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謎の下宿人事件
第182話 怪しい集団
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屋根の上を走っていく相手を、下から追いかける。
辺りはすっかり暗いし、見失ってしまいそうだ。
街灯がないところに逃げ込まれたらおしまいだな、と思う。
だがしかし。
シャーロットがどこからか、携帯用のマジックランタンを取り出す。
「こんなこともあろうかと、ですわ」
「やる気なかったみたいに見えたのに!」
「やる気のあるなし関係なく、備えておくと便利なのですわよ。ほら、見えましたわ!」
ランタンで周囲が明るくなると、道の先もよく見えるようになる。
こころなしか、屋根の上を走っていく影も分かりやすくなったような。
……あれ?
ひとりじゃない?
「一人ではありませんわねえ」
「やっぱりシャーロットにもそう見える?」
「んー? うーん?」
眼鏡のターナにはよく見えないらしく、目を細めたり、眼鏡をクイクイやったりしている。
無理しても見えないと思うなあ。
「ううっ、新聞記者なのに見えないなんて、悔しいですっ!!」
「やる気あるわねえ」
感心しつつ、人影を追いかける私たちなのだった。
いつまでも屋根の上を走ってはいられない。
この辺りの街区は、幾つかの家で区切られており、それぞれの間には広い街路が横たわっている。
どこかで降りなければ移動できないのだ。
それに平屋ばかりではないし。
私たちは、人気のない路地で屋根から降りてくる一団を発見した。
「見つけた!」
「しまった!」
ターナの叫びに、向こうが応じた。
素直に見つけたというものがあるか。
向こうがわあわあと迎撃の態勢を整えたところで、こちらからはシャーロットが肩を軽くストレッチしながら近づいていく。
一触即発!
今にもバリツで、人が空を飛ぶ……!
と思ったら。
「待ってくれ! 我々は怪しい者ではない!」
向こうからこんな声がしたのだ。
「怪しい者ではないって、見るからに怪しいじゃない! 屋根の上を走り回って、ターナの家の二階に住んでいる女の人と、光の信号でやり取りしてたでしょ」
「そ、それはそうだが。というか、あのやりとりを分かったのか!? うーむ」
「隊長、見られたからにはこのままにしておけないのでは」
「軽率なことを言うな! 国際問題になるだろう!」
おや? 身内でわあわあと騒ぎ出した。
これを見て、シャーロットがふむふむと頷いている。
「どうやら、皆様は外国からいらっしゃった方々のようですわね? お姿を拝見しますに、イリアノス神国からいらっしゃったのでしょう? あなたがたが手にしているランタンは、エルフェンバインのものとは規格が違いますわ。こちらは、精霊式のランタン」
シャーロットが持っていた携帯式の中では、炎の精霊ヴルカンが踊っている。
中に設置された魔法陣とおがくずが、ヴルカンを召喚して明かりにするのだ。
なお、ランタンが壊れると魔法陣も壊れるため、炎ごとヴルカンは消滅する。
だから放火には使えないという優れもの。
「そこまで分かっているとは……。ただの街人ではあるまい」
向こうの隊長と呼ばれた人物が誰何してくる。
すると、シャーロットがさっと体を傾けた。
その、私を指し示す手は何?
「こちらのお方は、ワトサップ辺境伯名代ジャネット様ですわ。ご安心なさい。次代の王妃と言われている彼女が直接に、皆様のお話を聞いてくださいますわよ」
「な、なんだってー!!」
隊長や他の者たちが、一斉に驚愕の叫びをあげた。
あまりに叫んだので、周りの家に住んでいる人たちが次々に顔を出す。
「あ、ジャネット様だ」
「シャーロット様もいるぞ!」
「ってことは今、推理してるのか!」
「ここ、現場じゃん!」
まずい!
わいわいと野次馬が出てくる!
「というか、私の顔はそこまで知られていたのか……」
「ジャネット様、ご自分がどれほど目立つのか、自覚なさったほうがよろしくてよ? ま、わたくしも目立つんですけれども」
「お二人が並んでいると映えますからね! 絶対に見間違うことはないですよー!」
ターナは実に嬉しそう。
だけど、こんな野次馬の中でお話をするわけにはいかない。
私はこの一団を引き連れて、ターナの家に撤退することにしたのだった。
どやどやと大人数でお仕掛けてきたので、ターナの母はびっくりしたようだった。
だが、すぐに笑顔になり、
「まあまあ! お茶をたくさん淹れないとね!」
と、奥に引っ込んでいった。
「母は大人数のお茶会が大好きなんです」
なるほど……!
さて、家の明かりの下で見た集団は、目立たぬようにエルフェンバインらしい平服に身を包んではいるものの……。
首から下げた聖印は誤魔化せない。
ラグナ新教の人々だ。
「ラグナ新教の聖堂騎士団の方々ですわよね? あなたがたが連絡を取りあっていたということは、上の階に住まう女性は……」
「そういうことです。お二方が噂のワトサップ辺境伯名代と、ラムズ侯爵令嬢であるならば、隠し立てすることは無駄でしょう」
苦笑する隊長。
「姫! 何もかも知れてしまいました!」
彼が声を発すると、上の階でバタバタという足音がした。
少しして、扉が開く音。
下宿人が、トコトコと階段を降りてくる。
あれ? 足音が多い?
最初に現れたのは、私たちが見た、バンダースナッチを纏わりつかせた美女だった。
そして彼女に続いて、小柄な女の子が姿を見せる。
「ばれてしまったの。うーん、エルフェンバイン観光もこれでおしまいかしら」
小柄な彼女は、金色のサラサラした髪を揺らし、かくんと首を傾げた。
「ラグナ新教は枢機卿のご息女、アドリアーナ様ですわね?」
「そうよ。よく分かったわねえ!」
シャーロットが彼女の名前を見事に言い当て、女の子は目を丸くするのだった。
辺りはすっかり暗いし、見失ってしまいそうだ。
街灯がないところに逃げ込まれたらおしまいだな、と思う。
だがしかし。
シャーロットがどこからか、携帯用のマジックランタンを取り出す。
「こんなこともあろうかと、ですわ」
「やる気なかったみたいに見えたのに!」
「やる気のあるなし関係なく、備えておくと便利なのですわよ。ほら、見えましたわ!」
ランタンで周囲が明るくなると、道の先もよく見えるようになる。
こころなしか、屋根の上を走っていく影も分かりやすくなったような。
……あれ?
ひとりじゃない?
「一人ではありませんわねえ」
「やっぱりシャーロットにもそう見える?」
「んー? うーん?」
眼鏡のターナにはよく見えないらしく、目を細めたり、眼鏡をクイクイやったりしている。
無理しても見えないと思うなあ。
「ううっ、新聞記者なのに見えないなんて、悔しいですっ!!」
「やる気あるわねえ」
感心しつつ、人影を追いかける私たちなのだった。
いつまでも屋根の上を走ってはいられない。
この辺りの街区は、幾つかの家で区切られており、それぞれの間には広い街路が横たわっている。
どこかで降りなければ移動できないのだ。
それに平屋ばかりではないし。
私たちは、人気のない路地で屋根から降りてくる一団を発見した。
「見つけた!」
「しまった!」
ターナの叫びに、向こうが応じた。
素直に見つけたというものがあるか。
向こうがわあわあと迎撃の態勢を整えたところで、こちらからはシャーロットが肩を軽くストレッチしながら近づいていく。
一触即発!
今にもバリツで、人が空を飛ぶ……!
と思ったら。
「待ってくれ! 我々は怪しい者ではない!」
向こうからこんな声がしたのだ。
「怪しい者ではないって、見るからに怪しいじゃない! 屋根の上を走り回って、ターナの家の二階に住んでいる女の人と、光の信号でやり取りしてたでしょ」
「そ、それはそうだが。というか、あのやりとりを分かったのか!? うーむ」
「隊長、見られたからにはこのままにしておけないのでは」
「軽率なことを言うな! 国際問題になるだろう!」
おや? 身内でわあわあと騒ぎ出した。
これを見て、シャーロットがふむふむと頷いている。
「どうやら、皆様は外国からいらっしゃった方々のようですわね? お姿を拝見しますに、イリアノス神国からいらっしゃったのでしょう? あなたがたが手にしているランタンは、エルフェンバインのものとは規格が違いますわ。こちらは、精霊式のランタン」
シャーロットが持っていた携帯式の中では、炎の精霊ヴルカンが踊っている。
中に設置された魔法陣とおがくずが、ヴルカンを召喚して明かりにするのだ。
なお、ランタンが壊れると魔法陣も壊れるため、炎ごとヴルカンは消滅する。
だから放火には使えないという優れもの。
「そこまで分かっているとは……。ただの街人ではあるまい」
向こうの隊長と呼ばれた人物が誰何してくる。
すると、シャーロットがさっと体を傾けた。
その、私を指し示す手は何?
「こちらのお方は、ワトサップ辺境伯名代ジャネット様ですわ。ご安心なさい。次代の王妃と言われている彼女が直接に、皆様のお話を聞いてくださいますわよ」
「な、なんだってー!!」
隊長や他の者たちが、一斉に驚愕の叫びをあげた。
あまりに叫んだので、周りの家に住んでいる人たちが次々に顔を出す。
「あ、ジャネット様だ」
「シャーロット様もいるぞ!」
「ってことは今、推理してるのか!」
「ここ、現場じゃん!」
まずい!
わいわいと野次馬が出てくる!
「というか、私の顔はそこまで知られていたのか……」
「ジャネット様、ご自分がどれほど目立つのか、自覚なさったほうがよろしくてよ? ま、わたくしも目立つんですけれども」
「お二人が並んでいると映えますからね! 絶対に見間違うことはないですよー!」
ターナは実に嬉しそう。
だけど、こんな野次馬の中でお話をするわけにはいかない。
私はこの一団を引き連れて、ターナの家に撤退することにしたのだった。
どやどやと大人数でお仕掛けてきたので、ターナの母はびっくりしたようだった。
だが、すぐに笑顔になり、
「まあまあ! お茶をたくさん淹れないとね!」
と、奥に引っ込んでいった。
「母は大人数のお茶会が大好きなんです」
なるほど……!
さて、家の明かりの下で見た集団は、目立たぬようにエルフェンバインらしい平服に身を包んではいるものの……。
首から下げた聖印は誤魔化せない。
ラグナ新教の人々だ。
「ラグナ新教の聖堂騎士団の方々ですわよね? あなたがたが連絡を取りあっていたということは、上の階に住まう女性は……」
「そういうことです。お二方が噂のワトサップ辺境伯名代と、ラムズ侯爵令嬢であるならば、隠し立てすることは無駄でしょう」
苦笑する隊長。
「姫! 何もかも知れてしまいました!」
彼が声を発すると、上の階でバタバタという足音がした。
少しして、扉が開く音。
下宿人が、トコトコと階段を降りてくる。
あれ? 足音が多い?
最初に現れたのは、私たちが見た、バンダースナッチを纏わりつかせた美女だった。
そして彼女に続いて、小柄な女の子が姿を見せる。
「ばれてしまったの。うーん、エルフェンバイン観光もこれでおしまいかしら」
小柄な彼女は、金色のサラサラした髪を揺らし、かくんと首を傾げた。
「ラグナ新教は枢機卿のご息女、アドリアーナ様ですわね?」
「そうよ。よく分かったわねえ!」
シャーロットが彼女の名前を見事に言い当て、女の子は目を丸くするのだった。
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