしなのだ。

「お嬢、護衛は必要ですかね」

「じゃあ、ナイツお願い」

「よしきた!」

『わふ!』

「バスカーは目立つからねえ。また今度ね」

『わふ~ん』

 バスカーがとても残念そうな顔をした。
 王都だと、彼に慣れている人は増えているけれど、郊外ではまだまだバスカーはいるだけでびっくりされる。
 今回は推理に集中したいので、彼はお留守番というわけ。

 ナイツに馬車を出してもらい、シャーロットと依頼人のイーサーを乗せて出発だ。

 目指すのはアウシュニヤ会館。
 アルマース帝国やネフリティス王国よりもずっと先にある国、アウシュニヤ。
 熱砂の王国と呼ばれるそこは、片道でも一ヶ月以上は掛かると言われている。

 エルフェンバインとアウシュニヤを結ぶ最短のルートは海運で、それでも風が味方してくれて二週間と少し。
 とても頻繁に行き来できる距離ではない。

 ということで、両国の間にあるアルマース帝国にて、交易中継点を設けているのだった。
 人呼んでアウシュニヤ会館。

「結構あっさり入国できた。関門みたいなのは無いわけね」

「ええ。アルマース帝国はエルフェンバインと比較すると、オープンな国ですね。それというのも、ザクサーン教の厳しい戒律により、国民たちは律せられているからです」

 それでも入国の際には賄賂は払った。
 何事もお金さえ払えば、最高の治安を得られる国ということらしい。

 アウシュニヤ会館に馬車で乗り入れる。
 そこはちょっとした宮殿のような作りで、エントランスホールは商人たちでごった返していた。

 イーサーも知り合いが何人かいたようで、声を掛け合っている。
 私とシャーロットは完全に浮いている。
 当たり前だ。

 アルマース帝国は、こういう商売の場に女性があまり関わったりしない国だ。
 そして服装の意匠も根本から違う。
 文化圏が違うからだ。

 こちらの衣服は豪華な色とりどりの刺繍が施されており、この鮮やかさとデザインで美を競い合う。
 エルフェンバインは、生地や染色、凝った作りなどがメインで、アルマースとは全く方向性が違うなあと思うのだ。

「もしや……エルフェンバインのお嬢さんかね? ひえええ、白銀の髪、蒼穹のような鮮やかな瞳! どうだ、うちの息子の嫁に……」

「この方、エルフェンバインの王子の婚約者ですわよ」

「エッッッッ!!」

 私に声を掛けてきたおじさんが、シャーロットに言われて飛び跳ねて驚いた。

「と、とんだご無礼を! 鞭打ちは勘弁して下さい……!」

 そそくさと立ち去っていった。

「すぐ信用したわね」

「ジャネット様の纏う気品と、その容姿、それに後ろで睨みを効かせているナイツさんがいますもの。説得力抜群ですわ」

 そしてこの国の一般的な刑罰は鞭打ちだということがよく分かった。

「皆さん、こちらです、こちら!」

 イーサーが人混みの向こうで手を振る。
 どうやら目的の人物に会えたようだ。

 私たちがどやどやと詰めかけると、そこはレンタルできる談話室の一つらしかった。
 どうやら、イーサーの到着を待ち、その人物は何日もこの辺りに宿泊していたらしい。

「代理人を遣わせていたのは私です。はじめまして。シーディアスと申します。私の父はジョルト騎士爵。モーダイン将軍とは、アウシュニヤでともに任務に就いた仲です。もっとも、父は任務中に死亡しましたが」

 シーディアスと名乗った男は、イーサーとそう年齢が違わない小柄な人物だった。
 彼は私たちを見て、首をかしげる。

「人数が多いような……。後ろの方々は?」

「これはただごとでは無いと思いまして。エルフェンバイン本国で名を馳せておられる、推理令嬢シャーロットさんを連れてきました」

「なんと、あの!! これは話が早い……!」

 シーディアスは嫌な顔をするかと思ったら、頬をほころばせた。

「あなたの父上が残した秘密について、と手紙には書いたが、覚えていますか」

「ええ。秘密、とは?」

「我が父ジョルトと、モーダイン将軍は、アウシュニヤにおける周辺民族との戦いを行う中、古代の財宝を見つけたのです。それは恐らく、今のアウシュニヤ王国になる前、遥か昔に行われたという王を決める戦いの残滓でしょう」

 ここでシャーロットが説明してくれる。

「アウシュニヤ王国は、5百年前までは男児を戦い合わせ、生き残ったものを次代の王にするという習慣がありましたの。これはつまり、その時の戦いに参加した王子の一人が残した軍資金ということですわね?」

「そうです、話が早い! 恐らくは、争いに敗れた王子がいた。彼は軍資金を使うこと無く死に、勝利した王子はその資金の存在に気付かぬままだったのでしょう。これを、父とモーダイン将軍が見つけ出した。二人は財宝をアウシュニヤから持ち帰り、エルフェンバイン王国からの追求を逃れるため、アルマースの外れに隠したそうです。一部をモーダイン将軍は持っていたため、これをイーサー、君への仕送りとして贈り続けていたのでしょう」

 私は思わず唸った。
 モーダイン将軍と言えば、王都でも名高い武人だ。
 王国に忠誠を誓い、その人生を武に捧げた。

 そんな人物が、王国に黙って財宝を見つけ出し、着服するために策を弄したというのだろうか。
 これがバレてしまったら、とんでもないスキャンダルになる気がする。

 イーサーも私と同じ気持ちらしい。
 複雑そうな表情をし、うつむいた。

「その財宝を受け取る権利が、僕にはあるということか」

「そうです! 今は、財宝の在り処まで、私の兄のメイスンが向かっています。さあ、我々も向かうとしましょう!」

「僕にはまだ、父がそんなことをするなんて信じられない」

 イーサーが呟いた。
 その横で、シャーロットがふむふむ、と実に楽しそうなのである。

「関係者のお二人が亡くなっていて、財宝だけがある状態ですのね。どうしてジョルト騎士爵のご子息お二人は、二人だけで懐に入れようとしなかったのかしら。何か理由がありそうな気がしますわね」

 馬車は再び走り出す。
 目指すのは、アルマース帝国の外れ。
 岩石砂漠にほど近い、赤茶けた大地。
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