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アドリアーナ姫行方不明事件
第195話 誘拐犯むざん
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「犯人は、アドリアーナ嬢を棺の中に閉じ込めたままで周辺街の外に出ようとするはずですわ。本来ならばこの周辺街で裏の取引が終わるはずだったのでしょうけれど、そこに辺境伯領の皆様が来ましたもの」
「お父様は行動が早いものね。ただ、捜査とかそういうのには向いてないわ。癇癪起こして周辺住民まとめてぶっ飛ばす前に犯人を捕まえなきゃ」
棺屋の前から、犯人の足取りを追う。
「棺の大きさがありますから、裏路地でこの中に人を……というのは難しいでしょうね。住人の目もありますし、往来では不可能ですわ。では今朝方、安物の棺を持ち帰ってきた人の目撃情報ならばどうかしら」
シャーロットの言葉に、記者がポンと手を叩いて、「なるほど!」と発した。
「うし。じゃあ俺はちょっと聞き込みに行ってきますかね。行くぞバスカー」
『わふ!』
ナイツとバスカーが先行する。
あれは、枢機卿家の一行から借りたアドリアーナ嬢のハンカチを使い、バスカーににおいを辿らせる意味もあるのだ。
周辺街は、煙やら怪しい香水やら、食べ物やら風呂に入っていない人の臭いやらで、まさしくニオイの大洪水。
だけど家屋の中にアドリアーナ嬢がいれば、バスカーの鼻なら分かるというわけ。
「ではわたくしは、犯人たちの道のりを推理しましょう」
「待ってました!」
記者が快哉をあげる。
明日の記事になるねえ。
「ナイツさんとバスカーが凄い勢いで聞き込みに回ってますでしょう? 彼らを見ている周囲の方々。そこにご注目あそばせ」
「周りの人……?」
ナイツとバスカーは目立つ。
剣を佩いた大男と、青みがかった毛色の巨大な犬のコンビだ。
そりゃあ目立つ。
誰もが注目するだろう。
だけど、一人だけ慌ててその場から離れようとする男がいた。
「逃げてくのがいる」
「それが犯人の一人ですわ」
「早い! あっという間に見つけてしまった!」
「しっ、記者さん、お静かに」
記者を静かにさせながら、私たちは犯人の跡を追う。
ナイツが棺の事を大声で話しているから、心底驚いたのだろう。
後ろを振り返らず、全力疾走している。
ちょっとすれば見失ってしまいそうだけれど……。
「見失う心配はありませんわ。だって、アジトはすぐそこですもの」
シャーロットが指差した先で、まさに一軒の家に飛び込む犯人の姿。
私たちはすぐに到着し、ガラッと扉を開いた。
「アドリアーナを取り返しに来たわ!」
腹の底から、声を張り上げる。
「誘拐犯、御用よ!」
「な、なにぃーっ!?」
家の中には、何人もの男たち。
安物の棺が壁に立てかけられていて、今まさに押し込まれそうなアドリアーナの姿があった。
「むーっ、むーっ!」
猿ぐつわをされている。
だけどアドリアーナは、私を見て目を輝かせ、ばたばたと暴れた。
よし、見た感じ乱暴はされてないみたい。
完全に身代金とか、じゃなきゃ彼女の容姿目当てて売りさばこうとしたんだろう。
だけど、そうは問屋がおろさない。
「な、なんだ! 女二人か! やっちまえ!」
犯人たちは私たちを見て、あからさまに安堵した顔をした。
そしてニヤニヤ笑いながら掴みかかってくる男が「バリツ!」「ウグワーッ!?」シャーロットに吹き飛ばされてくるくる回転しながら壁に突き刺さった。
「!?」
男たちが一瞬唖然とする。
相変わらず、シャーロットのバリツは難しい。
何やってるんだろうあれ。
私は私で、護身用のレイピアを抜く。
「かかって来てもいいわよ。あと少しの間に私たちをどうにかしなければ、お前たちは一巻の終わりだから、なるべく必死にね」
「な、なんだとー!!」
私の挑発に乗ってくる犯人たち。
うーん、なんと単純な……!
ナイフを抜いて飛びかかってくるのを、彼の手をサクッと刺して動きを止める。
膝や太ももをサクッとすると、もう立っていられなくなる。
「いてえ! いてててて!」
「やりますわね、ジャネット様!」
「戦場にいたんだし、護身くらいはできるわよ。痛いところを刺すと、人間って躊躇するからね」
私の護身はあくまで時間稼ぎ。
一人がうずくまったことで、他の連中が私に辿り着けなくなった。
これで十分。
だって、すぐ近くに我が家最強の騎士と番犬がいる。
「お嬢!!」
『わおーん!』
家の壁がぶち抜かれて、ナイツとバスカーが飛び込んできた。
さらに、そう遠くないところで、「お嬢の声だ!」「犯人が見つかったか!」「こっちだ!」と辺境伯領の仲間たちの声。
「お前たち、おしまいよ」
「な、なんだってー!? どういう意味だ!」
「すぐ分かるわ」
そして犯人たちは、すぐに分からせられた。
全員地面にのびた犯人たちと、それを取り囲む辺境伯軍。
大暴れの末に、家はバラバラになっている。
我が家の人たちは加減というものを知らない。
「ジャネットー! シャーロットー!」
アドリアーナが飛び込んできたので、これをガッチリとキャッチした。
「無事で良かったわ!」
「ええ。何事もなくてなによりですわよ」
「うん、食事が粗末でね……。あとこの人たちデリカシーとか無くて……! 厳しかった……。いびきうるさいし」
平和だったようだ。
その後、駆けつけてきた憲兵隊に犯人たちは捕らえられた。
何者かにアドリアーナ嬢がしょっちゅうお忍びで観光にくる話を聞かされ、計画を練っていたそうだ。
そしてアドリアーナは辺境伯家に宿泊することとなり……。
「ほう、枢機卿の? ジャネットと仲良くなるとは、人を見る目があるな!」
「ジャネットのお父様なの? あのワトサップ辺境伯!? お話を聞いていたとおりだわ!」
父とアドリアーナは仲良くなってしまった。
こんなところで、イリアノス神国の枢機卿と、エルフェンバインの辺境伯に繋がりができるとは。
「お忍びは懲りたわ! しばらくは堂々と来る! 年に三回くらい来てるもの」
「思ったよりも頻繁に来てたのね」
「だから、毎回泊めてね!」
「はいはい」
我が家はどうやら、アドリアーナ専用の宿にもなってしまうようだった。
「お父様は行動が早いものね。ただ、捜査とかそういうのには向いてないわ。癇癪起こして周辺住民まとめてぶっ飛ばす前に犯人を捕まえなきゃ」
棺屋の前から、犯人の足取りを追う。
「棺の大きさがありますから、裏路地でこの中に人を……というのは難しいでしょうね。住人の目もありますし、往来では不可能ですわ。では今朝方、安物の棺を持ち帰ってきた人の目撃情報ならばどうかしら」
シャーロットの言葉に、記者がポンと手を叩いて、「なるほど!」と発した。
「うし。じゃあ俺はちょっと聞き込みに行ってきますかね。行くぞバスカー」
『わふ!』
ナイツとバスカーが先行する。
あれは、枢機卿家の一行から借りたアドリアーナ嬢のハンカチを使い、バスカーににおいを辿らせる意味もあるのだ。
周辺街は、煙やら怪しい香水やら、食べ物やら風呂に入っていない人の臭いやらで、まさしくニオイの大洪水。
だけど家屋の中にアドリアーナ嬢がいれば、バスカーの鼻なら分かるというわけ。
「ではわたくしは、犯人たちの道のりを推理しましょう」
「待ってました!」
記者が快哉をあげる。
明日の記事になるねえ。
「ナイツさんとバスカーが凄い勢いで聞き込みに回ってますでしょう? 彼らを見ている周囲の方々。そこにご注目あそばせ」
「周りの人……?」
ナイツとバスカーは目立つ。
剣を佩いた大男と、青みがかった毛色の巨大な犬のコンビだ。
そりゃあ目立つ。
誰もが注目するだろう。
だけど、一人だけ慌ててその場から離れようとする男がいた。
「逃げてくのがいる」
「それが犯人の一人ですわ」
「早い! あっという間に見つけてしまった!」
「しっ、記者さん、お静かに」
記者を静かにさせながら、私たちは犯人の跡を追う。
ナイツが棺の事を大声で話しているから、心底驚いたのだろう。
後ろを振り返らず、全力疾走している。
ちょっとすれば見失ってしまいそうだけれど……。
「見失う心配はありませんわ。だって、アジトはすぐそこですもの」
シャーロットが指差した先で、まさに一軒の家に飛び込む犯人の姿。
私たちはすぐに到着し、ガラッと扉を開いた。
「アドリアーナを取り返しに来たわ!」
腹の底から、声を張り上げる。
「誘拐犯、御用よ!」
「な、なにぃーっ!?」
家の中には、何人もの男たち。
安物の棺が壁に立てかけられていて、今まさに押し込まれそうなアドリアーナの姿があった。
「むーっ、むーっ!」
猿ぐつわをされている。
だけどアドリアーナは、私を見て目を輝かせ、ばたばたと暴れた。
よし、見た感じ乱暴はされてないみたい。
完全に身代金とか、じゃなきゃ彼女の容姿目当てて売りさばこうとしたんだろう。
だけど、そうは問屋がおろさない。
「な、なんだ! 女二人か! やっちまえ!」
犯人たちは私たちを見て、あからさまに安堵した顔をした。
そしてニヤニヤ笑いながら掴みかかってくる男が「バリツ!」「ウグワーッ!?」シャーロットに吹き飛ばされてくるくる回転しながら壁に突き刺さった。
「!?」
男たちが一瞬唖然とする。
相変わらず、シャーロットのバリツは難しい。
何やってるんだろうあれ。
私は私で、護身用のレイピアを抜く。
「かかって来てもいいわよ。あと少しの間に私たちをどうにかしなければ、お前たちは一巻の終わりだから、なるべく必死にね」
「な、なんだとー!!」
私の挑発に乗ってくる犯人たち。
うーん、なんと単純な……!
ナイフを抜いて飛びかかってくるのを、彼の手をサクッと刺して動きを止める。
膝や太ももをサクッとすると、もう立っていられなくなる。
「いてえ! いてててて!」
「やりますわね、ジャネット様!」
「戦場にいたんだし、護身くらいはできるわよ。痛いところを刺すと、人間って躊躇するからね」
私の護身はあくまで時間稼ぎ。
一人がうずくまったことで、他の連中が私に辿り着けなくなった。
これで十分。
だって、すぐ近くに我が家最強の騎士と番犬がいる。
「お嬢!!」
『わおーん!』
家の壁がぶち抜かれて、ナイツとバスカーが飛び込んできた。
さらに、そう遠くないところで、「お嬢の声だ!」「犯人が見つかったか!」「こっちだ!」と辺境伯領の仲間たちの声。
「お前たち、おしまいよ」
「な、なんだってー!? どういう意味だ!」
「すぐ分かるわ」
そして犯人たちは、すぐに分からせられた。
全員地面にのびた犯人たちと、それを取り囲む辺境伯軍。
大暴れの末に、家はバラバラになっている。
我が家の人たちは加減というものを知らない。
「ジャネットー! シャーロットー!」
アドリアーナが飛び込んできたので、これをガッチリとキャッチした。
「無事で良かったわ!」
「ええ。何事もなくてなによりですわよ」
「うん、食事が粗末でね……。あとこの人たちデリカシーとか無くて……! 厳しかった……。いびきうるさいし」
平和だったようだ。
その後、駆けつけてきた憲兵隊に犯人たちは捕らえられた。
何者かにアドリアーナ嬢がしょっちゅうお忍びで観光にくる話を聞かされ、計画を練っていたそうだ。
そしてアドリアーナは辺境伯家に宿泊することとなり……。
「ほう、枢機卿の? ジャネットと仲良くなるとは、人を見る目があるな!」
「ジャネットのお父様なの? あのワトサップ辺境伯!? お話を聞いていたとおりだわ!」
父とアドリアーナは仲良くなってしまった。
こんなところで、イリアノス神国の枢機卿と、エルフェンバインの辺境伯に繋がりができるとは。
「お忍びは懲りたわ! しばらくは堂々と来る! 年に三回くらい来てるもの」
「思ったよりも頻繁に来てたのね」
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