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混沌の爪事件
第199話 漁夫の利ならず
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下町遊撃隊も動員しての調査は、猛スピードで進んだ。
具体的には、闇市にあるお店でお茶と軽食を楽しみながら、アドリアーナのイリアノス話を聞いている間に情報は集まってきたのである。
「ていうか、闇市って思ったよりもちゃんとしてるのね! イリアノスだと、本当に闇に潜って下水の中とかで行われてるらしいし」
「この国の闇市、国王陛下公認だから」
「公認なのに闇市なの!? なんで!?」
「そういう名前にした方が、参加してる中小規模の商人たちの気分が盛り上がるんだって。この国ってゼニシュタイン商会がほぼ牛耳ってるでしょ。反感を持つ商人はごまんといるから」
ゼニシュタインに与しない商人たちが集まり、国王の庇護のもとで開かれたのがこの闇市なのだ。
新しい商品が並ぶときには憲兵がやって来て、一つ一つチェックしたり商人から説明を受けたりする。
とても健全な闇市だ。
だから、こういうカフェもある。
「闇カフェ……!!」
「ゼニシュタイン商会では扱ってない、希少な茶葉を使ったりしてるの。あとは市場に出回らない二級品の茶葉をブレンドして、意外な美味しさを作り出したり」
「凄いところなのねえ、エルフェンバインは!」
「全部イニアナガ陛下の豪腕の賜物ね。明るいものも暗いものも全部認めて居場所を作ってバランスを取ってるんだもの」
この絶妙なバランス感覚を、オーシレイがちゃんと継げるのかどうか。
そこが心配だ。
「ええ。ですから、闇市の皆様はここが犯罪に使われることを好まないのですわ。ここは彼らが勝ち取った場所なのですもの。さあ、情報が出揃いましたわよ」
シャーロットが立ち上がった。
紅茶は全部飲み終わっている。
彼女が下町遊撃隊にお小遣いを渡しているのを見て、アドリアーナが首を傾げた。
「あれはどういうこと? 施しを与えているの?」
「正当報酬をあげているのよ。下町遊撃隊はシャーロットの目であり、耳なんだから」
「子どもたちを一人前として扱ってるのね……! 凄いことばっかり!」
ここで私、ちょっと思いついたことがある。
闇市が国家公認の商業地になっているなら、下町遊撃隊を公認の情報組織にできないかな。
今度オーシレイにそのへんを相談してみよう。
少しでも多くの人の居場所があれば、救われる人は増えていく。
ちょこちょこ犯罪はあっても、概ね平和なエルフェンバインは、居場所みたいなものが多い国だから存在し得ているのかもしれない。
「ジャネット様? 出発しますわよ!」
「あ、うん! 行こう!」
シャーロットの呼びかけで我に返り、行動開始。
「一言で申し上げるならば、犯人は後見人をされていた方ですわ。名前をウラボッスさんと言うそうですけれど。彼がお供を連れて、闇市を訪れていたという目撃情報が得られましたわ」
「目撃情報が集まるくらい目立ってたんだ」
「ええ。だって態度からして人を使うことに慣れた、社会的地位のある方のものだったようですから。こういう場所では、偉ぶることはむしろ己の首を締めますのに」
途中、デストレードが行き会う憲兵たちに、集合を掛けるよう命じていた。
後見人ウラボッスの家に突入、と言うわけだ。
ウラボッス家に到着。
扉をノックする。
「なんですか……あっ」
使用人らしき人が、デストレードを見てハッとした。
「旦那様! 憲兵の方が!」
「ええい、騒ぐな!」
声が聞こえて、その主であるウラボッスが現れる。
大柄で筋肉質の男だ。
シャーロットと同じくらいの上背がある……って、やっぱりシャーロット背が高いよね……!
「なんの御用でしょう。事件が解決しましたかな? それで、こちらの方々は」
「ええ、事件が解決致しますわ。申し遅れました。わたくし、シャーロット・ラムズと申しますの。憲兵隊の相談役のようなものを務めておりまして」
そこまで告げたら、ウラボッスの顔色が変わった。
「あ、推理令嬢シャーロットか!? いやいや、どうしてこんな分かりやすい事件にあなたのような有名人が……」
「混沌の爪がこの家のどこかにあるはずですわ。ギーセイ家にあった灰は少なかったですもの」
「な……何を……何」
「あなたが犯人ですわ、ウラボッスさん。遺産相続が宙に浮いてしまえば、後見人として先代に指名されていたあなたのもとに全てが転がり込む。あなたはこれを狙って、兄弟同士の仲違いを利用し、あわよくば全員を消すか投獄してしまおうと考えたのですわね」
「証拠はない!」
「エルフェンバインで唯一、混沌の爪を取り扱う店の周りで、あなたが目撃されていますわ。その後、エルフェンバインで初めての、混沌の爪を使った殺人が行われましたの。ねえ、ウラボッスさん。後ろ暗いことがないならば、捜査に協力して下さいませんこと?」
「う、う、う、ウオー!」
ウラボッスが吠えた。
そしてシャーロットに掴みかかる。
私はそろっと前に出て、ウラボッスの向こう脛を蹴飛ばした。
「ウグワー!?」
動きが鈍るウラボッス。
その手を取ったシャーロットが、「バリツ!」彼の体を放り投げた。
背中からズデーンと落ちて、のたうち回るウラボッス。
「ウグ、ウグ、ウグワー!」
ここに憲兵たちが駆けつけてきた。
たちまち、ウラボッスは確保。
その後の頭数に物を言わせた家探しで、見事混沌の爪は発見されたのだった。
「まさか一日で終わっちゃうなんて……! 今までで一番凄い観光だったわ!!」
アドリアーナは大満足。
特等席で、事件解決劇を見届けたわけだものね。
「これ、イリアノスでも自慢しちゃう! なにか二人の活躍を書いた本とか無いの? あるの?」
ということで、取り寄せたデイリーエルフェンバインの、私たちに関する記事を束ねて彼女に渡した。
何よりのお土産になったようだ。
あまり広められると照れくさいなあ、などと思う私だったが……。
後にイリアノスで、シャーロット&ジャネットの物語が大人気になり、演劇まで作られていると聞き、腰を抜かす羽目になるのである。
具体的には、闇市にあるお店でお茶と軽食を楽しみながら、アドリアーナのイリアノス話を聞いている間に情報は集まってきたのである。
「ていうか、闇市って思ったよりもちゃんとしてるのね! イリアノスだと、本当に闇に潜って下水の中とかで行われてるらしいし」
「この国の闇市、国王陛下公認だから」
「公認なのに闇市なの!? なんで!?」
「そういう名前にした方が、参加してる中小規模の商人たちの気分が盛り上がるんだって。この国ってゼニシュタイン商会がほぼ牛耳ってるでしょ。反感を持つ商人はごまんといるから」
ゼニシュタインに与しない商人たちが集まり、国王の庇護のもとで開かれたのがこの闇市なのだ。
新しい商品が並ぶときには憲兵がやって来て、一つ一つチェックしたり商人から説明を受けたりする。
とても健全な闇市だ。
だから、こういうカフェもある。
「闇カフェ……!!」
「ゼニシュタイン商会では扱ってない、希少な茶葉を使ったりしてるの。あとは市場に出回らない二級品の茶葉をブレンドして、意外な美味しさを作り出したり」
「凄いところなのねえ、エルフェンバインは!」
「全部イニアナガ陛下の豪腕の賜物ね。明るいものも暗いものも全部認めて居場所を作ってバランスを取ってるんだもの」
この絶妙なバランス感覚を、オーシレイがちゃんと継げるのかどうか。
そこが心配だ。
「ええ。ですから、闇市の皆様はここが犯罪に使われることを好まないのですわ。ここは彼らが勝ち取った場所なのですもの。さあ、情報が出揃いましたわよ」
シャーロットが立ち上がった。
紅茶は全部飲み終わっている。
彼女が下町遊撃隊にお小遣いを渡しているのを見て、アドリアーナが首を傾げた。
「あれはどういうこと? 施しを与えているの?」
「正当報酬をあげているのよ。下町遊撃隊はシャーロットの目であり、耳なんだから」
「子どもたちを一人前として扱ってるのね……! 凄いことばっかり!」
ここで私、ちょっと思いついたことがある。
闇市が国家公認の商業地になっているなら、下町遊撃隊を公認の情報組織にできないかな。
今度オーシレイにそのへんを相談してみよう。
少しでも多くの人の居場所があれば、救われる人は増えていく。
ちょこちょこ犯罪はあっても、概ね平和なエルフェンバインは、居場所みたいなものが多い国だから存在し得ているのかもしれない。
「ジャネット様? 出発しますわよ!」
「あ、うん! 行こう!」
シャーロットの呼びかけで我に返り、行動開始。
「一言で申し上げるならば、犯人は後見人をされていた方ですわ。名前をウラボッスさんと言うそうですけれど。彼がお供を連れて、闇市を訪れていたという目撃情報が得られましたわ」
「目撃情報が集まるくらい目立ってたんだ」
「ええ。だって態度からして人を使うことに慣れた、社会的地位のある方のものだったようですから。こういう場所では、偉ぶることはむしろ己の首を締めますのに」
途中、デストレードが行き会う憲兵たちに、集合を掛けるよう命じていた。
後見人ウラボッスの家に突入、と言うわけだ。
ウラボッス家に到着。
扉をノックする。
「なんですか……あっ」
使用人らしき人が、デストレードを見てハッとした。
「旦那様! 憲兵の方が!」
「ええい、騒ぐな!」
声が聞こえて、その主であるウラボッスが現れる。
大柄で筋肉質の男だ。
シャーロットと同じくらいの上背がある……って、やっぱりシャーロット背が高いよね……!
「なんの御用でしょう。事件が解決しましたかな? それで、こちらの方々は」
「ええ、事件が解決致しますわ。申し遅れました。わたくし、シャーロット・ラムズと申しますの。憲兵隊の相談役のようなものを務めておりまして」
そこまで告げたら、ウラボッスの顔色が変わった。
「あ、推理令嬢シャーロットか!? いやいや、どうしてこんな分かりやすい事件にあなたのような有名人が……」
「混沌の爪がこの家のどこかにあるはずですわ。ギーセイ家にあった灰は少なかったですもの」
「な……何を……何」
「あなたが犯人ですわ、ウラボッスさん。遺産相続が宙に浮いてしまえば、後見人として先代に指名されていたあなたのもとに全てが転がり込む。あなたはこれを狙って、兄弟同士の仲違いを利用し、あわよくば全員を消すか投獄してしまおうと考えたのですわね」
「証拠はない!」
「エルフェンバインで唯一、混沌の爪を取り扱う店の周りで、あなたが目撃されていますわ。その後、エルフェンバインで初めての、混沌の爪を使った殺人が行われましたの。ねえ、ウラボッスさん。後ろ暗いことがないならば、捜査に協力して下さいませんこと?」
「う、う、う、ウオー!」
ウラボッスが吠えた。
そしてシャーロットに掴みかかる。
私はそろっと前に出て、ウラボッスの向こう脛を蹴飛ばした。
「ウグワー!?」
動きが鈍るウラボッス。
その手を取ったシャーロットが、「バリツ!」彼の体を放り投げた。
背中からズデーンと落ちて、のたうち回るウラボッス。
「ウグ、ウグ、ウグワー!」
ここに憲兵たちが駆けつけてきた。
たちまち、ウラボッスは確保。
その後の頭数に物を言わせた家探しで、見事混沌の爪は発見されたのだった。
「まさか一日で終わっちゃうなんて……! 今までで一番凄い観光だったわ!!」
アドリアーナは大満足。
特等席で、事件解決劇を見届けたわけだものね。
「これ、イリアノスでも自慢しちゃう! なにか二人の活躍を書いた本とか無いの? あるの?」
ということで、取り寄せたデイリーエルフェンバインの、私たちに関する記事を束ねて彼女に渡した。
何よりのお土産になったようだ。
あまり広められると照れくさいなあ、などと思う私だったが……。
後にイリアノスで、シャーロット&ジャネットの物語が大人気になり、演劇まで作られていると聞き、腰を抜かす羽目になるのである。
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