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エルフェンバインの秘密兵器事件
第185話 設計図 is 何
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「それにしても、この設計図は何なんだろう? 一見すると攻城兵器に見えるんだけど……馬で牽くの? 形は弩弓とは違ってるみたいで……なんだか魔法を打ち出すみたいな」
私はそこまで口にしてからピンと来た。
「ああ! これ、エルド教の持っている弾が出る筒に似てるんだ。あれの大きいのだ」
ここまで分かれば、用途だって容易に想像ができる。
ヴァイスシュタット辺りに配備して、アルマースやイリアノスに、こんなすごい武器があるよと見せつけるつもりなのだろう。
実際に使わないにしても、使える状態にある強い戦力があれば、交渉というのはやりやすくなる。
武力を後ろ盾にしない交渉など、基本的に存在しないのだ。
……と、はたと気付く。
「これ、流出したらいけないものじゃないの?」
「相当にまずいものですわねえ」
「まずいなんてものじゃありませんね」
シャーロットとデストレードが頷いた。
設計図は七枚。
並べてみると、専用の車によって運搬される、本体たる大筒の設計図だけが無い。
これは、それが抜き取られているのではないだろうか?
「マズイでしょ。誰かこの設計図に気付いた人いる? それがバレたら、イニアナガ陛下がその人を放っておくわけがないわ」
具体的には、秘密を知った市民は消える。
それだけ重大な秘密が、設計図にはあるからだ。
「残った設計図は憲兵隊で預かります。王城の官僚に連絡を取り、回収に来てもらいましょう」
デストレードも、余裕がない表情だ。
馬車から転げ落ちた死体が、とんでもないものを持ってきたのだから当然とも言える。
憲兵たちがばたばたと動き始めた。
「デストレード、わたくしたちは独自で調査してよろしいかしら?」
「ええ、ぜひともお願いします。こちらは事務手続きでそれどころではなくなりましたから。ああ、憲兵を二名付けておきます。連絡係として使って下さい」
若い憲兵の男性が二人ついてきた。
「あのシャーロット様とジャネット様と一緒に捜査ができるなんて、光栄です!」
「よろしくお願いします!」
『わふ!』
「ああ、噂のバスカーくんも!」
『わふーん』
新人の憲兵みたい。
バスカーは自分も仲間に入れてもらえて、嬉しそうだ。
大きな尻尾をぶんぶん振っている。
「さて、問題がありますわ。死体は馬車から転げ落ちた。馬車の幌の上にそれがあったならば、バスカーの鼻を使って跡を辿るのは難しいでしょうね。馬車で行き止まりになりますわ」
「確かにそうね。だけどまずは馬車まで辿ってみましょ」
「そうですわね!」
ということで、捜査開始だ。
バスカーが、死体の近くを通ったらしい馬車の跡をくんくん嗅ぐ。
死体が落っこちてから、新しい馬車は通過してないらしい。
だからこれは簡単なお仕事だ。
『わふ!』
「におい覚えた? じゃあ行こうか!」
『わふー!』
バスカーは走り出そうとして、ハッとして振り返った。
私とシャーロットは馬に乗ればいいけど、憲兵の二人は歩きだ。
バスカーはてくてくとゆっくり歩き始めた。
頭のいい子だ。
私のいつも乗っているこの馬も、頭がいい。
ハドソン号と言うんだけど、バスカーとはすっかり仲良しで、私がいないときは厩舎で色々お話をしているらしい。
ハドソン号は私が引かなくても、バスカーの後ろに続いてのんびり歩く。
こうして、徒歩で馬車が向かった先を目指すのだ。
ほどなくして、市場に到着した。
裏手に何台も馬車が停められていて、馬たちが飼い葉をもりもり食べている。
彼らはバスカーが現れると、ぎょっとした。
そこにハドソン号が出てきて、バスカーを鼻先でもふっと撫でる。
バスカーがハドソン号にむぎゅっと体を寄せる。
どうやらこの大きな犬は脅威では無いらしい、と馬たちが理解し、彼らは落ち着いた。
「ナイスよ、ハドソン号」
ぶるる、とハドソン号が鼻を鳴らす。
元軍場とは思えないほど、穏やかな気性の馬なのだ。
ということで、晴れて馬たちから脅威ではない認定を受けたバスカーが、馬車と馬を嗅いで回る。
『わふ』
「ここ? この馬車ね」
荷馬車を発見した。
この幌の上に死体がいたのだ。
どうやって死体を幌に乗せたのだろうか?
「ちょっと、馬車を改めたいのだけれどいい?」
馬車の持ち主か、あるいはその召使いらしき男性がいたので声を掛ける。
「ああ? なんだって俺の馬車を改めるって……ひぇっ、憲兵!!」
おっと、ここで憲兵お二人が役立った。
王都の憲兵は優秀で、とにかく仕事をする。
だから人々からも信頼されていて、同時に一切の忖度をしないので恐れられてもいるのだ。
これは、陛下が彼らのような保安機構にはたっぷりと給料を払うということをやっているお陰なのだ。
なので、憲兵はみんな高給取り。
裏で犯罪者と癒着することが起きにくいし、例え起きてもすぐに粛清される。
『わふわふ、わふ』
バスカーは私たちに呼びかけると、自ら飛び上がって幌の上に。
『わふ!』
「血がついているの?」
『わふー!』
私もハドソンの背中の上で立たせてもらい、幌の上を覗き込んでみた。
あー、べったりと血が。
彼は通過する馬車の上に、殺された跡で放り投げられたのだろうか。
そして港湾部で落下したと。
「馬車が通過してきた経路を確認する必要がありますわね」
シャーロットの目が光ったのだった。
私はそこまで口にしてからピンと来た。
「ああ! これ、エルド教の持っている弾が出る筒に似てるんだ。あれの大きいのだ」
ここまで分かれば、用途だって容易に想像ができる。
ヴァイスシュタット辺りに配備して、アルマースやイリアノスに、こんなすごい武器があるよと見せつけるつもりなのだろう。
実際に使わないにしても、使える状態にある強い戦力があれば、交渉というのはやりやすくなる。
武力を後ろ盾にしない交渉など、基本的に存在しないのだ。
……と、はたと気付く。
「これ、流出したらいけないものじゃないの?」
「相当にまずいものですわねえ」
「まずいなんてものじゃありませんね」
シャーロットとデストレードが頷いた。
設計図は七枚。
並べてみると、専用の車によって運搬される、本体たる大筒の設計図だけが無い。
これは、それが抜き取られているのではないだろうか?
「マズイでしょ。誰かこの設計図に気付いた人いる? それがバレたら、イニアナガ陛下がその人を放っておくわけがないわ」
具体的には、秘密を知った市民は消える。
それだけ重大な秘密が、設計図にはあるからだ。
「残った設計図は憲兵隊で預かります。王城の官僚に連絡を取り、回収に来てもらいましょう」
デストレードも、余裕がない表情だ。
馬車から転げ落ちた死体が、とんでもないものを持ってきたのだから当然とも言える。
憲兵たちがばたばたと動き始めた。
「デストレード、わたくしたちは独自で調査してよろしいかしら?」
「ええ、ぜひともお願いします。こちらは事務手続きでそれどころではなくなりましたから。ああ、憲兵を二名付けておきます。連絡係として使って下さい」
若い憲兵の男性が二人ついてきた。
「あのシャーロット様とジャネット様と一緒に捜査ができるなんて、光栄です!」
「よろしくお願いします!」
『わふ!』
「ああ、噂のバスカーくんも!」
『わふーん』
新人の憲兵みたい。
バスカーは自分も仲間に入れてもらえて、嬉しそうだ。
大きな尻尾をぶんぶん振っている。
「さて、問題がありますわ。死体は馬車から転げ落ちた。馬車の幌の上にそれがあったならば、バスカーの鼻を使って跡を辿るのは難しいでしょうね。馬車で行き止まりになりますわ」
「確かにそうね。だけどまずは馬車まで辿ってみましょ」
「そうですわね!」
ということで、捜査開始だ。
バスカーが、死体の近くを通ったらしい馬車の跡をくんくん嗅ぐ。
死体が落っこちてから、新しい馬車は通過してないらしい。
だからこれは簡単なお仕事だ。
『わふ!』
「におい覚えた? じゃあ行こうか!」
『わふー!』
バスカーは走り出そうとして、ハッとして振り返った。
私とシャーロットは馬に乗ればいいけど、憲兵の二人は歩きだ。
バスカーはてくてくとゆっくり歩き始めた。
頭のいい子だ。
私のいつも乗っているこの馬も、頭がいい。
ハドソン号と言うんだけど、バスカーとはすっかり仲良しで、私がいないときは厩舎で色々お話をしているらしい。
ハドソン号は私が引かなくても、バスカーの後ろに続いてのんびり歩く。
こうして、徒歩で馬車が向かった先を目指すのだ。
ほどなくして、市場に到着した。
裏手に何台も馬車が停められていて、馬たちが飼い葉をもりもり食べている。
彼らはバスカーが現れると、ぎょっとした。
そこにハドソン号が出てきて、バスカーを鼻先でもふっと撫でる。
バスカーがハドソン号にむぎゅっと体を寄せる。
どうやらこの大きな犬は脅威では無いらしい、と馬たちが理解し、彼らは落ち着いた。
「ナイスよ、ハドソン号」
ぶるる、とハドソン号が鼻を鳴らす。
元軍場とは思えないほど、穏やかな気性の馬なのだ。
ということで、晴れて馬たちから脅威ではない認定を受けたバスカーが、馬車と馬を嗅いで回る。
『わふ』
「ここ? この馬車ね」
荷馬車を発見した。
この幌の上に死体がいたのだ。
どうやって死体を幌に乗せたのだろうか?
「ちょっと、馬車を改めたいのだけれどいい?」
馬車の持ち主か、あるいはその召使いらしき男性がいたので声を掛ける。
「ああ? なんだって俺の馬車を改めるって……ひぇっ、憲兵!!」
おっと、ここで憲兵お二人が役立った。
王都の憲兵は優秀で、とにかく仕事をする。
だから人々からも信頼されていて、同時に一切の忖度をしないので恐れられてもいるのだ。
これは、陛下が彼らのような保安機構にはたっぷりと給料を払うということをやっているお陰なのだ。
なので、憲兵はみんな高給取り。
裏で犯罪者と癒着することが起きにくいし、例え起きてもすぐに粛清される。
『わふわふ、わふ』
バスカーは私たちに呼びかけると、自ら飛び上がって幌の上に。
『わふ!』
「血がついているの?」
『わふー!』
私もハドソンの背中の上で立たせてもらい、幌の上を覗き込んでみた。
あー、べったりと血が。
彼は通過する馬車の上に、殺された跡で放り投げられたのだろうか。
そして港湾部で落下したと。
「馬車が通過してきた経路を確認する必要がありますわね」
シャーロットの目が光ったのだった。
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