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犯人はシャーロット?事件
第150話 燃やせ、貴族の弱み
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私たちが駆けつけたら、マイルボン男爵が逆さまになってベッドに突き刺さっており、その前でシャーロットが書類の束を抱えているところだった。
「あら!」
「シャーロット! 何しているの?」
「貴族の弱みを握った書類をたっぷりと見つけましたのよ。金庫に厳重にしまわれていましたから、開けるのに手間取りましたわ。ジャネット様が時間稼ぎしてくれたおかげ」
とてもいい笑顔で告げるシャーロット。
「ヤ、ヤメローヤメロー」
マイルボン男爵が逆さまになったままで、うわ言みたいに呟く。
シャーロットを止めようとして、バリツで放り投げられたな。
だけどシャーロットは止まらない。
よっぽど、マイルボン男爵のやり口に腹が立っていたみたいだ。
「こんなところに、お誂え向けに暖炉がありますわよ!」
「ヤ、ヤメロー!」
「おほほ! 薪をくべなくてはなりませんわねえ! そおれ!」
「ウグワーッ!!」
まるで自分が薪にくべられたみたいな絶叫なんだけど、これはシャーロットが紙の束を暖炉の中に注ぎ込んだから。
おお、燃える燃える。
ついに、貴族たちの弱みを書き記したマイルボン男爵の紙束は、全てが灰になってしまったのである。
シャーロットがメイドのウィッグを脱ぎ捨てて、大変爽やかな顔をしている。
「ひいっ、ラムズ侯爵家の令嬢!! お前だったのか!」
「わたくし、受けた恨みは忘れないタチですの」
「あんたには何もしてな……あっ」
「恐喝に応じなかったお兄様の結婚を散々邪魔して下さいましたわよねえ。今の義姉はわたくしと気が合うので結果オーライですけれども」
結果オーライなんだ。
そして、この場の大騒ぎを聞きつけて、彼女も階段を駆け上がってくる。
「マイルボンーっ!! 死ねーっ!!」
隠し持っていたらしいナイフを手に、扉を蹴り開ける彼女。
まあはしたない。
だけど、ベッドの上でのびているマイルボンを見て、ただならぬ状況であることを理解したようだ。
「……どういうこと……?」
「マイルボン男爵の持っていた書類は全て焼いてしまいましたわ」
「えっ、あ、あなたは……」
「シャーロットと申しますの」
「シャーロット・ラムズ! 数々の難事件を解決に導いてきた、推理令嬢!? 本当にあなたが!? 本物!?」
おや?
彼女の目の色が変わった。
「憧れてました……! いつでもお茶会では、あなたの話題で持ちきりで……。それで、シャーロット様がいらっしゃるということは、あなたのパートナーである彼女も……」
「ジャネット様ですわね。そこにいらっしゃいますわよ」
「えっ!」
彼女は私を見て、目を丸くした。
「わ、私を止めたあなたが、ジャネット・ワトサップ辺境伯令嬢!? じゃあさっきの平手打ちは……あらー」
彼女は、私の手形がくっきりついた頬を愛しげに撫でる。
なんだなんだ。
「ジャネット様。どうやら彼女、わたくしたちのファンだったらしいですわ。今までやって来たことは、どうやら無駄では無かったようですわね。こうして一人の女性が犯罪者になることを防げましたわ!」
「そうだねえ、防げたね。ところで今度はシャーロットが犯罪者になってしまいそうじゃない?」
「そこはもちろん、対策済みですわ。わたくしがこうして成果を挙げることを前提にして……」
シャーロットがそこまで告げたところで、外が騒がしくなった。
わあわあと声をあげて、懐かしき憲兵が乗り込んできたのだ。
扉を開けて、なだれ込む憲兵たち。
貴族を検挙できる機会なんてめったに無いから、みんな大張り切りだ。
先頭に立つデストレードが現れ、ごほんと咳払いをした。
「ラムズ侯爵令嬢、いつもながら捜査のご協力に感謝します。それで……証拠品は……」
全部燃やしてしまったのでは?
「はい、こちらに」
シャーロットはどこに隠し持っていたのか、まだ燃やしていない文書や、さらには書きかけらしい男爵の手紙まで取り出した。
デストレードが手紙を読んで、満足げに頷く。
「おお、なんということでしょう! これはいけませんね……。明らかに書かれているのは恐喝のための文章だ……。これが当該貴族の手に渡れば、彼らの名誉のために永遠に外に出てくることは無いでしょうが、残念ながら我々は世の治安を守るため、日々奔走する憲兵なのです。慈悲というものはございません」
大仰に嘆いてみせるデストレード。
それからすぐに、いつものクールな表情に戻って、
「その犯罪者を連れて行きなさい」
と宣言した。
マイルボン男爵は、ウグワーウグワーとか叫びながら連行されていってしまった。
恨み言とか叫んでいたけれど、命を助けられたんだからそこは感謝してほしいな。
かくして無事、貴族を恐喝して回っていたマイルボン男爵は家を取り潰され、一介の犯罪者として収監されることになった。
なんでこの人が野放しだったの、とは思うのだが……。
「脅迫された貴族たちの面子の問題でしたわね。皆、表に出ては困る問題ばかりをあの男に握られていて、そのせいで口外できなかったようですわね」
この一点で、マイルボン男爵は長きに渡って暗躍した、恐るべき犯罪者だったということである。
「今回は、ジャネット様が地位と権力の力で彼の家に直接乗り込んだお陰で、向こうの警備が弱くなり、内側からも攻められたのですわ。持つべきものは友人ですわね!」
「そっちの褒められ方は嬉しくないぞ!」
そんなわけで、王都を密かに騒がせていた恐喝事件は収まり……。
私とシャーロットの新たな冒険は王都中に広まってしまうことになった。
私はまだ、カゲリナやグチエルや、さらには他の貴族の令嬢たちから、キラキラした目で見つめられるようになってしまうのである。
やめてほしいなあ……!
「あら!」
「シャーロット! 何しているの?」
「貴族の弱みを握った書類をたっぷりと見つけましたのよ。金庫に厳重にしまわれていましたから、開けるのに手間取りましたわ。ジャネット様が時間稼ぎしてくれたおかげ」
とてもいい笑顔で告げるシャーロット。
「ヤ、ヤメローヤメロー」
マイルボン男爵が逆さまになったままで、うわ言みたいに呟く。
シャーロットを止めようとして、バリツで放り投げられたな。
だけどシャーロットは止まらない。
よっぽど、マイルボン男爵のやり口に腹が立っていたみたいだ。
「こんなところに、お誂え向けに暖炉がありますわよ!」
「ヤ、ヤメロー!」
「おほほ! 薪をくべなくてはなりませんわねえ! そおれ!」
「ウグワーッ!!」
まるで自分が薪にくべられたみたいな絶叫なんだけど、これはシャーロットが紙の束を暖炉の中に注ぎ込んだから。
おお、燃える燃える。
ついに、貴族たちの弱みを書き記したマイルボン男爵の紙束は、全てが灰になってしまったのである。
シャーロットがメイドのウィッグを脱ぎ捨てて、大変爽やかな顔をしている。
「ひいっ、ラムズ侯爵家の令嬢!! お前だったのか!」
「わたくし、受けた恨みは忘れないタチですの」
「あんたには何もしてな……あっ」
「恐喝に応じなかったお兄様の結婚を散々邪魔して下さいましたわよねえ。今の義姉はわたくしと気が合うので結果オーライですけれども」
結果オーライなんだ。
そして、この場の大騒ぎを聞きつけて、彼女も階段を駆け上がってくる。
「マイルボンーっ!! 死ねーっ!!」
隠し持っていたらしいナイフを手に、扉を蹴り開ける彼女。
まあはしたない。
だけど、ベッドの上でのびているマイルボンを見て、ただならぬ状況であることを理解したようだ。
「……どういうこと……?」
「マイルボン男爵の持っていた書類は全て焼いてしまいましたわ」
「えっ、あ、あなたは……」
「シャーロットと申しますの」
「シャーロット・ラムズ! 数々の難事件を解決に導いてきた、推理令嬢!? 本当にあなたが!? 本物!?」
おや?
彼女の目の色が変わった。
「憧れてました……! いつでもお茶会では、あなたの話題で持ちきりで……。それで、シャーロット様がいらっしゃるということは、あなたのパートナーである彼女も……」
「ジャネット様ですわね。そこにいらっしゃいますわよ」
「えっ!」
彼女は私を見て、目を丸くした。
「わ、私を止めたあなたが、ジャネット・ワトサップ辺境伯令嬢!? じゃあさっきの平手打ちは……あらー」
彼女は、私の手形がくっきりついた頬を愛しげに撫でる。
なんだなんだ。
「ジャネット様。どうやら彼女、わたくしたちのファンだったらしいですわ。今までやって来たことは、どうやら無駄では無かったようですわね。こうして一人の女性が犯罪者になることを防げましたわ!」
「そうだねえ、防げたね。ところで今度はシャーロットが犯罪者になってしまいそうじゃない?」
「そこはもちろん、対策済みですわ。わたくしがこうして成果を挙げることを前提にして……」
シャーロットがそこまで告げたところで、外が騒がしくなった。
わあわあと声をあげて、懐かしき憲兵が乗り込んできたのだ。
扉を開けて、なだれ込む憲兵たち。
貴族を検挙できる機会なんてめったに無いから、みんな大張り切りだ。
先頭に立つデストレードが現れ、ごほんと咳払いをした。
「ラムズ侯爵令嬢、いつもながら捜査のご協力に感謝します。それで……証拠品は……」
全部燃やしてしまったのでは?
「はい、こちらに」
シャーロットはどこに隠し持っていたのか、まだ燃やしていない文書や、さらには書きかけらしい男爵の手紙まで取り出した。
デストレードが手紙を読んで、満足げに頷く。
「おお、なんということでしょう! これはいけませんね……。明らかに書かれているのは恐喝のための文章だ……。これが当該貴族の手に渡れば、彼らの名誉のために永遠に外に出てくることは無いでしょうが、残念ながら我々は世の治安を守るため、日々奔走する憲兵なのです。慈悲というものはございません」
大仰に嘆いてみせるデストレード。
それからすぐに、いつものクールな表情に戻って、
「その犯罪者を連れて行きなさい」
と宣言した。
マイルボン男爵は、ウグワーウグワーとか叫びながら連行されていってしまった。
恨み言とか叫んでいたけれど、命を助けられたんだからそこは感謝してほしいな。
かくして無事、貴族を恐喝して回っていたマイルボン男爵は家を取り潰され、一介の犯罪者として収監されることになった。
なんでこの人が野放しだったの、とは思うのだが……。
「脅迫された貴族たちの面子の問題でしたわね。皆、表に出ては困る問題ばかりをあの男に握られていて、そのせいで口外できなかったようですわね」
この一点で、マイルボン男爵は長きに渡って暗躍した、恐るべき犯罪者だったということである。
「今回は、ジャネット様が地位と権力の力で彼の家に直接乗り込んだお陰で、向こうの警備が弱くなり、内側からも攻められたのですわ。持つべきものは友人ですわね!」
「そっちの褒められ方は嬉しくないぞ!」
そんなわけで、王都を密かに騒がせていた恐喝事件は収まり……。
私とシャーロットの新たな冒険は王都中に広まってしまうことになった。
私はまだ、カゲリナやグチエルや、さらには他の貴族の令嬢たちから、キラキラした目で見つめられるようになってしまうのである。
やめてほしいなあ……!
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