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かしまし三人女学生事件

第158話 やられたら倍返し

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 ヴァイスシュタットに来てから、ケイ教授が女学生に人気だという話はよく聞いていた。
 対して、親友たるオーシレイが女子に人気がない……というわけではない。

 私の前の婚約者であり、今は辺境で一兵士になっているコイニキールほどの親しみやすさはないものの、一見して知的で冷徹な雰囲気を纏い、顔立ちはコイニキールに負けぬほど整っている。
 背丈はむしろ高い。

 ということで、彼を連れて町を行けば自然、女性たちからの注目を浴びることになる。
 これは好都合。
 何故か彼がいれば、私に声を掛けてくる男の数もなくなるし。

「ちょっとよろしいですかしら?」

 オーシレイに見とれていた女性に、シャーロットが声を掛けた。
 聞き込み開始だ。

 ヴァイスシュタットの人々は、なぜか私たちへの好感度が高い。
 女性はオーシレイにみとれてるんだろうけれど、男性はよく分からないな。
 なんで私を見るのだ。

「面白いように情報が集まりますわね! 多少盛っているであろうものも多いですけれど」

 先程から、私たちを前面に出しながら聞き込みを続けていたシャーロット。
 ほくほく顔をしている。

「お二人が一緒だと助かりますわ! 持つべきものは美男美女の友人ですわね!」

「それと聞き込みと何の関係が……?」

 分からないけれど、シャーロットが上手く行っているならいいか。
 ちなみに子どもたちにはバスカーとピーターが人気だ。

 大きいもふもふと、小さいもふもふのコンビは、どんな子どもたちでも笑顔になる。
 親子連れもまとめて陥落だ。

 ということで……。
 アカデミー併設のカフェで情報を整理することにする。

「アイーナさんはヴァイスシュタット最大の商家のお嬢さんですわね。ミランダさんはイリアノス発の海運業の重役のお嬢さん。セレーナさんはアルマースの貴族の令嬢ですわ」

「みんなそれなりの立場ね」

「こういうのはな、錚々たる面々と言うのだ。なるほど、どれもがこの国の経済にがっちりと食い込んでいる連中の血族か。ケイめ、そんな娘たちをたらしこんでいるとはな。昔から変わらん」

 昔から女子には人気だったのか。

「彼がああやって、権力者の娘を引きつけることで、ヴァイスシュタットの益になっている部分も多いだろう。研究者としての実力は二流だからな。あの男の戦場は社交界だ」

 こう見えて実務畑のオーシレイとは、真逆のようなお人だ。
 とにかく、ケイ教授に惚れ込んでいる三人娘が、宿に圧力を掛けられる立場であることがはっきりした。

「ではわたくし、ちょっとその辺りを探って参りますわね。宿と繋がりがあるのはどの方なのか? あるいは、三国の境を超えてジャネット様を倒すため、お三方が手を結んだのか……」

 おほほほほ、と楽しげに笑いつつ、シャーロットは去っていった。
 ここには下町遊撃隊がいないから、全部彼女がやるわけだ。
 でも、エンジョイしてるなあ。

「俺たちはどうする? 独自に調べるか?」

「私たちだと目立ちません? 殿下、さっきから注目されてばかりじゃないですか」

「お前に注がれる無遠慮な視線を遮るために、盾になった。やれやれ、この町ではおちおち散歩もしていられんな」

 オーシレイが肩を竦めてため息をつくと、遠巻きに彼を見ていたらしい女子から、キャーッと黄色い歓声が上がった。
 大人気じゃないか。

「では人目につかないところに行きません? 具体的には……ケイ教授の研究室へ」

「よかろう」

 私たちは、席を立つと、事件のきっかけとなった人物の部屋へ向かった。

「オーシレイ! 大変なことが起きたんだ! 試験の答案が盗まれてしまったんだよ!」

 研究室に到着するなり、ケイ教授が慌てた様子で言った。
 ここだけ、お話の展開が遅れてるな?

「安心しろ。答案ならあった」

「どこに?」

「俺たちの部屋の前だ。何者かが、俺たちに答案を盗んだという嫌疑を掛けさせようと仕組んだのだろう」

「な……なんだって……!? なんて命知らずな……!!」

 ケイ教授の顔が青くなった。
 私は人の顔色を見て、本気かどうかはある程度分かる。
 これは本気で焦っている。

「オーシレイ、信じてくれ。僕は関係ない。だから投獄はしないでくれ」

「陛下のあらぬ噂を聞いたな? イニアナガ陛下は罪に対して厳罰を科す方だが、疑わしいだけであれば罰することはない。それとも、これはお前が仕組んだのか? 違うだろう? 俺の親友は、そんな馬鹿げたことをする男ではないと信じているが」

「もちろんだ! 中に入ってくれ」

 ケイ教授に招かれた私たち。
 研究室内が荒らされていることに気付く。

 書類の山があちこちにあったのだが、それが崩れて書類の雪崩が床まで侵食しているのだ。
 そして……。

「あれ、足跡」

 机の上に付けられた足跡に、私は気づいた。
 使い込まれた机だから、表面はちょっと劣化してきているのだけど、だからこそ何者かが踏みしめた靴跡が、はっきりと残っている。

 これは、シャーロットに知らせるべき案件だろう。
 下町遊撃隊がいないのなら……。
 そう、私が直接教えに行かねばなるまい。

「ちょっと行ってくるわね」

「どこへだ? 危ないから学外に出るなよ」

「もちろん。きっとシャーロットは、アカデミーの中で調べ物をやっているはずだもの」

 私は研究室を飛び出したのだった。

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