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オケアノスの約定事件
第143話 ローラからの依頼
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ネフリティス王国に長期滞在する私たち。
旅費は親切なことに、エルド教の方で負担してくれた。
後でオーシレイもやって来るはずだったらしいけれど、どうもエルフェンバインで執務が忙しくなってきたみたい。
お陰で、観光に集中していられるんだけど。
「ネフリティスの食べ物は美味しいわね……」
「本当ですわ。紅茶がどれもフルーツフレーバーなのはどうかと思いますけれど」
おっと、これは紅茶ソムリエのシャーロット。
ネフリティス王国は、エルフェンバインよりもずっと南にある。
私たちの大陸と暗黒大陸に挟まれたオケアノス海の、その真中に浮かんだ群島国家だ。
国教はエルド教だけど、精霊王オケアノスを信奉する精霊教もあちこちで根付いている。
実質二つの宗教が存在していても、弾圧だとか差別とかとは無縁で国政は行われているみたいだ。
それというのも、この国が各国との交易で財を成していて、お金があれば大抵のことはなんとかなってしまうから、だとか。
それに最近は、エルド教の権威も落ちてきて、彼らは宗教というより世界最大クラスの商売人という顔のほうが認知されてきている。
面白いことに、エルド教のグループ内に、精霊教信者である幹部も少なからず混じっているとか。
自由すぎる国だ。
そんな中、国王の影響力はとても弱いらしくて、国家の象徴と外交時の顔役でしかないらしい。
国の警察機構はエルド教が請け負っており、犯罪を取り締まりつつもビジネスに精を出している……。
「ああ良かった! ゆっくりと食事をされていたお陰で見つかりました!」
私とシャーロットが長めの朝食を摂っていたら、見知った顔がやって来た。
査察隊のローラだ。
私やシャーロットに年頃の近い女性で、生真面目な印象の彼女。
先日、エルド教神学校の事件を鮮やかに解決してのけたシャーロットの腕に惚れ込み、小さな事件の相談をちょこちょこしに来るようになっていた。
もちろん、報酬が出る。
ここはお金がすべての国、ネフリティス王国なのだ。
「あら、また事件ですの? ちょっとアドバイスするだけでお金をいただけるので、わたくしは嬉しいのですけれど」
歯に衣を着せないシャーロットである。
「はい、また事件です。人々が行き交う国ですので、事件はそれこそ売るほど起きます。今回は殺人事件ですので少し大きいのですが」
「あら」
「おや」
私とシャーロットで、目を丸くした。
なるほど、これはちょっと手が掛かるかも知れない。
案内されたのは小さな港だった。
これは個人所有のもので、その所有者である船長が殺されたのだそうだ。
停泊している船は、"さまよわないペドロ号”。
さまよう◯◯、という幽霊とかの噂はよく聞くけれど、そのまま船の名前にしたら縁起でもないものね。
船長は腹をぶち抜かれて死んでいたそうだ。
エルド教の奇跡であるバズーカとかいうものを至近距離で撃てば、似た感じになるかも、とローラが告げた。
「ああ、でも四肢がちゃんと繋がっていましたから違いますね。バズーカだと手足もばらばらに吹き飛んでしまいます」
「物騒なこと言うわねえ」
そのバズーカっていうの、本当に奇跡なのか。
「実際の死因は、水の精霊魔法によるものでしょう。高圧の水流で体を貫かれて即死だったようです。ですが、それくらいの魔法ならば使えるマーメイドがごろごろいますので」
「ネフリティスは怖い国だなあ」
私は辺境のことを棚に上げておいた。
ちなみに高水圧魔法、鎧を身に着けておけばかなり防げるようだ。
船長はひどく酔っ払っていたらしく、丸出しの腹にまともに食らったので貫かれてしまったということだった。
「皆さんが来るまでは、船長室は大変な大惨事だったのですが、水の魔法となると証拠もへったくれもありません。どどーっとお掃除用の水の魔法で汚れを押し流して、今はこの通り綺麗です」
「証拠まで押し流してませんこと……?」
シャーロットの疑問ももっともだと思う。
でもとりあえず、それらしいものは査察隊が確保しておいたらしい。
一つは、金品が収められた金庫。
もう一つは、からくりによって厳重に封印された箱。
「金品の類は盗まれていなかったんですよ。からくりの箱は指紋がべたべたついていましたから、開けようとしたんでしょうね。ただ、これは人間の指紋ではなくて、マーメイドとのハーフの者の指紋ですね」
「あれ、犯人がかなり絞れたんじゃない?」
「絞れましたね」
私とローラで頷きあっていると、シャーロットがからくり箱を眺めて唸る。
「どうですかしらねえ……? 世の中の事件がそこまで分かりやすいならば苦労はないのでしょうけれども……」
そして箱をその辺のテーブルに置くと、シャーロットは告げた。
「よし、これを囮にしましょう。どうして犯人と目される方が箱を置いて逃げたのか。それはこの事件において、とても不自然なところですわ。ここに事件の根幹に関わる情報があるとわたくしは睨んでいますの」
「言われてみれば……」
ローラもハッとしたようだ。
こうして、船長の死は大々的に喧伝されることとなり、からくり箱を証拠品として査察隊の仮倉庫に置き、罠が張られたのである。
旅費は親切なことに、エルド教の方で負担してくれた。
後でオーシレイもやって来るはずだったらしいけれど、どうもエルフェンバインで執務が忙しくなってきたみたい。
お陰で、観光に集中していられるんだけど。
「ネフリティスの食べ物は美味しいわね……」
「本当ですわ。紅茶がどれもフルーツフレーバーなのはどうかと思いますけれど」
おっと、これは紅茶ソムリエのシャーロット。
ネフリティス王国は、エルフェンバインよりもずっと南にある。
私たちの大陸と暗黒大陸に挟まれたオケアノス海の、その真中に浮かんだ群島国家だ。
国教はエルド教だけど、精霊王オケアノスを信奉する精霊教もあちこちで根付いている。
実質二つの宗教が存在していても、弾圧だとか差別とかとは無縁で国政は行われているみたいだ。
それというのも、この国が各国との交易で財を成していて、お金があれば大抵のことはなんとかなってしまうから、だとか。
それに最近は、エルド教の権威も落ちてきて、彼らは宗教というより世界最大クラスの商売人という顔のほうが認知されてきている。
面白いことに、エルド教のグループ内に、精霊教信者である幹部も少なからず混じっているとか。
自由すぎる国だ。
そんな中、国王の影響力はとても弱いらしくて、国家の象徴と外交時の顔役でしかないらしい。
国の警察機構はエルド教が請け負っており、犯罪を取り締まりつつもビジネスに精を出している……。
「ああ良かった! ゆっくりと食事をされていたお陰で見つかりました!」
私とシャーロットが長めの朝食を摂っていたら、見知った顔がやって来た。
査察隊のローラだ。
私やシャーロットに年頃の近い女性で、生真面目な印象の彼女。
先日、エルド教神学校の事件を鮮やかに解決してのけたシャーロットの腕に惚れ込み、小さな事件の相談をちょこちょこしに来るようになっていた。
もちろん、報酬が出る。
ここはお金がすべての国、ネフリティス王国なのだ。
「あら、また事件ですの? ちょっとアドバイスするだけでお金をいただけるので、わたくしは嬉しいのですけれど」
歯に衣を着せないシャーロットである。
「はい、また事件です。人々が行き交う国ですので、事件はそれこそ売るほど起きます。今回は殺人事件ですので少し大きいのですが」
「あら」
「おや」
私とシャーロットで、目を丸くした。
なるほど、これはちょっと手が掛かるかも知れない。
案内されたのは小さな港だった。
これは個人所有のもので、その所有者である船長が殺されたのだそうだ。
停泊している船は、"さまよわないペドロ号”。
さまよう◯◯、という幽霊とかの噂はよく聞くけれど、そのまま船の名前にしたら縁起でもないものね。
船長は腹をぶち抜かれて死んでいたそうだ。
エルド教の奇跡であるバズーカとかいうものを至近距離で撃てば、似た感じになるかも、とローラが告げた。
「ああ、でも四肢がちゃんと繋がっていましたから違いますね。バズーカだと手足もばらばらに吹き飛んでしまいます」
「物騒なこと言うわねえ」
そのバズーカっていうの、本当に奇跡なのか。
「実際の死因は、水の精霊魔法によるものでしょう。高圧の水流で体を貫かれて即死だったようです。ですが、それくらいの魔法ならば使えるマーメイドがごろごろいますので」
「ネフリティスは怖い国だなあ」
私は辺境のことを棚に上げておいた。
ちなみに高水圧魔法、鎧を身に着けておけばかなり防げるようだ。
船長はひどく酔っ払っていたらしく、丸出しの腹にまともに食らったので貫かれてしまったということだった。
「皆さんが来るまでは、船長室は大変な大惨事だったのですが、水の魔法となると証拠もへったくれもありません。どどーっとお掃除用の水の魔法で汚れを押し流して、今はこの通り綺麗です」
「証拠まで押し流してませんこと……?」
シャーロットの疑問ももっともだと思う。
でもとりあえず、それらしいものは査察隊が確保しておいたらしい。
一つは、金品が収められた金庫。
もう一つは、からくりによって厳重に封印された箱。
「金品の類は盗まれていなかったんですよ。からくりの箱は指紋がべたべたついていましたから、開けようとしたんでしょうね。ただ、これは人間の指紋ではなくて、マーメイドとのハーフの者の指紋ですね」
「あれ、犯人がかなり絞れたんじゃない?」
「絞れましたね」
私とローラで頷きあっていると、シャーロットがからくり箱を眺めて唸る。
「どうですかしらねえ……? 世の中の事件がそこまで分かりやすいならば苦労はないのでしょうけれども……」
そして箱をその辺のテーブルに置くと、シャーロットは告げた。
「よし、これを囮にしましょう。どうして犯人と目される方が箱を置いて逃げたのか。それはこの事件において、とても不自然なところですわ。ここに事件の根幹に関わる情報があるとわたくしは睨んでいますの」
「言われてみれば……」
ローラもハッとしたようだ。
こうして、船長の死は大々的に喧伝されることとなり、からくり箱を証拠品として査察隊の仮倉庫に置き、罠が張られたのである。
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