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アドリアーナ姫行方不明事件
第193話 過剰戦力捜査網
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シャーロットに教えに行ったら、彼女は父の参戦を聞いて、一瞬きょとんとした。
そしてすぐに、笑い出したのだった。
あまりに笑いすぎて、椅子を倒して床に転げてしまうほどだ。
「これはひどい……! 誘拐犯はよりにもよって、最悪のタイミングでやらかしましたわね」
「私もそう思う。父は最近暇してたから、久々の狩りだってやる気満々だわ」
「でしたら、誘拐犯は今頃震え上がっていますわね。お忍び旅のアドリアーナ様をさらってしまうほどの凄腕ですけれども、話を聞いていると王都以外に行ったとは考えられないようですし」
「そうなの? 別荘地帯とか」
「あそこは近年、犯罪に使われ過ぎましたもの。今は常に王都から委託された傭兵たちが見張りを行ってますわ」
「なーるほど……」
傭兵たちにはきちんと賃金が払われているので、汚職も無いらしい。
むしろ、そういうことをしない傭兵を、冒険者の街アドポリスから直接雇用したと聞く。
「結局、犯罪者たちが逃げ込む場所は王都周辺の街しかないということですわね。さあて、わたくしたちも行きましょう。辺境伯様が勝手に賊を追い詰めてくださいますもの。彼らが見せる隙が必ずありますわ。わたくしたちは、それを見つけて捕まえればいいだけ」
シャーロット、実に心強い。
バスカーにナイツも連れて、私たちは王都の門を出るのだった。
ちなみにズドンは、父に気に入られてしまい、同行させられている。
あの肉体を持ちながら、卓越した精霊魔法の使い手という文武両道ぶりが気に入ったらしい。
「お館様らしいと言えばらしいですな。さてさて、犯人に同情したくなる有様ですが、奴らはまだ見つかってませんかね」
ナイツが笑いながら、門の外を見回す。
エルフェンバインは、王都の外にもたくさんの民が住んでいる。
彼らは王都内での居住権を得られなかった人々だ。
むしろ、王都よりも外の街の方が広いくらい。
戦争があり、魔獣が闊歩していた昔だったら考えられないことだろうけれど……。
今はそれだけ平和ということだ。
城壁がいらなくなっているわけだから。
デイリーエルフェンバインは、城壁の内側ぎりぎりと外側ぎりぎりの両方に存在している。
ターナは内側の方で働いているのだけれど、私たちが用があるのは外側の方。
「何か、アドリアーナ姫の誘拐事件に関する情報は入ってる?」
「あっ、シャーロット様にジャネット様! お二人が動いてるんですね! こいつはいいや」
記者らしき青年が飛び上がって喜んだ。
「さっきから物々しい連中が街中を歩き回ってるんで、みんなピリピリしてるんですよ。戦争でも始まるかと思ったんですが」
「あれは私の実家の人たち。騒がせてるわねえ」
「あー、ワトサップ家の。それは仕方ないですねえ」
記者が納得した。
彼も、辺境伯家に連なる者たちの勇猛さはよく知っているらしい。
記者の彼がついてくるというので、私たちは四人と一匹になった。
外の街に詳しい記者に案内してもらい、歩き回る。
「この辺りの住人は、自分たちを壁外町民と呼んでるんですよ。もう町ってスケールじゃないんですけどね。ここは常に広がり続けてて、昨日あった家がなくなって新しい店になり、店が消えたと思ったら家が次々に建ったりして……まあ、混沌としてます」
路地は入り組んでいて、狭い。
人がすれ違うのもやっと、という広さの道もある。
都市計画なんかお構いなしに、どんどん建物を作り、居住地域を拡張していったせいだろう。
そして狭い路地なのに、両側にたくさんの店が出ていたりする。
賑やかだ。
子どもたちが走り回り、買い物をする人々がぎゅうぎゅうになって行き交っている。
「おっと、待ちな。すりをしようとしやがったな」
「ひ、ひいいい」
ナイツが一人捕まえた。
すると、周囲の人々が「なにぃー!」「ふてえ野郎だ!」「畳んじまえ!」といきり立つ。
かくして巻き起こる乱闘。
これを背後に立ち去る私たち。
「活気があるところねー」
「ですわねえ! みんな生き生きとしてますわ!」
「周辺町の乱闘を見て、それだけの感想で済ませられるご令嬢というのがもうびっくりです」
記者が何か言った。
その乱闘だが、横合いから見たことある顔の騎士が飛び込んでいき、みんな叩き伏せて終わった。
「何してるのよー」
「あっ、お嬢! いやあ、お祭りかと思って参加したんですがね。最近平和でしょ。戦の感覚が鈍っていけねえ。あっという間に終わっちまいました」
辺境伯家の騎士だ。
ちょうどいいので、彼に捜査の進展具合を聞く。
「あー、やっぱり何も進んでないわね」
「面目ねえ……。ナイツさん、こいつはなかなか難しいですよ。頼みます」
「おう、分かってる。というかお前ら、こっち方面で頭を使うの苦手だろうが」
辺境伯家は、人海戦術で周辺町を探っている。
だが、力づくくらいしか知らない連中ばかりなので、誘拐犯の「ゆ」の字すら出てきていないということだった。
さもありなん。
「いえいえ、助かりますわ。お陰で犯人の行動範囲が絞れますもの。あの金髪碧眼の、とても目立つ美貌をしたお姫様を連れ歩くなんて、こんな混乱の中ではできませんわよね。ということは、彼らは屋内にいますわ」
シャーロットが微笑む。
「ねえ騎士さん、お仲間に伝えて下さいます? 一軒一軒ノックして、挨拶して回ってくださいなって」
「へえ! なるほど! そうすりゃ家の中にいる奴らの顔も見れますね! さすがはお嬢のご友人だ!」
「シャーロットがうちの若いのを操縦するのが上手い……!」
「ジャネット様との付き合いも長くなってきましたもの」
「それはどういう意味なのだろう……!」
そしてすぐに、笑い出したのだった。
あまりに笑いすぎて、椅子を倒して床に転げてしまうほどだ。
「これはひどい……! 誘拐犯はよりにもよって、最悪のタイミングでやらかしましたわね」
「私もそう思う。父は最近暇してたから、久々の狩りだってやる気満々だわ」
「でしたら、誘拐犯は今頃震え上がっていますわね。お忍び旅のアドリアーナ様をさらってしまうほどの凄腕ですけれども、話を聞いていると王都以外に行ったとは考えられないようですし」
「そうなの? 別荘地帯とか」
「あそこは近年、犯罪に使われ過ぎましたもの。今は常に王都から委託された傭兵たちが見張りを行ってますわ」
「なーるほど……」
傭兵たちにはきちんと賃金が払われているので、汚職も無いらしい。
むしろ、そういうことをしない傭兵を、冒険者の街アドポリスから直接雇用したと聞く。
「結局、犯罪者たちが逃げ込む場所は王都周辺の街しかないということですわね。さあて、わたくしたちも行きましょう。辺境伯様が勝手に賊を追い詰めてくださいますもの。彼らが見せる隙が必ずありますわ。わたくしたちは、それを見つけて捕まえればいいだけ」
シャーロット、実に心強い。
バスカーにナイツも連れて、私たちは王都の門を出るのだった。
ちなみにズドンは、父に気に入られてしまい、同行させられている。
あの肉体を持ちながら、卓越した精霊魔法の使い手という文武両道ぶりが気に入ったらしい。
「お館様らしいと言えばらしいですな。さてさて、犯人に同情したくなる有様ですが、奴らはまだ見つかってませんかね」
ナイツが笑いながら、門の外を見回す。
エルフェンバインは、王都の外にもたくさんの民が住んでいる。
彼らは王都内での居住権を得られなかった人々だ。
むしろ、王都よりも外の街の方が広いくらい。
戦争があり、魔獣が闊歩していた昔だったら考えられないことだろうけれど……。
今はそれだけ平和ということだ。
城壁がいらなくなっているわけだから。
デイリーエルフェンバインは、城壁の内側ぎりぎりと外側ぎりぎりの両方に存在している。
ターナは内側の方で働いているのだけれど、私たちが用があるのは外側の方。
「何か、アドリアーナ姫の誘拐事件に関する情報は入ってる?」
「あっ、シャーロット様にジャネット様! お二人が動いてるんですね! こいつはいいや」
記者らしき青年が飛び上がって喜んだ。
「さっきから物々しい連中が街中を歩き回ってるんで、みんなピリピリしてるんですよ。戦争でも始まるかと思ったんですが」
「あれは私の実家の人たち。騒がせてるわねえ」
「あー、ワトサップ家の。それは仕方ないですねえ」
記者が納得した。
彼も、辺境伯家に連なる者たちの勇猛さはよく知っているらしい。
記者の彼がついてくるというので、私たちは四人と一匹になった。
外の街に詳しい記者に案内してもらい、歩き回る。
「この辺りの住人は、自分たちを壁外町民と呼んでるんですよ。もう町ってスケールじゃないんですけどね。ここは常に広がり続けてて、昨日あった家がなくなって新しい店になり、店が消えたと思ったら家が次々に建ったりして……まあ、混沌としてます」
路地は入り組んでいて、狭い。
人がすれ違うのもやっと、という広さの道もある。
都市計画なんかお構いなしに、どんどん建物を作り、居住地域を拡張していったせいだろう。
そして狭い路地なのに、両側にたくさんの店が出ていたりする。
賑やかだ。
子どもたちが走り回り、買い物をする人々がぎゅうぎゅうになって行き交っている。
「おっと、待ちな。すりをしようとしやがったな」
「ひ、ひいいい」
ナイツが一人捕まえた。
すると、周囲の人々が「なにぃー!」「ふてえ野郎だ!」「畳んじまえ!」といきり立つ。
かくして巻き起こる乱闘。
これを背後に立ち去る私たち。
「活気があるところねー」
「ですわねえ! みんな生き生きとしてますわ!」
「周辺町の乱闘を見て、それだけの感想で済ませられるご令嬢というのがもうびっくりです」
記者が何か言った。
その乱闘だが、横合いから見たことある顔の騎士が飛び込んでいき、みんな叩き伏せて終わった。
「何してるのよー」
「あっ、お嬢! いやあ、お祭りかと思って参加したんですがね。最近平和でしょ。戦の感覚が鈍っていけねえ。あっという間に終わっちまいました」
辺境伯家の騎士だ。
ちょうどいいので、彼に捜査の進展具合を聞く。
「あー、やっぱり何も進んでないわね」
「面目ねえ……。ナイツさん、こいつはなかなか難しいですよ。頼みます」
「おう、分かってる。というかお前ら、こっち方面で頭を使うの苦手だろうが」
辺境伯家は、人海戦術で周辺町を探っている。
だが、力づくくらいしか知らない連中ばかりなので、誘拐犯の「ゆ」の字すら出てきていないということだった。
さもありなん。
「いえいえ、助かりますわ。お陰で犯人の行動範囲が絞れますもの。あの金髪碧眼の、とても目立つ美貌をしたお姫様を連れ歩くなんて、こんな混乱の中ではできませんわよね。ということは、彼らは屋内にいますわ」
シャーロットが微笑む。
「ねえ騎士さん、お仲間に伝えて下さいます? 一軒一軒ノックして、挨拶して回ってくださいなって」
「へえ! なるほど! そうすりゃ家の中にいる奴らの顔も見れますね! さすがはお嬢のご友人だ!」
「シャーロットがうちの若いのを操縦するのが上手い……!」
「ジャネット様との付き合いも長くなってきましたもの」
「それはどういう意味なのだろう……!」
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