139 / 225
エルド教学校の誘拐事件
第139話 誘拐されたのは
しおりを挟む
エルド教神学校に到着。
そこは壁を真っ白に塗られた、美しい建物だった。
高さは三階建て。
教会と体育館と運動場と寄宿舎がついていて、今も運動場を若い男たちが走っている。
私とシャーロットが現れて、注目を浴びた。
「女子だ」
「女子がいる……!」
「あのプラチナブロンドの子がすごく可愛いんだが……!」
「こらあ貴様らぁ! 煩悩に負けてどうする!!」
立ち止まった男たちを、後ろからひっぱたく者がいる。
あれが神学校の教官なんだろう。
私が手を振ると、彼らはわーっと沸いた。
教官も。
みんないっしょである。
「うちの学生を誘惑しないでいただきたい……」
白髪の学長に言われてしまった。
「誘惑はしていないんですけど」
「ワトサップ辺境伯名代、あなたは大変目立ちますので、禁欲生活をしている神学校の生徒たちには目の毒なのです」
「そうですわねえ。ジャネット様はとても映える容姿をなさっておられますからねえ……。王都では武勇伝が広まりすぎて、このご容姿がマーカーみたいになっていましたわね。誰もがジャネット様だとすぐに分かるという」
「何ということを言うのだ」
でも確かに王都では、あんな風に見られることはなくなっていたなあ。
大変過ごしやすくていいと思っていたが、どうやら恐怖とともに名を語られていたようだ……。
「それで学長先生。事件について伺いたいのですけれども」
「はい。実は当神学校の生徒が誘拐されまして」
「まあ。それはわたくしたちが来る前に?」
「いえ、予告状のようなものが届いていたのですが、ついにお二人がやってくる前日に」
ついこの間、とうとう誘拐されたらしい。
観光どころではなかった。
誘拐されたのは、ネフリティス王国に勤める官僚の子息だそうだ。
予告状には、誰を誘拐すると名指しでは書いていなかったため、神学校ではここしばらくの間、厳戒態勢が敷かれていたという。
ネフリティス王国から兵士がやって来て、入り口に詰めて見張っていたそうだ。
そう言えば今もいる。
ものすごく注目されたような。
「海外に出ますと、ジャネット様は目立ちますわね! お忍びで何かをするなんて不可能だと思いますわねー」
「それほどだったか私……」
プラチナブロンドは確かに目立つものね。
これは、潜入調査とか、そしらぬ顔をしての聞き込みとかは無理のようだ。
つまり堂々とやるしかない。
「じゃあシャーロット、寄宿舎に入りましょ」
「そう致しましょうか」
「あのう、あまり学生たちを刺激しないように……」
学長がか細い声で懇願してくるのを聞きながら、私たちは寄宿舎に向かった。
今現在講義に出ている生徒を除き、寄宿舎にはごく少数の人が残っているようだった。
誘拐された生徒の部屋は三階。
よく壁はよく手入れされていて、蔦が這っているということもない。
「三階から降りるなら、決死の覚悟で飛び降りるか屋内を移動するか、ですわね。ちなみに部屋の鍵は掛かっていたそうですわ」
「なるほどー。それってつまり、外から犯人は入り込んだってことかな」
「普通に考えるとそうなりますわねえ」
普通ってなんだ。
つまり、シャーロットはそうじゃないと考えているわけ?
彼女は寄宿舎の入り口脇にある、舎長の部屋をノックした。
現れた男性が、「あっ、女性だ」とつぶやく。
禁欲生活!
エルド教の司祭だったりするはずなのだが、口が大変軽い。
シャーロットが優しく質問すると、ニコニコしながらなんでも答えてくれた。
大丈夫か、この施設。
「三日前にやはり女性が訪れたそうですわ。それで外に呼び出されて話し込んだことを自慢していましたわね」
「なんてこと」
「彼曰く、壁には各部屋の鍵が掛かっているけれど、それはどれも減っていなかったそうですわ。つまりここから鍵を持ち出したわけではありませんわね」
「ああ、そういうこと! シャーロットは、合鍵を使って内側から開けたと思ったわけね。そして、そうじゃなかったと」
「いいえ、間違いなく合鍵で内側から開けましたわね!」
確信を込めて、シャーロットがニヤリと笑った。
な、なんだってー!
「ちょっとよろしいです? 入りますわよ?」
「じょ、女性の入室は……どうぞどうぞ」
女性に甘い!
シャーロットはずんずん部屋の中に入り、壁を指差した。
「これが目的の部屋の鍵ですわね。そしてここをごらんなさい。ちょっとテカテカしていますでしょ? 粘土に押し付けて型を取ったのでしょうね。ちょっと粘土の臭いがしますし、こびりついている物もありますわ」
「どれどれ……? ほんとだ!」
鍵の下部は丁寧に型を取られたようだが、上の握りの部分はそこまで気にされなかったらしい。
固まった粘土の破片がこびりついている。
鍵の型を取り、これで合鍵を作って翌日に生徒を誘拐したというわけだ。
では、実際に現場に行ってみよう。
舎長はニコニコしながら、合鍵を持ってついて来た。
「一応は俺がいないと、寄宿舎の中を歩き回れないからね。道案内もするからね。任せてねー」
「あら頼りになりますわー」
「ありがとうー」
私とシャーロットがお礼を言うと、舎長はさらにニッコニコになった。
うーん!
この神学校、セキュリティにすっごい問題があるのでは!!
そこは壁を真っ白に塗られた、美しい建物だった。
高さは三階建て。
教会と体育館と運動場と寄宿舎がついていて、今も運動場を若い男たちが走っている。
私とシャーロットが現れて、注目を浴びた。
「女子だ」
「女子がいる……!」
「あのプラチナブロンドの子がすごく可愛いんだが……!」
「こらあ貴様らぁ! 煩悩に負けてどうする!!」
立ち止まった男たちを、後ろからひっぱたく者がいる。
あれが神学校の教官なんだろう。
私が手を振ると、彼らはわーっと沸いた。
教官も。
みんないっしょである。
「うちの学生を誘惑しないでいただきたい……」
白髪の学長に言われてしまった。
「誘惑はしていないんですけど」
「ワトサップ辺境伯名代、あなたは大変目立ちますので、禁欲生活をしている神学校の生徒たちには目の毒なのです」
「そうですわねえ。ジャネット様はとても映える容姿をなさっておられますからねえ……。王都では武勇伝が広まりすぎて、このご容姿がマーカーみたいになっていましたわね。誰もがジャネット様だとすぐに分かるという」
「何ということを言うのだ」
でも確かに王都では、あんな風に見られることはなくなっていたなあ。
大変過ごしやすくていいと思っていたが、どうやら恐怖とともに名を語られていたようだ……。
「それで学長先生。事件について伺いたいのですけれども」
「はい。実は当神学校の生徒が誘拐されまして」
「まあ。それはわたくしたちが来る前に?」
「いえ、予告状のようなものが届いていたのですが、ついにお二人がやってくる前日に」
ついこの間、とうとう誘拐されたらしい。
観光どころではなかった。
誘拐されたのは、ネフリティス王国に勤める官僚の子息だそうだ。
予告状には、誰を誘拐すると名指しでは書いていなかったため、神学校ではここしばらくの間、厳戒態勢が敷かれていたという。
ネフリティス王国から兵士がやって来て、入り口に詰めて見張っていたそうだ。
そう言えば今もいる。
ものすごく注目されたような。
「海外に出ますと、ジャネット様は目立ちますわね! お忍びで何かをするなんて不可能だと思いますわねー」
「それほどだったか私……」
プラチナブロンドは確かに目立つものね。
これは、潜入調査とか、そしらぬ顔をしての聞き込みとかは無理のようだ。
つまり堂々とやるしかない。
「じゃあシャーロット、寄宿舎に入りましょ」
「そう致しましょうか」
「あのう、あまり学生たちを刺激しないように……」
学長がか細い声で懇願してくるのを聞きながら、私たちは寄宿舎に向かった。
今現在講義に出ている生徒を除き、寄宿舎にはごく少数の人が残っているようだった。
誘拐された生徒の部屋は三階。
よく壁はよく手入れされていて、蔦が這っているということもない。
「三階から降りるなら、決死の覚悟で飛び降りるか屋内を移動するか、ですわね。ちなみに部屋の鍵は掛かっていたそうですわ」
「なるほどー。それってつまり、外から犯人は入り込んだってことかな」
「普通に考えるとそうなりますわねえ」
普通ってなんだ。
つまり、シャーロットはそうじゃないと考えているわけ?
彼女は寄宿舎の入り口脇にある、舎長の部屋をノックした。
現れた男性が、「あっ、女性だ」とつぶやく。
禁欲生活!
エルド教の司祭だったりするはずなのだが、口が大変軽い。
シャーロットが優しく質問すると、ニコニコしながらなんでも答えてくれた。
大丈夫か、この施設。
「三日前にやはり女性が訪れたそうですわ。それで外に呼び出されて話し込んだことを自慢していましたわね」
「なんてこと」
「彼曰く、壁には各部屋の鍵が掛かっているけれど、それはどれも減っていなかったそうですわ。つまりここから鍵を持ち出したわけではありませんわね」
「ああ、そういうこと! シャーロットは、合鍵を使って内側から開けたと思ったわけね。そして、そうじゃなかったと」
「いいえ、間違いなく合鍵で内側から開けましたわね!」
確信を込めて、シャーロットがニヤリと笑った。
な、なんだってー!
「ちょっとよろしいです? 入りますわよ?」
「じょ、女性の入室は……どうぞどうぞ」
女性に甘い!
シャーロットはずんずん部屋の中に入り、壁を指差した。
「これが目的の部屋の鍵ですわね。そしてここをごらんなさい。ちょっとテカテカしていますでしょ? 粘土に押し付けて型を取ったのでしょうね。ちょっと粘土の臭いがしますし、こびりついている物もありますわ」
「どれどれ……? ほんとだ!」
鍵の下部は丁寧に型を取られたようだが、上の握りの部分はそこまで気にされなかったらしい。
固まった粘土の破片がこびりついている。
鍵の型を取り、これで合鍵を作って翌日に生徒を誘拐したというわけだ。
では、実際に現場に行ってみよう。
舎長はニコニコしながら、合鍵を持ってついて来た。
「一応は俺がいないと、寄宿舎の中を歩き回れないからね。道案内もするからね。任せてねー」
「あら頼りになりますわー」
「ありがとうー」
私とシャーロットがお礼を言うと、舎長はさらにニッコニコになった。
うーん!
この神学校、セキュリティにすっごい問題があるのでは!!
0
お気に入りに追加
442
あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?
つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです!
文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか!
結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。
目を覚ましたら幼い自分の姿が……。
何故か十二歳に巻き戻っていたのです。
最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。
そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか?
他サイトにも公開中。

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った
五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」
8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

断罪されそうになった侯爵令嬢、頭のおかしい友人のおかげで冤罪だと証明されるが二重の意味で周囲から同情される。
あの時削ぎ落とした欲
恋愛
学園の卒業パーティで婚約者のお気に入りを苛めたと身に覚えの無いことで断罪されかける侯爵令嬢エリス。
その断罪劇に乱入してきたのはエリスの友人である男爵令嬢ニナだった。彼女の片手には骨付き肉が握られていた。

裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる