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かしまし三人女学生事件

第157話 やっと事件が始まる

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 エルフェンバインの女学生はアイーナ。
 イリアノスの女学生はミランダ。
 アルマースの女学生はセレーナ。

 この三人は、私を強敵と認めたようだ。 
 なんでなの。

 その後、オーシレイとケイ教授が話し合っている間も、三人は私に燃えるような視線を投げかけてきていた。

「無知ということは恐ろしいことですわねえ」

 シャーロットがぼそりと言っていたんだけど、それはどういう意味かね。

「大体、傍目からは私はオーシレイの婚約者的な感じだと見られるものじゃないの?」

「それはですわねジャネット様。今ヴァイスシュタットで流行っている読み物で、とある貴族の令嬢が不遇な立場になるのですけれど、そこに令嬢を愛する王子が現れて彼女の窮地を救い、そして次々とお顔のよろしい殿方が現れ、令嬢の愛を得るためにアプローチしてくる系のお話があるのですわ」

「ふむふむ」

「その令嬢をジャネット様に見立てて危機感を覚えているのですわね。三名が臨時で同盟を組むくらいには」

「なんで」

 解せぬ。
 だけど私は敵視されてそのまま大人しくしているようなタイプではない。
 臨戦状態でお待ちしていよう。

 宿の部屋はシャーロットと同室にしてもらい、午後はヴァイスシュタット観光などをしながら過ごした私たち。
 翌朝のことなのだが……。

 宿の扉の前に、謎の紙が置かれていた。

「これは一体……?」

「シャーロット、床に落ちてるものなんでも拾ったらだめよ」

「気になりますもの。ふむふむ……。おやおや? これは試験の答案ですわねえ」

「試験の? それってつまり、アカデミーの試験でしょ。どうしてそんなものがここにあるの?」

「ふむ、これは……事件の香りですわね。おそらくここからきっと」

 シャーロットがぶつぶつ呟いたと思ったら、宿の下からドタドタという足音が聞こえてきた。

「困ります! 憲兵隊とは言えど、ここは貴人の泊まられる宿です!」

「通報があったのだ! ここにアカデミーの試験答案を盗んだものがいると!」

 私とシャーロットは、顔を見合わせた。

「なーるほど」

「なるほどですわねえ」

 私が指笛を鳴らすと、下がわあわあと騒がしくなる。
 馬小屋に預けておいたバスカーがやって来たんだろう。
 彼はあっという間に私の前に来ると、ぺたんと腹ばいになった。

「バスカー、おはようー。よく眠れた?」

『わふ!!』

 バスカーの声を聞いて、向かいにある部屋から小さいものが飛び出してきた。
 カーバンクルのピーターだ。

『ちゅっちゅー!』

『わふわふー』

 二匹がおはようを言い合っている。

「なんだ、もう朝食か? 早いのだな」

 オーシレイも出てきた。
 ここは宿の最上階で、本来ならばロイヤルスイートルームが一つしか無い。
 そこを、私とシャーロットのために部屋分けをしてもらったわけだ。

 憲兵隊がすぐ下の階までやって来た音がする。
 そして、さすがに躊躇しているようだ。

「ええ……この上、ロイヤルスイートだろ」

「オーシレイ殿下が宿泊されているわけじゃないか」

「そんなところに踏み込んだら反逆罪で俺たちが投獄されそう……」

 よく分かっていらっしゃる。
 結局、恐る恐るやって来た憲兵隊と、宿の支配人。

「ほう、つまり、試験の答案をこのワトサップ辺境伯の名代であるジャネットが盗んだと? そう言うのだな? 彼女が俺の特別な同伴者であることを知って、そう言うわけか」

 今さらっと既成事実にしようとした?

「は、はあ……その……。通報があったので、無視するわけにはいかず」

「馬鹿者! 今回は見逃してやる。帰るがいい」

「はっ、はいっ!!」

 憲兵たちは飛び上がり、脱兎のごとく去っていった。
 なるほど……。
 王族らしいところもあるのだなあ……。

 そして朝食時。

「ではわたくしの推理を披露しますわね。まだ材料がほとんど無いので、ほとんど推測ですけれども」

 食後の紅茶をいただきながら、シャーロットが口を開いた。

「まず、これは昨日、あのお三方がジャネット様へ穏やかではない眼差しを向けていたことに端を発しますわね」

「やっぱり」

「なん……だと……」

 オーシレイ、全然気づいてなかったらしい。

「宿の方々にはそれとなく伺ったのですけれども、ロイヤルスイートまで部外者が入ってくることはありえないそうですわ」

「ふんふん、それって……」

「ええ。つまりこれは、内部犯によるものでしょうね。ですけれど、動機がありませんし、何よりモノが試験の答案でしょう?」

「そうねえ……。なんだか負うリスクに対して、あまりにもモノがしょぼいというか……」

 こう、平和ボケしたお子さんの発想というか。
 私でも、このやり方を思いついたのは、あの三人娘だろうなあという予測がつく。

「この宿に、彼女たちが自由に動かせる人物がいると考えるのが自然ですわね。これは一時間か二時間もあれば割り出せますわ」

「凄い調査力」

「だって、犯行の手段はもう分かりましたもの。アカデミーでお会いしたお三方は、それぞれヴァイスシュタットの経済に深く関わった家柄なのでしょう? そうでもなければ、あの繋がりは持てませんわ」

「確かに、アカデミーに通う子女は裕福な家の子ばかりだ。入学の条件に家柄があるからな」

 ここはシャーロットの推測通りというわけだ。

「よし、それじゃあ動きましょ! 私、やられたことは徹底的にやり返さないと気がすまないの」

「ええ、やりましょう!」

「よし!」
 
 オーシレイまでやる気満々で立ち上がった。
 さあ、反撃開始なのだ。
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