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あからさまなスパイ事件
第203話 スパイのお仕事
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突然、スパイのサンドルと入れ替わりにやって来たと言い放つ、あの大きな女性の正体は一体!?
なんて考える暇もなく、ジャクリーンが混乱した顔でサンドルと女性を見回した。
「どういうこと……!? あたしの情報網にはそんな話なかったわ! そこの辺境伯の娘がずっと監視しているっていうから、絶対何かの動きがあると思ったのに!」
「えっ、私を目印にして絡んできたのか」
これは以外。
つまり私が毎日サンドルを見張っていなければ、ジャクリーンはそもそも絡んでこなかったらしい。
「あんた一体何者!? あたしの趣味を邪魔しないでちょうだい!」
ジャクリーンが大きな女性に詰め寄っていった。
すると、大きい女性はどこか見たことのある手さばきで、ジャクリーンを放り投げる。
「バリツ!」
「あ、シャーロットの変装だあれ」
何をしているんだシャーロットは。
「ギャー」
ジャクリーンが放り投げられ、道端の花壇に落下して突き刺さった。
すると、どこに隠れていたのか憲兵たちがうわーっと湧いて出てくる。
本当にどこにいたんだ!?
というかこれ……もしかして、私とサンドルを囮にしてたの……?
「そういうことですわよ」
大きな女性の声色がシャーロットのものになった。
そして、彼女は私とサンドルの間まで歩いてきた。
「スパイの入れ替わりというお話は嘘ですわ。こうやって来ないと、ジャクリーンは逃げてしまいますもの。それに、あなたが負った役割はまだまだ続いていますのよ」
「そ……そうなのかい?」
一瞬の間に様々なことが起こったせいで、サンドルは目を回している。
私だって状況の理解ができないもの。
「つまりどういうこと?」
「説明しますわね。サンドルには、この国に与えられた役割がありましたの」
「この国に!? 連邦じゃなくて?」
「そうなのですわ」
……とはなした辺りで、後ろからうわーっと叫び声が上がった。
憲兵たちだ。
「ジャクリーンが逃げるぞー!」
「うおー、捕らえられない!」
「まるでうなぎだ!」
「はやいはやい」
「屋根に逃げたぞー!」
「なんだあれ」
にょろにょろと憲兵の網をかいくぐり、手下を全部放り出して屋根の上に逃げ出し、猛スピードで消えていくジャクリーン。
逃げ足だけは天晴だなあ。
蛮族の中にも、あれほどの逃げ足を持つ者はいない。
ちなみにナイツと打ち合っていた東洋人は、ちょっと押されてきたところを憲兵隊に網を放られ、ついに捕らえられてしまったようだ。
「ぬおおー! 決着、決着がまだー!」
なんて叫びながら引きずられていく。
「逃げられてしまいましたわねえ……! きっと今回はいけると思ったのですけれど」
「シャーロットが私に説明しようとしなければ……」
「それはそうですけれど、どういうことかと聞かれたら、これまでの仕込みを説明したくなってくるではありませんの!」
仕方ないんです、と開き直るシャーロットだった。
彼女にとって、ジャクリーンの逮捕よりも私に推理を語って聞かせる方が重要なのだ。
シャーロットはサンドルを指し示す。
「マスター。サンドルさんに少し高いお酒を!」
「えっ、いいのかい!? うへへ、悪いなあ」
サンドルがニコニコした。
とても単純な人だが、そういう性格のほうが幸せかもしれない。
ちょっといいお酒をちびちびやりながら、すっかり機嫌を直したサンドルがまた往来を眺めて鼻歌をやり始めた。
「これで彼の耳には入りませんわね。彼は元々、連邦のスパイであった事は確かですのよ」
「であった?」
「ええ。連邦は今や内戦で、外国の情報を取り入れるどころではなくなっていますの。これは国内の混乱を外に知らせぬため、かの大国が情報統制をしているせいですけれども。それで、もう長いこと、サンドルは連邦と連絡を取れないでいますのよ。新しい指令もなく、仕事の進捗の目安もなく、いつまでもいつまでも放置されている状態ですわ。当然、こんな性格の彼のことですから、エルフェンバインでも存在を把握していますの」
「そうだったんだ……」
連邦の内戦のこと、ひょっとしたらサンドルも知らないのかも。
だから、シャーロットが交代だと言って現れた時、来るべき時が来たのだと思ったんだろう。
「それで、この国はどうして、サンドルを放置してたの?」
「あからさまなスパイって、凄い異物じゃありません? だから、彼の周りにはそれとなく常に憲兵がいますの。サンドルに接触した人物には、怪しい者もたくさんおりますわ。そういった人々をおびき寄せるための餌として、サンドルはあえて放置されていますのよ」
そんな理由が……!!
きっと、連邦からの接触があれば、国は早急にそれを察知して準備を始めることだろう。
何もなければ、犯罪者をおびき寄せる餌にする。
なるほど、彼は便利に使われていたのだ。
だけど、地元の人々と仲が良く、いつもにこにこしている酒飲みのサンドルは、とても幸せそうだった。
「こういうスパイがいてもいいのかもね」
「ええ。サンドルが幸せそうにお酒を飲んでいる間は、この国は平和ということですわね」
往来の騒ぎは収まり、下町はいつもの活気を取り戻している。
一人の男がやって来て、サンドルに今日の特売はどこで、なんて話を聞いていた。
すらすらと、お肉の特売を伝えるサンドル。
スパイは何でも知っているのだった。
なんて考える暇もなく、ジャクリーンが混乱した顔でサンドルと女性を見回した。
「どういうこと……!? あたしの情報網にはそんな話なかったわ! そこの辺境伯の娘がずっと監視しているっていうから、絶対何かの動きがあると思ったのに!」
「えっ、私を目印にして絡んできたのか」
これは以外。
つまり私が毎日サンドルを見張っていなければ、ジャクリーンはそもそも絡んでこなかったらしい。
「あんた一体何者!? あたしの趣味を邪魔しないでちょうだい!」
ジャクリーンが大きな女性に詰め寄っていった。
すると、大きい女性はどこか見たことのある手さばきで、ジャクリーンを放り投げる。
「バリツ!」
「あ、シャーロットの変装だあれ」
何をしているんだシャーロットは。
「ギャー」
ジャクリーンが放り投げられ、道端の花壇に落下して突き刺さった。
すると、どこに隠れていたのか憲兵たちがうわーっと湧いて出てくる。
本当にどこにいたんだ!?
というかこれ……もしかして、私とサンドルを囮にしてたの……?
「そういうことですわよ」
大きな女性の声色がシャーロットのものになった。
そして、彼女は私とサンドルの間まで歩いてきた。
「スパイの入れ替わりというお話は嘘ですわ。こうやって来ないと、ジャクリーンは逃げてしまいますもの。それに、あなたが負った役割はまだまだ続いていますのよ」
「そ……そうなのかい?」
一瞬の間に様々なことが起こったせいで、サンドルは目を回している。
私だって状況の理解ができないもの。
「つまりどういうこと?」
「説明しますわね。サンドルには、この国に与えられた役割がありましたの」
「この国に!? 連邦じゃなくて?」
「そうなのですわ」
……とはなした辺りで、後ろからうわーっと叫び声が上がった。
憲兵たちだ。
「ジャクリーンが逃げるぞー!」
「うおー、捕らえられない!」
「まるでうなぎだ!」
「はやいはやい」
「屋根に逃げたぞー!」
「なんだあれ」
にょろにょろと憲兵の網をかいくぐり、手下を全部放り出して屋根の上に逃げ出し、猛スピードで消えていくジャクリーン。
逃げ足だけは天晴だなあ。
蛮族の中にも、あれほどの逃げ足を持つ者はいない。
ちなみにナイツと打ち合っていた東洋人は、ちょっと押されてきたところを憲兵隊に網を放られ、ついに捕らえられてしまったようだ。
「ぬおおー! 決着、決着がまだー!」
なんて叫びながら引きずられていく。
「逃げられてしまいましたわねえ……! きっと今回はいけると思ったのですけれど」
「シャーロットが私に説明しようとしなければ……」
「それはそうですけれど、どういうことかと聞かれたら、これまでの仕込みを説明したくなってくるではありませんの!」
仕方ないんです、と開き直るシャーロットだった。
彼女にとって、ジャクリーンの逮捕よりも私に推理を語って聞かせる方が重要なのだ。
シャーロットはサンドルを指し示す。
「マスター。サンドルさんに少し高いお酒を!」
「えっ、いいのかい!? うへへ、悪いなあ」
サンドルがニコニコした。
とても単純な人だが、そういう性格のほうが幸せかもしれない。
ちょっといいお酒をちびちびやりながら、すっかり機嫌を直したサンドルがまた往来を眺めて鼻歌をやり始めた。
「これで彼の耳には入りませんわね。彼は元々、連邦のスパイであった事は確かですのよ」
「であった?」
「ええ。連邦は今や内戦で、外国の情報を取り入れるどころではなくなっていますの。これは国内の混乱を外に知らせぬため、かの大国が情報統制をしているせいですけれども。それで、もう長いこと、サンドルは連邦と連絡を取れないでいますのよ。新しい指令もなく、仕事の進捗の目安もなく、いつまでもいつまでも放置されている状態ですわ。当然、こんな性格の彼のことですから、エルフェンバインでも存在を把握していますの」
「そうだったんだ……」
連邦の内戦のこと、ひょっとしたらサンドルも知らないのかも。
だから、シャーロットが交代だと言って現れた時、来るべき時が来たのだと思ったんだろう。
「それで、この国はどうして、サンドルを放置してたの?」
「あからさまなスパイって、凄い異物じゃありません? だから、彼の周りにはそれとなく常に憲兵がいますの。サンドルに接触した人物には、怪しい者もたくさんおりますわ。そういった人々をおびき寄せるための餌として、サンドルはあえて放置されていますのよ」
そんな理由が……!!
きっと、連邦からの接触があれば、国は早急にそれを察知して準備を始めることだろう。
何もなければ、犯罪者をおびき寄せる餌にする。
なるほど、彼は便利に使われていたのだ。
だけど、地元の人々と仲が良く、いつもにこにこしている酒飲みのサンドルは、とても幸せそうだった。
「こういうスパイがいてもいいのかもね」
「ええ。サンドルが幸せそうにお酒を飲んでいる間は、この国は平和ということですわね」
往来の騒ぎは収まり、下町はいつもの活気を取り戻している。
一人の男がやって来て、サンドルに今日の特売はどこで、なんて話を聞いていた。
すらすらと、お肉の特売を伝えるサンドル。
スパイは何でも知っているのだった。
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