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消えた私文書とジャクリーンの影事件
第174話 遭遇、ジャクリーン
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外に出てすぐに、近くの側溝に凶器を発見した。
ずさんな感じで投げ捨てられているから、慌てて隠した感じだろうか?
それは家の中のものを、麻袋に雑多に詰め込んだものだった。
これを振り回して殴ったわけか。
「女性の力でも、遠心力がつけば馬鹿になりませんもの。これならば大の男も一撃で昏倒しますし、当たりどころが悪ければ死体のように頭が割れますわねえ」
これも憲兵に見つけてもらうよう、触らずにそっとしておく。
「大事になってきてしまった……! 明らかに私文書を狙って、犯罪組織が動き出しているじゃないか」
ベルギウスが青くなった。
「大丈夫よ。ジャクリーンの組織は壊滅させたし、憲兵たちだって目を光らせているでしょ。彼女が新しい仲間を連れているとしても大した数じゃないわ」
「ジャネットはどうしてそんな断言ができるんだ?」
「勘ね。戦場に長くいたから、なんとなく敵の規模とかは分かるんだよね。ええと、言葉にすると……。奥さんを騙して使者を殺されたわけじゃない。組織力があるなら、数に物を言わせて押し入ってしまえば簡単だし確実でしょ」
「確かに。君もなんだか、シャーロット嬢みたいになってきたな」
「私は物騒な方向にしか頭が働かないからなあ……」
これはこれで問題だな、と我ながら思う。
「ジャネット様の考えには、わたくしも賛成ですわねえ。これ、失敗したら夫婦喧嘩の行き過ぎになってジャクリーンは表に浮上してこないでしょうし、それに使者の方が事を荒立てたりしないでしょう? 二重に保険を掛けた上で、どう転んでもあの性悪が楽しめる方になるよう、仕組まれていますわ」
なるほど、言われてみれば確かに。
これ、ジャクリーンが絶対に損をしないようになっているのだ。
「だったら私文書はどこに運ばれていったんだろう?」
「今、下町遊撃隊が奥方の交友関係を洗っていますわ。こういうのは地道な作業が大事ですものね」
私たちは、下町近辺をぶらぶら散歩するような形。
下町遊撃隊からの連絡を待っているのだ。
だけど、子どもたちが戻る前に、元凶がひょっこり現れた。
曲がり角から、ストロベリーブロンドのツーテールを揺らし、赤いドレスの彼女が姿を見せたのだ。
「あら、ごきげんよう。シャーロットにジャネット、元気なようね」
ジャクリーン・モリアータ。
彼女も驚いていた風だったから、私たちとの遭遇は計算外だったんだろう。
「出ましたわね。ここで仕留めてあげますわ」
「あらどうして? 今回の事件にあたしは表向き無関係だし、それにジャクリーンは滝壺に落ちて死んだでしょう? 公文書ではそういうことになっているから、死人はむしろ自由に動けるの」
楽しげにジャクリーンが笑った。
「でしたら、自由でいられるのは今この時までですわねえ。だって、あなたをわたくしたちが目撃しましたもの。ジャクリーンは生きていたと伝えますわ。その前に……あなたを捕らえますけれども」
「できるものならやってみなよ!」
ジャクリーンが手にしていた日傘を構える。
日傘の尖端から、槍のような刃が飛び出した。
シャーロットもバリツの態勢で飛びかかる。
うーん、二人が激しく争っているなあ。
「ジャネット! 加勢しないのかい!?」
「激しく二人が動き回ってるもの。私が入ったら、むしろ状況を混乱させるわ。それに、ジャクリーンは逃げる気満々でしょ。日傘に仕込んだ武器なんて、強度が弱いから虚仮威しくらいにしか使えないわ。ほら」
私たちの目の前で、シャーロットの肘と膝が仕込み槍を受け止め、そのまま挟み折った。
またバリツの腕を上げてる。
というか本当に、バリツってなんなんだろうなあ……。
仕込み槍が壊れた途端、そこから粉が吹き出した。
さらにジャクリーンが、どこからか煙幕みたいなものを取り出す。
「また会いましょう! 面白かったけど、あんたたちが顔を出してきたなら、この仕事はもう終わりだわ! せいぜい、私文書がこの町にあるうちに間に合えばいいわね!」
それだけ告げて、ジャクリーンは猛烈な速度で逃げていった。
速い速い。
彼女は馬か何かか。
「やれやれですわ。だけど彼女がああ言っていたということは、間違いなくこの近くに奥方が潜伏していますわね。それなら、もうすぐ連絡が来るはず」
シャーロットが周囲を見回した時だ。
「シャーロットさん!」
下町遊撃隊が駆けつけてきた。
「使者の奥さんが、闇市に入っていったって!」
「でかしましたわよ! 間違いなく、私文書を市に流して換金するつもりですわね!」
「なんだって! それは一大事だ! 場合によってはアルマース帝国との戦争になってしまうぞ!!」
ベルギウスが飛び上がるほど驚いた。
「ヤキメーシ氏の面子に傷をつけることになる! 例え勝ち目が無くても、彼は自らの体面のためにエルフェンバインに戦争を仕掛けてくるだろう……!」
「ああ、分かる。面子こそが何よりも大事っていうの、男はあるもんね」
私はうんうんと頷いた。
だから、ベルギウスが危惧することは実際に起こりうると思う。
うちの父ならやるし。
「なるほど。わたくしは殿方のそういうところよく分かりませんけど、ジャネット様も同意されているならそうなのでしょうね。何より、ジャクリーンの思い通りになるのは絶対に許せませんわ」
シャーロットがやる気を見せる。
とにかくジャクリーンが喜ぶことは絶対やりたくないのだ。
ということで、闇市へ!
事件はクライマックスに向かうのだ。
ずさんな感じで投げ捨てられているから、慌てて隠した感じだろうか?
それは家の中のものを、麻袋に雑多に詰め込んだものだった。
これを振り回して殴ったわけか。
「女性の力でも、遠心力がつけば馬鹿になりませんもの。これならば大の男も一撃で昏倒しますし、当たりどころが悪ければ死体のように頭が割れますわねえ」
これも憲兵に見つけてもらうよう、触らずにそっとしておく。
「大事になってきてしまった……! 明らかに私文書を狙って、犯罪組織が動き出しているじゃないか」
ベルギウスが青くなった。
「大丈夫よ。ジャクリーンの組織は壊滅させたし、憲兵たちだって目を光らせているでしょ。彼女が新しい仲間を連れているとしても大した数じゃないわ」
「ジャネットはどうしてそんな断言ができるんだ?」
「勘ね。戦場に長くいたから、なんとなく敵の規模とかは分かるんだよね。ええと、言葉にすると……。奥さんを騙して使者を殺されたわけじゃない。組織力があるなら、数に物を言わせて押し入ってしまえば簡単だし確実でしょ」
「確かに。君もなんだか、シャーロット嬢みたいになってきたな」
「私は物騒な方向にしか頭が働かないからなあ……」
これはこれで問題だな、と我ながら思う。
「ジャネット様の考えには、わたくしも賛成ですわねえ。これ、失敗したら夫婦喧嘩の行き過ぎになってジャクリーンは表に浮上してこないでしょうし、それに使者の方が事を荒立てたりしないでしょう? 二重に保険を掛けた上で、どう転んでもあの性悪が楽しめる方になるよう、仕組まれていますわ」
なるほど、言われてみれば確かに。
これ、ジャクリーンが絶対に損をしないようになっているのだ。
「だったら私文書はどこに運ばれていったんだろう?」
「今、下町遊撃隊が奥方の交友関係を洗っていますわ。こういうのは地道な作業が大事ですものね」
私たちは、下町近辺をぶらぶら散歩するような形。
下町遊撃隊からの連絡を待っているのだ。
だけど、子どもたちが戻る前に、元凶がひょっこり現れた。
曲がり角から、ストロベリーブロンドのツーテールを揺らし、赤いドレスの彼女が姿を見せたのだ。
「あら、ごきげんよう。シャーロットにジャネット、元気なようね」
ジャクリーン・モリアータ。
彼女も驚いていた風だったから、私たちとの遭遇は計算外だったんだろう。
「出ましたわね。ここで仕留めてあげますわ」
「あらどうして? 今回の事件にあたしは表向き無関係だし、それにジャクリーンは滝壺に落ちて死んだでしょう? 公文書ではそういうことになっているから、死人はむしろ自由に動けるの」
楽しげにジャクリーンが笑った。
「でしたら、自由でいられるのは今この時までですわねえ。だって、あなたをわたくしたちが目撃しましたもの。ジャクリーンは生きていたと伝えますわ。その前に……あなたを捕らえますけれども」
「できるものならやってみなよ!」
ジャクリーンが手にしていた日傘を構える。
日傘の尖端から、槍のような刃が飛び出した。
シャーロットもバリツの態勢で飛びかかる。
うーん、二人が激しく争っているなあ。
「ジャネット! 加勢しないのかい!?」
「激しく二人が動き回ってるもの。私が入ったら、むしろ状況を混乱させるわ。それに、ジャクリーンは逃げる気満々でしょ。日傘に仕込んだ武器なんて、強度が弱いから虚仮威しくらいにしか使えないわ。ほら」
私たちの目の前で、シャーロットの肘と膝が仕込み槍を受け止め、そのまま挟み折った。
またバリツの腕を上げてる。
というか本当に、バリツってなんなんだろうなあ……。
仕込み槍が壊れた途端、そこから粉が吹き出した。
さらにジャクリーンが、どこからか煙幕みたいなものを取り出す。
「また会いましょう! 面白かったけど、あんたたちが顔を出してきたなら、この仕事はもう終わりだわ! せいぜい、私文書がこの町にあるうちに間に合えばいいわね!」
それだけ告げて、ジャクリーンは猛烈な速度で逃げていった。
速い速い。
彼女は馬か何かか。
「やれやれですわ。だけど彼女がああ言っていたということは、間違いなくこの近くに奥方が潜伏していますわね。それなら、もうすぐ連絡が来るはず」
シャーロットが周囲を見回した時だ。
「シャーロットさん!」
下町遊撃隊が駆けつけてきた。
「使者の奥さんが、闇市に入っていったって!」
「でかしましたわよ! 間違いなく、私文書を市に流して換金するつもりですわね!」
「なんだって! それは一大事だ! 場合によってはアルマース帝国との戦争になってしまうぞ!!」
ベルギウスが飛び上がるほど驚いた。
「ヤキメーシ氏の面子に傷をつけることになる! 例え勝ち目が無くても、彼は自らの体面のためにエルフェンバインに戦争を仕掛けてくるだろう……!」
「ああ、分かる。面子こそが何よりも大事っていうの、男はあるもんね」
私はうんうんと頷いた。
だから、ベルギウスが危惧することは実際に起こりうると思う。
うちの父ならやるし。
「なるほど。わたくしは殿方のそういうところよく分かりませんけど、ジャネット様も同意されているならそうなのでしょうね。何より、ジャクリーンの思い通りになるのは絶対に許せませんわ」
シャーロットがやる気を見せる。
とにかくジャクリーンが喜ぶことは絶対やりたくないのだ。
ということで、闇市へ!
事件はクライマックスに向かうのだ。
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