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エルド教学校の誘拐事件
第140話 怪しい足跡
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誘拐された生徒の部屋に入ると、そこに荒らされた形跡はなかった。
ちょっとベッドが乱れているような?
窓の鍵は開いていて、ここから逃げたのかな? と思う。
「抵抗せずにさらわれたということですわね。つまりこれは、女性への耐性がない神学校の方々を狙った犯行ということですわよ」
「な、なんだってー!」
舎長が飛び上がって驚いた。
「そんな……。我々は毎日の祈りと勉強で、清く正しい心を身に着けているというのに……」
「えー」
自己評価がとても高いなあ!
シャーロットもこれには苦笑い。
「つまり、相手は人心掌握に長け、神学校の様子をよく知っている女性、しかも複数人いるということですわ」
「この部屋を見ただけでそこまで分かるのかい!? す、すごい。ものすごく頭が良くて、しかもスラッとした美人さんだなんて」
この舎長は明らかに女性に弱い。
ちなみに、寄宿舎は本来女人禁制なのだそうで、私たちがここにいることは特例中の特例。
そんな私とシャーロットをひと目見ようと、寄宿舎に残っていた生徒たちがわらわらと扉の外に詰めかけている。
そして、シャーロットが推理を披露した後、おおーっとみんな一斉に感嘆したのである。
「ジャネット様、この寄宿舎の皆様は事件解決に協力してくれそうですわね」
「そうねえ……。みーんな鼻の下を伸ばしちゃって」
「ええ。ですから、いいところを見せようとして嘘や誇張した証言をしてくる方がいるかも知れませんわ。聞き取りには注意しませんと」
「あ、そうか! そうだねえ」
見回すと、生徒諸君はハッとした。
そしてうんうんとうなずく。
その後、私が彼らから色々な情報を聞き、メモすることになったのだった。
シャーロットは部屋の中を調べて回り、窓の下にナイツを立たせ、何やら検証している。
「やはり、そうですわね。そこに足跡は? ある? 一つだけ? やっぱりですわねー。妙に深く踏み込まれた殿方の足跡じゃありませんこと? ああ、やはり!」
どんどん推理が進行していっているなあ。
私はと言うと、生徒諸氏の色々盛られた証言を聞いて、どこまでが本当なんだ……? と検証していた。
もう大変。
ついでに舎長さんまで加わってきて、盛った事を言う。
やれ、侵入してきた賊を退治したとか。
神学校アームグラップル大会で優勝したとか。
そんな話は今はどうでもよろしい!
「あの! 俺ね、この間、あなた方とは違う女性を案内したんですけど! 彼女の冷ややかな目がもう堪らなくて……! ウヒョー、今思い出してもゾクゾクする!」
特殊な性癖!
そんな報告はしなくてもよろしい。
しなくても……も……?
「寄宿舎って基本的に女人禁制よね? というか、神学校は男の人しかいないようだけど」
この言葉に、男性一同がキョトンとした。
「そりゃあそうさ。ここの神学校は男の司祭を育てるためのところなんだ。女の司祭は島の逆側で育てられてるよ。俺たちが接触しないようにするためらしい」
生徒の一人の話を聞いて、なるほどとうなずく。
どうやらこの学校の女人禁制はザルみたいだし、その辺りについてはエルド教の偉いところに連絡して、強化してもらわなきゃだけど。
おかげで、最近寄宿舎に女性が訪れた事がわかった。
間違いなく、今回の誘拐の下見に来たんだろう。
そして冷ややかな目というのは、まあ、ここの生徒のことをよく思ってないってことでは?
いやいや、めちゃくちゃ舞い上がっている生徒さんを見て、引いてるだけっていう可能性もあるけど。
私は彼に、女性を案内した日とどんな会話をしたかを尋ねた。
寄宿舎の構造や、人の動きなどの話をしたらしい。
もうこれは決まりじゃないか。
「えっ、お前の話てた女を案内したっていうの本当だったのか!?」
「お前の妄想の世界にしかいない女の話だと思ってた」
「わはは、諸君、嫉妬は見苦しいぞ」
「なんだとこんにゃろうめ!」
「畳んじまえ!」
「聖戦勃発だ!」
「ウグワー!」
あっ、喧嘩が始まってしまった!
舎長まで混じってドタバタしている。
そこにシャーロットがスタスタやって来て、「バリツ!」と男たちを次々に放り投げた。
ふっ飛ばされていく男たちは、「ウグワー!」といいつつも、シャーロットに手首を握られたりしてちょっとニッコリしている。
こんな満足げなウグワーは初めて聞いたなあ。
すぐに聖戦?は沈静化。
「さて、ジャネット様の話はこちらにも聞こえてましたわよ。わたくしも、きちんと犯行の証拠を見つけました。後は犯人を探すだけですわね」
シャーロットは汗一つかかず、涼しい顔で言ってのけた。
「まず、こちらをご覧くださいな」
シャーロットが案内したのは窓際。
窓の桟に、擦れた跡がある。
「ロープを使って降りたのでしょうね。そしてナイツさんが外から確認して下さったのですが、壁には泥のついた足跡がついていたそうですわ。サイズは小さいから女性のものと見られるとか」
「ふむふむ。つまり実行犯も女性というわけね」
「ええ。そして、窓の下の地面には殿方の足跡が! というか、それしかありませんわね。女性の足跡はどこにも」
「ええ!? それって……」
「自分たちの跡をついてこさせたのだと思いますわ。そして、足跡の上から、足跡を被らせた。女性だけの力で、三階から男性を下ろすというのも難しいでしょうね。大人数が入り込んだら寄宿舎の方々に分かってしまいますもの」
シャーロットの推理が冴える。
つまりこれは……。
「誘拐された対象は、自ら協力して外に出て、彼女たちの後をついていったということですわ!」
ちょっとベッドが乱れているような?
窓の鍵は開いていて、ここから逃げたのかな? と思う。
「抵抗せずにさらわれたということですわね。つまりこれは、女性への耐性がない神学校の方々を狙った犯行ということですわよ」
「な、なんだってー!」
舎長が飛び上がって驚いた。
「そんな……。我々は毎日の祈りと勉強で、清く正しい心を身に着けているというのに……」
「えー」
自己評価がとても高いなあ!
シャーロットもこれには苦笑い。
「つまり、相手は人心掌握に長け、神学校の様子をよく知っている女性、しかも複数人いるということですわ」
「この部屋を見ただけでそこまで分かるのかい!? す、すごい。ものすごく頭が良くて、しかもスラッとした美人さんだなんて」
この舎長は明らかに女性に弱い。
ちなみに、寄宿舎は本来女人禁制なのだそうで、私たちがここにいることは特例中の特例。
そんな私とシャーロットをひと目見ようと、寄宿舎に残っていた生徒たちがわらわらと扉の外に詰めかけている。
そして、シャーロットが推理を披露した後、おおーっとみんな一斉に感嘆したのである。
「ジャネット様、この寄宿舎の皆様は事件解決に協力してくれそうですわね」
「そうねえ……。みーんな鼻の下を伸ばしちゃって」
「ええ。ですから、いいところを見せようとして嘘や誇張した証言をしてくる方がいるかも知れませんわ。聞き取りには注意しませんと」
「あ、そうか! そうだねえ」
見回すと、生徒諸君はハッとした。
そしてうんうんとうなずく。
その後、私が彼らから色々な情報を聞き、メモすることになったのだった。
シャーロットは部屋の中を調べて回り、窓の下にナイツを立たせ、何やら検証している。
「やはり、そうですわね。そこに足跡は? ある? 一つだけ? やっぱりですわねー。妙に深く踏み込まれた殿方の足跡じゃありませんこと? ああ、やはり!」
どんどん推理が進行していっているなあ。
私はと言うと、生徒諸氏の色々盛られた証言を聞いて、どこまでが本当なんだ……? と検証していた。
もう大変。
ついでに舎長さんまで加わってきて、盛った事を言う。
やれ、侵入してきた賊を退治したとか。
神学校アームグラップル大会で優勝したとか。
そんな話は今はどうでもよろしい!
「あの! 俺ね、この間、あなた方とは違う女性を案内したんですけど! 彼女の冷ややかな目がもう堪らなくて……! ウヒョー、今思い出してもゾクゾクする!」
特殊な性癖!
そんな報告はしなくてもよろしい。
しなくても……も……?
「寄宿舎って基本的に女人禁制よね? というか、神学校は男の人しかいないようだけど」
この言葉に、男性一同がキョトンとした。
「そりゃあそうさ。ここの神学校は男の司祭を育てるためのところなんだ。女の司祭は島の逆側で育てられてるよ。俺たちが接触しないようにするためらしい」
生徒の一人の話を聞いて、なるほどとうなずく。
どうやらこの学校の女人禁制はザルみたいだし、その辺りについてはエルド教の偉いところに連絡して、強化してもらわなきゃだけど。
おかげで、最近寄宿舎に女性が訪れた事がわかった。
間違いなく、今回の誘拐の下見に来たんだろう。
そして冷ややかな目というのは、まあ、ここの生徒のことをよく思ってないってことでは?
いやいや、めちゃくちゃ舞い上がっている生徒さんを見て、引いてるだけっていう可能性もあるけど。
私は彼に、女性を案内した日とどんな会話をしたかを尋ねた。
寄宿舎の構造や、人の動きなどの話をしたらしい。
もうこれは決まりじゃないか。
「えっ、お前の話てた女を案内したっていうの本当だったのか!?」
「お前の妄想の世界にしかいない女の話だと思ってた」
「わはは、諸君、嫉妬は見苦しいぞ」
「なんだとこんにゃろうめ!」
「畳んじまえ!」
「聖戦勃発だ!」
「ウグワー!」
あっ、喧嘩が始まってしまった!
舎長まで混じってドタバタしている。
そこにシャーロットがスタスタやって来て、「バリツ!」と男たちを次々に放り投げた。
ふっ飛ばされていく男たちは、「ウグワー!」といいつつも、シャーロットに手首を握られたりしてちょっとニッコリしている。
こんな満足げなウグワーは初めて聞いたなあ。
すぐに聖戦?は沈静化。
「さて、ジャネット様の話はこちらにも聞こえてましたわよ。わたくしも、きちんと犯行の証拠を見つけました。後は犯人を探すだけですわね」
シャーロットは汗一つかかず、涼しい顔で言ってのけた。
「まず、こちらをご覧くださいな」
シャーロットが案内したのは窓際。
窓の桟に、擦れた跡がある。
「ロープを使って降りたのでしょうね。そしてナイツさんが外から確認して下さったのですが、壁には泥のついた足跡がついていたそうですわ。サイズは小さいから女性のものと見られるとか」
「ふむふむ。つまり実行犯も女性というわけね」
「ええ。そして、窓の下の地面には殿方の足跡が! というか、それしかありませんわね。女性の足跡はどこにも」
「ええ!? それって……」
「自分たちの跡をついてこさせたのだと思いますわ。そして、足跡の上から、足跡を被らせた。女性だけの力で、三階から男性を下ろすというのも難しいでしょうね。大人数が入り込んだら寄宿舎の方々に分かってしまいますもの」
シャーロットの推理が冴える。
つまりこれは……。
「誘拐された対象は、自ら協力して外に出て、彼女たちの後をついていったということですわ!」
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