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シャーロットの病気事件
第189話 お見舞いに行くと
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家に帰り、さてお見舞いの品を用意しないとと考える。
何がいいだろう?
「お嬢様、シャーロット様は辺境のお菓子が大好きでしたので」
「パイとかクッキーとかビスケットね! ありがとう!」
パイはこれから焼かないとだから後日。
日持ちがするビスケットはたくさんあるから、これをまとめて持っていくことにした。
そうなると、乗馬して行くのは危険。
ハドソン号は上手に走ってくれるけど、やっぱり揺れるもの。
それに、カゲリナとグチエルがいるしね。
私がしっかりとビスケットの箱を保持できるのは、馬車だろう。
「ナイツ、お願い」
「久々の出番ですな。今日はお友達も一緒ですからな」
「そうそう。三人でお見舞いに行くのよ」
カゲリナとグチエルが、ナイツに会釈する。
馬車が走り出し、下町へと入っていく。
窓の外では、辺境伯家の馬車に気付いた人々が手を振っている。
私も手を振り返す。
下町に初めて来た頃には、道端に人が座り込んだり、何もすることが無さそうに佇んだりしていて、なんと牧歌的なところなのだろうと思ったものだ。
地面に直接座り込んだりなどしたら、走ってくる軍馬に蹴られて死んでしまうだろう……と辺境の常識で考えたりしていた。
だが、王都は平和なのだ。
そして、いつの間にか下町の人々が、私の顔と家紋を覚えてしまっていた。
もうお忍びでバスカーの散歩に来たりできないなあ。
なんで覚えられてしまったんだろう……。
「ジャネット様って自覚ないのかしら」
「無いと思うわ。一度見たら忘れられない容姿なのに、やること成すことも凄いですもの」
カゲリナとグチエルが何か言ってる。
「お馬に乗っておっきな犬を散歩させてるお姉ちゃんだ!」
「しっ! 失礼なことを言ったら、辺境に連れて行かれちゃうわよ!」
解せぬ。
こうしてシャーロット邸に到着した。
だが、二階の窓は閉ざされ、出迎えの姿もない。
これはどうやら、本当に彼女の体調は良くないようだ。
「俺は何か企んでるんじゃないかと思ってるんですがね」
「ええ!? 流石にシャーロットもそこまではやらない……いや、するわね」
扉をノックしたら、インビジブルストーカーが開けてくれた。
私とナイツは顔パスなのだ。
あとの二人は、まだ自動的に扉が開いたりするシャーロット邸に慣れないらしく、気味が悪そうな顔をしていた。
馬車をインビジブルストーカーに任せつつ、二階へ。
彼女の寝室には初めて入る。
そこでは、ベッドに臥せっているシャーロットの姿があった。
「お見舞いに来たわ。調子悪そう?」
「……あらジャネット様。お気遣いありがとうございます。ですけどあまり近寄らないほうが。病気が感染ってしまいますわ……」
いつもより弱々しげな彼女の声。
なるほど、確かに病気らしい。
私の目からは、彼女が弱っているようにしか見えない。
ナイツに確認すればすぐに見破ってくれるだろうけれど、友達を疑うのもよろしくない。
「お見舞いのビスケットを持ってきたわ。元気になったら食べてね」
ベッドに横たわるシャーロットの肩が、ビクッと動いた。
おや……?
「動いた」
「動いた」
しっ!
カゲリナ、グチエル、黙っておいてあげて!
「あ、ありがとうございますわ。そこに置いておいていただければ……」
「ええ、そうするわね。じゃあシャーロット、お大事に」
お菓子を置いて、立ち去る私。
インビジブルストーカーが扉を開けてくれ、馬車も用意してくれた。
礼を言って帰ることにする。
「……どう思った、ナイツ? あれ、仮病よね」
「真に迫った演技でしたが、仮病ですな。覇気が全然衰えてませんから」
「シャーロットったら何を狙ってるのかしら」
「さて……。おや、お嬢、ちょっとご覧なさい」
ナイツに言われて、窓からシャーロット邸を覗いた。
いつの間にか、扉の前に下町遊撃隊の子どもがいる。
彼の手には、どこからともなく飛んできた手紙が舞い降りる。
下町遊撃隊の子が頷き、走り出した。
「追いかけましょ。ゆっくり」
「よしきた。またシャーロット嬢は面白いことを考えてるようだな」
馬車がゆっくりゆっくり走り出す。
下町遊撃隊の子は、必死に走っていてこちらには気付いていないようだ。
彼は王都の門の近くまでやって来る。
おや、ここは……?
「ターナが務める新聞社だわ」
デイリーエルフェンバインと看板を出した建物がある。
大きさは小さくて、二階建て。
一階が印刷所になっている。
エルド教からやって来た技師たちが、機械を回して新聞を刷っていた。
下町遊撃隊は、彼らに挨拶すると当たり前のような顔をして二階へ駆け上がる。
「シャーロットからの手紙を新聞社に届ける……。間違いなく、シャーロットが何か企んでるパターンね」
「ですな。お嬢に知らせないということは、余計な心配を掛けないためか、それとも……」
「私が絡むと、ナイツやバスカーやズドンを引き連れて来ちゃうからじゃない? もの凄い大事になっちゃう」
「はっはっは、確かに! それじゃあお嬢、新聞社に突撃して詳しいことを聞くので?」
「明日の新聞を見たら、シャーロットの考えも分かるでしょ。せっかく隠そうとしてるんだから、詮索するのも良くないわよね」
私たちは概ね満足し、帰宅することにした。
そして翌朝。
新聞にはシャーロットの作戦がはっきりと書かれていたのである。
『シャーロット・ラムズ侯爵令嬢、難病に冒さるる!!』
難病!!
私は、ビスケットと聞いて今にもベッドから飛び出してきそうになった彼女を思い出す。
なるほど、辺境伯領のお菓子があると、念入りに仕込んだ企みを放り出しそうになる彼女は、確かに難病に掛かっているのかも知れない!
何がいいだろう?
「お嬢様、シャーロット様は辺境のお菓子が大好きでしたので」
「パイとかクッキーとかビスケットね! ありがとう!」
パイはこれから焼かないとだから後日。
日持ちがするビスケットはたくさんあるから、これをまとめて持っていくことにした。
そうなると、乗馬して行くのは危険。
ハドソン号は上手に走ってくれるけど、やっぱり揺れるもの。
それに、カゲリナとグチエルがいるしね。
私がしっかりとビスケットの箱を保持できるのは、馬車だろう。
「ナイツ、お願い」
「久々の出番ですな。今日はお友達も一緒ですからな」
「そうそう。三人でお見舞いに行くのよ」
カゲリナとグチエルが、ナイツに会釈する。
馬車が走り出し、下町へと入っていく。
窓の外では、辺境伯家の馬車に気付いた人々が手を振っている。
私も手を振り返す。
下町に初めて来た頃には、道端に人が座り込んだり、何もすることが無さそうに佇んだりしていて、なんと牧歌的なところなのだろうと思ったものだ。
地面に直接座り込んだりなどしたら、走ってくる軍馬に蹴られて死んでしまうだろう……と辺境の常識で考えたりしていた。
だが、王都は平和なのだ。
そして、いつの間にか下町の人々が、私の顔と家紋を覚えてしまっていた。
もうお忍びでバスカーの散歩に来たりできないなあ。
なんで覚えられてしまったんだろう……。
「ジャネット様って自覚ないのかしら」
「無いと思うわ。一度見たら忘れられない容姿なのに、やること成すことも凄いですもの」
カゲリナとグチエルが何か言ってる。
「お馬に乗っておっきな犬を散歩させてるお姉ちゃんだ!」
「しっ! 失礼なことを言ったら、辺境に連れて行かれちゃうわよ!」
解せぬ。
こうしてシャーロット邸に到着した。
だが、二階の窓は閉ざされ、出迎えの姿もない。
これはどうやら、本当に彼女の体調は良くないようだ。
「俺は何か企んでるんじゃないかと思ってるんですがね」
「ええ!? 流石にシャーロットもそこまではやらない……いや、するわね」
扉をノックしたら、インビジブルストーカーが開けてくれた。
私とナイツは顔パスなのだ。
あとの二人は、まだ自動的に扉が開いたりするシャーロット邸に慣れないらしく、気味が悪そうな顔をしていた。
馬車をインビジブルストーカーに任せつつ、二階へ。
彼女の寝室には初めて入る。
そこでは、ベッドに臥せっているシャーロットの姿があった。
「お見舞いに来たわ。調子悪そう?」
「……あらジャネット様。お気遣いありがとうございます。ですけどあまり近寄らないほうが。病気が感染ってしまいますわ……」
いつもより弱々しげな彼女の声。
なるほど、確かに病気らしい。
私の目からは、彼女が弱っているようにしか見えない。
ナイツに確認すればすぐに見破ってくれるだろうけれど、友達を疑うのもよろしくない。
「お見舞いのビスケットを持ってきたわ。元気になったら食べてね」
ベッドに横たわるシャーロットの肩が、ビクッと動いた。
おや……?
「動いた」
「動いた」
しっ!
カゲリナ、グチエル、黙っておいてあげて!
「あ、ありがとうございますわ。そこに置いておいていただければ……」
「ええ、そうするわね。じゃあシャーロット、お大事に」
お菓子を置いて、立ち去る私。
インビジブルストーカーが扉を開けてくれ、馬車も用意してくれた。
礼を言って帰ることにする。
「……どう思った、ナイツ? あれ、仮病よね」
「真に迫った演技でしたが、仮病ですな。覇気が全然衰えてませんから」
「シャーロットったら何を狙ってるのかしら」
「さて……。おや、お嬢、ちょっとご覧なさい」
ナイツに言われて、窓からシャーロット邸を覗いた。
いつの間にか、扉の前に下町遊撃隊の子どもがいる。
彼の手には、どこからともなく飛んできた手紙が舞い降りる。
下町遊撃隊の子が頷き、走り出した。
「追いかけましょ。ゆっくり」
「よしきた。またシャーロット嬢は面白いことを考えてるようだな」
馬車がゆっくりゆっくり走り出す。
下町遊撃隊の子は、必死に走っていてこちらには気付いていないようだ。
彼は王都の門の近くまでやって来る。
おや、ここは……?
「ターナが務める新聞社だわ」
デイリーエルフェンバインと看板を出した建物がある。
大きさは小さくて、二階建て。
一階が印刷所になっている。
エルド教からやって来た技師たちが、機械を回して新聞を刷っていた。
下町遊撃隊は、彼らに挨拶すると当たり前のような顔をして二階へ駆け上がる。
「シャーロットからの手紙を新聞社に届ける……。間違いなく、シャーロットが何か企んでるパターンね」
「ですな。お嬢に知らせないということは、余計な心配を掛けないためか、それとも……」
「私が絡むと、ナイツやバスカーやズドンを引き連れて来ちゃうからじゃない? もの凄い大事になっちゃう」
「はっはっは、確かに! それじゃあお嬢、新聞社に突撃して詳しいことを聞くので?」
「明日の新聞を見たら、シャーロットの考えも分かるでしょ。せっかく隠そうとしてるんだから、詮索するのも良くないわよね」
私たちは概ね満足し、帰宅することにした。
そして翌朝。
新聞にはシャーロットの作戦がはっきりと書かれていたのである。
『シャーロット・ラムズ侯爵令嬢、難病に冒さるる!!』
難病!!
私は、ビスケットと聞いて今にもベッドから飛び出してきそうになった彼女を思い出す。
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