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あからさまなスパイ事件
第201話 狙われるスパイ
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「そんなスパイがいるのか」
私の話を聞いて、オーシレイは唖然とした。
ご近所の人たちからもスパイだと認識されていて、それでも普通に社会に溶け込んで生活しているサンドル。
確かに、私たちが知るスパイとは全く違う。
集めている情報も、どこどこのお店が特売だとか、どこの誰が結婚したとか別れたとか、そういう他愛もないお話ばかり。
そもそも、下町のリーズナブルな酒場に入り浸っていて、国の重要情報なんかが集まるはずがない。
「怪しいとは思うんだけどねえ。でもぜんぜん怪しくないの。オグロムニ連邦はなんであの人をエルフェンバインに潜入させたんだろうね」
「分からん……。スパイがいるという報告を受けて、君に頼んで様子を見てもらったのだが」
「ふと考えたんだけど、なんで私に頼んだの」
「下町に詳しいと思ってな。それに君には強力な部下が多いだろう。……なにっ!? まさか自分で見に行ったのか!?」
しまった、早まった。
私自らが行くという話じゃなかったかー。
「危ないだろう……! 何かあったらどうするんだ」
「危ない目には今まで何度も遭ってきたから、ちゃんと備えをしていったわ。例えばこれとか」
私のスカートには、見た目以上に物が入るポケットが何箇所もあり、そこからトライエッジを取り出した。
見た目は分厚くて穴の空いていないチャクラム。
これを手近な木にシュッと投擲すると……。
チャクラムから刃が展開し、回転しながら木の幹に突き刺さり、抉り取った。
それが刃を引っ込めつつ、私の手に戻ってくる。
「ほら。練習してコントロールは完璧になったの」
「なんて物騒な装備に習熟してるんだ……。通行人に何もなくてよかった」
今度はそっちを心配するとは。
しかし、オーシレイもサンドルが無害っぽいスパイだという話が納得できず、自分の目で確かめる気になったようだ。
「目立たない護衛を連れていきましょう。ナイツなら比較的見た目が普通だから……」
ということで。
私、オーシレイ、ナイツが変装してガストルの酒場へ。
半開放型の酒場で、寒くなってきても店の前面は開けっ放し。
その分、店の中ほどにある薪式の暖房をガンガン焚く。
寒さと熱気が渦巻く中で、色のついたアルコールみたいな酒を流し込むのがこの店の流儀らしい。
今日もサンドルがいて、ニコニコしながら外を眺めていた。
あれは通行人を見るのが楽しいのかも知れないな。
「スパイのおっちゃーん」
「おーう」
私とオーシレイがちょっと唖然とした。
子どもが普通にスパイって呼びかけてるんだけど。
「今日はどこが安いの?」
「何を買うんだよおめえ」
「えっとね、野菜!」
「だったら西の方の広場で、虫食い野菜を安売りしてる農家の荷馬車が来てるぜ」
「あんがと!」
「おいおい、情報をもらったら一つ俺に情報をくれなきゃだろ。それがスパイのルールだ」
「あ、そうだった! えーとね、なんかおっちゃんのこと調べてる人たちがいるよ! 女がリーダーでね、男を引き連れてるの」
私とオーシレイで顔を見合わせる。
ナイツは声を殺して笑っていた。
「そうかそうかー。そいつは十分な情報だなあ。じゃあな坊主! 野菜はよーく茹でて食えよ!」
その後、サンドルは酒場の中を見回し、ふうっとため息をひとつついた。
「店の中にはいねえみたいだな」
私とオーシレイで、がっくりする。
凄い節穴だ……!!
「お嬢、殿下、ありゃあお二人のことを言ってるんじゃないと思いますがね」
「それってどういうこと?」
「俺たちではないだと?」
「下町で、スパイなんて人種を探る女とその手下どもと言ったら……」
「あ、ジャクリーン」
ピンと来た。
そしてえてして、そういうタイミングで事は起こるものだ。
「スパイのサンドルだな! 来てもらおう!!」
店の中に、何人もの男たちが乗り込んできたのだ。
「うわーっ、な、なんだよー!」
「何だじゃねえ! 我々の仕事に付き合ってもらおう! これもお前のスパイとしての技量を見込んで……」
ここで、店の中で飲んでいた客や、店主がプッと吹き出した。
「えっ」
きょろきょろする男たち。
なんで笑われたのか分かってないようだ。
「お前さんがた、悪いことは言わねえよ。サンドルを連れてくのはやめときな。誰もが知ってるスパイなんて、一体どこにいるってんだ。いたとしたら、そいつは大間抜けだぜ」
店主の言葉に、男たちは目を白黒させた。
「う、うるせえ! ボスの言いつけなんだ! 来い、サンドル!」
「ひえーっ」
サンドルが情けない悲鳴をあげた。
私はトライエッジを構える。
慌ててオーシレイが止めてきた。
「無差別殺人になってしまう」
「失礼ね! じゃあナイツ!」
「俺はついでですかい」
ナイツが立ち上がり、男たちの元へと歩み寄る。
「なんだ、お前は? 引っ込んでろ!」
「そうは行かなくてな。親切心から言うが、お前ら、痛い目に遭う前にそのスパイ殿を離したらどうだ?」
「なんだとぉ……!? おい、お前らこいつを畳んじまえ!」
ナイツに襲いかかる男たち!
それを次々に蹴って殴って放り投げて、店の外に叩き出すナイツ。
「ウグワーッ!?」
男たちはひとり残らず叩きのめされ、往来の上に伸びてしまった。
「お、おお……あんたら、誰だか知らんがありがとうよ」
サンドルに言われたお礼で、オーシレイはヘナヘナと脱力して椅子に座り込んでしまった。
「仮にもスパイだと言うのに、俺が誰なのかも見抜けないし、自ら身を守る力もないのか……。これはただの飲んだくれのおじさんだ」
「ね? 私もそう思う」
かくして、サンドルはオーシレイの警戒から外れ、事件は事件にもならずに終わる……予定だったのだが。
私の話を聞いて、オーシレイは唖然とした。
ご近所の人たちからもスパイだと認識されていて、それでも普通に社会に溶け込んで生活しているサンドル。
確かに、私たちが知るスパイとは全く違う。
集めている情報も、どこどこのお店が特売だとか、どこの誰が結婚したとか別れたとか、そういう他愛もないお話ばかり。
そもそも、下町のリーズナブルな酒場に入り浸っていて、国の重要情報なんかが集まるはずがない。
「怪しいとは思うんだけどねえ。でもぜんぜん怪しくないの。オグロムニ連邦はなんであの人をエルフェンバインに潜入させたんだろうね」
「分からん……。スパイがいるという報告を受けて、君に頼んで様子を見てもらったのだが」
「ふと考えたんだけど、なんで私に頼んだの」
「下町に詳しいと思ってな。それに君には強力な部下が多いだろう。……なにっ!? まさか自分で見に行ったのか!?」
しまった、早まった。
私自らが行くという話じゃなかったかー。
「危ないだろう……! 何かあったらどうするんだ」
「危ない目には今まで何度も遭ってきたから、ちゃんと備えをしていったわ。例えばこれとか」
私のスカートには、見た目以上に物が入るポケットが何箇所もあり、そこからトライエッジを取り出した。
見た目は分厚くて穴の空いていないチャクラム。
これを手近な木にシュッと投擲すると……。
チャクラムから刃が展開し、回転しながら木の幹に突き刺さり、抉り取った。
それが刃を引っ込めつつ、私の手に戻ってくる。
「ほら。練習してコントロールは完璧になったの」
「なんて物騒な装備に習熟してるんだ……。通行人に何もなくてよかった」
今度はそっちを心配するとは。
しかし、オーシレイもサンドルが無害っぽいスパイだという話が納得できず、自分の目で確かめる気になったようだ。
「目立たない護衛を連れていきましょう。ナイツなら比較的見た目が普通だから……」
ということで。
私、オーシレイ、ナイツが変装してガストルの酒場へ。
半開放型の酒場で、寒くなってきても店の前面は開けっ放し。
その分、店の中ほどにある薪式の暖房をガンガン焚く。
寒さと熱気が渦巻く中で、色のついたアルコールみたいな酒を流し込むのがこの店の流儀らしい。
今日もサンドルがいて、ニコニコしながら外を眺めていた。
あれは通行人を見るのが楽しいのかも知れないな。
「スパイのおっちゃーん」
「おーう」
私とオーシレイがちょっと唖然とした。
子どもが普通にスパイって呼びかけてるんだけど。
「今日はどこが安いの?」
「何を買うんだよおめえ」
「えっとね、野菜!」
「だったら西の方の広場で、虫食い野菜を安売りしてる農家の荷馬車が来てるぜ」
「あんがと!」
「おいおい、情報をもらったら一つ俺に情報をくれなきゃだろ。それがスパイのルールだ」
「あ、そうだった! えーとね、なんかおっちゃんのこと調べてる人たちがいるよ! 女がリーダーでね、男を引き連れてるの」
私とオーシレイで顔を見合わせる。
ナイツは声を殺して笑っていた。
「そうかそうかー。そいつは十分な情報だなあ。じゃあな坊主! 野菜はよーく茹でて食えよ!」
その後、サンドルは酒場の中を見回し、ふうっとため息をひとつついた。
「店の中にはいねえみたいだな」
私とオーシレイで、がっくりする。
凄い節穴だ……!!
「お嬢、殿下、ありゃあお二人のことを言ってるんじゃないと思いますがね」
「それってどういうこと?」
「俺たちではないだと?」
「下町で、スパイなんて人種を探る女とその手下どもと言ったら……」
「あ、ジャクリーン」
ピンと来た。
そしてえてして、そういうタイミングで事は起こるものだ。
「スパイのサンドルだな! 来てもらおう!!」
店の中に、何人もの男たちが乗り込んできたのだ。
「うわーっ、な、なんだよー!」
「何だじゃねえ! 我々の仕事に付き合ってもらおう! これもお前のスパイとしての技量を見込んで……」
ここで、店の中で飲んでいた客や、店主がプッと吹き出した。
「えっ」
きょろきょろする男たち。
なんで笑われたのか分かってないようだ。
「お前さんがた、悪いことは言わねえよ。サンドルを連れてくのはやめときな。誰もが知ってるスパイなんて、一体どこにいるってんだ。いたとしたら、そいつは大間抜けだぜ」
店主の言葉に、男たちは目を白黒させた。
「う、うるせえ! ボスの言いつけなんだ! 来い、サンドル!」
「ひえーっ」
サンドルが情けない悲鳴をあげた。
私はトライエッジを構える。
慌ててオーシレイが止めてきた。
「無差別殺人になってしまう」
「失礼ね! じゃあナイツ!」
「俺はついでですかい」
ナイツが立ち上がり、男たちの元へと歩み寄る。
「なんだ、お前は? 引っ込んでろ!」
「そうは行かなくてな。親切心から言うが、お前ら、痛い目に遭う前にそのスパイ殿を離したらどうだ?」
「なんだとぉ……!? おい、お前らこいつを畳んじまえ!」
ナイツに襲いかかる男たち!
それを次々に蹴って殴って放り投げて、店の外に叩き出すナイツ。
「ウグワーッ!?」
男たちはひとり残らず叩きのめされ、往来の上に伸びてしまった。
「お、おお……あんたら、誰だか知らんがありがとうよ」
サンドルに言われたお礼で、オーシレイはヘナヘナと脱力して椅子に座り込んでしまった。
「仮にもスパイだと言うのに、俺が誰なのかも見抜けないし、自ら身を守る力もないのか……。これはただの飲んだくれのおじさんだ」
「ね? 私もそう思う」
かくして、サンドルはオーシレイの警戒から外れ、事件は事件にもならずに終わる……予定だったのだが。
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