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四つの精霊女王像事件
第154話 ゼニシュタイン商会の大(?)捕物
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ゼニシュタイン商会に到着すると、既にどたばたと大騒ぎになっているところだった。
商会自体はとても大きくて、店舗部分までは騒ぎが伝わっていないみたいだ。
だけれど、仕入れを行う倉庫部分で、わいわいと職員たちが騒いでいる。
「どうしたの?」
「あっ、これはワトサップ辺境伯名代! あのですね。侵入者があったんです」
商会の職員の人が教えてくれる。
どうやら、私たちに先んじてゼニシュタイン商会のフィギュアが狙われたらしい。
相手も動きが早い!
だけど、焦ったのだろうが迂闊なことをしたものだ。
「これは、向こうも聞き込みや情報屋を使って調べましたわね。つまりそれだけの情熱を賭けるに値するものがフィギュアの中に埋め込まれているということですわ」
「フィギュアの中に!?」
私が驚くと、シャーロットは頷いてみせた。
「ムックリさんが言ってましたでしょう? ドロナーワがやって来た時、胸ポケットに何かが入っていたが、去っていく時には入っていなかったと。彼はフィギュア作りに参加して、フィギュアのどれかに胸ポケットの中のものを埋め込んだのですわね」
「なるほどー。それがまさか、バザーで売り出されるとは思ってなかったのね」
「ええ。ただ、バザーでまとめて買い取るつもりだったのかも知れませんわね。そうしたら好事家が思ったよりも多くいて、みんな買われてしまったとか」
私は、ハンスと仲介人氏を見る。
二人とも平然とした顔だ。
「レイアのフィギュアは素晴らしいんですよ!」
「これはいいものです」
自分の趣味に誇りを持っている人の顔だ。
きっと、ゼニシュタイン商会の人もそうなのだろう。
私たちは騒ぎの只中に入っていくと、奥を目指した。
「いましたわ!」
シャーロットはそう叫ぶと、走り出す。
私も後を追うが、速い速い!
とても彼女には追いつけない。
倉庫の中を一直線に走り、ところどころ崩れた資材や商品をひょいひょい飛び越えたシャーロット。
倉庫の隅で揉み合っていた二人の男性を、すぐに発見してしまった。
そしてシャーロット、どちらがドロナーワなのか、すぐに当たりをつけたらしい。
「バリツ!」
「何だお前ウグワーッ!?」
大柄な男が、ぼいーんと宙を舞った。
シャーロットのバリツは、相手の力も利用するからどんな大男だって関係ない。
あっという間に大柄な男は制圧されて、床の上で伸びてしまった。
「あ、あなたがたは……。あっ、ワトサップ辺境伯名代! そして推理令嬢シャーロット様!」
残った側の男性が立ち上がる。
胸には大事そうにレイアのフィギュアを抱きしめているのだけど。
シャーロットはすっかりそういう人物として認識されているのね。
その後、デストレードが憲兵隊を呼んでいたらしく、すぐに応援が到着した。
大柄な男は捕らえられ、ドロナーワであると判明する。
「彼が王都の外で行っていた取引の記録は手に入りました?」
「ええ。今朝方、ドロナーワの手配書が回ってきたところですよ。この男、別の町で盗みを働いて、エメラルドの指輪を持って逃げ回っていたのですね。そこで一時的に指輪をフィギュアに隠して、自分は変装でもして身を潜めるつもりだったのでしょう」
「やはりですわねえ。ではお二方、フィギュアを出して下さいな」
シャーロットに言われて、仲介人氏と商会の男性氏はフィギュアを取り出し、用意されたテーブルの上に置く。
二つは見た目が全く同じに見えるフィギュアで……。
あれ?
「なんだか……作りが違う」
「ええ。だって片方には、指輪が埋め込まれているんですもの。その分だけフィギュアを構成するケラミスは盛り上がりますわ」
「こっちのレイア像だけ、ちょっとお尻が大きいよね」
「そこでしょうねえ……」
お尻が大きい側は、なんと仲介人氏のフィギュアだった。
彼は、自分のレイア像に指輪が埋め込まれていると言われて、血相を変える。
「こ、このフィギュアを壊して指輪を取り出すんですか!! 冗談じゃない! 俺には関係ないですよ!」
「ええ、それはもちろん。壊す必要もありませんわ」
激高する仲介人氏に、シャーロットが微笑んでみせた。
仲介人氏がぽかんとする。
「え、なんでですか? この中に指輪があるんでしょう」
「ケラミスを作るためには、長時間高温で焼かねばなりませんわ。エメラルドは熱に弱いんですの。既に、宝石としての価値を失った状態になっていますわねえ、これは」
デストレードも頷く。
フィギュアに埋め込まれ、もろともに焼成した時点で、エメラルドの指輪はダメになっていたらしい。
ドロナーワはそれを知らずに、これを取り戻そうとしたのだと言う。
目覚めたドロナーワがこれを知った時、大変悔しがった。
「ちっくしょう! そうだったのか!? そうだと分かってたら絶対に埋め込まなかったのに!」
地団駄を踏みながら、ドロナーワは連行されていく。
こうして、レイア像を破壊しようとする犯人の企みは阻止されたのだった。
この話は、商会内で決着がついたこともあり、目撃者は多数。
噂はもちろん王都に広まり……。
どうやら私とシャーロットの武勇伝が一つ増えてしまったようだった。
そして、フィギュアを破壊されたハンスはと言えば。
「あの後ですね、仕事終わりや休日にはムックリさんの工房に手伝いに行ってるんですよ!」
とても元気だった。
「あら、それはウェンディ狙い?」
「そうではないです」
「本当~?」
アリアナも疑っている。
ハンスが下心を持っていないなんて。
「ムックリさんがですね、俺は筋がいいって言ってフィギュアの作り方を教えてくれてるんですよ! 俺は理想のレイア像を作ってみせますよ! そしたら仕事場に飾って、毎日眺めるんです!」
「下心と言えば下心だけど……向上心に満ちた下心ね……!!」
いっそ見事だと、私は唸ったのだった。
商会自体はとても大きくて、店舗部分までは騒ぎが伝わっていないみたいだ。
だけれど、仕入れを行う倉庫部分で、わいわいと職員たちが騒いでいる。
「どうしたの?」
「あっ、これはワトサップ辺境伯名代! あのですね。侵入者があったんです」
商会の職員の人が教えてくれる。
どうやら、私たちに先んじてゼニシュタイン商会のフィギュアが狙われたらしい。
相手も動きが早い!
だけど、焦ったのだろうが迂闊なことをしたものだ。
「これは、向こうも聞き込みや情報屋を使って調べましたわね。つまりそれだけの情熱を賭けるに値するものがフィギュアの中に埋め込まれているということですわ」
「フィギュアの中に!?」
私が驚くと、シャーロットは頷いてみせた。
「ムックリさんが言ってましたでしょう? ドロナーワがやって来た時、胸ポケットに何かが入っていたが、去っていく時には入っていなかったと。彼はフィギュア作りに参加して、フィギュアのどれかに胸ポケットの中のものを埋め込んだのですわね」
「なるほどー。それがまさか、バザーで売り出されるとは思ってなかったのね」
「ええ。ただ、バザーでまとめて買い取るつもりだったのかも知れませんわね。そうしたら好事家が思ったよりも多くいて、みんな買われてしまったとか」
私は、ハンスと仲介人氏を見る。
二人とも平然とした顔だ。
「レイアのフィギュアは素晴らしいんですよ!」
「これはいいものです」
自分の趣味に誇りを持っている人の顔だ。
きっと、ゼニシュタイン商会の人もそうなのだろう。
私たちは騒ぎの只中に入っていくと、奥を目指した。
「いましたわ!」
シャーロットはそう叫ぶと、走り出す。
私も後を追うが、速い速い!
とても彼女には追いつけない。
倉庫の中を一直線に走り、ところどころ崩れた資材や商品をひょいひょい飛び越えたシャーロット。
倉庫の隅で揉み合っていた二人の男性を、すぐに発見してしまった。
そしてシャーロット、どちらがドロナーワなのか、すぐに当たりをつけたらしい。
「バリツ!」
「何だお前ウグワーッ!?」
大柄な男が、ぼいーんと宙を舞った。
シャーロットのバリツは、相手の力も利用するからどんな大男だって関係ない。
あっという間に大柄な男は制圧されて、床の上で伸びてしまった。
「あ、あなたがたは……。あっ、ワトサップ辺境伯名代! そして推理令嬢シャーロット様!」
残った側の男性が立ち上がる。
胸には大事そうにレイアのフィギュアを抱きしめているのだけど。
シャーロットはすっかりそういう人物として認識されているのね。
その後、デストレードが憲兵隊を呼んでいたらしく、すぐに応援が到着した。
大柄な男は捕らえられ、ドロナーワであると判明する。
「彼が王都の外で行っていた取引の記録は手に入りました?」
「ええ。今朝方、ドロナーワの手配書が回ってきたところですよ。この男、別の町で盗みを働いて、エメラルドの指輪を持って逃げ回っていたのですね。そこで一時的に指輪をフィギュアに隠して、自分は変装でもして身を潜めるつもりだったのでしょう」
「やはりですわねえ。ではお二方、フィギュアを出して下さいな」
シャーロットに言われて、仲介人氏と商会の男性氏はフィギュアを取り出し、用意されたテーブルの上に置く。
二つは見た目が全く同じに見えるフィギュアで……。
あれ?
「なんだか……作りが違う」
「ええ。だって片方には、指輪が埋め込まれているんですもの。その分だけフィギュアを構成するケラミスは盛り上がりますわ」
「こっちのレイア像だけ、ちょっとお尻が大きいよね」
「そこでしょうねえ……」
お尻が大きい側は、なんと仲介人氏のフィギュアだった。
彼は、自分のレイア像に指輪が埋め込まれていると言われて、血相を変える。
「こ、このフィギュアを壊して指輪を取り出すんですか!! 冗談じゃない! 俺には関係ないですよ!」
「ええ、それはもちろん。壊す必要もありませんわ」
激高する仲介人氏に、シャーロットが微笑んでみせた。
仲介人氏がぽかんとする。
「え、なんでですか? この中に指輪があるんでしょう」
「ケラミスを作るためには、長時間高温で焼かねばなりませんわ。エメラルドは熱に弱いんですの。既に、宝石としての価値を失った状態になっていますわねえ、これは」
デストレードも頷く。
フィギュアに埋め込まれ、もろともに焼成した時点で、エメラルドの指輪はダメになっていたらしい。
ドロナーワはそれを知らずに、これを取り戻そうとしたのだと言う。
目覚めたドロナーワがこれを知った時、大変悔しがった。
「ちっくしょう! そうだったのか!? そうだと分かってたら絶対に埋め込まなかったのに!」
地団駄を踏みながら、ドロナーワは連行されていく。
こうして、レイア像を破壊しようとする犯人の企みは阻止されたのだった。
この話は、商会内で決着がついたこともあり、目撃者は多数。
噂はもちろん王都に広まり……。
どうやら私とシャーロットの武勇伝が一つ増えてしまったようだった。
そして、フィギュアを破壊されたハンスはと言えば。
「あの後ですね、仕事終わりや休日にはムックリさんの工房に手伝いに行ってるんですよ!」
とても元気だった。
「あら、それはウェンディ狙い?」
「そうではないです」
「本当~?」
アリアナも疑っている。
ハンスが下心を持っていないなんて。
「ムックリさんがですね、俺は筋がいいって言ってフィギュアの作り方を教えてくれてるんですよ! 俺は理想のレイア像を作ってみせますよ! そしたら仕事場に飾って、毎日眺めるんです!」
「下心と言えば下心だけど……向上心に満ちた下心ね……!!」
いっそ見事だと、私は唸ったのだった。
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