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オケアノスの約定事件
第146話 被害者が一番ダメだった件
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私たちは現場へと舞い戻る。
フランクとズドンも連れているので、目立つ目立つ。
どういう一団だ。
港までやって来ると、船長の船の周りにたくさんの男の人が集まっていた。
どうやら、船を移動させる業者らしい。
港の持ち主だった船長が死んだため、ここと船の所有権は国に移るのだとか。
国が手にした個人所有物はオークションに掛けられ、最もお金を出した者の手に移る。
オークションの胴元をやるエルド教は、落札額の一割を懐に入れる。
そういうシステムらしい。
国とエルド教が仲良くやっているんだなあ。
それはともかく。
シャーロットとローラが、船の中にずんずんと乗り込んでいく。
「ちょっとここは作業中……ウワーッ査察隊の人!!」
ローラがいるので、フリーパスで通過できる。
「水でおおよそ洗い流してしまったと仰ってましたけれども、それでも消えない証拠はありますわ。例えば、ガッチリと本棚に挟まった記録とか」
シャーロットは、航海日誌を取り出してパラパラとめくり始めた。
水に濡れても大丈夫な紙で作られてるようだ。
「先日、船は難破船に出会い、生存者を救出したと書かれていますわね。細工箱を持っていたとも、ここに」
「本当ですね……! 私もここは読んだはずなのですが、全く覚えていませんでした。あなた方の捜査のインパクトが強すぎて記憶が吹き飛んでいました」
「ごめんね」
とりあえず私は謝っておいた。
「ここだよう! オリはここで、船長を殺しちまったんだよう!」
ズドンが叫んで、おいおいと泣き出した。
情緒不安定マッチョだ。
「まあまあ。やってしまったことは仕方ないよ」
フランクが慰めている。
人間ができてるなあ。
だが、シャーロットが読み上げる生存者の特徴を聞いて、フランクが目を見開いた。
「そ……それは僕の父さんです!」
「な、なんですってー!!」
驚くローラ。
リアクションがいい。
彼女は真面目なので、こういうのにキッチリ反応して場を盛り上げてくれるみたいだ。
「実は航海に出たまま行方不明になっていたんです。母さんのところに遊びに行っていたはずなんですが……」
「何らかの理由で船が転覆して、海に投げ出されたところを通りかかった船長に救出された、ということですわね。ですけれど、それならば彼の姿が無いのはどういうことかしら」
シャーロットが呈する疑問はもっともなものだ。
その先の日誌に、救出された男の話が出てくることはなかった。
まるで彼が、細工箱だけを残して船から消えてしまったようだ。
「そ、それはよう! 船長が箱だけ奪って、そいつを海に突き落としたんだよう!」
ここでズドンから新たな証言。
「な、なんですってー!!」
ローラが叫んだ。
私も同じ気持ちだよ。
「それってつまり、船長はフランクのお父さんを殺したっていうこと?」
私の言葉に、ローラも厳しい表情で頷いた。
そうなれば話が変わってくる。
ズドンはその時、船長に雇われて水夫をしていたそうだ。
だが、事件の後で船長は人が変わったようになり、みんな彼の下から逃げ出すように辞めてしまった。
ズドンもその場のノリで辞めた。
そしてやっぱりお金が無くて困ったズドンは船長に雇ってもらおうと訪れ……。
事件は起こったというわけだった。
「一枚多く、オケアノスとの約定書を持っていると、商売ができる海域が広がりますからね」
フランクは呟いた。
そのために、彼の父を海に突き落として殺したということか。
「ですが、船長は知らなかったのでしょう。約定書の正式な持ち主でない者が、これを利用しようとすれば、オケアノスに怒りに触れるということを。だから彼は、オケアノスに散々嫌がらせをされて参ってしまったのだと思います」
嫌がらせかあ。
精霊王オケアノスは案外性根がちっちゃかったりするんだろうか。
その後、散り散りになった水夫たちへの聞き込みが行われ、フランクとズドンの話が真実であることが明らかになった。
全ての原因は船長であり、彼がフランクの父から約定書を奪い、そして海へ突き落としたことが原因であると。
「フランク、お父様のことは残念だったわね。気を落とさないで……」
私が声を掛けたら、フランクがケロッとしていた。
「ありがとうございます。これで約定書も戻ってきましたし、父も喜んでまた仕事を再開すると思います」
「えっ?」
よく分からないことを言われた気がする。
私がきょとんとしていたら、シャーロットが説明してくれた。
「ジャネット様。フランクはお父様と、誰との子どもかお忘れですの? お父様が人間ならば、お母様はもちろん……」
その時、海から「おーいフランク! 約定書取り戻してくれたんだってな!」と声がした。
水の中から、頭が寂しくなった小太りのおじさんがスーッと浮上してくる。
隣には、青白い肌のマーメイド。
「父さん! 母さん! はいこれ、約定書!」
フランクが細工箱を手渡すと、おじさんはそれを、カチャカチャといとも容易く開けてしまった。
「これでオケアノス様も機嫌を直すわね。良かったわー」
マーメイドがホッとしている。
つまりこれは、海に落とされたフランクの父は、すぐさまマーメイドである母に助けられたのだ。
そして約定書を取り戻す機会を伺うかどうかしていたのだろう。
結局、死んだのは悪いことをした船長だけ。
ズドンは一応人殺しをしてしまったということで、罰を受けねばならないようだった。
それでも、彼がやったのは悪い船長に襲われて身を守ろうとしたわけだから……。
事件のあらましを知った市民の感情的にも、ズドンを重い刑に処するとあまりよろしくない。
ということで、ローラがやって来て言った。
「ズドンは国外追放刑となりました。それで、シャーロットさん、ジャネットさん、もうすぐ帰国されるんでしょう? 彼を連れて行ってくれませんか?」
「なるほどそう来たか」
「いいんじゃありませんこと? ジャネット様も、おうちで下働きをする男衆が足りないというお話をされてましたでしょ」
「そっか。うちで下男として働かせればいいんだ。実直そうだし」
この話をしたら、連れられてきていたズドンが涙を流して喜んだ。
「うわーい! オリも就職できるのかよう! お願いしますよう!」
ということで、行きから一人増えて、私たちは帰国となった。
さらば、南の国のネフリティス!
事件がちょこちょこあったけれど、次来るときはもっと平和に観光を楽しみたいな……!
フランクとズドンも連れているので、目立つ目立つ。
どういう一団だ。
港までやって来ると、船長の船の周りにたくさんの男の人が集まっていた。
どうやら、船を移動させる業者らしい。
港の持ち主だった船長が死んだため、ここと船の所有権は国に移るのだとか。
国が手にした個人所有物はオークションに掛けられ、最もお金を出した者の手に移る。
オークションの胴元をやるエルド教は、落札額の一割を懐に入れる。
そういうシステムらしい。
国とエルド教が仲良くやっているんだなあ。
それはともかく。
シャーロットとローラが、船の中にずんずんと乗り込んでいく。
「ちょっとここは作業中……ウワーッ査察隊の人!!」
ローラがいるので、フリーパスで通過できる。
「水でおおよそ洗い流してしまったと仰ってましたけれども、それでも消えない証拠はありますわ。例えば、ガッチリと本棚に挟まった記録とか」
シャーロットは、航海日誌を取り出してパラパラとめくり始めた。
水に濡れても大丈夫な紙で作られてるようだ。
「先日、船は難破船に出会い、生存者を救出したと書かれていますわね。細工箱を持っていたとも、ここに」
「本当ですね……! 私もここは読んだはずなのですが、全く覚えていませんでした。あなた方の捜査のインパクトが強すぎて記憶が吹き飛んでいました」
「ごめんね」
とりあえず私は謝っておいた。
「ここだよう! オリはここで、船長を殺しちまったんだよう!」
ズドンが叫んで、おいおいと泣き出した。
情緒不安定マッチョだ。
「まあまあ。やってしまったことは仕方ないよ」
フランクが慰めている。
人間ができてるなあ。
だが、シャーロットが読み上げる生存者の特徴を聞いて、フランクが目を見開いた。
「そ……それは僕の父さんです!」
「な、なんですってー!!」
驚くローラ。
リアクションがいい。
彼女は真面目なので、こういうのにキッチリ反応して場を盛り上げてくれるみたいだ。
「実は航海に出たまま行方不明になっていたんです。母さんのところに遊びに行っていたはずなんですが……」
「何らかの理由で船が転覆して、海に投げ出されたところを通りかかった船長に救出された、ということですわね。ですけれど、それならば彼の姿が無いのはどういうことかしら」
シャーロットが呈する疑問はもっともなものだ。
その先の日誌に、救出された男の話が出てくることはなかった。
まるで彼が、細工箱だけを残して船から消えてしまったようだ。
「そ、それはよう! 船長が箱だけ奪って、そいつを海に突き落としたんだよう!」
ここでズドンから新たな証言。
「な、なんですってー!!」
ローラが叫んだ。
私も同じ気持ちだよ。
「それってつまり、船長はフランクのお父さんを殺したっていうこと?」
私の言葉に、ローラも厳しい表情で頷いた。
そうなれば話が変わってくる。
ズドンはその時、船長に雇われて水夫をしていたそうだ。
だが、事件の後で船長は人が変わったようになり、みんな彼の下から逃げ出すように辞めてしまった。
ズドンもその場のノリで辞めた。
そしてやっぱりお金が無くて困ったズドンは船長に雇ってもらおうと訪れ……。
事件は起こったというわけだった。
「一枚多く、オケアノスとの約定書を持っていると、商売ができる海域が広がりますからね」
フランクは呟いた。
そのために、彼の父を海に突き落として殺したということか。
「ですが、船長は知らなかったのでしょう。約定書の正式な持ち主でない者が、これを利用しようとすれば、オケアノスに怒りに触れるということを。だから彼は、オケアノスに散々嫌がらせをされて参ってしまったのだと思います」
嫌がらせかあ。
精霊王オケアノスは案外性根がちっちゃかったりするんだろうか。
その後、散り散りになった水夫たちへの聞き込みが行われ、フランクとズドンの話が真実であることが明らかになった。
全ての原因は船長であり、彼がフランクの父から約定書を奪い、そして海へ突き落としたことが原因であると。
「フランク、お父様のことは残念だったわね。気を落とさないで……」
私が声を掛けたら、フランクがケロッとしていた。
「ありがとうございます。これで約定書も戻ってきましたし、父も喜んでまた仕事を再開すると思います」
「えっ?」
よく分からないことを言われた気がする。
私がきょとんとしていたら、シャーロットが説明してくれた。
「ジャネット様。フランクはお父様と、誰との子どもかお忘れですの? お父様が人間ならば、お母様はもちろん……」
その時、海から「おーいフランク! 約定書取り戻してくれたんだってな!」と声がした。
水の中から、頭が寂しくなった小太りのおじさんがスーッと浮上してくる。
隣には、青白い肌のマーメイド。
「父さん! 母さん! はいこれ、約定書!」
フランクが細工箱を手渡すと、おじさんはそれを、カチャカチャといとも容易く開けてしまった。
「これでオケアノス様も機嫌を直すわね。良かったわー」
マーメイドがホッとしている。
つまりこれは、海に落とされたフランクの父は、すぐさまマーメイドである母に助けられたのだ。
そして約定書を取り戻す機会を伺うかどうかしていたのだろう。
結局、死んだのは悪いことをした船長だけ。
ズドンは一応人殺しをしてしまったということで、罰を受けねばならないようだった。
それでも、彼がやったのは悪い船長に襲われて身を守ろうとしたわけだから……。
事件のあらましを知った市民の感情的にも、ズドンを重い刑に処するとあまりよろしくない。
ということで、ローラがやって来て言った。
「ズドンは国外追放刑となりました。それで、シャーロットさん、ジャネットさん、もうすぐ帰国されるんでしょう? 彼を連れて行ってくれませんか?」
「なるほどそう来たか」
「いいんじゃありませんこと? ジャネット様も、おうちで下働きをする男衆が足りないというお話をされてましたでしょ」
「そっか。うちで下男として働かせればいいんだ。実直そうだし」
この話をしたら、連れられてきていたズドンが涙を流して喜んだ。
「うわーい! オリも就職できるのかよう! お願いしますよう!」
ということで、行きから一人増えて、私たちは帰国となった。
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