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サイサリス荘事件
第179話 奴はテロリスト
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そこまでシャーロットは情報を押さえていたのか、と私は驚いた。
いや、よく考えたらいつもの彼女ではないか。
事前にデストレードから、細かい話は聞いていたのかも知れない。
カマを掛けたら、見事に引っかかってきた偽管理人は傑作だったけれども。
彼は顔を赤くしたり青くしたりしていたが、物凄い形相を作って叫んだ。
「もういい! 俺を馬鹿にしているのか!」
扉を音高く締めて、鍵を掛ける音がする。
「逃げますわよ!」
シャーロットの声が号令になったように、憲兵たちが走り出した。
家を包囲する構えだ。
「うおおおー!!」
男の叫び声が聞こえた。
別荘の裏側から、空に向かって光の弾が飛ぶ。
「あれは魔道具ね」
「こちらはジャネット様の専門分野ですわね」
「ええ。蛮族が使ってきたのも似たようなものだもの。憲兵隊、盾になるものを持って! ちょっとずっしりくるくらいの木の板なら、一発で抜かれないから!」
私は声を張り上げながら、バスカーを連れて裏へと戻っていく。
そこでは、憲兵たちに向けて杖を振り回す偽管理人の姿があった。
もう、やけくそだなあ。
逃げる準備はしてなかったのか。
いや、あっという間に、ここまで大事になるとは思っていなかったんだろう。
「わたくしがデストレードにお願いしておきましたの。配備を厚くして下さいなって」
「慧眼!」
「だってこれ、聞いただけの情報からでも、国家を股にかけた話だって分かりますもの。逃がすわけには行きませんわよ」
「そうね。みんな! 包囲して! あの杖が魔法弾の発射装置だから。フルに弾が入ってるとして、残りは五発!」
「うおおおー!!」
偽管理人が焦りながら、杖を私に向ける。
そこに、盾を持った憲兵が割り込んだ。
デストレードだ。
彼女は発射された魔法弾を防ぎ止める。
「残り四発ですかね」
「ええ。あれって蛮族が使ってた杖と同じだもの。多分、裏の方で流れていったんだと思う。時間を掛けると再充填されてフルに使えるようになるけど、弾数は最大で六発。威力はまともに当たったら骨を折られるけど、盾で防げば問題ないわ」
「了解です。情報提供感謝ですよ。押し込めーっ!!」
デストレードの号令で、憲兵たちがうわーっと偽管理人に押し寄せる。
偽管理人はたちまちのうちに魔法弾を打ち切ってしまった。
だが、彼は諦めない。
詰めかけた盾の上に飛び上がり、そのまま人を踏み台にして逃げようとしたのだ。
結構身体能力も高いみたいだ。
「バスカー!」
『わふ!』
そこへ、我が家のバスカーが躍りかかった。
彼はあっという間に偽管理人を弾き飛ばすと、そのまま地面へ組み伏せてしまった。
『わふー』
「ウグワー!! な、なんだこいつ! 動けねえ……!」
「それはそうよ。ガルムの力を跳ね除けられるような人間なんて、あまりいないわ」
身動きできない偽管理人。
彼は憲兵たちによって、確保されたのだった。
その後、すぐに偽管理人が何者なのかが判明した。
アルマース帝国とイリアノス神国を股にかけて、国家転覆を狙ったテロリストらしい。
コーラキという名のその男は、イリアノスにて活動していたが、所属するテロリスト集団は冒険者パーティのグループによって壊滅させられ、各地を転々とした後にこの別荘に逃げ込んできたと。
たまたま無人だった、シナプス男爵の別荘に逃げ込むと、管理人でございという顔をして居座ったわけだ。
「アナベルさんは、テロリスト制圧の際、仲間を殺された冒険者だったのですわね。敵討ちのつもりで挑んだけれども、返り討ちに遭ってしまったのですわ。ですけど、彼女が残した情報で、ついにコーラキは逮捕されましたわ」
「そうねえ。大体、命を賭して……というのは無駄になることが多いけど、今回は命の使い所が正解だったわね」
「ジャネット様、そういうところですわよ、辺境仕草!」
「あ、いっけない」
久々に将軍っぽい動きをしたので、昔の私が戻ってきちゃうところだった。
今は平和な時代。
だからこそ、こうやってテロリストを捕縛できたことは喜ばしい。
アナベルのいたサイサリス荘はテシターノ子爵が買い取ることにしたそうだ。
「予算的に厳しいので、管理人を常駐はさせられませんけどね。こんな素晴らしいところを朽ちさせていてはもったいないですよ」
避暑の季節になったら、是非遊びに来て下さい、とテシターノ子爵は笑ったのだった。
王都へ戻る馬車の中、デストレードとシャーロットが話し込んでいた。
「コーラキがこちらに来たのは、いつくらいの? ああ、その時期はちょうど、ジャクリーンが王都で活発に活動するようになった頃合いですわね」
「別荘の中からも、複数の人間が生活をしていた跡が見つかりましたね。あそこを拠点にして、ジャクリーン一味が活動していたと見て間違いないでしょう」
「テロリストを王都周辺に呼び込んで、活用していましたのね。ただ、今回の彼は孤立無援だったことを見ると、ジャクリーン一味は以前やっつけた後、まだ元の力を取り戻せていないようですわねえ」
「幹部連中はみんな塀の中に送り込みましたからね。シャーロット嬢、またジャクリーンは大きな動きを見せますかね?」
「さあ……? 今の彼女の動き、わたくしたちへの意趣返しはやめて、個別の小さな犯罪をコンサルティングしているように見えますわ。狙いは分かりませんわね。あるいは、何も考えてないのかも」
ありうる……!
遠ざかるサイサリス荘を眺めながら、私は思うのだった。
いや、よく考えたらいつもの彼女ではないか。
事前にデストレードから、細かい話は聞いていたのかも知れない。
カマを掛けたら、見事に引っかかってきた偽管理人は傑作だったけれども。
彼は顔を赤くしたり青くしたりしていたが、物凄い形相を作って叫んだ。
「もういい! 俺を馬鹿にしているのか!」
扉を音高く締めて、鍵を掛ける音がする。
「逃げますわよ!」
シャーロットの声が号令になったように、憲兵たちが走り出した。
家を包囲する構えだ。
「うおおおー!!」
男の叫び声が聞こえた。
別荘の裏側から、空に向かって光の弾が飛ぶ。
「あれは魔道具ね」
「こちらはジャネット様の専門分野ですわね」
「ええ。蛮族が使ってきたのも似たようなものだもの。憲兵隊、盾になるものを持って! ちょっとずっしりくるくらいの木の板なら、一発で抜かれないから!」
私は声を張り上げながら、バスカーを連れて裏へと戻っていく。
そこでは、憲兵たちに向けて杖を振り回す偽管理人の姿があった。
もう、やけくそだなあ。
逃げる準備はしてなかったのか。
いや、あっという間に、ここまで大事になるとは思っていなかったんだろう。
「わたくしがデストレードにお願いしておきましたの。配備を厚くして下さいなって」
「慧眼!」
「だってこれ、聞いただけの情報からでも、国家を股にかけた話だって分かりますもの。逃がすわけには行きませんわよ」
「そうね。みんな! 包囲して! あの杖が魔法弾の発射装置だから。フルに弾が入ってるとして、残りは五発!」
「うおおおー!!」
偽管理人が焦りながら、杖を私に向ける。
そこに、盾を持った憲兵が割り込んだ。
デストレードだ。
彼女は発射された魔法弾を防ぎ止める。
「残り四発ですかね」
「ええ。あれって蛮族が使ってた杖と同じだもの。多分、裏の方で流れていったんだと思う。時間を掛けると再充填されてフルに使えるようになるけど、弾数は最大で六発。威力はまともに当たったら骨を折られるけど、盾で防げば問題ないわ」
「了解です。情報提供感謝ですよ。押し込めーっ!!」
デストレードの号令で、憲兵たちがうわーっと偽管理人に押し寄せる。
偽管理人はたちまちのうちに魔法弾を打ち切ってしまった。
だが、彼は諦めない。
詰めかけた盾の上に飛び上がり、そのまま人を踏み台にして逃げようとしたのだ。
結構身体能力も高いみたいだ。
「バスカー!」
『わふ!』
そこへ、我が家のバスカーが躍りかかった。
彼はあっという間に偽管理人を弾き飛ばすと、そのまま地面へ組み伏せてしまった。
『わふー』
「ウグワー!! な、なんだこいつ! 動けねえ……!」
「それはそうよ。ガルムの力を跳ね除けられるような人間なんて、あまりいないわ」
身動きできない偽管理人。
彼は憲兵たちによって、確保されたのだった。
その後、すぐに偽管理人が何者なのかが判明した。
アルマース帝国とイリアノス神国を股にかけて、国家転覆を狙ったテロリストらしい。
コーラキという名のその男は、イリアノスにて活動していたが、所属するテロリスト集団は冒険者パーティのグループによって壊滅させられ、各地を転々とした後にこの別荘に逃げ込んできたと。
たまたま無人だった、シナプス男爵の別荘に逃げ込むと、管理人でございという顔をして居座ったわけだ。
「アナベルさんは、テロリスト制圧の際、仲間を殺された冒険者だったのですわね。敵討ちのつもりで挑んだけれども、返り討ちに遭ってしまったのですわ。ですけど、彼女が残した情報で、ついにコーラキは逮捕されましたわ」
「そうねえ。大体、命を賭して……というのは無駄になることが多いけど、今回は命の使い所が正解だったわね」
「ジャネット様、そういうところですわよ、辺境仕草!」
「あ、いっけない」
久々に将軍っぽい動きをしたので、昔の私が戻ってきちゃうところだった。
今は平和な時代。
だからこそ、こうやってテロリストを捕縛できたことは喜ばしい。
アナベルのいたサイサリス荘はテシターノ子爵が買い取ることにしたそうだ。
「予算的に厳しいので、管理人を常駐はさせられませんけどね。こんな素晴らしいところを朽ちさせていてはもったいないですよ」
避暑の季節になったら、是非遊びに来て下さい、とテシターノ子爵は笑ったのだった。
王都へ戻る馬車の中、デストレードとシャーロットが話し込んでいた。
「コーラキがこちらに来たのは、いつくらいの? ああ、その時期はちょうど、ジャクリーンが王都で活発に活動するようになった頃合いですわね」
「別荘の中からも、複数の人間が生活をしていた跡が見つかりましたね。あそこを拠点にして、ジャクリーン一味が活動していたと見て間違いないでしょう」
「テロリストを王都周辺に呼び込んで、活用していましたのね。ただ、今回の彼は孤立無援だったことを見ると、ジャクリーン一味は以前やっつけた後、まだ元の力を取り戻せていないようですわねえ」
「幹部連中はみんな塀の中に送り込みましたからね。シャーロット嬢、またジャクリーンは大きな動きを見せますかね?」
「さあ……? 今の彼女の動き、わたくしたちへの意趣返しはやめて、個別の小さな犯罪をコンサルティングしているように見えますわ。狙いは分かりませんわね。あるいは、何も考えてないのかも」
ありうる……!
遠ざかるサイサリス荘を眺めながら、私は思うのだった。
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