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荘園の男爵夫人事件
第168話 男爵殺人事件?
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バラニク男爵が殺された、という話が伝わってきた。
今朝方の、デイリーエルフェンバインにそう書いてある。
どうやら昨夜未明のことらしいんだけど……よく印刷間に合ったなあ……。
印刷自体はエルド教の技術で、この新聞は契約している貴族や裕福な家に配られている。
あとは街頭のあちこちに記事の一面が貼られているくらい?
だけど、新聞の効果は絶大だ。
だってみんな、日々娯楽に飢えている。
毎日新聞を取るほどの収入は無くても、張り出されている場所に行けば読めるのだ。
「街角はすげえ人だかりですぜ。みんなゴシップが好きなんだよなあ」
朝の買い物から帰ってきたナイツが呆れている。
彼が抱えているのは、山盛りのパン。
うちはナイツの他に、下男のズドンもいるのでとにかく食材が減る。
辺境から連れてきた兵士たちは、みんな向こうに戻したんだけど……。
食費が減る気配があまりないなあ。
「何かあったのかよう! お祭りかよう?」
「そうじゃねえ。新聞っつってな。バラニク男爵が真っ二つになって殺されてたんだとよ。ほら、あのニクヤ荘園の持ち主の」
「町外れの荘園かよう? オリも一回行ってみたいんだよう!」
「じゃあ、どうせこれはシャーロットが顔を出すと思うから、今回はズドンも連れて行こうかな」
「やったあ!」
ズドンが飛び上がって喜んだ。
ムキムキの大男が子どもみたいにはしゃぐのは、迫力満点だ。
買ってきたパンでハムなどを挟んで朝食を終え、食後の紅茶をいただいてから私たちは出発することにした。
「やはりワトサップ辺境伯名代がお出になりますか!」
いきなり眼鏡を掛けた小柄な女性が飛び出してきた。
あぶなあい!
「こらあ! 危ないでしょう! あなたは確か、記者のターナ」
「はい! ターナです! 詳しい取材をしたかったんです! 同道しても……?」
「別にいいけれど。あなた凄い度胸ね」
「やったあ! そうじゃなければ新聞記者なんて務まりませんから!」
ズドンと同じ喜び方をする人だな。
彼女は乗り込むと、馬車の中で大人しく座っているズドンを見てギョッとした。
それからすぐに、メモ帳をぱらぱらやりながら彼の隣に腰掛ける。
「ネフリティス王国のオケアノスの約定事件の容疑者になって、そこで生まれた縁からジャネット様に雇われたズドンさんですね!!」
「オ、オリのことを知ってるのかよう!? お嬢様、こいつ物知りだよう!」
「新聞記者だからねえ……」
ものすごく馬車が賑やかになってしまった。
わいわい騒ぎながら、私たちは下町へ。
そして当然のごとく、シャーロット邸の前にはシャーロットがいた。
「いつものお出迎えね」
「ええ。ですけれど今日は、デストレードが朝一番で報告に来ましたのよ。『事件は一応解決しましたが、しかし明らかにおかしい点が多いんですよね』とわたくしに告げましたの。これは、わたくしの知恵を借りたいと言っているようなものではありませんの」
「露骨にシャーロットの出動要請よね。よし、それじゃあ乗って」
「ええ! ……今日は妙に馬車が狭いですわね……」
流石にシャーロットも、馬車の中に三人も詰まっているとは思わなかったらしい。
「車輪がちょっと蛇行していましたから、馬車の調子が悪いのか、それとも重い荷物を運んでいるのかとは思いましたが」
「オリだよう!」
「私です!!」
うちの下男と新聞記者が元気元気。
ぎゅうぎゅうになった馬車を引っ張りつつ、我が家の馬は快調に飛ばした。
あっという間に、ニクヤ荘園へ到着する。
荘園というのは私有の農地のことで、王都にはこれを持っている貴族が何人かいる。
彼らは大概、古参の貴族であったり、王都ができるまえにここに土地を持っていた貴族であったりする。
特別に許されて、王都近くに荘園を持つことを許されているわけだ。
そんな一人であるバラニク男爵がどうして殺されたのだろうか?
馬車が到着すると、憲兵たちがすぐに道を開けてくれた。
「ワトサップ家の馬車だ」
「どうぞどうぞ」
「やあ、シャーロット様もいるぞ」
「今回もお願いします」
なんという他力本願。
だけど、話が早くていい。
あまりに話が早いので、記者のターナが感動している。
「す、す、す、素晴らしいです! 憲兵たちからの圧倒的信頼感! お二人が積み重ねてきたものが今、こうやって生きているのですねえ!」
「私たちの趣味の結果みたいなものなんだけどね……!」
そんな立派な志があるわけではない、私とシャーロットである。
ズドンは目をきらきらさせて、窓から荘園を覗いている。
逆側の窓から外を眺めるシャーロットは、妙に静かだ。
「どうしたの? 何か気になるものがある?」
「ええ。なんというか違和感がありますわねえ……。もうすぐ冬になろうかという季節なのに、妙にこの荘園は暖かで……それに木々は青々としている……」
「そう言えば。ここだけ春の陽気みたいな」
ポカポカとしている。
憲兵たちも腕まくりをして、汗をかいたりしているではないか。
これは何か、理由があるんだろうか?
馬車は、男爵の屋敷前で停まる。
出迎えたのはデストレードと、部下たちだった。
「到着早々ですみませんが、ちょっとこちらに来て下さい。男爵夫人に会ってもらいたいのです」
「はいはい」
彼女に案内されていくと、荘園に面したテラスに、黒いドレス姿の婦人がいた。
彼女の姿を見て、私はむむ、と唸る。
ナイツも唸った。
「ねえ、もしかして、バラニク男爵夫人って……蛮族の人?」
「はい、そのとおりですよ」
デストレードが指し示した彼女は、私がよく知る蛮族と同じ目をしていたのだった。
今朝方の、デイリーエルフェンバインにそう書いてある。
どうやら昨夜未明のことらしいんだけど……よく印刷間に合ったなあ……。
印刷自体はエルド教の技術で、この新聞は契約している貴族や裕福な家に配られている。
あとは街頭のあちこちに記事の一面が貼られているくらい?
だけど、新聞の効果は絶大だ。
だってみんな、日々娯楽に飢えている。
毎日新聞を取るほどの収入は無くても、張り出されている場所に行けば読めるのだ。
「街角はすげえ人だかりですぜ。みんなゴシップが好きなんだよなあ」
朝の買い物から帰ってきたナイツが呆れている。
彼が抱えているのは、山盛りのパン。
うちはナイツの他に、下男のズドンもいるのでとにかく食材が減る。
辺境から連れてきた兵士たちは、みんな向こうに戻したんだけど……。
食費が減る気配があまりないなあ。
「何かあったのかよう! お祭りかよう?」
「そうじゃねえ。新聞っつってな。バラニク男爵が真っ二つになって殺されてたんだとよ。ほら、あのニクヤ荘園の持ち主の」
「町外れの荘園かよう? オリも一回行ってみたいんだよう!」
「じゃあ、どうせこれはシャーロットが顔を出すと思うから、今回はズドンも連れて行こうかな」
「やったあ!」
ズドンが飛び上がって喜んだ。
ムキムキの大男が子どもみたいにはしゃぐのは、迫力満点だ。
買ってきたパンでハムなどを挟んで朝食を終え、食後の紅茶をいただいてから私たちは出発することにした。
「やはりワトサップ辺境伯名代がお出になりますか!」
いきなり眼鏡を掛けた小柄な女性が飛び出してきた。
あぶなあい!
「こらあ! 危ないでしょう! あなたは確か、記者のターナ」
「はい! ターナです! 詳しい取材をしたかったんです! 同道しても……?」
「別にいいけれど。あなた凄い度胸ね」
「やったあ! そうじゃなければ新聞記者なんて務まりませんから!」
ズドンと同じ喜び方をする人だな。
彼女は乗り込むと、馬車の中で大人しく座っているズドンを見てギョッとした。
それからすぐに、メモ帳をぱらぱらやりながら彼の隣に腰掛ける。
「ネフリティス王国のオケアノスの約定事件の容疑者になって、そこで生まれた縁からジャネット様に雇われたズドンさんですね!!」
「オ、オリのことを知ってるのかよう!? お嬢様、こいつ物知りだよう!」
「新聞記者だからねえ……」
ものすごく馬車が賑やかになってしまった。
わいわい騒ぎながら、私たちは下町へ。
そして当然のごとく、シャーロット邸の前にはシャーロットがいた。
「いつものお出迎えね」
「ええ。ですけれど今日は、デストレードが朝一番で報告に来ましたのよ。『事件は一応解決しましたが、しかし明らかにおかしい点が多いんですよね』とわたくしに告げましたの。これは、わたくしの知恵を借りたいと言っているようなものではありませんの」
「露骨にシャーロットの出動要請よね。よし、それじゃあ乗って」
「ええ! ……今日は妙に馬車が狭いですわね……」
流石にシャーロットも、馬車の中に三人も詰まっているとは思わなかったらしい。
「車輪がちょっと蛇行していましたから、馬車の調子が悪いのか、それとも重い荷物を運んでいるのかとは思いましたが」
「オリだよう!」
「私です!!」
うちの下男と新聞記者が元気元気。
ぎゅうぎゅうになった馬車を引っ張りつつ、我が家の馬は快調に飛ばした。
あっという間に、ニクヤ荘園へ到着する。
荘園というのは私有の農地のことで、王都にはこれを持っている貴族が何人かいる。
彼らは大概、古参の貴族であったり、王都ができるまえにここに土地を持っていた貴族であったりする。
特別に許されて、王都近くに荘園を持つことを許されているわけだ。
そんな一人であるバラニク男爵がどうして殺されたのだろうか?
馬車が到着すると、憲兵たちがすぐに道を開けてくれた。
「ワトサップ家の馬車だ」
「どうぞどうぞ」
「やあ、シャーロット様もいるぞ」
「今回もお願いします」
なんという他力本願。
だけど、話が早くていい。
あまりに話が早いので、記者のターナが感動している。
「す、す、す、素晴らしいです! 憲兵たちからの圧倒的信頼感! お二人が積み重ねてきたものが今、こうやって生きているのですねえ!」
「私たちの趣味の結果みたいなものなんだけどね……!」
そんな立派な志があるわけではない、私とシャーロットである。
ズドンは目をきらきらさせて、窓から荘園を覗いている。
逆側の窓から外を眺めるシャーロットは、妙に静かだ。
「どうしたの? 何か気になるものがある?」
「ええ。なんというか違和感がありますわねえ……。もうすぐ冬になろうかという季節なのに、妙にこの荘園は暖かで……それに木々は青々としている……」
「そう言えば。ここだけ春の陽気みたいな」
ポカポカとしている。
憲兵たちも腕まくりをして、汗をかいたりしているではないか。
これは何か、理由があるんだろうか?
馬車は、男爵の屋敷前で停まる。
出迎えたのはデストレードと、部下たちだった。
「到着早々ですみませんが、ちょっとこちらに来て下さい。男爵夫人に会ってもらいたいのです」
「はいはい」
彼女に案内されていくと、荘園に面したテラスに、黒いドレス姿の婦人がいた。
彼女の姿を見て、私はむむ、と唸る。
ナイツも唸った。
「ねえ、もしかして、バラニク男爵夫人って……蛮族の人?」
「はい、そのとおりですよ」
デストレードが指し示した彼女は、私がよく知る蛮族と同じ目をしていたのだった。
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