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アドリアーナ姫行方不明事件
第194話 棺桶を追え
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「お嬢~」
「あら、ギルスじゃない! お父様ったら本当に主戦力みんな連れてこっちに来たのね!」
蛮族から寝返った騎士、ギルス。
彼もアドリアーナを捜索していたようだ。
私とシャーロットの姿を見つけて合流してきた。
「ギルス、そっちはどうだ?」
「へえ。さっぱり進展がないです。外を歩く人も少なくなってますよ」
「それはそうですわねえ。辺境伯領の騎士や兵士たちが怖い顔をして歩きまわっているのですもの。まともな神経をしていたら外になんて出られませんわね! ですけれど、そこが狙い目ですわよ」
シャーロットが指を立てた。
「どういうこと?」
私とナイツとギルスが注目する。
バスカーもその中に鼻先を突っ込んできた。
わあ、むぎゅむぎゅ押さないで。
「辺境伯領の方々が、いつまでも外を見回るわけないじゃありませんの。すぐにしびれを切らして各家の中に入り込んで調べだしますわ。そんな状況で、犯人たちが籠城していられるとお思いですの?」
「あー、確かに!! うちの連中ならやるわ!」
「やるなあ」
「やりますなあ」
『わっふわふ』
私たちみんなで納得する。
さすがはシャーロットだ。
「ですから、犯人たちは何らかの方法で、なるべく怪しまれないようにしながら外に出ますわ。それを探るということになりますわね。辺境伯領の皆さまが頑張ってくださっているからこそ可能な作戦ですわよ」
ギルスはシャーロットの提案を、父に伝えに行った。
辺境伯はきっと、私たちを全面的にバックアップすべく、さらに騎士や兵士たちによる捜査を強行にやっていくことだろう!
現地住民には迷惑をかけるわねえ。
「それで記者さん」
ずっと私たちの後ろで、目を輝かせながらメモをしていた記者の男性に向き直る。
「あっはい! 僕のことは背景か何かだと思って下さい。いやあ、感激だなあ……! 推理令嬢シャーロットとその友ジャネットが事件を解決しようとする現場に立ち会えるなんて……! ターナめ、僕の面白い記事を見て腰を抜かすがいい」
壁の内と外で競争してるっぽい。
「そうじゃなくてね。周辺街で行われるイベントとか、何か外に出てこざるをえないような状況とか分からない?」
「外に出てこざるをえない、ですか。うーん……。ここは常に人が入れ替わる土地ですからね。彼らが各地の文化を持ち込んでくるので、これがこうだ、という決まりなんかありません。言うなれば、誰かが死んだら近所で集まって精霊葬をするくらい……」
精霊葬というのは、死者を棺に入れて、それぞれが信じる精霊の教えに従って送ることだ。
水なら水葬、風なら風葬(鳥葬とも言う)、火なら火葬、土なら土葬。
だけど、これは原始的なやり方だとされていて、今ではちょっと精霊葬っぽい感じで一日安置してから、大抵土葬にしてしまう。
湿気が多い土地なら、火葬してしまうとか。
「こっちでは、棺に入れて精霊葬した後、土地がないんで火葬にしてコンパクトにまとめてから埋めますね」
「世知辛いわねえ」
周辺街の住人が、勝手に墓地にしているところがあるという。
そこに、燃やした後の骨を砕いて埋めるんだとか。
実質、火葬と土葬のハイブリッドなのね。
「ふむふむ。では皆さん、棺屋に参りましょう!」
シャーロットが何か閃いたようだ。
率先して歩き出した。
「ちょっとシャーロット、棺屋の場所なんて分かるの!?」
「わたくしが分かるのは、墓地の場所くらいですわね。ですけれど、それが分かれば後は簡単ではありませんこと? 関わり合いの深い商売をするなら、近くで店を開いたほうが合理的ですもの」
「あ、そうか」
こうして私たちは、周辺街の墓地へ。
墓地と言うか、広場だなあ。
墓標代わりに棒が何本も突き立てられている。
そして墓地の周りには……。
あったあった。
「ここが火葬場ね」
他とはちょっと離れたところで、もうもうと黒い煙を上げ続けている建物がある。
土作りで、建物というか巨大な窯かな?
この中に死体を棺ごと放り込んで、油を掛けてから一日中焼くそうだ。
「で、あっちとこっちが棺屋」
棺の他に、様々な日用品を作っている店がある。
結構な商売になるんだなあ。
いろいろなランクの棺が並べられているじゃないか。
「こんにちは」
シャーロットとともに挨拶をすると、棺屋の主人が目を丸くした。
一見して強面の、スキンヘッドで顔に傷のある男だ。
辺境にはよくいる。
「お、おう。こんなスラムに、貴族のお嬢さんが二人も……!? ど、どういうことだい」
目が泳いでいる。
何を動揺しているのか。
「お二人ともお綺麗ですからね。突然現れたら僕だって動揺します」
記者の人の説明に、ナイツが腕組みしてうんうん頷いている。
私としては解せぬ、という気持ちだけど、シャーロットは違ったらしい。
「好都合ですわ。ねえご主人。最近棺は売れまして? 例えば今朝とか」
「け、今朝!? あ、ああ。いきなりやって来て、既存ので一番安いのをよこせと言ってきたやつならいたが」
「見知った顔でしたの?」
「ここは次々新しいやつが入ってくるからなあ。案の定見かけねえ顔だったよ。金払いもケチでな。何を急いでるんだか。葬式を大慌ててでやるやつがあるかよ」
ぺらぺら喋ってくれる。
私たちの出現で動揺したところに、シャーロットが優しく質問したので、知ってることを洗いざらい喋ってしまっているみたいだ。
なるほど、好都合ねえ……!
「では、棺の大きさは? 色は? 彼らの向かった方向は? なるほどなるほど」
何もかも聞き出してしまった!
振り返ったシャーロットが微笑む。
「さあ皆様、捕物と参りましょう。アドリアーナ様はもう、目と鼻の先ですわよ!」
「あら、ギルスじゃない! お父様ったら本当に主戦力みんな連れてこっちに来たのね!」
蛮族から寝返った騎士、ギルス。
彼もアドリアーナを捜索していたようだ。
私とシャーロットの姿を見つけて合流してきた。
「ギルス、そっちはどうだ?」
「へえ。さっぱり進展がないです。外を歩く人も少なくなってますよ」
「それはそうですわねえ。辺境伯領の騎士や兵士たちが怖い顔をして歩きまわっているのですもの。まともな神経をしていたら外になんて出られませんわね! ですけれど、そこが狙い目ですわよ」
シャーロットが指を立てた。
「どういうこと?」
私とナイツとギルスが注目する。
バスカーもその中に鼻先を突っ込んできた。
わあ、むぎゅむぎゅ押さないで。
「辺境伯領の方々が、いつまでも外を見回るわけないじゃありませんの。すぐにしびれを切らして各家の中に入り込んで調べだしますわ。そんな状況で、犯人たちが籠城していられるとお思いですの?」
「あー、確かに!! うちの連中ならやるわ!」
「やるなあ」
「やりますなあ」
『わっふわふ』
私たちみんなで納得する。
さすがはシャーロットだ。
「ですから、犯人たちは何らかの方法で、なるべく怪しまれないようにしながら外に出ますわ。それを探るということになりますわね。辺境伯領の皆さまが頑張ってくださっているからこそ可能な作戦ですわよ」
ギルスはシャーロットの提案を、父に伝えに行った。
辺境伯はきっと、私たちを全面的にバックアップすべく、さらに騎士や兵士たちによる捜査を強行にやっていくことだろう!
現地住民には迷惑をかけるわねえ。
「それで記者さん」
ずっと私たちの後ろで、目を輝かせながらメモをしていた記者の男性に向き直る。
「あっはい! 僕のことは背景か何かだと思って下さい。いやあ、感激だなあ……! 推理令嬢シャーロットとその友ジャネットが事件を解決しようとする現場に立ち会えるなんて……! ターナめ、僕の面白い記事を見て腰を抜かすがいい」
壁の内と外で競争してるっぽい。
「そうじゃなくてね。周辺街で行われるイベントとか、何か外に出てこざるをえないような状況とか分からない?」
「外に出てこざるをえない、ですか。うーん……。ここは常に人が入れ替わる土地ですからね。彼らが各地の文化を持ち込んでくるので、これがこうだ、という決まりなんかありません。言うなれば、誰かが死んだら近所で集まって精霊葬をするくらい……」
精霊葬というのは、死者を棺に入れて、それぞれが信じる精霊の教えに従って送ることだ。
水なら水葬、風なら風葬(鳥葬とも言う)、火なら火葬、土なら土葬。
だけど、これは原始的なやり方だとされていて、今ではちょっと精霊葬っぽい感じで一日安置してから、大抵土葬にしてしまう。
湿気が多い土地なら、火葬してしまうとか。
「こっちでは、棺に入れて精霊葬した後、土地がないんで火葬にしてコンパクトにまとめてから埋めますね」
「世知辛いわねえ」
周辺街の住人が、勝手に墓地にしているところがあるという。
そこに、燃やした後の骨を砕いて埋めるんだとか。
実質、火葬と土葬のハイブリッドなのね。
「ふむふむ。では皆さん、棺屋に参りましょう!」
シャーロットが何か閃いたようだ。
率先して歩き出した。
「ちょっとシャーロット、棺屋の場所なんて分かるの!?」
「わたくしが分かるのは、墓地の場所くらいですわね。ですけれど、それが分かれば後は簡単ではありませんこと? 関わり合いの深い商売をするなら、近くで店を開いたほうが合理的ですもの」
「あ、そうか」
こうして私たちは、周辺街の墓地へ。
墓地と言うか、広場だなあ。
墓標代わりに棒が何本も突き立てられている。
そして墓地の周りには……。
あったあった。
「ここが火葬場ね」
他とはちょっと離れたところで、もうもうと黒い煙を上げ続けている建物がある。
土作りで、建物というか巨大な窯かな?
この中に死体を棺ごと放り込んで、油を掛けてから一日中焼くそうだ。
「で、あっちとこっちが棺屋」
棺の他に、様々な日用品を作っている店がある。
結構な商売になるんだなあ。
いろいろなランクの棺が並べられているじゃないか。
「こんにちは」
シャーロットとともに挨拶をすると、棺屋の主人が目を丸くした。
一見して強面の、スキンヘッドで顔に傷のある男だ。
辺境にはよくいる。
「お、おう。こんなスラムに、貴族のお嬢さんが二人も……!? ど、どういうことだい」
目が泳いでいる。
何を動揺しているのか。
「お二人ともお綺麗ですからね。突然現れたら僕だって動揺します」
記者の人の説明に、ナイツが腕組みしてうんうん頷いている。
私としては解せぬ、という気持ちだけど、シャーロットは違ったらしい。
「好都合ですわ。ねえご主人。最近棺は売れまして? 例えば今朝とか」
「け、今朝!? あ、ああ。いきなりやって来て、既存ので一番安いのをよこせと言ってきたやつならいたが」
「見知った顔でしたの?」
「ここは次々新しいやつが入ってくるからなあ。案の定見かけねえ顔だったよ。金払いもケチでな。何を急いでるんだか。葬式を大慌ててでやるやつがあるかよ」
ぺらぺら喋ってくれる。
私たちの出現で動揺したところに、シャーロットが優しく質問したので、知ってることを洗いざらい喋ってしまっているみたいだ。
なるほど、好都合ねえ……!
「では、棺の大きさは? 色は? 彼らの向かった方向は? なるほどなるほど」
何もかも聞き出してしまった!
振り返ったシャーロットが微笑む。
「さあ皆様、捕物と参りましょう。アドリアーナ様はもう、目と鼻の先ですわよ!」
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