推理令嬢シャーロットの事件簿~謎解きは婚約破棄のあとで~

あけちともあき

文字の大きさ
上 下
140 / 225
エルド教学校の誘拐事件

第140話 怪しい足跡

しおりを挟む
 誘拐された生徒の部屋に入ると、そこに荒らされた形跡はなかった。
 ちょっとベッドが乱れているような?
 
 窓の鍵は開いていて、ここから逃げたのかな? と思う。

「抵抗せずにさらわれたということですわね。つまりこれは、女性への耐性がない神学校の方々を狙った犯行ということですわよ」

「な、なんだってー!」

 舎長が飛び上がって驚いた。

「そんな……。我々は毎日の祈りと勉強で、清く正しい心を身に着けているというのに……」

「えー」

 自己評価がとても高いなあ!
 シャーロットもこれには苦笑い。

「つまり、相手は人心掌握に長け、神学校の様子をよく知っている女性、しかも複数人いるということですわ」

「この部屋を見ただけでそこまで分かるのかい!? す、すごい。ものすごく頭が良くて、しかもスラッとした美人さんだなんて」

 この舎長は明らかに女性に弱い。
 ちなみに、寄宿舎は本来女人禁制なのだそうで、私たちがここにいることは特例中の特例。

 そんな私とシャーロットをひと目見ようと、寄宿舎に残っていた生徒たちがわらわらと扉の外に詰めかけている。
 そして、シャーロットが推理を披露した後、おおーっとみんな一斉に感嘆したのである。

「ジャネット様、この寄宿舎の皆様は事件解決に協力してくれそうですわね」

「そうねえ……。みーんな鼻の下を伸ばしちゃって」

「ええ。ですから、いいところを見せようとして嘘や誇張した証言をしてくる方がいるかも知れませんわ。聞き取りには注意しませんと」

「あ、そうか! そうだねえ」

 見回すと、生徒諸君はハッとした。
 そしてうんうんとうなずく。

 その後、私が彼らから色々な情報を聞き、メモすることになったのだった。
 シャーロットは部屋の中を調べて回り、窓の下にナイツを立たせ、何やら検証している。

「やはり、そうですわね。そこに足跡は? ある? 一つだけ? やっぱりですわねー。妙に深く踏み込まれた殿方の足跡じゃありませんこと? ああ、やはり!」

 どんどん推理が進行していっているなあ。
 私はと言うと、生徒諸氏の色々盛られた証言を聞いて、どこまでが本当なんだ……? と検証していた。
 もう大変。

 ついでに舎長さんまで加わってきて、盛った事を言う。
 やれ、侵入してきた賊を退治したとか。
 神学校アームグラップル大会で優勝したとか。

 そんな話は今はどうでもよろしい!

「あの! 俺ね、この間、あなた方とは違う女性を案内したんですけど! 彼女の冷ややかな目がもう堪らなくて……! ウヒョー、今思い出してもゾクゾクする!」

 特殊な性癖!
 そんな報告はしなくてもよろしい。
 しなくても……も……?

「寄宿舎って基本的に女人禁制よね? というか、神学校は男の人しかいないようだけど」

 この言葉に、男性一同がキョトンとした。

「そりゃあそうさ。ここの神学校は男の司祭を育てるためのところなんだ。女の司祭は島の逆側で育てられてるよ。俺たちが接触しないようにするためらしい」

 生徒の一人の話を聞いて、なるほどとうなずく。
 どうやらこの学校の女人禁制はザルみたいだし、その辺りについてはエルド教の偉いところに連絡して、強化してもらわなきゃだけど。
 おかげで、最近寄宿舎に女性が訪れた事がわかった。

 間違いなく、今回の誘拐の下見に来たんだろう。
 そして冷ややかな目というのは、まあ、ここの生徒のことをよく思ってないってことでは?
 いやいや、めちゃくちゃ舞い上がっている生徒さんを見て、引いてるだけっていう可能性もあるけど。

 私は彼に、女性を案内した日とどんな会話をしたかを尋ねた。
 寄宿舎の構造や、人の動きなどの話をしたらしい。
 もうこれは決まりじゃないか。

「えっ、お前の話てた女を案内したっていうの本当だったのか!?」

「お前の妄想の世界にしかいない女の話だと思ってた」

「わはは、諸君、嫉妬は見苦しいぞ」

「なんだとこんにゃろうめ!」

「畳んじまえ!」

「聖戦勃発だ!」

「ウグワー!」

 あっ、喧嘩が始まってしまった!
 舎長まで混じってドタバタしている。

 そこにシャーロットがスタスタやって来て、「バリツ!」と男たちを次々に放り投げた。
 ふっ飛ばされていく男たちは、「ウグワー!」といいつつも、シャーロットに手首を握られたりしてちょっとニッコリしている。
 こんな満足げなウグワーは初めて聞いたなあ。

 すぐに聖戦?は沈静化。

「さて、ジャネット様の話はこちらにも聞こえてましたわよ。わたくしも、きちんと犯行の証拠を見つけました。後は犯人を探すだけですわね」

 シャーロットは汗一つかかず、涼しい顔で言ってのけた。

「まず、こちらをご覧くださいな」

 シャーロットが案内したのは窓際。
 窓のさんに、擦れた跡がある。

「ロープを使って降りたのでしょうね。そしてナイツさんが外から確認して下さったのですが、壁には泥のついた足跡がついていたそうですわ。サイズは小さいから女性のものと見られるとか」

「ふむふむ。つまり実行犯も女性というわけね」

「ええ。そして、窓の下の地面には殿方の足跡が! というか、それしかありませんわね。女性の足跡はどこにも」

「ええ!? それって……」

「自分たちの跡をついてこさせたのだと思いますわ。そして、足跡の上から、足跡を被らせた。女性だけの力で、三階から男性を下ろすというのも難しいでしょうね。大人数が入り込んだら寄宿舎の方々に分かってしまいますもの」

 シャーロットの推理が冴える。
 つまりこれは……。

「誘拐された対象は、自ら協力して外に出て、彼女たちの後をついていったということですわ!」
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

【14万PV感謝!!】異世界で配合屋始めたら思いのほか需要がありました! 〜魔物の配合が世界を変える〜

中島菘
ファンタジー
 電車で刺された男・タイセイは気づけば魔物が人間と共に堂々と道の真ん中を闊歩するような異世界にいた。身分も何もかもない状態になってしまい、途方に暮れる彼だったが、偶然取り組み始めた配合による小魚の新種の作成を始めた。  配合というアイデアは、画期的なアイデアで、ある日彼が転生した大都市ホルンメランの美少女首長がそれに目をつけ、タイセイを呼び出す。  彼女との出会いをきっかけとして、タイセイの異世界生活は大きく動き出しはじめた!   やがてタイセイの数奇な運命は異世界全体を巻き込んでいく……

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

処理中です...