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混沌の爪事件
第196話 お騒がせの滞在者
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辺境伯家の面々と、アドリアーナが我が家に滞在している。
辺境から来たみんなは家族だから、別にいい。
「シャーロットが持ってきてくれたお茶美味しいー。ジャネットのふるさとのお菓子美味しいー」
アドリアーナがお茶の席で、ニコニコしている。
彼女は当たり前のように我が家に逗留しているんだけど、いいんだろうか?
国が宿を用意すると言っているのに、それを断ってうちに来たのだ。
「エルフェンバインで一番安全なところでしょ、ここ」
「それはそうだけど」
「それに私、辺境伯領の人たち好きだよ」
「なんて珍しい人!」
アドリアーナから好き宣言されて、近くでボーッとしていたうちの兵士たちが嬉しそうな顔をした。
「おいおい愛の告白だぜ」
「参ったな。俺たちの活躍は外国まで知れ渡ってたのか」
「王都に来てよかったー」
うちの兵士たちを勘違いさせないでいただきたい……!
ということで、寝ても起きてもアドリアーナが我が家にいるわけだが。
「バスカー! かわいい! もふもふもふー!」
『わふわふ』
アドリアーナが、ドレスや髪に毛がついてしまうのも構わず、バスカーに抱きついている。
気持ちはよく分かる。
「イリアノスに帰ったらこんなことできないもの。枢機卿の娘なんて、堅苦しいばかりでいいことなんか全然無いわ。私は出家しないから、将来的には国の官僚になるか外国の貴族のところに嫁ぐことになるんだけど、それまではせめて旅行中くらい、好きなことをしたいの!」
「気持ちはよく分かるわ」
「ジャネットは現在進行系で好き放題してるじゃない」
「なんですと」
言われてみればそうかも知れないが、なんと人聞きの悪い。
そんな私たちのやり取りを、父とナイツとズドンが並んで眺めている。
「見ろ、我が娘を。より美しく、そして強く育っている。王家が欲しがるのも納得だ。イニアナガ一世め、俺の娘が悲しむようなことをしたら許してはおかんからな。滅ぼしてやる」
「お館様は過激だぜ。それで、未だに王家とは書簡なんかでやりとりしてるんですかい」
「うむ。それで向こうがこっそり頭を下げてきたので、オーシレイで手を打つことにしたのだ。ナイツ、お前から見てあの王子はどうだ」
「誠実ですな。遺跡バカと言っていい。あまりに遺跡学に傾倒するあまり、色恋に割くだけのエネルギーが無いんでしょうな。殿下としては人間に割いておけるエネルギーのほとんどをお嬢に注ぎ込んでいると思いますよ」
「ほう! 俺の好きなタイプの男だな! やはり男は何かに打ち込み、実生活もままならなくなるくらいでなくてはならん!」
「偏った好みですなあ」
「オ、オリは難しいことはわかんねえよう!」
「わっはっは! ズドンはその肉体に天才的な精霊魔法の使い手と、最初から何もかももっておるからな! 持たざる者の気持ちは分かるまい! だがそれでいい!」
あっちも仲良しだなあ。
彼らは元気が有り余っているので、街にだって繰り出したりする。
辺境軍がやって来たことで、王都はかなり賑やかになったような気がした。
ちなみに騎士や兵士が使えるようなお金はそう多くないので、王都滞在中は彼らに日雇いで働いたりすることを推奨している。
なので……。
「お嬢じゃないですか!」
「あー、あなたほどの騎士が青果店で店番してるのね」
「野菜を売ってるだけで金がもらえるんで、いい仕事ですぜ。力仕事も大したことがない」
青果店の店先で、山程の箱をひょいひょい運んだり、野菜を盗んで走り出した子どもを、一飛びで追いついて捕まえたりしている。
青果店の店主も大満足の仕事ぶりのようだ。
こんな感じで、王都のあちこちで辺境の仲間たちを見かけるようになった。
彼らがこちらにやって来た本来の目的は、父がイニアナガ陛下といろいろ相談をするためだと言うが。
いつまで掛かるんだろうなあ。
辺境の人たちは、王都で日銭を稼ぎ、これをパーッと飲んだり遊んだりして散財した。
娯楽に満ちた王都のことだ。
稼いでも稼いでも、それを使い切るなんて造作もない。
「本当にあちこちで、辺境の方を見ますわねえ。みなさん体格がよろしいのですぐ分かりますわ。あとは、身のこなしが訓練された戦士のものですものね。ほら、あちらの乗合馬車の御者さんもそうでしょう? あんなムキムキで歴戦の勇士の風格を漂わせた御者はなかなかいませんわ」
シャーロットが楽しげに、街中を見回している。
……ということで、私はアドリアーナを連れてシャーロット邸にやって来ていた。
家でたむろっている騎士や兵士たちは、仕事が片付かないメイドに怒られて、外に追い出されたのだ。
ついでに私たちも出てきたというわけ。
「それで、ジャネット様。我が家にやって来たということは……何か暇つぶしの種をお探しなのでしょう?」
「分かる? アドリアーナの故郷の話を聞くのも楽しいんだけど、やっぱり体を動かしたいなって」
「体を動かすの? ジャネットの家みたいに紅茶を飲んでるだけみたいなんだけど」
首をかしげるアドリアーナに、シャーロットがウィンクした。
「それはですわね。わたくしとジャネット様が揃っていると、不思議と事件が向こうからやって来るのですわ。ほら、近づいてくる足音は、デストレードですわよ。彼女が我が家にやってくるということは……」
扉が開き、階段を駆け上がってくる音。
「シャーロット嬢! 事件です! ……って、やはりジャネット嬢もいる……!」
「ほんとだ。向こうから事件がやって来た……!」
観光中のアドリアーナ姫を交えて、私たちは新たな事件に挑むことになるのだ。
辺境から来たみんなは家族だから、別にいい。
「シャーロットが持ってきてくれたお茶美味しいー。ジャネットのふるさとのお菓子美味しいー」
アドリアーナがお茶の席で、ニコニコしている。
彼女は当たり前のように我が家に逗留しているんだけど、いいんだろうか?
国が宿を用意すると言っているのに、それを断ってうちに来たのだ。
「エルフェンバインで一番安全なところでしょ、ここ」
「それはそうだけど」
「それに私、辺境伯領の人たち好きだよ」
「なんて珍しい人!」
アドリアーナから好き宣言されて、近くでボーッとしていたうちの兵士たちが嬉しそうな顔をした。
「おいおい愛の告白だぜ」
「参ったな。俺たちの活躍は外国まで知れ渡ってたのか」
「王都に来てよかったー」
うちの兵士たちを勘違いさせないでいただきたい……!
ということで、寝ても起きてもアドリアーナが我が家にいるわけだが。
「バスカー! かわいい! もふもふもふー!」
『わふわふ』
アドリアーナが、ドレスや髪に毛がついてしまうのも構わず、バスカーに抱きついている。
気持ちはよく分かる。
「イリアノスに帰ったらこんなことできないもの。枢機卿の娘なんて、堅苦しいばかりでいいことなんか全然無いわ。私は出家しないから、将来的には国の官僚になるか外国の貴族のところに嫁ぐことになるんだけど、それまではせめて旅行中くらい、好きなことをしたいの!」
「気持ちはよく分かるわ」
「ジャネットは現在進行系で好き放題してるじゃない」
「なんですと」
言われてみればそうかも知れないが、なんと人聞きの悪い。
そんな私たちのやり取りを、父とナイツとズドンが並んで眺めている。
「見ろ、我が娘を。より美しく、そして強く育っている。王家が欲しがるのも納得だ。イニアナガ一世め、俺の娘が悲しむようなことをしたら許してはおかんからな。滅ぼしてやる」
「お館様は過激だぜ。それで、未だに王家とは書簡なんかでやりとりしてるんですかい」
「うむ。それで向こうがこっそり頭を下げてきたので、オーシレイで手を打つことにしたのだ。ナイツ、お前から見てあの王子はどうだ」
「誠実ですな。遺跡バカと言っていい。あまりに遺跡学に傾倒するあまり、色恋に割くだけのエネルギーが無いんでしょうな。殿下としては人間に割いておけるエネルギーのほとんどをお嬢に注ぎ込んでいると思いますよ」
「ほう! 俺の好きなタイプの男だな! やはり男は何かに打ち込み、実生活もままならなくなるくらいでなくてはならん!」
「偏った好みですなあ」
「オ、オリは難しいことはわかんねえよう!」
「わっはっは! ズドンはその肉体に天才的な精霊魔法の使い手と、最初から何もかももっておるからな! 持たざる者の気持ちは分かるまい! だがそれでいい!」
あっちも仲良しだなあ。
彼らは元気が有り余っているので、街にだって繰り出したりする。
辺境軍がやって来たことで、王都はかなり賑やかになったような気がした。
ちなみに騎士や兵士が使えるようなお金はそう多くないので、王都滞在中は彼らに日雇いで働いたりすることを推奨している。
なので……。
「お嬢じゃないですか!」
「あー、あなたほどの騎士が青果店で店番してるのね」
「野菜を売ってるだけで金がもらえるんで、いい仕事ですぜ。力仕事も大したことがない」
青果店の店先で、山程の箱をひょいひょい運んだり、野菜を盗んで走り出した子どもを、一飛びで追いついて捕まえたりしている。
青果店の店主も大満足の仕事ぶりのようだ。
こんな感じで、王都のあちこちで辺境の仲間たちを見かけるようになった。
彼らがこちらにやって来た本来の目的は、父がイニアナガ陛下といろいろ相談をするためだと言うが。
いつまで掛かるんだろうなあ。
辺境の人たちは、王都で日銭を稼ぎ、これをパーッと飲んだり遊んだりして散財した。
娯楽に満ちた王都のことだ。
稼いでも稼いでも、それを使い切るなんて造作もない。
「本当にあちこちで、辺境の方を見ますわねえ。みなさん体格がよろしいのですぐ分かりますわ。あとは、身のこなしが訓練された戦士のものですものね。ほら、あちらの乗合馬車の御者さんもそうでしょう? あんなムキムキで歴戦の勇士の風格を漂わせた御者はなかなかいませんわ」
シャーロットが楽しげに、街中を見回している。
……ということで、私はアドリアーナを連れてシャーロット邸にやって来ていた。
家でたむろっている騎士や兵士たちは、仕事が片付かないメイドに怒られて、外に追い出されたのだ。
ついでに私たちも出てきたというわけ。
「それで、ジャネット様。我が家にやって来たということは……何か暇つぶしの種をお探しなのでしょう?」
「分かる? アドリアーナの故郷の話を聞くのも楽しいんだけど、やっぱり体を動かしたいなって」
「体を動かすの? ジャネットの家みたいに紅茶を飲んでるだけみたいなんだけど」
首をかしげるアドリアーナに、シャーロットがウィンクした。
「それはですわね。わたくしとジャネット様が揃っていると、不思議と事件が向こうからやって来るのですわ。ほら、近づいてくる足音は、デストレードですわよ。彼女が我が家にやってくるということは……」
扉が開き、階段を駆け上がってくる音。
「シャーロット嬢! 事件です! ……って、やはりジャネット嬢もいる……!」
「ほんとだ。向こうから事件がやって来た……!」
観光中のアドリアーナ姫を交えて、私たちは新たな事件に挑むことになるのだ。
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