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四つの精霊女王像事件

第151話 壊された精霊女王像

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 賢者の館の事務室は、半開放式。
 入り口から入ってすぐのところに、低木が植えられていて壁の代わりになっている。
 その向こうが事務室。

 低木の間にカウンターがあって、アカデミーに通う貴族の令息、令嬢はここで事務員と会話をすることが主だった。
 今日の私もそう。

「あらハンス、その包帯はどうしたの?」

「聞いてくださいよジャネット様! ひでえやつがいるんです!」

 怒り心頭といった様子のハンスを、隣の席のクールな女性がたしなめた。
 リカイガナイ男爵家令嬢のアリアナだ。
 まだ事務員として仕事してたのね。

「気持ちは分かるけど落ち着きなさいよ。ジャネット様に相談するんでしょ?」

「ああ、そうそう! ちょっと待って、深呼吸するから……。スーーーーハーーーーー」

 私はのんびりと、ハンスが落ち着くのを待つ。

「落ち着きました!」

「さっきのもまあまあ、ハンスのいつも通りだった気がするんだけど。それじゃあ聞きましょう」

 私は事務室に、旅行で受講できなかったカリキュラムのテキストをもらいに来たんだけど。
 いつの間にかお悩み相談になっちゃってる?

 ハンスの話した内容はこうだった。
 彼は先日、近所のバザーに参加したらしい。
 そこで、フィギュア作りが趣味だという変わり者の男性の手伝いをしていたそうなのだが……。

「ハンスが進んで男の人のお手伝いを? 珍しい」

「下心がありそうですよね」

「ジャネット様もアリアナも茶々入れないで!」

 ちなみにその男性はムックリ氏と言って、依頼を受けたり、自分の趣味で可愛らしい女性のフィギュアを作るのだそうだ。
 材料はケラミスという頑丈な焼き物。
 扱いは難しいが、土の精霊魔法を使えるものなら、作ることができる素材だ。

 ハンスも仕事の報酬に、ケラミス製のフィギュアをもらうことになっていたらしい。

「なーるほど」

「なるほどねー」

「何がなるほどなんですか!」

 フィギュアに釣られてお手伝いしたわけでしょう。
 でも、地元のバザーに参加するのは大事なことだよね。
 何かあった時、地元の人の繋がりってとても役に立つから。

 ムックリ氏には年の離れた妹がおり、彼女と一緒に暮らしているらしい。
 今回のバザーでは、妹のウェンディも手伝いをしていたそうで、彼女が作るお弁当はとても美味しかったと。

「ははーん」

「ほほー」

「ああそうですよ! 俺はフィギュアとウェンディ狙いですよ! 何が悪い!」

 開き直った。

「全然悪くない。私はむしろ、ホッとしたところよ。それで、無事にバザーも終わってフィギュアをもらったわけでしょ? それが頭の包帯とどう繋がるわけ」

「帰り道で、俺を後ろから殴りつけた奴がいるんです。そいつは目の前で俺から奪ったフィギュアを壊して、『チッ、これじゃねえ』って言いやがったんですよ。うおー、俺のフィギュアー!!」

 フィギュアは、王都で最近流行っている小さめサイズの彫像のこと。
 ちょっと誇張された表現で作られていて、全体的に可愛らしかったり、かっこよかったりと言った見た目をしている。
 趣味の一品ね。

「それはご愁傷さま。だけどなんだか、事件の香りがする話ね。それってつまり……まだまだ、同じフィギュアを持っている人が狙われるかも知れないっていうことじゃない?」

「そうですね。ハンスみたいに殴られる人が増えるのは可哀そうです」

「フィギュアが壊されるのが世界の損失だよ! あれは精霊女王レイアのフィギュアで、世界に四つしか無い大事なものなんだよ! ムックリさんが四つしか作らなかったんだ」

「四つ……。ふむふむ。ハンス、これはシャーロット案件にしちゃっていい? きっと彼女、こういうネタに食いつくと思うの」

「シャーロットさんが!? ああ、まあ……」

 浮かぬ顔をしている。

「あの人が絡むと、俺の身辺に毎回激震が走るから……」

「そう言えばハンスの人生の転機みたいなのに、ちょこちょこシャーロットがいるわね。でもそれはそうとして、シャーロットなら解決してくれるでしょ? 憲兵所に被害届は出した?」

「もちろんです」

「じゃあこの話、シャーロットのところに行ってるかも知れないわねー」

 果たして。
 仕事が終わったハンスとアリアナを連れてシャーロット邸に行ったら、デストレード憲兵隊長がいたのだった。
 もちろん、それはシャーロットに仕事の話をするためで。

「けっして我々憲兵隊が楽をするためではないんですがね。ですが、シャーロット嬢に依頼しておけば数日中に片付くし、その間我々は他の仕事ができるということで」

「はいはい。恐らくは連続すると思われる、精霊女王のフィギュアを狙った暴行事件ですわね?」

 話が早い。
 デストレードは依頼を終えると、出された紅茶をゆっくり飲んで一息ついて、たっぷり世間話をして、そして去っていった。
 サボりに来たのではあるまいか。

「ということで、シャーロット!」

 私はハンスとアリアナを指し示した。

「あっ。アリアナは関係ないけど。直接ハンスを連れてきたわ」

「いいですわね! では彼から詳しい事情を伺って、動き出すのは明日にしましょう。今日はもう夕方ですから。では、わたくしが紅茶を淹れますから、皆さんゆっくりしていってくださいね」

 かくして、シャーロットは新たな事件に挑むことになるのである。

 
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