157 / 225
かしまし三人女学生事件
第157話 やっと事件が始まる
しおりを挟む
エルフェンバインの女学生はアイーナ。
イリアノスの女学生はミランダ。
アルマースの女学生はセレーナ。
この三人は、私を強敵と認めたようだ。
なんでなの。
その後、オーシレイとケイ教授が話し合っている間も、三人は私に燃えるような視線を投げかけてきていた。
「無知ということは恐ろしいことですわねえ」
シャーロットがぼそりと言っていたんだけど、それはどういう意味かね。
「大体、傍目からは私はオーシレイの婚約者的な感じだと見られるものじゃないの?」
「それはですわねジャネット様。今ヴァイスシュタットで流行っている読み物で、とある貴族の令嬢が不遇な立場になるのですけれど、そこに令嬢を愛する王子が現れて彼女の窮地を救い、そして次々とお顔のよろしい殿方が現れ、令嬢の愛を得るためにアプローチしてくる系のお話があるのですわ」
「ふむふむ」
「その令嬢をジャネット様に見立てて危機感を覚えているのですわね。三名が臨時で同盟を組むくらいには」
「なんで」
解せぬ。
だけど私は敵視されてそのまま大人しくしているようなタイプではない。
臨戦状態でお待ちしていよう。
宿の部屋はシャーロットと同室にしてもらい、午後はヴァイスシュタット観光などをしながら過ごした私たち。
翌朝のことなのだが……。
宿の扉の前に、謎の紙が置かれていた。
「これは一体……?」
「シャーロット、床に落ちてるものなんでも拾ったらだめよ」
「気になりますもの。ふむふむ……。おやおや? これは試験の答案ですわねえ」
「試験の? それってつまり、アカデミーの試験でしょ。どうしてそんなものがここにあるの?」
「ふむ、これは……事件の香りですわね。おそらくここからきっと」
シャーロットがぶつぶつ呟いたと思ったら、宿の下からドタドタという足音が聞こえてきた。
「困ります! 憲兵隊とは言えど、ここは貴人の泊まられる宿です!」
「通報があったのだ! ここにアカデミーの試験答案を盗んだものがいると!」
私とシャーロットは、顔を見合わせた。
「なーるほど」
「なるほどですわねえ」
私が指笛を鳴らすと、下がわあわあと騒がしくなる。
馬小屋に預けておいたバスカーがやって来たんだろう。
彼はあっという間に私の前に来ると、ぺたんと腹ばいになった。
「バスカー、おはようー。よく眠れた?」
『わふ!!』
バスカーの声を聞いて、向かいにある部屋から小さいものが飛び出してきた。
カーバンクルのピーターだ。
『ちゅっちゅー!』
『わふわふー』
二匹がおはようを言い合っている。
「なんだ、もう朝食か? 早いのだな」
オーシレイも出てきた。
ここは宿の最上階で、本来ならばロイヤルスイートルームが一つしか無い。
そこを、私とシャーロットのために部屋分けをしてもらったわけだ。
憲兵隊がすぐ下の階までやって来た音がする。
そして、さすがに躊躇しているようだ。
「ええ……この上、ロイヤルスイートだろ」
「オーシレイ殿下が宿泊されているわけじゃないか」
「そんなところに踏み込んだら反逆罪で俺たちが投獄されそう……」
よく分かっていらっしゃる。
結局、恐る恐るやって来た憲兵隊と、宿の支配人。
「ほう、つまり、試験の答案をこのワトサップ辺境伯の名代であるジャネットが盗んだと? そう言うのだな? 彼女が俺の特別な同伴者であることを知って、そう言うわけか」
今さらっと既成事実にしようとした?
「は、はあ……その……。通報があったので、無視するわけにはいかず」
「馬鹿者! 今回は見逃してやる。帰るがいい」
「はっ、はいっ!!」
憲兵たちは飛び上がり、脱兎のごとく去っていった。
なるほど……。
王族らしいところもあるのだなあ……。
そして朝食時。
「ではわたくしの推理を披露しますわね。まだ材料がほとんど無いので、ほとんど推測ですけれども」
食後の紅茶をいただきながら、シャーロットが口を開いた。
「まず、これは昨日、あのお三方がジャネット様へ穏やかではない眼差しを向けていたことに端を発しますわね」
「やっぱり」
「なん……だと……」
オーシレイ、全然気づいてなかったらしい。
「宿の方々にはそれとなく伺ったのですけれども、ロイヤルスイートまで部外者が入ってくることはありえないそうですわ」
「ふんふん、それって……」
「ええ。つまりこれは、内部犯によるものでしょうね。ですけれど、動機がありませんし、何よりモノが試験の答案でしょう?」
「そうねえ……。なんだか負うリスクに対して、あまりにもモノがしょぼいというか……」
こう、平和ボケしたお子さんの発想というか。
私でも、このやり方を思いついたのは、あの三人娘だろうなあという予測がつく。
「この宿に、彼女たちが自由に動かせる人物がいると考えるのが自然ですわね。これは一時間か二時間もあれば割り出せますわ」
「凄い調査力」
「だって、犯行の手段はもう分かりましたもの。アカデミーでお会いしたお三方は、それぞれヴァイスシュタットの経済に深く関わった家柄なのでしょう? そうでもなければ、あの繋がりは持てませんわ」
「確かに、アカデミーに通う子女は裕福な家の子ばかりだ。入学の条件に家柄があるからな」
ここはシャーロットの推測通りというわけだ。
「よし、それじゃあ動きましょ! 私、やられたことは徹底的にやり返さないと気がすまないの」
「ええ、やりましょう!」
「よし!」
オーシレイまでやる気満々で立ち上がった。
さあ、反撃開始なのだ。
イリアノスの女学生はミランダ。
アルマースの女学生はセレーナ。
この三人は、私を強敵と認めたようだ。
なんでなの。
その後、オーシレイとケイ教授が話し合っている間も、三人は私に燃えるような視線を投げかけてきていた。
「無知ということは恐ろしいことですわねえ」
シャーロットがぼそりと言っていたんだけど、それはどういう意味かね。
「大体、傍目からは私はオーシレイの婚約者的な感じだと見られるものじゃないの?」
「それはですわねジャネット様。今ヴァイスシュタットで流行っている読み物で、とある貴族の令嬢が不遇な立場になるのですけれど、そこに令嬢を愛する王子が現れて彼女の窮地を救い、そして次々とお顔のよろしい殿方が現れ、令嬢の愛を得るためにアプローチしてくる系のお話があるのですわ」
「ふむふむ」
「その令嬢をジャネット様に見立てて危機感を覚えているのですわね。三名が臨時で同盟を組むくらいには」
「なんで」
解せぬ。
だけど私は敵視されてそのまま大人しくしているようなタイプではない。
臨戦状態でお待ちしていよう。
宿の部屋はシャーロットと同室にしてもらい、午後はヴァイスシュタット観光などをしながら過ごした私たち。
翌朝のことなのだが……。
宿の扉の前に、謎の紙が置かれていた。
「これは一体……?」
「シャーロット、床に落ちてるものなんでも拾ったらだめよ」
「気になりますもの。ふむふむ……。おやおや? これは試験の答案ですわねえ」
「試験の? それってつまり、アカデミーの試験でしょ。どうしてそんなものがここにあるの?」
「ふむ、これは……事件の香りですわね。おそらくここからきっと」
シャーロットがぶつぶつ呟いたと思ったら、宿の下からドタドタという足音が聞こえてきた。
「困ります! 憲兵隊とは言えど、ここは貴人の泊まられる宿です!」
「通報があったのだ! ここにアカデミーの試験答案を盗んだものがいると!」
私とシャーロットは、顔を見合わせた。
「なーるほど」
「なるほどですわねえ」
私が指笛を鳴らすと、下がわあわあと騒がしくなる。
馬小屋に預けておいたバスカーがやって来たんだろう。
彼はあっという間に私の前に来ると、ぺたんと腹ばいになった。
「バスカー、おはようー。よく眠れた?」
『わふ!!』
バスカーの声を聞いて、向かいにある部屋から小さいものが飛び出してきた。
カーバンクルのピーターだ。
『ちゅっちゅー!』
『わふわふー』
二匹がおはようを言い合っている。
「なんだ、もう朝食か? 早いのだな」
オーシレイも出てきた。
ここは宿の最上階で、本来ならばロイヤルスイートルームが一つしか無い。
そこを、私とシャーロットのために部屋分けをしてもらったわけだ。
憲兵隊がすぐ下の階までやって来た音がする。
そして、さすがに躊躇しているようだ。
「ええ……この上、ロイヤルスイートだろ」
「オーシレイ殿下が宿泊されているわけじゃないか」
「そんなところに踏み込んだら反逆罪で俺たちが投獄されそう……」
よく分かっていらっしゃる。
結局、恐る恐るやって来た憲兵隊と、宿の支配人。
「ほう、つまり、試験の答案をこのワトサップ辺境伯の名代であるジャネットが盗んだと? そう言うのだな? 彼女が俺の特別な同伴者であることを知って、そう言うわけか」
今さらっと既成事実にしようとした?
「は、はあ……その……。通報があったので、無視するわけにはいかず」
「馬鹿者! 今回は見逃してやる。帰るがいい」
「はっ、はいっ!!」
憲兵たちは飛び上がり、脱兎のごとく去っていった。
なるほど……。
王族らしいところもあるのだなあ……。
そして朝食時。
「ではわたくしの推理を披露しますわね。まだ材料がほとんど無いので、ほとんど推測ですけれども」
食後の紅茶をいただきながら、シャーロットが口を開いた。
「まず、これは昨日、あのお三方がジャネット様へ穏やかではない眼差しを向けていたことに端を発しますわね」
「やっぱり」
「なん……だと……」
オーシレイ、全然気づいてなかったらしい。
「宿の方々にはそれとなく伺ったのですけれども、ロイヤルスイートまで部外者が入ってくることはありえないそうですわ」
「ふんふん、それって……」
「ええ。つまりこれは、内部犯によるものでしょうね。ですけれど、動機がありませんし、何よりモノが試験の答案でしょう?」
「そうねえ……。なんだか負うリスクに対して、あまりにもモノがしょぼいというか……」
こう、平和ボケしたお子さんの発想というか。
私でも、このやり方を思いついたのは、あの三人娘だろうなあという予測がつく。
「この宿に、彼女たちが自由に動かせる人物がいると考えるのが自然ですわね。これは一時間か二時間もあれば割り出せますわ」
「凄い調査力」
「だって、犯行の手段はもう分かりましたもの。アカデミーでお会いしたお三方は、それぞれヴァイスシュタットの経済に深く関わった家柄なのでしょう? そうでもなければ、あの繋がりは持てませんわ」
「確かに、アカデミーに通う子女は裕福な家の子ばかりだ。入学の条件に家柄があるからな」
ここはシャーロットの推測通りというわけだ。
「よし、それじゃあ動きましょ! 私、やられたことは徹底的にやり返さないと気がすまないの」
「ええ、やりましょう!」
「よし!」
オーシレイまでやる気満々で立ち上がった。
さあ、反撃開始なのだ。
0
お気に入りに追加
441
あなたにおすすめの小説
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
悪役令嬢の矜持〜世界が望む悪役令嬢を演じればよろしいのですわね〜
白雲八鈴
ファンタジー
「貴様との婚約は破棄だ!」
はい、なんだか予想通りの婚約破棄をいただきました。ありきたりですわ。もう少し頭を使えばよろしいのに。
ですが、なんと世界の強制力とは恐ろしいものなのでしょう。
いいでしょう!世界が望むならば、悪役令嬢という者を演じて見せましょう。
さて、悪役令嬢とはどういう者なのでしょうか?
*作者の目が節穴のため誤字脱字は存在します。
*n番煎じの悪役令嬢物です。軽い感じで読んでいただければと思います。
*小説家になろう様でも投稿しております。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
下げ渡された婚約者
相生紗季
ファンタジー
マグナリード王家第三王子のアルフレッドは、優秀な兄と姉のおかげで、政務に干渉することなく気ままに過ごしていた。
しかしある日、第一王子である兄が言った。
「ルイーザとの婚約を破棄する」
愛する人を見つけた兄は、政治のために決められた許嫁との婚約を破棄したいらしい。
「あのルイーザが受け入れたのか?」
「代わりの婿を用意するならという条件付きで」
「代わり?」
「お前だ、アルフレッド!」
おさがりの婚約者なんて聞いてない!
しかもルイーザは誰もが畏れる冷酷な侯爵令嬢。
アルフレッドが怯えながらもルイーザのもとへと訪ねると、彼女は氷のような瞳から――涙をこぼした。
「あいつは、僕たちのことなんかどうでもいいんだ」
「ふたりで見返そう――あいつから王位を奪うんだ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる