推理令嬢シャーロットの事件簿~謎解きは婚約破棄のあとで~

あけちともあき

文字の大きさ
上 下
142 / 225
エルド教学校の誘拐事件

第142話 げに恐ろしきは……

しおりを挟む
 査察隊がやって来た。
 銃で武装した男女混合の六人組。

 学長は真っ青になって彼らを出迎えた。

「ななな、何も怪しいことは」

「予告状を隠してましたわ」

「ウグワーッ」

 学長が今にも絞め殺されそうな悲鳴をあげた。
 本当に隠してたんだから仕方ない。
 査察隊はじろりと学長を睨むと、そのまま学長室に連れて行ってしまった。

 どうやら学長室には、直接教主マリアとやり取りできる設備があるらしく、そこで簡易的な審問が行われるそうだ。
 大変だなあ。

 残ったのは、査察隊の若い女性。
 真面目そうな顔をしている。

「学長が呼んだという異国のお客様ですね。私はエルド教査察隊のローラと申します」

 しゃきっと敬礼してくる。
 軍隊だ。

「よろしくね。私はエルフェンバイン、ワトサップ辺境伯名代ジャネット。こちらがラムズ侯爵家のシャーロットよ。色々な事件解決をして暮らしてる人。あとこっちがナイツ」

 ローラが次々に、ペコリペコリと会釈した。

「それで、事件は解決しそうなのでしょうか」

 ローラの言葉に、シャーロットが微笑んだ。

「ほぼ解決しましたわよ。謎は全て解けましたし、犯人の居場所も知れましたの」

「えっ!?」

 私は驚き、彼女を見る。

「いつの間に?」

「査察隊の皆様方が到着するまで、時間があったでしょう? わたくし、あちこちを見て回りましたの。犯人たちはまだ神学校の中にいますわよ。ここは丘の上にあるでしょう? 降りようとすれば、周囲から目撃されてしまいますわね。そもそも出口は、正門が一つきり。いかに女性に弱い殿方と言えど、官僚の子息が連れ出されるのを黙って見ているわけはないでしょう」

 そう言えば、門番の人たちは平然とした感じだった。
 彼らが隠し事をしてはいなかったということかな?

「こちらにいますわよ」

 シャーロットが堂々と歩き出す。

「本当に犯人が……!? も、もしかしてこの方はとても優秀な方なのではないですか」

 慌てるローラに向けて、私は頷いた。

「社会的にはどうかと思うこともあるけど、優秀な人よ」

「なるほどー。教主様に直接電話で連絡をしたというのもあの方ですよね。恐るべき胆力です。不興を買えば命がないのに」

 そこまでのことだったのか。
 だけど、シャーロットはその辺りはきちんと読んでいたみたいだ。

 到着したのは、なんと入り口。
 もしかして、門番の詰め所にいるということ?
 門番もグルだった……!?

「こちらですわよ」

 シャーロットは道を外れると、茂みをざくざくと掻き分けていった。
 すると、突然彼女が横に身を躱し……。

「バリツ!」

 と発した。

「ウグワー!?」

 人影がふっ飛ばされて、こちらの足元に転がってくる。
 あっ!
 黒ずくめの女の人!

 手にはナイフを持っている。
 どうやら入り口近くの茂みに身を隠していたらしい。

 どうしてこんなところに……?

 その奥では、ぐるぐるに縛られた男性が転がって唸っていた。

「誘拐された生徒ですわ。そして彼女が誘拐犯の一人。これをごらんくださいませ」

 シャーロットが指し示したのは、地面に開いた穴。

「これが外まで続いて、彼女たちを侵入させたのだと思いますわね。ただ、この大きさは彼女たちの体に合わせたサイズ。殿方の体格では通れなかったのですわよ」

「なるほどー」

「なるほどです!」

 私とローラは感心した。
 誘拐しようとしたが、連れて行くことができなかったと。

 だから、見張りを残して一団は一旦退却したというわけだ。

「どうして彼女がいるって分かったの、シャーロット?」

「誘拐を完遂したであろうに、犯人からの追加の要求が無かったからですわ。つまり、誘拐は完遂されておらず、犯人グループには他のことをする余裕がないのだろうと考えましたの」

 結果論だから推理というほどのものではない、とシャーロットが笑った。
 その後、戻ってきた査察隊とともに、私たちはこの穴の前で網を張り……。

 日暮れの後、穴をくぐって入ってきた女たちを次々に捕縛したのだった。

「私たちの抗議は正当なものだ! どうしてエルド教はこちらの神学校に与するのか!!」

 犯人代表らしき女性が怒ってがなりたてる。
 すると、査察隊のリーダーの男が淡々と、

「学長は処罰した。更迭され、次の学長が任命されている。マリア様は学生たちに息抜きを義務付けると仰られた。諸君らの懸念は晴れた」

 そう告げる。
 犯人代表は一瞬言葉に詰まり、「だったら」と続けた。

「私たちの抗議が通ったということだから、私たちを離しなさい! 悪いものが処罰されたのだから、もう何の問題もないでしょう!」

「悪いものは処罰すべきであるという考えには全面的に同意だ。故に犯罪を犯した諸君を処罰するため、連行する」

 査察隊リーダーは一切の感情を見せずに告げた。
 犯人たちが真っ青になり、ぎゃあぎゃあ暴れ始める。

 査察隊の面々はおのおの目を閉じ、口を開いた。

「我らが神よ。今、御身の奇跡を使い、祝福薄き者たちへ分け前を授けます」

 エルド教の奇跡を使うのかな?
 私は興味津々になってその様子を眺めた。

 すると、彼らは懐から布を取り出して、それに手にした小瓶から液を染み込ませる。
 これを犯人たちにかがせると、彼女たちは一様にぐったりとして動かなくなった。

「なんだろう。奇跡じゃない気がする」

「奇跡です。あの布と小瓶と液体が生み出されたことが奇跡です。なので奇跡を行使することも奇跡なんです」

 ローラが断言した。
 そうなのかなあ……!
 解せぬ。

 結局、犯人たちはそのまま連れて行かれた。
 誘拐事件を起こしたわけだし、彼女たちは相応の罰を受けるのだそうだ。

 そして学長もすげ替わり、神学校は幾らか風通しが良くなったとか。

 さて、事件は解決。
 だけど、私たちはまだまだネフリティス王国の観光を楽しむつもりなのだ。
 願わくば、この観光に事件なんて起きませんように……!
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

思わず呆れる婚約破棄

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある国のとある夜会、その場にて、その国の王子が婚約破棄を言い渡した。 だがしかし、その内容がずさんというか、あまりにもひどいというか……呆れるしかない。 余りにもひどい内容に、思わず誰もが呆れてしまうのであった。 ……ネタバレのような気がする。しかし、良い紹介分が思いつかなかった。 よくあるざまぁ系婚約破棄物ですが、第3者視点よりお送りいたします。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

処理中です...