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孤独な騎手事件
第135話 ウッドマン追跡
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ひとまず、シャーロットに相談だ……ということになった。
私も馬に乗り、アリアナを先導していく。
最近はよく一緒に行動しているバスカー。
馬に乗っていると、彼は護衛としてとても優秀なんだよね。
ということでシャーロット邸へ。
「ジャネット様、乗馬がお上手なんですね……!」
「辺境では馬に乗れない将軍は生き残れなかったもの。だから覚えたの。もともと馬が好きだったのもあるけれどね」
「将軍……?」
アリアナが訝しげな表情をする。
気にしなくてよろしい。
銀竜号はうちの馬やバスカーに囲まれて、ちょっと緊張した様子。
乗馬用の馬とうちの軍馬だと、色々違うものね。
ただ、うちの軍馬も引退した馬だから安心して欲しい。
実戦から遠ざかって、のんびり暮らしているから気性だって穏やかになったのだ。
パカポコと道を行きながら、アリアナの話を聞いてみる。
「それでどういうことなの? 馬で後をつけてくるウッドマンが不気味なのは分かったけれど、彼はどうしてあなたに執着してるわけ?」
「それは……。父は彼を、私の夫にしようと考えているのです」
「な、なるほど……」
「ウッドマンも、一応功績のある騎士爵なので……」
「なるほどー」
騎士爵は一代限りの名誉爵位で、次代には地位が受け継がれない。
ここから爵位を男爵まで上げるか、
ということで、リカイガナイ男爵に取り入った彼も必死なのだろう……!
「ああっ、後ろに、後ろに……!」
アリアナが悲鳴をあげた。
これはいけない。
背後には、黒馬とそれにまたがった大男がいる。
「逃さん……っ!!」
「時には強引さは必要だけど、度が過ぎるのはどうかな……! バスカー!」
『わふー!!』
バスカーが後退していく。
そして背後で、「うわあ、なんだこのでかい犬は!」『わふわふ!』ともみ合う声。
ガルムというモンスターは、並みの兵士では複数人で掛かってさえ相手をするのが難しいくらい強い。
さらに、日々ワトサップ家でたっぷりご飯を食べ、訓練に来る兵士や騎士たちから可愛がられつつ、武器での模擬戦に付き合っているバスカーだ。
兵士や騎士の手の内を知っているから、手強いぞ。
バスカーが時間を稼いでくれているうちに、私たちは下町へ。
お馴染みシャーロットの家が見えてきた。
馬の足音を聞いたのか、窓からシャーロットがにゅっと顔を出した。
「来ましたわねー。お入りなさいな」
扉が開き、私たちは招き入れられる。
馬はインビジブルストーカーに誘導されて、道の脇に。
どこからか飼い葉が差し入れされてきた。
「いつも私が馬で来るから、飼い葉まで常備するようになったか……」
少しして、バスカーもやって来た。
そこで扉が閉まり、家の前までやってきた黒馬とウッドマンが、忌々しげに窓を見上げたのだった。
さて、匿われたアリアナ。
しばらくは落ち着かない様子だったが、シャーロットが淹れた極上の紅茶を口にして、一気にリラックスできたようだった。
「とにかく、解決してほしいのは確かなんですけど……」
彼女は切り出すが、浮かない表情だ。
これ、親としては公認みたいなものなので、解決が難しいんだよね。
今の世の中は、個人の考えよりも家の方針だ。
自分が嫌だからと言って、婚約などが無くなることは少ない。
「婚約まで行ってるの?」
「まだ行ってないですね」
「ふむふむ」
シャーロットが頷いた。
私もそうアリアナの事情に詳しいわけじゃないけれど、知る限りの話を彼女に伝えた。
シャーロットの頭脳が今、対策を考えてフル回転している……気がする。
「アリアナさん。ウッドマン氏はどういう伝手を使ってリカイガナイ家に繋がってきたんですの? いえ、そもそもアリアナさんはウッドマン氏が嫌いですの?」
「うーん。そこまで彼のことを知らないと言いましょうか……」
そう言えば、ウッドマンは無言で後ろをついてきただけで、何かをして来たわけではない。
何となく雰囲気で、追跡を妨害してしまった私である。
「アリアナさんにとっての問題は、ウッドマン氏があなたの婚約者になる、ということとは別ですわよね? 話を伺っていますと、そもそも本題は別のところにあるとしか思えないのですけれども」
あれ、そうだっけ?
「アリアナさん、乗馬を続けたいのでしょう? 騎手として活躍したいのでしょう?」
「ええ!!」
このシャーロットの問いかけには、ノータイムで応じるアリアナ。
「ということは、本題はそこではありませんこと? 恐らくリカイガナイ男爵は、アリアナさんの乗馬を女がやるものではないと思っているのですわ」
「辺境なら笑われる考え方ね!」
「ジャネット様、今は辺境トークをちょっと控えて頂いて」
シャーロットに辺境トークを禁じられてしまった。
「アリアナさんの人気はわたくしもよく存じ上げていますわ。あなたの姿を見るために、女性たちも競馬場に訪れているそうではありませんの。素晴らしいことですわ。絶対に続けるべきです!」
「はい!! 続けたいです!」
「ええ。ということは、アリアナさんが解決すべき最大の問題は一つしかないと言えますわね。すなわち……家に、乗馬を認めさせることですわ!」
シャーロットは宣言する。
ウッドマンのことは問題ではないのだ。
リカイガナイ家に、アリアナの生き方を理解させること……!
それがこの件の目的だ。
私も馬に乗り、アリアナを先導していく。
最近はよく一緒に行動しているバスカー。
馬に乗っていると、彼は護衛としてとても優秀なんだよね。
ということでシャーロット邸へ。
「ジャネット様、乗馬がお上手なんですね……!」
「辺境では馬に乗れない将軍は生き残れなかったもの。だから覚えたの。もともと馬が好きだったのもあるけれどね」
「将軍……?」
アリアナが訝しげな表情をする。
気にしなくてよろしい。
銀竜号はうちの馬やバスカーに囲まれて、ちょっと緊張した様子。
乗馬用の馬とうちの軍馬だと、色々違うものね。
ただ、うちの軍馬も引退した馬だから安心して欲しい。
実戦から遠ざかって、のんびり暮らしているから気性だって穏やかになったのだ。
パカポコと道を行きながら、アリアナの話を聞いてみる。
「それでどういうことなの? 馬で後をつけてくるウッドマンが不気味なのは分かったけれど、彼はどうしてあなたに執着してるわけ?」
「それは……。父は彼を、私の夫にしようと考えているのです」
「な、なるほど……」
「ウッドマンも、一応功績のある騎士爵なので……」
「なるほどー」
騎士爵は一代限りの名誉爵位で、次代には地位が受け継がれない。
ここから爵位を男爵まで上げるか、
ということで、リカイガナイ男爵に取り入った彼も必死なのだろう……!
「ああっ、後ろに、後ろに……!」
アリアナが悲鳴をあげた。
これはいけない。
背後には、黒馬とそれにまたがった大男がいる。
「逃さん……っ!!」
「時には強引さは必要だけど、度が過ぎるのはどうかな……! バスカー!」
『わふー!!』
バスカーが後退していく。
そして背後で、「うわあ、なんだこのでかい犬は!」『わふわふ!』ともみ合う声。
ガルムというモンスターは、並みの兵士では複数人で掛かってさえ相手をするのが難しいくらい強い。
さらに、日々ワトサップ家でたっぷりご飯を食べ、訓練に来る兵士や騎士たちから可愛がられつつ、武器での模擬戦に付き合っているバスカーだ。
兵士や騎士の手の内を知っているから、手強いぞ。
バスカーが時間を稼いでくれているうちに、私たちは下町へ。
お馴染みシャーロットの家が見えてきた。
馬の足音を聞いたのか、窓からシャーロットがにゅっと顔を出した。
「来ましたわねー。お入りなさいな」
扉が開き、私たちは招き入れられる。
馬はインビジブルストーカーに誘導されて、道の脇に。
どこからか飼い葉が差し入れされてきた。
「いつも私が馬で来るから、飼い葉まで常備するようになったか……」
少しして、バスカーもやって来た。
そこで扉が閉まり、家の前までやってきた黒馬とウッドマンが、忌々しげに窓を見上げたのだった。
さて、匿われたアリアナ。
しばらくは落ち着かない様子だったが、シャーロットが淹れた極上の紅茶を口にして、一気にリラックスできたようだった。
「とにかく、解決してほしいのは確かなんですけど……」
彼女は切り出すが、浮かない表情だ。
これ、親としては公認みたいなものなので、解決が難しいんだよね。
今の世の中は、個人の考えよりも家の方針だ。
自分が嫌だからと言って、婚約などが無くなることは少ない。
「婚約まで行ってるの?」
「まだ行ってないですね」
「ふむふむ」
シャーロットが頷いた。
私もそうアリアナの事情に詳しいわけじゃないけれど、知る限りの話を彼女に伝えた。
シャーロットの頭脳が今、対策を考えてフル回転している……気がする。
「アリアナさん。ウッドマン氏はどういう伝手を使ってリカイガナイ家に繋がってきたんですの? いえ、そもそもアリアナさんはウッドマン氏が嫌いですの?」
「うーん。そこまで彼のことを知らないと言いましょうか……」
そう言えば、ウッドマンは無言で後ろをついてきただけで、何かをして来たわけではない。
何となく雰囲気で、追跡を妨害してしまった私である。
「アリアナさんにとっての問題は、ウッドマン氏があなたの婚約者になる、ということとは別ですわよね? 話を伺っていますと、そもそも本題は別のところにあるとしか思えないのですけれども」
あれ、そうだっけ?
「アリアナさん、乗馬を続けたいのでしょう? 騎手として活躍したいのでしょう?」
「ええ!!」
このシャーロットの問いかけには、ノータイムで応じるアリアナ。
「ということは、本題はそこではありませんこと? 恐らくリカイガナイ男爵は、アリアナさんの乗馬を女がやるものではないと思っているのですわ」
「辺境なら笑われる考え方ね!」
「ジャネット様、今は辺境トークをちょっと控えて頂いて」
シャーロットに辺境トークを禁じられてしまった。
「アリアナさんの人気はわたくしもよく存じ上げていますわ。あなたの姿を見るために、女性たちも競馬場に訪れているそうではありませんの。素晴らしいことですわ。絶対に続けるべきです!」
「はい!! 続けたいです!」
「ええ。ということは、アリアナさんが解決すべき最大の問題は一つしかないと言えますわね。すなわち……家に、乗馬を認めさせることですわ!」
シャーロットは宣言する。
ウッドマンのことは問題ではないのだ。
リカイガナイ家に、アリアナの生き方を理解させること……!
それがこの件の目的だ。
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