149 / 225
犯人はシャーロット?事件
第149話 恐れを知ったマイルボン
しおりを挟む
「いきなり死にそうな声がしたんだけど!」
私がバタバタと駆けつけたら、そこはまさしく修羅場だった。
クロスボウらしきものを構えて迫る女性に、這いずり回って逃げるマイルボン。
相手の女性はドレス姿に帽子を被って、まるでこれから繁華街へお出かけでもするみたい。
「ええと……どういう状況?」
「邪魔をしないで! あなたもこの男に弱みを握られるところだったのよ!!」
クロスボウの女性は目を吊り上げて叫ぶ。
そしてクロスボウを発射。
狙いは私から見ても、ブレッブレ。
マイルボンから離れた柱に突き刺さった。
「ウグワー!」
しかし、自分に刺さったかのように絶叫するマイルボン。
とてもうるさい。
私はとりあえず、手近な壁に掛かった絵を取り外し、強度を確認。
よし、絵の裏に張られている板が分厚い。
「落ち着いて、落ち着いて。あなたは復讐に来ているつもりかも知れないけれど、このままだと捕まるのはあなたよ」
「何よあんた! こいつの肩を持つつもり!? だったらあんたも死ね!!」
彼女は叫びながら、私にクロスボウを向けた。
ほーら。
だけど、明らかにご令嬢な彼女が手にするクロスボウ。
小さくて、そのぶん威力も低いのだ。
矢は私が抱えた絵に突き刺さり、鏃がちょっと抜けただけ。
完全には貫けない。
「落ち着いてー」
私は声を掛けながら近づいていく。
彼女は血走った目をしながら、必死にクロスボウを装填していた。
その隙にマイルボン男爵は立ち上がり、どたばたと逃げ去っていく。
ああ、もうあの距離ではクロスボウを当てられまい。
というか彼女、当てる練習をしてきたのかしら。
体ごと振り向いてぶっ放してきた矢は、私に向かって放たれはしたけど。
「ああ、もう!! ここであいつを殺してやるつもりだったのに! あんたが邪魔したから台無しよ!!」
「気持ちはちょっと分かるけど、ここでマイルボンを殺したら、今だけあなたがスッキリしてその後は捕まってどんよりすることになるわよ。それに他に被害に遭った人たちが救われないでしょ」
既に、彼我の距離差はない。
私は近接戦闘が苦手だと言っているけれど、それは相手がプロの兵士だった場合。
私は絵をクロスボウに押し付けると、大きく手を振りかぶった。
「え?」
彼女がきょとんとしたところへ、フルスイングの平手打ち。
「ウグワー!?」
彼女はスパーンッと音を立てて、地面にぶっ倒れた。
衝撃で身動きできない彼女から、クロスボウを奪う。
その場で留め具を外して、機能できないようにした。
「ふう」
私が一息ついたところで、「お嬢!」と駆け込んでくるナイツ。
どうやら彼女の取り巻きを相手にして、殴り合っていたらしい。
ナイツは至って無傷であるが。
「いやあ、面目ねえ。俺が雑魚に手間取ったせいで、お嬢に大立ち回りさせちまうとは」
「たまには運動しないとね。それより彼女、多分、この間婚約を解消されたご令嬢でしょ? 男爵を殺しにやって来たわ」
「令嬢自らとはねえ。恨みは買うもんじゃありませんなあ。わっはっは」
「うっふっふ」
私とナイツで笑い合う。
蛮族たちから、どれだけの恨みを買っていることか。
恨みを買うことをするなら、反撃されても粉々にできるだけの力を身に着けておくことだ。
「でも、マイルボンは今まで、よく殺されずにいられたわねえ」
「たまたまでしょう。この国で法を犯したら、バレたらおしまいだ。貴族たちに良識があり、恥みたいなもんがあったから恥知らずの男爵は生きてこられたに過ぎませんな」
ナイツが辛辣に告げる。
私も同感。
そして、私たちはマイルボンを追うことにした。
恐喝で得たお金で拡張したのか、マイルボン邸は広大……というか、あちこち増築されてて複雑怪奇。
壁の途中がいきなり削り取られて廊下に繋がっているし、扉を開けたら廊下の中ほどだったりするし、ちょっと傾いてるなと思うところを歩いていたらいつの間にか地下だったり。
「なんてひどい作りの家だろう」
「ここに逃げ込まれたら、追いかけるのはちょっと骨が折れますな」
先に潜入しているシャーロットは、迷わずにマイルボンの部屋に辿り着けているだろうか?
「ここはお嬢、基本的な考えに戻ったほうがいいかも知れませんぜ」
「というと?」
「男爵は恐らく、自分の命が狙われることを考えてもいないアホでしょう」
「同感。アホっていうことは……厳重に守られた、奥まった場所には自室を作らない……?」
「でしょうな。むしろ見晴らしがよくてたいへん目立つ場所に……」
「二階だ!」
私とナイツは廊下を取って返した。
入り口の正面に、実に立派な大階段があり、そこを登りきった突き当りに大変立派な扉があったからだ。
分かりやすく、あそこがマイルボン男爵の部屋だろう。
男爵はご令嬢から逃げるために、廊下の奥へと走っていったようだが……。
最後はきっと、安心できる自室に戻ってくると私は考えた。
ということで、入り口に到着。
倒れていたはずのご令嬢の姿がない。
これは……男爵を追って動き出したか。
下手なモンスターより怖い。
「ま、いっか。私たちは男爵の部屋に行くわよ!」
「了解です!」
かくして、大階段を上がる私とナイツなのだった。
ちなみに、正面にある扉がちょっと開いている気がするんだけど……。
「ウグワー!?」
男爵がまた襲われてるー!
私がバタバタと駆けつけたら、そこはまさしく修羅場だった。
クロスボウらしきものを構えて迫る女性に、這いずり回って逃げるマイルボン。
相手の女性はドレス姿に帽子を被って、まるでこれから繁華街へお出かけでもするみたい。
「ええと……どういう状況?」
「邪魔をしないで! あなたもこの男に弱みを握られるところだったのよ!!」
クロスボウの女性は目を吊り上げて叫ぶ。
そしてクロスボウを発射。
狙いは私から見ても、ブレッブレ。
マイルボンから離れた柱に突き刺さった。
「ウグワー!」
しかし、自分に刺さったかのように絶叫するマイルボン。
とてもうるさい。
私はとりあえず、手近な壁に掛かった絵を取り外し、強度を確認。
よし、絵の裏に張られている板が分厚い。
「落ち着いて、落ち着いて。あなたは復讐に来ているつもりかも知れないけれど、このままだと捕まるのはあなたよ」
「何よあんた! こいつの肩を持つつもり!? だったらあんたも死ね!!」
彼女は叫びながら、私にクロスボウを向けた。
ほーら。
だけど、明らかにご令嬢な彼女が手にするクロスボウ。
小さくて、そのぶん威力も低いのだ。
矢は私が抱えた絵に突き刺さり、鏃がちょっと抜けただけ。
完全には貫けない。
「落ち着いてー」
私は声を掛けながら近づいていく。
彼女は血走った目をしながら、必死にクロスボウを装填していた。
その隙にマイルボン男爵は立ち上がり、どたばたと逃げ去っていく。
ああ、もうあの距離ではクロスボウを当てられまい。
というか彼女、当てる練習をしてきたのかしら。
体ごと振り向いてぶっ放してきた矢は、私に向かって放たれはしたけど。
「ああ、もう!! ここであいつを殺してやるつもりだったのに! あんたが邪魔したから台無しよ!!」
「気持ちはちょっと分かるけど、ここでマイルボンを殺したら、今だけあなたがスッキリしてその後は捕まってどんよりすることになるわよ。それに他に被害に遭った人たちが救われないでしょ」
既に、彼我の距離差はない。
私は近接戦闘が苦手だと言っているけれど、それは相手がプロの兵士だった場合。
私は絵をクロスボウに押し付けると、大きく手を振りかぶった。
「え?」
彼女がきょとんとしたところへ、フルスイングの平手打ち。
「ウグワー!?」
彼女はスパーンッと音を立てて、地面にぶっ倒れた。
衝撃で身動きできない彼女から、クロスボウを奪う。
その場で留め具を外して、機能できないようにした。
「ふう」
私が一息ついたところで、「お嬢!」と駆け込んでくるナイツ。
どうやら彼女の取り巻きを相手にして、殴り合っていたらしい。
ナイツは至って無傷であるが。
「いやあ、面目ねえ。俺が雑魚に手間取ったせいで、お嬢に大立ち回りさせちまうとは」
「たまには運動しないとね。それより彼女、多分、この間婚約を解消されたご令嬢でしょ? 男爵を殺しにやって来たわ」
「令嬢自らとはねえ。恨みは買うもんじゃありませんなあ。わっはっは」
「うっふっふ」
私とナイツで笑い合う。
蛮族たちから、どれだけの恨みを買っていることか。
恨みを買うことをするなら、反撃されても粉々にできるだけの力を身に着けておくことだ。
「でも、マイルボンは今まで、よく殺されずにいられたわねえ」
「たまたまでしょう。この国で法を犯したら、バレたらおしまいだ。貴族たちに良識があり、恥みたいなもんがあったから恥知らずの男爵は生きてこられたに過ぎませんな」
ナイツが辛辣に告げる。
私も同感。
そして、私たちはマイルボンを追うことにした。
恐喝で得たお金で拡張したのか、マイルボン邸は広大……というか、あちこち増築されてて複雑怪奇。
壁の途中がいきなり削り取られて廊下に繋がっているし、扉を開けたら廊下の中ほどだったりするし、ちょっと傾いてるなと思うところを歩いていたらいつの間にか地下だったり。
「なんてひどい作りの家だろう」
「ここに逃げ込まれたら、追いかけるのはちょっと骨が折れますな」
先に潜入しているシャーロットは、迷わずにマイルボンの部屋に辿り着けているだろうか?
「ここはお嬢、基本的な考えに戻ったほうがいいかも知れませんぜ」
「というと?」
「男爵は恐らく、自分の命が狙われることを考えてもいないアホでしょう」
「同感。アホっていうことは……厳重に守られた、奥まった場所には自室を作らない……?」
「でしょうな。むしろ見晴らしがよくてたいへん目立つ場所に……」
「二階だ!」
私とナイツは廊下を取って返した。
入り口の正面に、実に立派な大階段があり、そこを登りきった突き当りに大変立派な扉があったからだ。
分かりやすく、あそこがマイルボン男爵の部屋だろう。
男爵はご令嬢から逃げるために、廊下の奥へと走っていったようだが……。
最後はきっと、安心できる自室に戻ってくると私は考えた。
ということで、入り口に到着。
倒れていたはずのご令嬢の姿がない。
これは……男爵を追って動き出したか。
下手なモンスターより怖い。
「ま、いっか。私たちは男爵の部屋に行くわよ!」
「了解です!」
かくして、大階段を上がる私とナイツなのだった。
ちなみに、正面にある扉がちょっと開いている気がするんだけど……。
「ウグワー!?」
男爵がまた襲われてるー!
0
お気に入りに追加
441
あなたにおすすめの小説
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
悪役令嬢の矜持〜世界が望む悪役令嬢を演じればよろしいのですわね〜
白雲八鈴
ファンタジー
「貴様との婚約は破棄だ!」
はい、なんだか予想通りの婚約破棄をいただきました。ありきたりですわ。もう少し頭を使えばよろしいのに。
ですが、なんと世界の強制力とは恐ろしいものなのでしょう。
いいでしょう!世界が望むならば、悪役令嬢という者を演じて見せましょう。
さて、悪役令嬢とはどういう者なのでしょうか?
*作者の目が節穴のため誤字脱字は存在します。
*n番煎じの悪役令嬢物です。軽い感じで読んでいただければと思います。
*小説家になろう様でも投稿しております。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる