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オケアノスの約定事件
第145話 第二の罠
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細工箱が奪われずに残っていたということ。
これが重要だ。
その後、ローラが色々調べてきた情報を伝えてくれた。
「幾つか物色されて無くなったものがあるようです。船長の財布とか」
「お金が入ってた金庫が残されてたのに?」
「金庫はちょうど、死んだ船長の真下になっていたようですから。血と臓物に埋もれて犯人には見えなかったのでしょう」
「僕はお金なんか取ってません」
マーメイドハーフのフランクが、プルプルと顔を左右に振った。
「僕も個人で漁師をしてて、素潜りでウニを獲ってるんです。こいつらは中の肉が痩せてる事が多いので、野菜くずを市場でもらってきて、これでウニを育てて太らせてから出荷しています」
「まさかのウニ業者だった」
「ま、まさかあの美味しいウニはあなたが……!」
なんで衝撃を受けてるの、ローラ。
「捕まえないでよかった……」
この娘もかなりポンコツではないだろうか。
その後、ローラから、新鮮なウニを乗せた焼き立てバゲットの美味しさを講釈されたあと、本題へと戻った。
「つまりですわね」
シャーロットが推理を開陳し始める。
「犯人はお金に困っていましたのね。それも、人を殺すほどのことができる、水の魔法の使い手ですわ。お財布だけ盗んで、現場を物色しないで立ち去ったのは焦っていたからだと思いますわよ。良心がある。そしてこの事件自体は、事故のようなものだった可能性がありますわね」
そこまですらすらと語った後、ぽんと手を叩いた。
「人を募集しましょう。募集内容は、査察隊のお手伝いで水上活動を行うため、水の魔法に長けた者……でどうでしょう? エルド教では、精霊教の信者も重用するのでしょう?」
「はい。エルド教は能力こそを重要視しますから。無論、教えに従ってくれる信者であるのが望ましいのですが……マリア様があまりその辺りを気になさらないので」
ローラが物言いたげな顔をするが、その先は教主への文句になってしまうからだろうか。
口をもごもごさせるばかりだ。
さて、そういうことで、査察隊が人員募集を始めた。
報酬の額は悪くないが、条件が厳しい。
集まった人は三名だった。
一人目はいかにも魔法の使い手っぽい白いヒゲのおじいさん。
だけど、魔法を使わせてみたら、指先から水がちょろちょろ出るくらい。
「これは初級レベルの水の魔法ですね。ダメです」
「これじゃあいけませんわねー」
面接官となったローラとシャーロットによって、彼は今後のご活躍をお祈りされてしまった。
二人目はいかにも切れ者風の男性。
だけど、魔法を使わせてみたら、水をゆっくりお湯にするくらいのレベルだった。
「これは一応中級に差し掛かるレベルで、日常だと便利なんですが」
「あなた、今職を持ってらっしゃるでしょ」
シャーロットの質問に、男は料理人であると答えた。
火もなしに水を沸騰させられる能力なら、さぞや便利だろう。
だが、彼もお祈りされた。
正職があるならお金にそこまで困っていないだろうし、水をゆっくり沸騰させる魔法では、人の腹をぶち抜けないからだ。
そして三人目。
ムキムキのマッチョがやって来た。
「オリはよう! お金に困ってるんだ! 雇ってくれよう!」
えっ、この人が水の魔法を!?
ぶん殴った方が早くない!?
私が感じた疑問は、ローラも感じたらしい。
「シャーロットさん。彼もお祈りしたほうが」
「お待ちなさいな。魔法を使ってもらいましょう。では外へ。あの木の枝めがけて、ずどんとやって下さいまし」
「おう! オリにまかせろよう!」
マッチョはムキィッと構えると、彼がポージングした眼前に突如、巨大な水の玉が出現した。
それがグルグル渦巻くと、次の瞬間、遠く離れた木の枝めがけて撃ち出されたのである。
木の枝が粉々になる。
私もローラも唖然。
「どうだあ! オリはすごいだろ! だけど、人に向けたら危ないからよう。お腹をぶち抜いて殺しちまうからよう」
「確保ー!」
ローラが叫び、笛をピリピリ吹いた。
わーっと集まってくる査察隊。
「うわーっ、なんだよう!?」
マッチョはたちまちのうちに取り押さえられてしまった。
マッチョの名は、ズドン・アンブロシア・ロイド。
なんと、由緒正しき水の巫女の血を受け継ぐ人物だったらしい。
恵まれた肉体と飽くなき鍛錬への情熱、そして天与の水の精霊魔法の才を持つ天才だが、残念なことにお金を稼ぐセンスだけが致命的に無かった。
都会に出てきて、やらかして失職した彼は仕事を探していたそうだ。
「オリのご先祖様にはよう、魔王もいるらしいけどよう。眉唾だよなあ。ダッハッハッハッハ」
「ダッハッハッハッハ、じゃありません! 船長を殺したでしょう」
「ハイ」
ズドンはあっけなく罪を認めた。
彼が言うには、船長は船員を探していたのだそうだ。
「あの船長はよう。なんか船員がみんな逃げちまってよう。それで困ってたんだよう。オリが雇ってもらおうとして行ったらよう、水の魔法を使うやつは、みんな精霊王の手先だーっつって、サーベルを振り回しやがったんだよう! オリはよう、怖くて怖くてよう!」
ついつい怖くてポージングしたら、水の精霊魔法が発動し、船長のお腹をぶち抜いてしまったそうだ。
その時、勢いで船長のお財布が宙を舞ったのでこれをキャッチして逃げたと。
「ううっ、あんなことをするつもりじゃ無かったんだよう! 腹ペコだったから財布のお金もちょっと使っちまったよう!」
おいおいと泣くズドン。
ガチ泣きである。
「うーん……!!」
私は唸った。
ローラも何とも言えない顔をしている。
「過失ということになりそうですね……! 船長のサーベルは、壁に突き刺さっていたそうです。手からすっぽ抜けたと考えると、ズドン氏が正当防衛だった可能性はありますね。とりあえず彼の身柄を拘束し、事件を詳しく調査してみましょう」
そういうことになったのだった。
そして、なぜかまだまだ、楽しそうなシャーロット。
「ねえシャーロット。もしかしてまだ、事件は終わってない?」
「事件そのものは終わりましたわ。だけど、亡くなった船長さんが隠していたことは、色々とあらわになるべきだと思いませんこと?」
彼女はやる気満々なのだった。
これが重要だ。
その後、ローラが色々調べてきた情報を伝えてくれた。
「幾つか物色されて無くなったものがあるようです。船長の財布とか」
「お金が入ってた金庫が残されてたのに?」
「金庫はちょうど、死んだ船長の真下になっていたようですから。血と臓物に埋もれて犯人には見えなかったのでしょう」
「僕はお金なんか取ってません」
マーメイドハーフのフランクが、プルプルと顔を左右に振った。
「僕も個人で漁師をしてて、素潜りでウニを獲ってるんです。こいつらは中の肉が痩せてる事が多いので、野菜くずを市場でもらってきて、これでウニを育てて太らせてから出荷しています」
「まさかのウニ業者だった」
「ま、まさかあの美味しいウニはあなたが……!」
なんで衝撃を受けてるの、ローラ。
「捕まえないでよかった……」
この娘もかなりポンコツではないだろうか。
その後、ローラから、新鮮なウニを乗せた焼き立てバゲットの美味しさを講釈されたあと、本題へと戻った。
「つまりですわね」
シャーロットが推理を開陳し始める。
「犯人はお金に困っていましたのね。それも、人を殺すほどのことができる、水の魔法の使い手ですわ。お財布だけ盗んで、現場を物色しないで立ち去ったのは焦っていたからだと思いますわよ。良心がある。そしてこの事件自体は、事故のようなものだった可能性がありますわね」
そこまですらすらと語った後、ぽんと手を叩いた。
「人を募集しましょう。募集内容は、査察隊のお手伝いで水上活動を行うため、水の魔法に長けた者……でどうでしょう? エルド教では、精霊教の信者も重用するのでしょう?」
「はい。エルド教は能力こそを重要視しますから。無論、教えに従ってくれる信者であるのが望ましいのですが……マリア様があまりその辺りを気になさらないので」
ローラが物言いたげな顔をするが、その先は教主への文句になってしまうからだろうか。
口をもごもごさせるばかりだ。
さて、そういうことで、査察隊が人員募集を始めた。
報酬の額は悪くないが、条件が厳しい。
集まった人は三名だった。
一人目はいかにも魔法の使い手っぽい白いヒゲのおじいさん。
だけど、魔法を使わせてみたら、指先から水がちょろちょろ出るくらい。
「これは初級レベルの水の魔法ですね。ダメです」
「これじゃあいけませんわねー」
面接官となったローラとシャーロットによって、彼は今後のご活躍をお祈りされてしまった。
二人目はいかにも切れ者風の男性。
だけど、魔法を使わせてみたら、水をゆっくりお湯にするくらいのレベルだった。
「これは一応中級に差し掛かるレベルで、日常だと便利なんですが」
「あなた、今職を持ってらっしゃるでしょ」
シャーロットの質問に、男は料理人であると答えた。
火もなしに水を沸騰させられる能力なら、さぞや便利だろう。
だが、彼もお祈りされた。
正職があるならお金にそこまで困っていないだろうし、水をゆっくり沸騰させる魔法では、人の腹をぶち抜けないからだ。
そして三人目。
ムキムキのマッチョがやって来た。
「オリはよう! お金に困ってるんだ! 雇ってくれよう!」
えっ、この人が水の魔法を!?
ぶん殴った方が早くない!?
私が感じた疑問は、ローラも感じたらしい。
「シャーロットさん。彼もお祈りしたほうが」
「お待ちなさいな。魔法を使ってもらいましょう。では外へ。あの木の枝めがけて、ずどんとやって下さいまし」
「おう! オリにまかせろよう!」
マッチョはムキィッと構えると、彼がポージングした眼前に突如、巨大な水の玉が出現した。
それがグルグル渦巻くと、次の瞬間、遠く離れた木の枝めがけて撃ち出されたのである。
木の枝が粉々になる。
私もローラも唖然。
「どうだあ! オリはすごいだろ! だけど、人に向けたら危ないからよう。お腹をぶち抜いて殺しちまうからよう」
「確保ー!」
ローラが叫び、笛をピリピリ吹いた。
わーっと集まってくる査察隊。
「うわーっ、なんだよう!?」
マッチョはたちまちのうちに取り押さえられてしまった。
マッチョの名は、ズドン・アンブロシア・ロイド。
なんと、由緒正しき水の巫女の血を受け継ぐ人物だったらしい。
恵まれた肉体と飽くなき鍛錬への情熱、そして天与の水の精霊魔法の才を持つ天才だが、残念なことにお金を稼ぐセンスだけが致命的に無かった。
都会に出てきて、やらかして失職した彼は仕事を探していたそうだ。
「オリのご先祖様にはよう、魔王もいるらしいけどよう。眉唾だよなあ。ダッハッハッハッハ」
「ダッハッハッハッハ、じゃありません! 船長を殺したでしょう」
「ハイ」
ズドンはあっけなく罪を認めた。
彼が言うには、船長は船員を探していたのだそうだ。
「あの船長はよう。なんか船員がみんな逃げちまってよう。それで困ってたんだよう。オリが雇ってもらおうとして行ったらよう、水の魔法を使うやつは、みんな精霊王の手先だーっつって、サーベルを振り回しやがったんだよう! オリはよう、怖くて怖くてよう!」
ついつい怖くてポージングしたら、水の精霊魔法が発動し、船長のお腹をぶち抜いてしまったそうだ。
その時、勢いで船長のお財布が宙を舞ったのでこれをキャッチして逃げたと。
「ううっ、あんなことをするつもりじゃ無かったんだよう! 腹ペコだったから財布のお金もちょっと使っちまったよう!」
おいおいと泣くズドン。
ガチ泣きである。
「うーん……!!」
私は唸った。
ローラも何とも言えない顔をしている。
「過失ということになりそうですね……! 船長のサーベルは、壁に突き刺さっていたそうです。手からすっぽ抜けたと考えると、ズドン氏が正当防衛だった可能性はありますね。とりあえず彼の身柄を拘束し、事件を詳しく調査してみましょう」
そういうことになったのだった。
そして、なぜかまだまだ、楽しそうなシャーロット。
「ねえシャーロット。もしかしてまだ、事件は終わってない?」
「事件そのものは終わりましたわ。だけど、亡くなった船長さんが隠していたことは、色々とあらわになるべきだと思いませんこと?」
彼女はやる気満々なのだった。
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