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四つの精霊女王像事件

第153話 探せ、残り二つのフィギュア

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「じゃあまず水麻窟に行こうか」

 私が提案すると、ハンスがぎょっとした。

「な、なんで物騒な方から行こうとするんですか」

「面倒そうなのは先に片付けておく主義なの。それとも、後回しにしたほうがいい? どちらにせよ、絶対に行くことになるんだけど」

「ううっ」

 ハンスが呻く。
 しばらく彼の中で葛藤があったらしいけど、あまりに長く停止してるので、私が額をペチッとしたらハッと覚醒した。

「行きましょう」

「そうね」

「ジャネット様、こういうやりづらい決断をさせるのが得意ですわよねえ」

「ふっふっふ、伊達に戦場帰りじゃないから」

 シャーロットの馬なし馬車に乗り込み、私たちは水麻窟へ。
 まさか二回も訪れることになるなんてねえ……。

「あら、纏った土の精霊力。先日来たお嬢さんね」

 水麻窟に続く桟橋から、マーメイドが顔を出した。
 彼女たちの見分けはあまりつかないんだけど、どうやら以前、私とシャーロットを案内してくれたマーメイドらしかった。

「精霊力で見分けるの?」

「ええ、そうなの。でも、大概はよく分からないかなあ。あなたは特に土の精霊力とのつながりが強いから分かったみたい。土地が土の精霊と関わりがあるんじゃない?」

 ワトサップ辺境伯領に、そんな謂れあったかなあ?
 だけど、見分けてもらえたなら話は早い。

「実は人を探しに来ていて、あなた方と人間を仲介する役割の人がいるでしょう。彼がフィギュアっていう、これくらいの小さな人間の姿の……正しくは精霊女王なんだけど、それを買ったって」

「あー。レイアの像を買ったって自慢されたわ! 素材もレイアの魔法によるものに近いし、最近はこんなものが出回ってるんだねーって感心したところ」

 マーメイドがうんうん、と頷いた。

「ジャネット様、よくマーメイドと親しげに話ができますね……!」

「あら、見た目は人間と違うけど、まあ中身の価値観も違うんだけど、普通の会話できるよ? 彼女たちの方が損得勘定で動くから、話がしやすいまであるかも」

「私たちはほら、人間よりも精霊に近いでしょ。この感情っていうのも、もうちょっと単純みたいだから」

 マーメイドから話される、彼女たちの意識についての驚くべきお話。
 だけどそれは本題じゃない。

 私は彼女に頼んで、仲介の人を呼んでもらった。
 彼はちょうどお弁当を食べてたらしく、口をもぐもぐさせながら水麻窟から上がってきた。

 普通の人間だ。
 痩せぎすで長身の男性。

「レイアのフィギュアですか? いやあ、お目が高い。あれはいいものですよ。あんな安いお値段で買えるなんて。いつも傍らに飾って見つめてます」

「ちょっと見せてくださる?」

 シャーロットの提案に、彼は不思議そうな顔をした。

「いいですけど……」

 かくして、私たちは水麻窟へ。
 その中にあるという仲介人の部屋に入ると、そこは海面に近い場所にあり、壁を通して海の光景が望める構造になっていた。

 これはちょっとした絶景かも知れない。
 目の前を、魚がすいすいと泳いでいく。

「これです。どうです、素晴らしいでしょう」

「確かに素晴らしい作りですわねえ。完璧なバランス……。ウェンディさんとは似てませんわね。彼女はもっと素朴な感じですものね」

「ええっ、ウェンディに似てますよ! ほら、この尻周りとか」

 ハンスがレイア像のお尻を突こうとしたので、仲介人氏は慌ててフィギュアを取り返した。

「俺のフィギュアに男が触らないでくれないか!」

「な、なんだとう!! だが気持ちは分かる……」

 再び仲介人氏からフィギュアを受け取ったシャーロットは、それを掲げたり透かしたりして見ていたが、最後は首をかしげるばかり。

「何も分かりませんわね。もう一つのフィギュアと比較してみましょうか。犯人はフィギュアを破壊して回り、恐らくこの中に隠した何かを探しているのですわ。胸ポケットに収まるほどのものですから、貴金属か何かでしょうね」

「貴金属が俺のレイアの中に!?」

 仲介人氏が目を丸くした。
 だが、次に断固とした決意を顔にみなぎらせる。

「だが壊させねえ。これは俺の命の次に大事なもんです」

「そこまで入れ込むのねー」

 私は感心した。
 ということで、フィギュアを持った仲介人氏も一行に加わり、水麻窟よりもちょっと遠いところで待機していたデストレードと合流したのだった。

「私は立場上、水麻窟に入るとガサ入れになってしまいかねませんからね」

「憲兵隊長だものね」

 だが、水麻窟の仲介人とこの憲兵隊長、「お久しぶりです」「久々です。最近は中毒者も少なめで助かりますよ」「提出書類に嘘はないと思いますが、そのうちまた監査に行かねばなりませんので」「じゃあ事前連絡を……」とかやり取りしている。
 王都の必要悪と憲兵隊は、それなりの関係性を持っているみたい。
 世の中複雑である。

 そう言うことで、ゼニシュタイン商会へやって来た。
 ここで発生した事件を何度か解決しているから、私もシャーロットも顔パスというやつ。

 巷で発生している、レイアのフィギュアを破壊する事件の話をしたら、すぐに分かってくれた。
 二件しかまだ発生してないし、この二、三日の話だからそこまで広まっていないとは思うんだけど。

「何を言ってるんですかジャネット嬢。あなた方が動いた時点で、王都の噂好きの面々が注目してますよ」

 デストレードが聞き捨てならないことを言った!

「ええっ!? それってつまり……」

「また事件が起こっていて、それが華麗に解決されることをみんな望んでいるわけですよ」

 なんてこと。

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