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エルド教学校の誘拐事件
第141話 犯人は被害者友の会?
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大変な真実が明かされた。
分かることは、とりあえず犯人が女性ということだろう。
それにしても、誘拐をするだけして、何か要求などはつきつけていないものなのだろうか?
私たちはそれを、学長から聞いていない。
学長に問おう。
こうして私たちは学長室へ。
するとそこでは、入り口を塞ぐようにしてエルド教の武器、銃を手にした教師が二人立っていた。
「通すなと学長に言われている!」
「ナイツ」
「へいへい」
進み出たナイツが銃をはねのけ、二人とも腹パンをして転がした。
「ウグワー!」
「ウグワー!」
「武器に頼ってばかりで腹筋を鍛えてなかったようだな」
銃による威嚇が通用しないナイツ。
何しろ、一度彼が遺跡の銃に似た武器で撃たれた際、それを見てから躱したのを見たことがあるのだ。
ナイツに銃は通用しない。
伊達に辺境最強の騎士はやっていないのだ。
辺境最強ということは、辺境を襲うモンスターや蛮族全ての中で一番強いということなのだから。
「お嬢、扉が開きましたぜ」
「開けたわね」
堂々と入場する、私とシャーロット。
「ひ、ひいいいい」
学長が悲鳴をあげた。
「暴力はいけない、暴力は。どうして無理やり入ってこようとするんだ」
「ここを訪れたら、銃を突きつけられて入室を拒否されたからですわね」
シャーロットが何を当然のことを、と言った様子で告げる。
「予告状を見てなかったと思ったの。それで見せてもらいに来たのだけど……」
「な、ない。捨ててしまった」
「えー、本当に……?」
私がカマを掛けたら、学長の目がチラッと動いた。
スッとそれに合わせて動くシャーロット。
「あっ」
部屋の隅にあった観葉植物。
植木鉢に満たされた土の中から、シャーロットは一枚の紙を取り出していた。
「ふうん……これが予告状ですのね……」
ちらりと目を通し、シャーロットが微笑んだ。
「告発状ではなくって?」
「そ、それは……!」
学長の顔が真っ白になった。
つまり、内容はこうだ。
神学校を卒業した司祭たちは、あまりにも長く続いた禁欲生活のため、外に出るとはっちゃける。
その結果、おいたをやり過ぎて女性信者たちが大変な迷惑を被ったそうなのだ。
抗議の声を上げるが、こちらの神学校は知らぬ存ぜぬを通す。
ついに腹に据えかねて、計画を実行に移したと。
「根も葉もない虚言だ! そんなことはない!」
学長が叫ぶ。
「何もなければ、官僚の息子である生徒さんがさらわれたりはしませんわ。こちらも何か裏がありそうですわね? 例えば、今の女人禁制の体制が、学長さんのこだわりで作られたシステムだとか。……あら、この紙……。かなり分厚い紙を使っていますわね。どうりで学長さんが破かなかったはずですわ。どれどれ」
シャーロットが、予告状を検分し始めた。
「筆跡、インクのにおい、紙質に、それからこれは……インクのにじみに指紋がついていますわね。素人の犯行ですわねこれは。その割には、誘拐の手口は鮮やかだったようですけれど」
その後の事件を追う流れは、鮮やかそのもの。
学長室を出たシャーロットは、この紙がやはりエルド教に関わる技術の産物であることをつきとめた。
モノ知りそうな生徒さんに聞いたら、にこやかに教えてくれたのである。
そして指紋について。
「これはわざと残してありますわね。私がやった。絶対に逃さないぞ、という意思の現れですわ。つまりこれは、犯人からの対決の意思ということですわね」
「ははあ……。随分きな臭い話になって来たわね。それにしたって、どうして誘拐?」
「学長さんのメンツが潰れますでしょう? そして原因が本当ならば、事件を明るみにもできませんわ」
「ああ、それで外国で有名だったシャーロットを呼んだと!」
「ええ。外国人が真実をしって糾弾しても、取るに足らないと考えたのではないかしら」
スタスタ歩きながら、シャーロットは神学校の奥へ。
そこには、奇妙な機械が据え付けられていた。
機械を守るためなのか、いかつい男の人が立っている。
「使わせていただけます?」
「許可が降りていない」
「あくまで可能性の話ですけれど、告発です。こちらはエルフェンバインのワトサップ辺境伯名代、ジャネット様。彼女が直接に物を言いたいと仰せなのです」
ナイツが進み出て、我が家の家紋を見せた。
いかつい男は目を見開くと、道を空けた。
「電話はマリア様直通だ。くだらない内容であれば処断されることになるぞ」
なんだなんだ!?
「シャーロット、どういうこと?」
「エルド教の一番えらい方に連絡しておきますの。エルド教は商売もしていますもの。利害が絡めばお話を聞いてくださる方々ですわ」
電話、というらしいその機械。
シャーロットは楽々と扱い、その先にいるであろう何者かとおしゃべりを始めた。
私に聞こえたのは、マリアというらしい女性の一言。
『ではすぐに、査察隊を送るわね。このところ商売に力を入れていたから、司祭の育成にはノータッチだったの。腐敗していたのねえ』
おっとりした声だったが、背筋が薄ら寒くなる気がした。
「化け物の香りがしましたな」
「ナイツも?」
「エルド教の教主マリア様は、もう五百年以上代替わりすることなく勤めておられるそうですわよ?」
シャーロットが洒落にならない話を囁いた。
それ本当……!?
こうして、事件は新たな展開を見せるのである。
具体的には、査察隊が昼頃にやって来たのだ……!
分かることは、とりあえず犯人が女性ということだろう。
それにしても、誘拐をするだけして、何か要求などはつきつけていないものなのだろうか?
私たちはそれを、学長から聞いていない。
学長に問おう。
こうして私たちは学長室へ。
するとそこでは、入り口を塞ぐようにしてエルド教の武器、銃を手にした教師が二人立っていた。
「通すなと学長に言われている!」
「ナイツ」
「へいへい」
進み出たナイツが銃をはねのけ、二人とも腹パンをして転がした。
「ウグワー!」
「ウグワー!」
「武器に頼ってばかりで腹筋を鍛えてなかったようだな」
銃による威嚇が通用しないナイツ。
何しろ、一度彼が遺跡の銃に似た武器で撃たれた際、それを見てから躱したのを見たことがあるのだ。
ナイツに銃は通用しない。
伊達に辺境最強の騎士はやっていないのだ。
辺境最強ということは、辺境を襲うモンスターや蛮族全ての中で一番強いということなのだから。
「お嬢、扉が開きましたぜ」
「開けたわね」
堂々と入場する、私とシャーロット。
「ひ、ひいいいい」
学長が悲鳴をあげた。
「暴力はいけない、暴力は。どうして無理やり入ってこようとするんだ」
「ここを訪れたら、銃を突きつけられて入室を拒否されたからですわね」
シャーロットが何を当然のことを、と言った様子で告げる。
「予告状を見てなかったと思ったの。それで見せてもらいに来たのだけど……」
「な、ない。捨ててしまった」
「えー、本当に……?」
私がカマを掛けたら、学長の目がチラッと動いた。
スッとそれに合わせて動くシャーロット。
「あっ」
部屋の隅にあった観葉植物。
植木鉢に満たされた土の中から、シャーロットは一枚の紙を取り出していた。
「ふうん……これが予告状ですのね……」
ちらりと目を通し、シャーロットが微笑んだ。
「告発状ではなくって?」
「そ、それは……!」
学長の顔が真っ白になった。
つまり、内容はこうだ。
神学校を卒業した司祭たちは、あまりにも長く続いた禁欲生活のため、外に出るとはっちゃける。
その結果、おいたをやり過ぎて女性信者たちが大変な迷惑を被ったそうなのだ。
抗議の声を上げるが、こちらの神学校は知らぬ存ぜぬを通す。
ついに腹に据えかねて、計画を実行に移したと。
「根も葉もない虚言だ! そんなことはない!」
学長が叫ぶ。
「何もなければ、官僚の息子である生徒さんがさらわれたりはしませんわ。こちらも何か裏がありそうですわね? 例えば、今の女人禁制の体制が、学長さんのこだわりで作られたシステムだとか。……あら、この紙……。かなり分厚い紙を使っていますわね。どうりで学長さんが破かなかったはずですわ。どれどれ」
シャーロットが、予告状を検分し始めた。
「筆跡、インクのにおい、紙質に、それからこれは……インクのにじみに指紋がついていますわね。素人の犯行ですわねこれは。その割には、誘拐の手口は鮮やかだったようですけれど」
その後の事件を追う流れは、鮮やかそのもの。
学長室を出たシャーロットは、この紙がやはりエルド教に関わる技術の産物であることをつきとめた。
モノ知りそうな生徒さんに聞いたら、にこやかに教えてくれたのである。
そして指紋について。
「これはわざと残してありますわね。私がやった。絶対に逃さないぞ、という意思の現れですわ。つまりこれは、犯人からの対決の意思ということですわね」
「ははあ……。随分きな臭い話になって来たわね。それにしたって、どうして誘拐?」
「学長さんのメンツが潰れますでしょう? そして原因が本当ならば、事件を明るみにもできませんわ」
「ああ、それで外国で有名だったシャーロットを呼んだと!」
「ええ。外国人が真実をしって糾弾しても、取るに足らないと考えたのではないかしら」
スタスタ歩きながら、シャーロットは神学校の奥へ。
そこには、奇妙な機械が据え付けられていた。
機械を守るためなのか、いかつい男の人が立っている。
「使わせていただけます?」
「許可が降りていない」
「あくまで可能性の話ですけれど、告発です。こちらはエルフェンバインのワトサップ辺境伯名代、ジャネット様。彼女が直接に物を言いたいと仰せなのです」
ナイツが進み出て、我が家の家紋を見せた。
いかつい男は目を見開くと、道を空けた。
「電話はマリア様直通だ。くだらない内容であれば処断されることになるぞ」
なんだなんだ!?
「シャーロット、どういうこと?」
「エルド教の一番えらい方に連絡しておきますの。エルド教は商売もしていますもの。利害が絡めばお話を聞いてくださる方々ですわ」
電話、というらしいその機械。
シャーロットは楽々と扱い、その先にいるであろう何者かとおしゃべりを始めた。
私に聞こえたのは、マリアというらしい女性の一言。
『ではすぐに、査察隊を送るわね。このところ商売に力を入れていたから、司祭の育成にはノータッチだったの。腐敗していたのねえ』
おっとりした声だったが、背筋が薄ら寒くなる気がした。
「化け物の香りがしましたな」
「ナイツも?」
「エルド教の教主マリア様は、もう五百年以上代替わりすることなく勤めておられるそうですわよ?」
シャーロットが洒落にならない話を囁いた。
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こうして、事件は新たな展開を見せるのである。
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